変態の界跨ぎ
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ナフガランの城では私達を待っていた人達がいた。貴賓室に入り、その人達と対面して私は悲鳴をあげてしまった。
「ナッ…ナキート殿下?!」
いやいや、待て待て?!ナキート殿下(海斗先輩)は隣にいるよ!貴賓室に居たのは男性2人だった。1人は癖の無いサラサラの金髪にサファイアブルー色の瞳…。もう1人はプラチナブロンドに…ん?んん?
「あれ?…お前、サナートか!大きくなったな。」
海斗先輩のモッテガタード語に驚いて、海斗先輩を見ると先輩は私を見て大きく頷いた。
「ザイードの一番下の息子だ。」
ま、孫っ?!あれ…もう1人いるけど…どこかで見たことある顔の子…。
「なんだ?そっちはマリアティナにそっくりだな。誰の子だ?」
そうだーー?!前の私に似ているんだ!
海斗先輩の言葉にそのサナート20代?くらいと私そっくりの男の子は、恐々という感じで近づいて来た。
マリアティナに似ている男の子が声を上げた。今の私と同い年くらいかな?
「ケイナハンナの息子、ソエイドです。」
「ケイナの子か!あいつは中々、子が出来なくて随分悩んでいたが…何と良かった!」
するとソエイド君はクシャと顔を歪めると…急に泣き出した。ど、どうしたの?自分の泣き顔見ているみたいで困るわ…。
「はい、母上は…私が授かるまでお爺様に生きてて欲しかったと…。あの…本当にお爺様なのでしょうか?」
海斗先輩がもう大きい曾孫のソエイド君の頭を撫でていた。ケイナハンナ…とはザイードの娘だそうだ。あらやだ、私若干16才で同い年の曾孫がいるオババなの?
そして、ゆっくりと孫のサナートが私の前に立った。ふわぁぁ…ナキートとザイードにも似ているわね。
「あなたナキート殿下に似ているわね…あ、どちらかというナキート殿下の叔父様のコーナイデ伯に似ておられない?」
「ああ、ホントだな。叔父上の若い時にそっくりだ。」
サナートは海斗先輩と私を見比べた。
「え~とお婆様?ですよね…何だか小さいね。子供?」
なんだとっ?!キョトンとした顔してナキート殿下の孫のくせにぃぃ!
「ちょっとっ!ナキートっあんたの教育どうなってんのよっ!淑女に対して出会いがしらに失礼な発言してくるなんてっどういう育て方しているのよっ!」
「俺は育ててない…。ザイードに言えよ。」
「…!」
と、海斗先輩に食ってかかっていたら、サナートとソエイド君の両方から急に抱き締められた。
「本物?!動いて喋ってる御婆様だっ!」
「可愛いっ!父上絶対喜ぶよっ!お婆様可愛いっ!」
「ぐえええっ…潰れるっ!シヌシヌ…。」
「こらっお前達、力を加減しろ…麻里香が潰れる。」
という訳で孫達と感動の再会をして、そのままナフガラン帝国のビュワンテ上皇にお話を聞くことになった。何でも上皇はお年のせいか最近はすぐに休まれてしまうので、起きている時に用事を済ませておけ~状態になっているらしい。貴賓室で私、海斗先輩、孫と曾孫、美鈴さん(通訳)、アルクリーダ殿下、ヴェルヘイム様がお話を聞いた。
「ええっ!ビュワンテ上皇の術で異世界に転生したんですか?!」
海斗先輩はこのビュワンテ上皇がまだ皇太子殿下の時に、もし生まれ変わりということが出来るならマリアティナに会いたいのだ!絶対に添い遂げたいのだ!マリアティナに会える魔法はないか?と言ってきたらしい。
ビュワンテ上皇は、帝国の皇太子殿下であると共に魔術師団の団長も務める魔術師…。無理難題な転生魔法の依頼に胸が躍ったという。
「フフ、それほど想っていらっしゃるのならその不可能を可能にして差し上げたくなった…というより私も一介の魔術師、その禁術に匹敵する大魔法を自らの手で作り出してみたかったのです。」
そして10年の年月をかけて開発した術は、結局は転生までは出来なかったらしい。
「私がなんとか開発出来た魔法はどんなに離れていてもマリアティナ様の魔力を感じられる『巡輪の楔』です。」
「いやあぁ?!そんなストーカーを喜ばせるだけの怖い魔法を何故開発しちゃったかなぁ!…………すみません、心の声が駄々洩れでした。」
思わず本音が漏れたが海斗先輩を睨むと物凄い勢いで目を逸らされた。私はサナートをビシッと指差した。
「こーーーんな大きな孫がいるようなジジイが何やってるんですかっ!性犯罪を助長するような破廉恥な追い回しを一国の王がどの面下げて嘆かわしいっ!」
「そうでもしないと先に身罷ったティナに会えないと思っていたんだ。ビュワンテ上皇は俺より遥かに魔術への造詣も深いし、きっとご相談すれば新術を編み出してくれると踏んでいた。流石です、ビュワンテ上皇!上手く異世界に渡れました!」
私はこーーーんな、と言って指差したサナートを更にグイグイと指差しながら叫んだ。
「若者達の手本にならなければならない立場のご老体が率先して性犯罪を犯して何をしているんですかっ!」
「マリカ、落ち着け。孫とはいえ、王子殿下を指差してはいけない…。」
ヴェルヘイム様に背中をトン…と叩かれてビクッとなるほどの怖い魔力を当てられた。
ひえええっ‼鳥肌がたった……。魔王に脅され?て大人しく座り直した。するとサナートが、はいっ!と挙手した。
「え~とナキート御爺様!いつもマリ婆様とこんな痴話喧嘩ばかりしているの?」
「こらっサナート!痴話って…。」
私がサナートを怒鳴りかけると、横に座っていたヴェルヘイム様がカッ…と魔力を上げた。
「マリカ…敬称をつけろ、不敬…。」
「ヴェルヘイム様すみません、ついカッとなりました。」
まるで、ついカッとなり殺りました…と自供している犯人のような心持で魔王に怯えながらソファに座り直した。
通訳をしてくれている美鈴さんがヴェルヘイム様と私に苦笑いをみせた。
「異世界じゃ王子殿下なんて天上人会うことないものね〜?敬称も忘れちゃうよね?」
「そうですよね〜?」
すると突然、海斗先輩が立ち上がって久しぶりのスポットライトを浴びる変態を演じ始めた。
「ゴホン!…そういう経緯でビュワンテ上皇が、巡輪の楔の術を開発して俺にかけて下さった。だが、マリアティナの魔力を読み取ろうとしたが、その魔力は遠く…そしてとても、か細い感覚でしか捉えられない。色々と場所を変え試してみたがどの場所でも同じような、か細さだ。そこでビュワンテ上皇と俺は1つの結論に行きついたのだ。マリアティナは異世界に転生していると…。いやあ、絶望してしまったな。それからはずっと遠くからマリアティナの魔力をずっと感じ…。」
「キモッ!」
異世界という遠くから離れた場所から産まれる前から視感されていたという真実が私を戦慄させていた。
「……まあ俺の愛のなせる業で、ミラクルが起こり異世界で再びマリアティナに巡りあ…。」
「ただの粘着ストーカーで神様だか何だかが、キモイから転生させてくれただけでしょう?!ミラクルでもなければ、ただの変態の粘り勝ちじゃない!キモッ!」
「………。」
ソエイド君が手で顔を覆っていた。
「俺、曾お爺様と曾お婆様は相思相愛の素晴らしいご夫婦だったって…お爺様から聞いてたのに、理想が崩れる……。」
「ソエイド、私だって驚愕の真実が分かって戸惑っている…。お爺様があんなに粘着し…いや、言わなくていいか…。」
孫と曾孫が何か小さい声で話している中、ビュワンテ上皇がウトウト…と寝そうになっていた。
そろそろビュワンテ上皇がお眠の時間だというので、ナフガラン帝国の皇帝陛下と皇后妃が代わりに私達のお見送りをしてくれた。
うちのじーさん、年だからさ~それにしても、本当に異世界まで行ける術を使ったの?とか言ってきた皇帝陛下って、結構距離感ゼロなんだぁ…と思ったのは内緒だ。しかもこの皇帝陛下、ビュワンテ上皇の若い頃にそっくりなのも何となく解せない…。あの怜悧な顔でニコニコされる違和感すごいですね。
さていよいよモッテガタードに向けて転移門を起動しますよ。今回はナフガラン城の中に設置されている帝国専用転移門を使わせて頂けることになりました。
「ナジャガル皇国から親書を頂いた時は、心底びっくりしたよ。父上がね、お婆様に会えるの本当に楽しみにされていて~。」
サナートの話を聞きながら、すでにちょっと泣きそうになっている私。ザイードは私と会うのを喜んでくれているんだ。嫌がられてなくて良かった。
やがて転移門が軌道する。
キィィ…と小さく音がして、視界が開けた。息を吸い込むと、花の香りがする。馬車寄せの近くの花壇に植えていたあの花の香り…。
「ザイード…。」
海斗先輩の声にビクッとなったが、海斗先輩が見詰める先に恐る恐る顔を向けた。
かなりの大人数がこちらを遠巻きにして集まっている。そして一番前に居るのは…ああ…ああ、年を召されたナキート殿下…ザイードだ。間違いない、私のお腹に居たあの子だ…。
視界が霞む。前を向けなくなって俯くと、海斗先輩が私の手を握って腕を引っ張って歩き出した。海斗先輩に腕を引かれるようにして、遠巻きに見ている人達の方へ近づいた。
「ザイード言っただろう?絶対にマリアティナを捜してみせると、な?」
海斗先輩がそう言うとザイードは目を見開いた。そして破顔した。
「おかえりなさい、父上。初めまして…母上。ザイードです。」
「ち、…ちがうわぁ…。」
私が絞り出すようにそう声を出すと、海斗先輩もザイードも顔を強張らせた。ああ…違うそうじゃないの。
「あなたが…お腹の中に居る時から私はザイードとずっと一緒だったものっ!」
「っ!母上っ…。」
ザイードが駆けて来た。お互いに手を伸ばして私はザイードを抱き締めた。ああ…この優しい魔力!間違いない…ザイードだわ。
「あなたが淋しい時…辛く悲しい時に、一緒に居れなくてごめんなさいっ。」
「母上…うぅ…。」
ああ…ザイードこんな大きくなって…ううっ。
「お腹の中にあなたが居る時に、あなたに話しかけていたのよ?辛い食べ物が好きなんでしょう?」
「…っはい!」
もうお爺様の年のザイードだけど、やだわ…当たり前だけど私を見る時に子供みたいな表情している。
私はもう一度ザイードを抱き締めた。そんな私の背中をナキート殿下が撫でてくれていた。




