クロ猫のタンゴ1
かなり間を開けての投稿ですが、今回もよろしくお願いします。
前回、スミカがマヤメのマスター(黒猫)に触れたところ、生き返ったかのように起き上がりましたが、何故かその様子はスミカにしか視えてないって内容でした。
今回はその続きからになります。
因みにサブタイに深い意味はありません。
黒猫ときたらタンゴっていうだけですw
今の若い人たちは『?』ってなるんですかね。
「は、はい、脱げたよっ! け、けど、本当にマヤメちゃんの履くの?」
「ん、このパンツは便利。マスターの発明品。だからトテラも使う」
『………………』
起き上がったマスターを目の前にし、混乱する私をよそに、未だマヤメとトテラはパンツの交換会でイチャついていた。
てか、トテラが今脱いだのって、私が貸してあげた下着だよね?
ウサギの耳がプラプラしてるし。
『……にしても、やっぱり二人には視えてないって事か。もしかしてこの身体のせい? RROプレイヤーがどうとか言ってたし……』
私と二人の大きな違いと言えば、この身体だ。
二人が視えてないって事は、恐らく、このアバターの視界を通してでしか視えないのであろう。
そうなると、今、私が視ているものは、AR(拡張現実)みたいなもの。
その証拠に、マスターの亡骸は、小箱の中で横たわったままだ。
それと重なる様に、映し出されたから、生き返ったように見えちゃったけど。
「で、どうして私に反応したの? って聞くのは意味ないか……」
そもそもマスターの目は私を捉えていなかった。
中空に視線を漂わせたまま、こちらを見ようともしない。
だからこれはメモリーだと確信する。
生前に残した、遺言的なメッセージなのだろうと。
だから――――
「……あのさ、マヤメ。マスターが何か伝えたい事があるみたい」
「んっ!?」
「で、一応確認なんだけど、二人にはマスターがどう見える?」
事実確認の為、一応マヤメとトテラに見てもらう。
「ん、マスターは寝てる。ずっと、ずっと前から……」
「ア、アタシも同じだよ?」
当然と言うか、やはり二人には視えなかったようで、神妙な面持ちに変わる。
「やっぱりか…… でも私には声も聞こえてて、幽霊の様に浮かび上がってるんだよ。信じるかどうかは任せるけど」
「んっ、マヤは信じる。だって澄香はマスターと同じ匂い」
「匂い?…… そう?」
胸元を引っ張り、クンクンと嗅いでみるが、自分ではわからなかった。
「ん、違う。澄香は匂いがしないのが匂い。マスターもそうだった」
「? それは匂いがないって事? でもユーアはいい匂いだって、前に言ってたけど」
いつだったか忘れたが、ユーアの他にもナゴタとゴナタも言っていた。
因みにユーアは、ベビーパウダーのような甘い匂いだったりする。
「ん、それはきっと、お風呂にある洗剤の残り香」
「洗剤の残り香?…… ああ、シャンプーとかボディソープの事?」
「ん、そう。マヤは鼻もいい。だから嗅ぎ分けられる」
小さく頷きながら、真剣な目で私を見返す。
確かにマヤメは、視力の他にも嗅覚も優れているのだろう。
元々、斥候や偵察向きな能力の持ち主だから。
「クンクンクン…… あ、本当だっ! スミカちゃん、匂いしないよっ!」
「それはいいから、いい加減パンツ履きなよっ! ってか失礼だってっ!」
「痛いっ!」
腕を持ち上げて、腋の下を嗅ぐトテラの頭に拳骨を落とす。
で、今の話で分かった事は、この身体は無臭だということ。
体臭も汗臭さもないらしい。
それに何の意味があるかと言えば、そこまで意味はない気がする。
精々、この世界の住人とプレイヤーを判別できるくらいだ。
「で、話は戻すけど、私にしか視えないって事は、きっと私にも伝えたい事があるんだと思う。けど、マヤメにも大事な話だと思うから、今は私が代わりに聞くね」
「んっ! わ、わかったっ」
――――だからマヤメにも聞いてもらう。
その権利があるだろうし、マスターはマヤメの創造主だ。
ただ私に反応したって事は、恐らくあっちの話も出るだろう。
マスターは私と同様に、この世界に転移してきた、元RROプレイヤーなのだから。
『『――――にゃーが視えている者よ。にゃーの声が聞こえている者よ……』』
前脚をちょこんと揃え、ピンと姿勢を正しながら、黒猫が語り始めた。
『『ここからは、この世界の住人としてではなく、この世界とは相違なる存在として話を続けます。なので今のこの口調が、本来の私と理解してください――――』』
『………………』
『『私の名前は"まっくろクロ猫(♂)”。裏世界出身の、元RROプレイヤーです。そして――――』』
『……裏世界? って事は、タチアカやマカスが今いるところ?…… じゃなくて、ゲーム内でのワールドって意味かな? 最後に元プレイヤーって言ってたし』
私がプレイしていたゲーム内では、特色の違うワールドが用意されていた。
表世界=SFチックな世界が舞台の近未来風ワールド
裏世界=剣と魔法のファンタジー色が濃い西洋風ワールド
の2種類があり、私は表世界のプレイヤーだ。
そして今の話だと、この"まっくろクロ猫(♂)”と名乗る、マヤメのマスターは、タチアカたちと同様、裏世界のプレイヤーだと言う事になる。
『ん? ちょっと待って。でもそうなると、あの話はどうなるの?……』
ここでとある矛盾に気付く。
タチアカから聞いたあの説明と、大きな違いがある事に。
裏世界のプレイヤーは、こっちの世界でも裏世界の住人となり、表世界に行き来は出来るが、制限時間的なものがあると、タチアカが話していた。
実際に私も『表裏一体モード』がなければ、向こうには行き来出来ない。
パンツを拝ませた時間分だけって言う、条件付きで。
だけどこのクロ猫は、かなりの長い期間、こっちの世界で住んでいたはず。
数か月、いや、隠れ家の規模から察するに、恐らく年単位で暮らしていたはずだ。
『この食い違いって、何か意味があるの? だってタチアカたちはジェムの魔物を使って、エナジーを集めてこっちの世界にって…… な、に?』
ピロン ピロン ピロン ピロン
ここで、聞きなれた効果音と共に、4件の通知が連続で届く。
たった今、新着のメッセージを受信したと。
『は? これって?…………』
この世界に来て、初めての通知に驚きながら、恐る恐る受信ボックスを開くと――――
『……はぃっ!?』
4件とも差出人は同一人物で、それは目の前の"まっくろクロ猫(♂)”だった。
どういった技術かは不明だが、このタイミングって事は、恐らくARと同様に、何かの条件で自動的に送られたものだろう。
《 RRO転生者マヤメの育成日記 》
《 魔戒造幻獣フェンルル 》
《 表世界=裏世界 裏世界≠表世界 》
《 OLTA の規模とその目的とは(調査中) 》
と、言う件名の、新たな謎と真実に触れるものが。
スミカの匂いについては450話付近の『マヤメの苦悶と英雄さま』で、
マヤメから語られた内容の答え合わせ的なものです。
マヤメのマスター『まっくろクロ猫(♂)』はこの世界の呼び名ではなく、
RRO内のハンドルネームで、組織内ではマスターと呼ばれてました。




