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好感度が低かった

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私の実父の篠崎 亮暢は結局、私を思い出すことはないようだ。今はまるで子供のような無邪気な様子の亮暢をばあちゃまとじいちゃまが看病している。


看病のお手伝いを申し出たけど、


「完全看護だし大丈夫だよ。それに麻里ちゃんの本分は学生だろう?学業優先だよ!」


と断られている。


それでも暇を見付けては様子を見に行っているのだが、亮暢は私の事を近所のお姉さんと呼んでくる。病室にいる間は私を認識しているようだが、次に会いに行くと私の事を忘れている。


正直へこむ…最近では真史お父さんのことも忘れがちで「おじさん」と呼ばれたりしているらしく、真史お父さんは病院から帰って来て泣いていたりする。


亮暢もあんなに嫌みや嫌がらせをしていたのに、病気とは言えこんなにすっぱりと忘れてしまうんだ…と悲しいより驚きの方が強かった。


最初はショックだったけど、そういう病だと思えば、諦めたのと慣れてきてこともあり、亮暢のことでイライラしたりもしなくなった。


じいちゃまと真史お父さんは、亮暢の若年性認知症の症状を見て余程堪えたのか、亮暢の態度にイライラしたりすぐ忘れてしまう亮暢の様子に、自分達を認識させようと必死になっている。認知症って色んなことを忘れてしまう病気でしょう?忘れてしまう度にイライラしても仕方ないよ?


はっきり言うと男性陣はそんなのだから、ばあちゃまと私と由佳ママ以外は役に立たない。(子供は含まない)


「こんなこと言っちゃいけないけどさ、こういう時は男はオロオロするだけなんだよ。」


ばあちゃまの正論がズバッと胸に刺さります。


良くも悪くも、私達の中で亮暢は別の何かになったという認識で接するのが当たり前になってきていた。


正直に言ってしまうと、魔人化して大暴れより100倍マシだと思う。


そんなある日の夜、海斗先輩が声高に叫んだ。


「とうとうアルクリーダ殿下が鈴鹿 怜愛さんに異世界に来て欲しいと告白するらしいぞ。」


「ええっ!早くないですか?!」


今更びっくりするほどのことでもないけれど、それって大丈夫なんだろうか?


海斗先輩の家で夕食を一緒に食べて、食後の珈琲と商店街で買ってきた、みたらし団子をデザートで出した。


ザックとレナードはパアッと笑顔になった。2人とも和菓子好きなんだよね~。


ザックとレナードは時々、亮暢の様子を見に病院に行ってくれている。亮暢が魔人化して暴れたりする兆候がないかを確認する為だ。


もし魔人化した亮暢との戦闘になった場合、ザックとレナードなら最強だろう。何と言っても『サイコウのロウ様とゼフェ様』だもんね。そういえば2人で表を連れ立って歩いてて、アニオタ様に追いかけられたりしないのかな?


しまった…!もしかしてストーキングされてたりするんじゃ…?


思わず窓際に寄ってカーテンの隙間から外をチラ見してしまう。


「何やってるんだ?」


「腐の住人がいるかも……いえ、何でもありません。」


訝しげに私を見る海斗先輩に愛想笑いを見せつつ…ダイニングテーブルに駆け戻った。


「アルクリーダ殿下って悪気はないんだけど余計な一言を言うんですよね〜。」


ザックの言葉にクリぼっちのキラキラ顔を思い出す。


「そもそもだけど異世界から来ているという事の告白と、一緒に異世界に来て欲しいは別問題だよな?私は異世界人なのだ。しかもその口で一緒に異世界に行こうと誘われたら、レイアが混乱するのじゃないかな?遠方に嫁に行くのとは訳が違うけど?」


「レナード、その通り!」


私はレナードに拍手を送った。


「そうだな…そう言えばアルクリーダ殿下と鈴鹿 怜愛は本当に恋人同士なんだろうな?」


「え?」


私、ザック、レナードの言葉が重なった。海斗先輩はみたらし団子を頬張りつつ首を捻っている。


「4月からまだ2ヶ月しか経っていない。そんな短期間で異世界に連れて帰れるほど、親交を深める時間なんてあったかな?」


「……。」


果てしなく嫌な予感がする…。ザックなんてクリぼっちを憐れんでかコーデリナ神に祈りを捧げ始めちゃったよ。え?女神って本当にいるの?ええっ?ザックのお父さんのアポカさんと葵妃は見たことあるんだってぇ?!私ぐらいの年の女の子?!


そりゃいかんね、是非ともクリぼっちの幸せをJK女神にお祈りしとこうかね。


しかし…ザックと私の祈りは届かなかった………女神もつまらなさ過ぎて祈りを無視したようだ。


フラグを無視して告白をしてしまったアルクリーダ殿下の好感度が低すぎてイベントが起こらなかっ……ゴホン、どうやらアルクリーダ殿下は、鈴鹿さんに色々な確認をするのをすっ飛ばして、いきなり異世界に一緒に来て欲しい!と馬鹿正直に言ってしまったらしい。


当然鈴鹿さんは、曖昧に濁してその日は帰ったそうだが…その後、殿下が連絡しても返信が一切無いようだ。


「どうすんのよ、アレ!」


「大丈夫です、今救助要請を出しておきました。」


ザックの言う救助要請って何だ?と思って広いリビングのソファの端っこに座って、キラキラした石像化しているアルクリーダ殿下を廊下から見ている私達。


「ああそうだ、いつまでもクリぼっちを見ている訳に行かないね。買い物に出てきます。」


と、この家の冷蔵庫にストックする食材を買いに行こうとしたら、レナードが付いて来てくれるようだ。


「すーぱーとやらにも1人で行けるようにならないといけないしね。お爺様が男は1人で何でも出来るようにならないとモテないとか言ってたから。」


「……アレを参考にしては駄目だよ?じゃないと四半世紀以上拗らせたまま大人になってしまうから…。」


私と一緒にゆっくりと隣を歩く、傍から見れば美形外国人とちびっ子の取り合わせの私達。…あれ?大丈夫かな…まさかレナードが幼女誘拐犯だと思われないかな?


「拗らせていると言えば、お爺様があれほどマリアティナお婆様に執着しているとは思わなかったけど…アルクリーダ殿下も、もっと追いかけたりしたらいいのにね?女性にフラれるのが怖いのかな?」


「え~いや?それはマズいでしょ?追いかけたらストーカーじゃない。拗らせ中年のストーカーは困るよ…いくら顔が良くったってキモいよ。」


マリ婆、ストーカーって何?と聞いてきたレナードに如何にストーカーが恐ろしく禍々しい存在かというのをレナードに説明をしている間に駅前のスーパーに着いた。


レナードにストーカーを説明しつつ、食材をカートに放り込んでいく。家政婦なので、海斗先輩から食費代は頂いている。


「…という感じでストーカーには多種多様な性癖の方がいるのだけど、女性側からしたら追いかけてきてくれるという捉え方と、勝手に追いかけて来る…という捉え方じゃ雲泥の差だからね?」


「怖がらせてしまう迫り方が問題という訳かな?」


「レナードに一理ありだよ!あのクリぼっちはそれを鑑みてない気がするんだよねぇ。」


とか葵妃のように私もクリぼっちを下げて下げて貶しながら、レナードと買い物を済ませて帰宅したら…クリぼっちの姿が見当たらない。どこ行ったの…まさか?傷心旅行?!


私は慌てて海斗先輩の私室に飛び込んだ。


「海斗先輩?!クリぼっちがいない!」


「クリぼっち…ああ、アルクリーダ殿下か?ナジャガル皇国の王弟殿下が来られて慰められながら一緒に異世界に戻られたよ?」


「王弟?え?ナッシュルアン陛下の弟殿下ですか?ええっ…!」


ちょっと待ってよ~!あのイケオジ、ナッシュルアン陛下の弟だよ!見たかったぁ?!


「何で連絡してくれないのですかぁ!王弟殿下見たかったのにぃ!」


とかブツブツ文句を言いながら食材を冷蔵庫に放り込んでいると携帯電話がメッセージを知らせた。


「あ、お父さんだ…ん?んん?」


『お父さんの部下の鈴鹿さん知っているよな?何だか彼女が麻里香に話があるそうなんだが…。』


というメッセージを見て仰天した。アゼルバイジャン鈴鹿ぁ?!私?アルクリーダ殿下じゃなくて私なの?


またも慌てて海斗先輩に知らせると、海斗先輩は暫く考えた後


「だったら話はこの家でしてもらえ。」


と言った。ここに招くの?あれ?そう言えばザックは……と思ったら


彩香、夏鈴、悠真…おまけに和真と4人でこっちの家の庭で遊んでいた。まだ6月とは言え外は暑いよ?


オレンジジュースを差し入れようとレナードと一緒に庭に出たら、今度はレナードに引っ付くちびっ子達、レナードは笑顔で対応している。子供に対する扱いが上手いよな~と思ったら…


「ホラ、うちは兄上や姉上の子達がいるでしょう?必然的に甥や姪の面倒を見ているし~。」


そう言われてあの元気な曾孫達の面子を思い出した。圧が凄い…。レナードお疲れ。


「でもさ、レナードも早く婚姻しなさいよ?じゃないとクリぼっちみたいに、いい年して拗れて痛々しいおじさんになっちゃうよ?」


レナードは私をじっとりとした目で見た後


「マリ婆知らないの?魔力値が高いと、潜在魔力値が低い人の近くにいると魔力酔いにさせてしまうんだよ?特に接触しようものなら魔力をぶつけてしまうことも多いし…。俺は誰でも彼でも…という訳にはいかないよ。」


と憂いを帯びた顔でそう言われた。


「魔力酔い?ええっそうなの?そう言えば私、酔ったことない…。」


私、魔術学の勉強ちゃんとしてなかったからなぁ…。


「マリ婆、魔力値高いでしょ?酔う訳ないよ。俺は960なんだ。」


「ええっ!それは凄い…じゃあ中々好みの女性に会えない訳だ…なるほど。」


「魔力値以外は好みの人でも…苦痛を与えてまで一緒に居たいとは思えなかったんだ…。」


クリぼっちとはまた違う意味で愛を求める彷徨い人のレナードの背中を撫でた。


そして次の週末…鈴鹿 怜愛さんは私を訪ねて来た。


明日から中間試験なのでザックは海斗先輩と一緒に自室で勉強中だ。


レナードは心配そうな表情でキッチンからコソコソとリビングを覗き込んでいる。


何の話なのだろう…恐らくだが、アルクリーダ殿下に関することだとは思うけど…何故私を指名?


お茶とお茶菓子の小粒アラレを出して、対面に座って鈴鹿さんが話し出すのを待った。鈴鹿さんは暫くモジモジしていたが顔を上げると


「いきなりでゴメンねっ麻里香ちゃんは異世界人っていると思う?」


と聞いてきた。びっくりし過ぎて変な声が出てしまったよ。



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