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鎮める者達

「何でまた学園の門で待っているように指示するんですかっ!」


私はのんびりと門前に現れた海斗先輩に怒鳴った。


私の願い虚しく、ザックは雲井 桜さんに愛を囁いている時にアニオタ様達に拉致されてきた。勿論、レナードと2人で門扉の所に立たされて、散々ポーズを取らされ…写真を撮られていた。


途中でラオウ…旭谷先輩が乱入してきて怒ってくれたので、そこで2人は解放されたが…海斗先輩が邑岡先輩や藤河先輩、玉田先輩も連れて来ていたので、ここでレナードにポルターガイストの事を相談することになったのだ。


話を聞き終えたレナードは


「なるほど…違う場所で物が動くね。力が移動しているのかな~。場所に固定されたものじゃないね。今の所、教室?学舎の中だけなの?一度見てみたいけどなぁ。」


凄い…微妙に魔術や魔法と言う言葉を避けつつ、核心をついて話しているレナード。初めてうちの孫が一国の王子殿下だということを改めて認識した。


事前に『エクソシスト』の職業を説明したことと、魔法、魔術という単語は使わないようにとお願いしただけなのに。出来るぜうちのレナード君はっ!


「今は学期末試験期間中なので出入りはご遠慮頂きますが、試験が済み次第許可を取りますので…。」


と旭谷先輩(実は生徒会長)がそう説明している。レナードは頷いた。


「あ、取り敢えずその物入れ?が今後動かないように固定する?あ~えとニホンゴムズカシイネ。干渉を受けないように遮断する?」


「なるほど、霊の干渉を受けないように結界を張る…ということですね。」


海斗先輩が絶妙な心霊トークに変えて説明を代弁している。


「あのあの…エクソシストとは本当ですか?」


「菜々っ…今真剣な話してるからっ。」


「私だって真剣に聞いてるんだよぉ?!」


私の後から背後霊のようにへばりついた須藤 菜々がレナードにインタビューをしている。その後ろには萌ちゃんとアニオタ様達の女子生徒がいる。ある意味本物より怖いけど…。


「まあ厳密には違うけど、似たようなものかな。」


と代わりに海斗先輩が答えている。うん、レナードは美しく微笑んでいればよろしいよ。


兎に角いつまでも門前に居てはいけないということで、明日用具入れを固定する、(まじな)いをする…というと皆が納得した。しかしだね、ラオウとか普段から疑り深い邑岡先輩までもが『エクソシスト』をすんなり受け入れているけど、どういうことだ?


真実は3年S組にあった。実は2度目のポルターガイスト現象が起こった教室は3年S組だった。3年の教室で用具入れが揺れた後、オカルト研究部の部員が心霊現象だ!と叫んだそうだ。どこにも菜々様みたいなのがいるんだね~。


それはさておき


その時に3年S組の津田川 環先輩が


「ポルターガイストならエクソシスト呼ぶ?私の兄が知っていると思うけど…。」


と言ったそうだ。おおっ津田川さんのお兄さん?!


そう言って津田川さんは海斗先輩を見たそうだ。


「うちの兄、篠崎 麻里香ちゃんのお父様と同じ会社で働いてるのよ?下島 (ゆずる)知っているよね?栃澤君。」


「何だってえ?!下島さんが津田川さんのお兄さん?あ、でも名字違う…。」


「ああそれは、親が子供の頃に離婚したそうだ。下島さんは母親と姉妹は父親に引き取られたそうだ。兄弟仲は良いらしい。だから、下島さんから会社にエクソシスト…つまりはレナードが来たという話題を聞いたそうだ。」


私はその話をその日の夜に聞いてびっくりしていた。とんだところで繋がっているね。


そういえば…持田 瑞希が下島さんを狙っていた時に実は下島さんはアパレルメーカーの御曹司だとかなんとか言ってた気がする…。


そんなこんなでレナードは今『魔法陣』を描いている。ザックもリビングで勉強しながら、時々魔法陣を覗き込んで何か話している。


私もリビングで明日の試験科目、英語の勉強をしていた。栃澤の新築…リビング広いからさ〜皆集まってても気にならないね。寧ろ、すぐにキッチンに行けるし楽だね。


暫くすると、レナードが大きく伸びをした。


「あ~やっと一枚描けたよ。同じ魔法陣…14枚描かなくちゃな…手が疲れるなぁ…。」


「ちょっと待ったぁ!」


私は手を挙げた。私はレナードの描きあげた魔法陣をビシッと指差した。


「それと全く同じもの作ればいいのよね?」


「う、うん…。」


レナードは何度も頷いている。私はレナードの描き上げた魔法陣を手に取ると…リビングに置いているチェストの上に鎮座しているブツに描いた魔法陣の紙を置いた。


ブツのボタンを押すとブツがキラリとライトを放ち、ブツ…プリンターは魔方陣をコピーして吐き出した。


「はい、コピー。これで手描きしなくて済むでしょ?」


私はレナードに複写した魔法陣を渡した。レナードは受け取ってまじまじと見ている。


「完璧に同じものだ。そ、それは何ですかっ?!」


すると今までも散々使っていたはずのザックが


「そうかっ僕こちらの世界のものしかコピーしたことなかったから、あっちの書籍類もコピー出来るのかっ!」


と叫んでいた。そうか…あっちにはWi-Fiのプリンターなんてものは…無いよね。


「モッテガタードにもコンビニ作ればいいのにね?」


「!」


レナードとザックが目を見開いている。余計なことを言ったかな?…まあいいかついで言ってみるか。


「どうせコンビニ作るなら観光地とか…公所の横とかがいいかな~。あ、お土産屋さんも一緒にあると便利だな。だってコンビニってトイレ貸してくれるもんね。」


「!」


そう地味だけどあの世界は公衆トイレが無い…。用を足すなら外でしろ、だった。


しかし公衆トイレはナジャガルとカステカートにはあると聞く…。やはり異世界人がいる国はいいよね…。


「早うコンビニ作っとくれ。」


私はまだ呆けているレナードの肩を叩いた。


さて次の日早朝、海斗先輩とシュアリリス学園へ来ていた。旭谷先輩と学年主任の先生と教頭先生もいる。


先生達に魔法陣を見せて、試験の不正には使うものではないと判断してもらってから…用具入れの中の側面に貼り付けた。


「何語か分からないが御札みたいなものか?」


学年主任の飯尾先生が残りのコピー魔法陣を見ている。


「エクソシストの方の話だと、霊が一度取り憑いた物は再び憑かれやすくなる、とのことで結界という認識だと思います。」


海斗先輩が尤もらしい説明をしている。ようは、魔力が溜まりやすい所で同じ現象が起こりやすいので『魔力遮断』をしておくということだった。


レナードとザックの見立てでは、風魔法の応用系の術が使われているとのことだった。


犯人はまだ特定中だ。今はまだ試験中なので終わってから本格的な調査を行う予定だ。


そして本日のポルターガイストは試験科目の英語の試験中に起こり、今度は2年S組の用具入れが空を飛んだのだった。


その時、私は真っ先に異変に気が付いた。問題用紙を見ていた時に教室内の魔力の圧が変わったことに気が付いて、思わず顔を上げて黒板を見たのだ。ん?何か魔圧がおかしい?


次の瞬間、急激に私の座った席の後の方で魔圧が上がるのを感じた。


「!」


続けて教室の後方から強烈な破裂音がした。


「きゃああ!」


「ぎゃあ!」


皆の悲鳴が上がる。後ろを振り向くと用具入れが1mくらい宙に浮いている?!


私はすぐに魔力遮断の魔法を用具入れにかけた。これは想定内だった。私、ザック、海斗先輩がいない教室には事前に用具入れにコピー魔法陣の紙を貼っている。


ドスン…と音をたてて用具入れが落ちた。用具入れ付近の机に座っていたクラスメイト達は皆、立ち上がって離れた所に避難している。


皆で暫く用具入れを見詰めていたが…どうやら更に動く気配は無いようだった。


「み、皆席に戻って…。」


監督官の先生が声をかけたので、私達は恐々だが席に座った。今日は他の教室はどうなんだろうか?感じる範囲で各教室の魔力を視てみるが怪しい感じはしない。


その時、魔力遮断をしている用具入れに新たな魔法がぶち当たっているのが視えた。


まさか、この教室の生徒なの?!


ぶつけられた魔力の残滓の先を見てみた。そこには俯いて机に向かっている男子生徒いる。眼鏡をかけている…確か去年の文化祭では運動が苦手で~とかダンスの時に話したこともある、彼は馬場君だ。


私は試験終了後、海斗先輩に犯人を特定したことを報告した。


「馬場…か。分かった、試験期間が終わり次第調べてみよう。」


そして試験が終わり…試験休みに入った初日、海斗先輩は、2年S組馬場 陽太君に関する調書を持って来た。


私はその調書を見せてもらった。私と同じ外部入学で奨学金を貰っている。1年生の成績は…うむ、奨学金制度を利用して入学している生徒にしては…低い。


「成績は中ぐらいだ。Sクラスでは最下位あたりだな…。特待生としては芳しくない。」


「あ…あの成績が悪ければ留年や退学もあるのですよね?」


「規則としてな?だがシュアリリス学園は元々の偏差値もそこそこ高いし、何と言っても財界人のジュニアが多く通う学舎で世間体を重視する。テストで及第点が出ていれば、余程素行に問題が無ければ、留年や退学は無いと聞いている…。」


「無意識化の魔力行使は…精神の揺らぎから起こると言われているから…この子は勉学の成績の不調を気に病んでいるのかもしれないね。」


レナードはまた何か魔法陣を描いている。横から覗き込んでいるザックはそれを見てニヤッと笑った。


「レナード殿下いいですね、それ!」


「だろ?」


ちょっとちょっと?萌ちゃーーーーん!あんたの推しメン、ロウ様とゼフェ様が見詰め合ってイチャイチャしてるよぉぉ!


イチャイチャしていた2人は描きあげた魔法陣を見せてくれた。


「む…難しい魔法陣?むうぅ?魔法?ナニコレ。」


「正確には精神操作系の魔法なんだ。幻惑とか誘導に近いけど、暗示魔法。」


「暗示…。そう、馬場さんに暗示をかけるんですよ。そうだなぁ…勉強が楽しくな~る、とか?」


ザックが楽しそうにそう言って笑った。わあっそれいいね!


「それって元々は諜報がよく使う魔法じゃないか、なるほど暗示なら良い方向へ導けるかもな。」


レナードが描いた暗示魔法は馬場君の自宅のベッドの下に貼り付けて来たらしい、上手くいくかな?


そして試験休み明けの終業式でポルターガイストは起こらなかった、とりあえず良かった…と胸を撫で下ろした。




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