黒猫
またまた久し振りの投稿ですが、今回もよろしくお願いいたします。
前回のあらすじ
マヤメの創造主のマスターの眠る、工房に辿り着いたスミカたち。
だがそこは工房とはかけ離れた部屋で、まるで子供の部屋の様だった。
マヤメはマスターの無事を確認し、胸に抱きながら涙を流す。
だがそのマスターは、人間の姿ではなく、小さな黒猫の姿をしていた。
って感じで、今回はその続きです。
「……良かったね、マヤメ。マスターが無事で」
「ん、本当に良かった。これも澄香とトテラのおかげ」
マスターの亡骸であろう黒猫を、大事そうに抱えるマヤメ。
今まで見せたことのない笑顔で、にこりと微笑みを返す。
「ア、アタシは足引っ張ってただけだよっ! スミカちゃんとカエルちゃんが頑張ってくれたからっ! 二人がいなかったらアタシ、何回も死んじゃってたもんっ!」
マヤメの感謝に対し、慌てて視線を逸らすトテラ。
気のせいじゃなければ、ちょっとだけ頬が赤いような。
「ん、トテラは頑張った。何度もマヤを助けてくれた。だからありがとう」
「ほら、本人がそう言ってるんだから、そんなに謙遜しなくてもいいんじゃない? 私もトテラがいて助かったと思ってるし」
「いや~、そ、そうかなー? えへへ~っ!」
マヤメに続き、私からも言われ、嬉しそうに長耳を揺らす。
てか、なんでほっぺの他に目が赤くなってんの?
嬉し過ぎて発情してんの?
「さて、これでここでの用事は全部済んだね。ここまで色々あったけど、マヤメもトテラも桃ちゃんも、みんな無事で良かったよ。誰か一人でも欠けてたら、ここまで辿り着けなかっただろうし」
二人の顔を見渡しそう告げる。
因みに桃ちゃんは、フードの中でスヤスヤと寝ている。
きっと色々あって疲れたんだと思う。
孤児院の池から離れて、こんな遠くまで連れてきちゃったしね。
「ん、マヤもそう思う。マヤ一人では無理だった」
「アタシは迷惑ばかりかけちゃったけど、でもそう言って貰えると嬉しいよっ!」
お互いの顔を見渡し、大きく頷く。
疲労が残った表情が、晴れ晴れとした笑顔に変わる。
振り返ると本当にそう思う。
ここにいるトテラや桃ちゃんだけではなく、クロの森のみんなや、ジーアとの出会いがあったからこそ、ここまで辿り着けた。
元々は、ナジメに言われて、マヤメに同行した。
見かけたら気に掛けてくれと、ナジメに頼まれていたからだった。
けど最初は抵抗があった。
ジェムの魔物と共に現れ、得体の知れない能力を使うマヤメに。
だけど今は大切な仲間だと思っている。
いや、もう家族の一員だと言ってもいい。
コムケの街に残る、ユーアやラブナやナゴタたち。
それぞれが両親や家族と離別、若しくは、複雑な事情を抱えている。
だから私は結成した。
妹たちを守るために、Bシスターズを。
妹たちと守るために、妹たちが暮らすこの世界を。
『それに、私がこの世界に…… いや、この時間軸に来たのには意味があると思う。今まで考えてこなかったけど、きっと、偶然ではない気がする』
ルーギルたちの話によると、約10年おきに大規模な災害が起こるらしい。
未知の魔物が大量に湧き、多くの人々を襲う、『魔物災害』が。
最初に災害が起きたのは約20年前。
これは竜族率いるフーナたちの活躍によって、見事撃退している。
そして直近では、今から凡そ10年前。
その際は、突然現れた、何者かの協力によって、ある程度被害を抑えられたらしい。
この話はロアジムから聞いた話だ。
だが、その協力者の素性や、顔も名前もわからないとの事。
どうやら戦いの最中に、突如姿を消してしまったらしい。
現れた時と同じように、まるで霧の様に消えたと言う話だ。
わかっているのは、赤の全身鎧を身に纏った、長身の男らしいとの事と、身の丈程ある大太刀を、軽々と振るっていたとの事だった。
『……そう、この協力者の正体って、十中八九、"タチアカ”なんだよね。悪目立ちする赤の鎧や、長柄の武器もそうだけど、それにあの時、私と戦うのは10年振りって言ってたし。男に見えったってのは、その戦い方と身長のせいだと思う』
裏世界のタチアカが、何故、表世界に現れたかはわからない。
その行動に、何の意味や意図があったかもわからない。
ただ、可能性があるとすれば、それもエニグマの計画の一部か、それか、10年前に転移した先が、偶然こっちの世界で、なし崩し的に戦った可能性もある。
仮に後者だとすると、思い当たる節がある。
時間制限がどうとか言っていた、あの時と同じように。
『そして私は、この世界に来た時に、最初に会ったのがユーアだったんだよね。崖から落ちたのを私が助けたって、ずっと勘違いしているみたいだけど……』
実際のところ、私が助けたかはわからない。
けど、ユーアはそう信じて、私と一緒にいる事を選んだ。
だからきっと意味があるんだと思う。
この世界、そして、最初に出会ったのが、ユーアだったって意味が。
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「さて、忘れ物ない? ないならそろそろ引き上げようか?」
ベッド脇のローチェストを調べるマヤメと、目を爛々と輝かせながら、学習机やベッドを漁るトテラに声を掛ける。
「ん、マヤはこれ持っていく。きっと何か入っている」
「はぁ~、アタシは何もないや……」
マヤメは柄の入った小さな布を持ち、トテラは何故かガッカリしている。
てか、なんでトテラは人の家勝手に物色してんの?
この家の住人が目の前にいるんだよ?
「あれ? それって、マジックバッグ?」
マヤメの持つ、小さな布切れを見て、聞いてみる。
「ん、そう。新しいの見付けた。マスターがいる」
「いる?…… あ、なるほど」
パンツを両手で広げ、ピラと裏側を見せてくれる。
確かにマヤメの言う通り、マスターがいる。
ちょうどお尻の部分に、ディフォルメされた、黒猫のアップリケが。
「ん、だから今履いてるのトテラにあげる」
「うへっ!? な、なな、なんで今脱ぐのっ!?」
「ん、これはたくさん入る。しかも汚れない。だから便利」
「ちょ、だ、だからって、こんなところでっ!?」
「ん? マヤは気にしない。見られても平気。あ、でも中身移し替える必要ある」
「な、中身ってなにっ? も、もしかして、うn――」
「うん?」
「な、なんでもないっ!」
「だからトテラも――」
「え? ア、アタシも――」
「はあ、マヤメもトテラも後にしなよ。ほら、マスターだって待ちくたびれてるよ?」
二人のやり取りを眺めながら、マスターのある机に近づく。
そして偶然、その亡骸に、指先が触れた瞬間に――――
『『――――ににゃ?』』
「え?」
あろうことか、可愛らしい声を上げながら、ムクと体を起こし、
『『……よくぞここまで来たのにゃ。さすが元RROプレイヤーなのにゃ』』
前脚で顔を掻きながら、驚愕の一言を発した。
ただし、
「マ、マヤメっ! マスターが生き返った…… って?」
それが見えるのは私だけのようで、
「ん、中身移し終えた。だからこれ。トテラのはマヤが預かる」
「うへっ! ア、アタシも脱ぐのぉっ!?」
驚く私を横目に、未だにパンツの交換会が続いていた。
トテラはマヤメのパンツがマジックバッグだとまだ信じていないようで、
ただの物入れだと思ってるのであんな態度になっています。
って、それはさておき、ここでまたタチアカの名前が出てきましたが、
この話は460付近の『魔物の天災のお話』の辺りで語られています。
それと他にも度々登場しているのですが、それは後ほど。




