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『剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?』  作者: べるの
第16蝶 影の少女の解放と創造主

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マヤメの依存とトテラの事情

今回は小難しい話ばかりですが、よろしくお願いいたします。

前回説明できなかった、トテラの話です。




 傷や気力の回復の為、半刻程の休憩を終えた私たち。

 案内役のマヤメを先頭に、トテラ、私と続き、薄暗い洞窟内を進んでいく。


 ただ洞窟とは言っても、『巨大な地下施設』と言った方がしっくりくる。


 壁や地面の殆どは自然物だが、所々は人工物で出来ており、手すりや階段、一部の柱に至っては、加工された金属が使用されていた。


 だとすると、この地下広場は元々あったもので、利便性を上げるために、マヤメの創造主のマスターが手を加えたものだろう。


 しかも隠れ家としては最高だ。


 渡航が過酷で困難な、広大なトリット砂漠の中心部にあり、しかもこの真上には、絶えず砂嵐が舞っている。


 エニグマ(謎の組織)を抜け出し、追われる身としては、最適な場所だっただろう。

 創られて間もないマヤメを連れていたならば尚更だ。 


 だが、その生みの親であるマスターは、数年前に命を落としている。

 細かい詳細は不明だが、Rシスターズのリーダー、タチアカの手によって。


 その亡骸が今も保管され続けている。

 マヤメの元拠点ともいえる、この地下施設の何処かに。




――――――――――




「あのさ、ここって魔物とか出ないの?」


 『発光』を使い、周囲を照らしながら、先頭のマヤメに問いかける。 

 夜目が利くと言っても、僅かな凹凸を見落とす可能性があるからだ。



「ん? 魔物はいない。けど、生き物はいる」

「へぇ~、どんなのっ? どんなのっ!」


 質問した私ではなく、目の前のウサ耳がブンブンと揺れる。


「ん、ネズミやコウモリ。後はトカゲや虫もいる」

「本当っ! なら捕まえてもいいの?」


「はあ? それ捕まえてどうするの?」


 マヤメに詰め寄るトテラに聞いてみる。

 なんか突然テンション上がってるし。



「もちろん、みんなに持ち帰るんだよっ!」


「いや、それをなんでかって聞いてるんだけど。みんなって、兄妹たちのこと?」


「うん、そうだよっ! どれもみんな栄養があって美味しいのっ! だからお土産にしたくってっ!」


「却下。そんなの食べたら余計体調悪くなるって。だからダメ」 


 有無を言わさずトテラの話を寸断する。

 虫やトカゲは知らないけど、ネズミやコウモリなんかは病原菌がヤバそうだし。



「で、でも、今までも食べてたよ?」


「いいから、今度からはやめておきなよ。その代わり、もっと栄養のある食べ物あげるから。この件が終わってからだけど」


「うん、わかった。スミカちゃんがそう言うなら……」


 渋々ながら了承してくれた。  

 その代わりに耳がへなへなになっちゃったけど。



「ん、トテラ。澄香のいう事は絶対。だからちゃんと聞く」

「う、うん。マヤメちゃんもそう言うなら」


 そしてマヤメにも言われてしまい、更に耳がペタンとなってしまう。



『う~ん…………』


 てか、マヤメの注意は意味がなんか違うよね?

 栄養や病原菌の心配じゃなく、『私が言ったから』みたいになってるよね?


 こんな感じの事は以前からあった。


 私の起こす、行動や言動、考えの全てが正しいと。

 どこか盲目的、かつ妄信的に、私の全てが絶対だと。



『多分これって、私の影にマスターの面影を重ねてるんだろうね? 生みの親、育ての親でもあるマスターが、突然いなくなった事でさ。私が似てるって、前に言ってたし……』


 マヤメにとってマスターは、絶対的創造主で、不変的な存在だったはず。

 そんなマスターにかなり依存していたのだろう。


 でもそれは無理からぬ事。

 突然マスターと言う、大きな灯火を失い、世界と言う大海原に放り出された。


 その後、右も左も心の傷も癒えぬまま、エナジーの供給を()()にエニグマの一員となり、手足の様に働かされていた。そこに自分の意志も意味も、生きる目的も見付けられないままで。



『で、そこで偶然私を見付けたと。容姿や見た目が似ているってわけじゃなく、きっとマヤメだけが感じる、何かがあるんだろうね。マスターも元プレイヤーだったろうし』


 信用してくれるのは嬉しい。  

 信頼されるのも悪くない。


 けど、盲目的に依然するのは、マヤメの成長にとってはマイナスだ。

 仮に、私がいなくなった際に、また繰り返してしまうだろう。


 誰かに拾われて、搾取され続け、利用されるだけの人生に。

 思考を停止し、ただただ操られるだけの人形に。



『……なんてちょっと心配してたけど、その可能性は随分低くなったかな? 偶然だけどこの子に会えたから』


 目の前で楽しそうに揺れている、2本の白い長耳。

 前を歩いていたマヤメと並び、他愛のない話に花を咲かせている。


 トテラとの出会いは、僅かながらマヤメに変化をもたらした。

 自我を持ち始めた。なんて大袈裟かもしれないが、それでも変わったことは確かだ。



『……そんなトテラも問題を抱えていて、数週間、衰弱し続ける兄妹たちの為に、あるモノを探しに来たんだよね。で、その結果如何によって、エニグマの誘いにも乗るつもりだったと』


 つい先ほど、レストエリアで聞いた、トテラの話を思い出す。


 未知の魔物に襲われ、今も衰弱が進行している事を。

 どうやら冒険者の仕事で、家を留守にしている間に襲われたらしい。



『でもまだ幸いなのは、トテラたちが生命力の高い種族だったって事かも。混血種とはいえ、普通の人間よりも生命力が高いだろうし。で、そのタイミングでエニグマが接触してきたと。まるで図ったかのようなタイミングで……』


 数日後、治療法が見つからず、途方に暮れるトテラの前に『マコイ』と名乗る少女が現れ、Rシスターズへの加入を条件に、治療を施すと言ってきた。


 だがトテラは一度、その条件に首を横に振ったらしい。


 兄弟たちと別れる事に、大きな抵抗があったのと、とある"お宝”がトリット砂漠にあると、そんな情報を耳にしていたからだ。


 その結果、トリット砂漠に訪れる事となったトテラ。

 お宝と言う名の、規格外の効力を持つ、回復アイテムを探しに。

 

 私の勘では、そのアイテムは『リカバリーポーション』。

 もちろん、この世界のものではなく、私が持っているものと同じもの。


 話に聞くと、元々はこの砂漠の周辺で売られていたらしい。

 

 だが突如、その売り手が消息不明となった。

 ある時を境にパタリと姿を現さなくなった。


 その後、ある噂が流れた。トリット砂漠にそのポーションがあると。

 売り手が砂漠を出入りしていた事から、その何処かにあると思われたのだろう。



『恐らく、その売り手はマヤメのマスターで、生活費や研究費を工面するために、地下から出て売っていたんだと思う。でもタチアカたちに殺されて――――』


 供給が止まり、その情報が冒険者であるトテラの耳にも入った。  

 兄弟たちと離れるよりかは、一か八かだが、お宝の存在に賭けたのだろう。

 


『でもあの時、トテラはエニグマを選んだ。タチアカに苦戦している私を見て、苦渋の選択をしてくれたんだと思う。それも私たちのために……』


 二度目の勧誘に、トテラはRシスターズへの加入を選んだ。

 自分がタチアカに着いていけば、私とマヤメが見逃されると思って。

    

 その時の心情と決断の重みは、トテラにしかわからない。

 きっと辛かっただろうなんて、安易な言葉では語れない。


 だがトテラの件は、私がアイテムを譲る事で、一応解決に向かっている。

 自分自身でアイテムを使い、その効果に納得したからだった。

 


『なんて、それぞれに事情を持つ二人だけど、きっと全てが片付いた時には、今よりも心の底から信頼し合い、更に笑顔が増えるんだろうね……』 


 楽し気に響くトテラの笑い声と、微かな笑みを浮かべるマヤメ。  


 そんな二人の背中を眺めながら、全力で手助けすると、再決意したと同時に、いつも自分の背中に隠れていた、あの小さな背中を懐かしいと思った。

  



――――――――――



「ん、ここから先は狭い。でももう少し」


 三人で進むこと約半刻、恐らくここが最深部なのだろう。  

 幅5メートル、高さが約3メートルの横道が、口を開けていた。



 パチッ


 私たちが通路に入ると、眩い光が点灯し、白くて長い廊下が映し出された。 



「うわっ! 眩しいっ! あ、なんかここって?……」


 照らし出された風景に、トテラの耳がピンと立つ。

 恐々と通路を見渡し、背後の私に振り返る。



「うん、そうだね。似てるね」

 

 周囲の景色を見ながら答える。


 トテラが怯えるのも無理はない。

 何せここは、あの雰囲気にそっくりだ。


 トテラがタチアカによって連れ去られた、裏世界のあの白い部屋と。



「だ、だよね?」 


「ま、でもここはマヤメの家みたいなものだから、あんまり心配しなくていいんじゃない? 危険な魔物なんているわけないし」


「う、うん」


「それに、何かあったら私とマヤメもいるからさ」


「そ、そそ、そうだよね?」


「ん?」


「なんでもない。それよりもうすぐなの? マスターの工房って」


 恐がるトテラの背を叩き、励ましながらマヤメに答える。



「ん、分かれ道や部屋がいくつかある。でもマヤが知ってる」


「そうだよね。なら引き続き案内よろしく」


「ん」


 マヤメを先頭に、再び歩き出す。


 カツ、カツ、カツ、


 まるで病院か、はたまた何処かの研究施設かのような、物音を立てる事に躊躇うほどの雰囲気を感じながら、真っ白で無機質な通路を、奥へ奥へと進んでいく。


 その道中には、いくつかのドアが並んでいたが、全ての部屋に窓がないため、中の様子がわからなかった。

 


「ん、ここ左に曲がるともうすぐ」


 通路が二手に分かれている、分岐点に到着する。

 ここからもう少しだと、マヤメが左に曲がった直後、


 

 ガチャッ ×5



「なっ!?」


 突如、目の前に、見慣れた5体のヒト型が現れた。



「機械兵っ! な、なんでここにっ!?」


 通路を塞ぐように現れたのは、軽機兵3体に、その後ろには重歩兵が1体。

 更にその奥には、ライフルを構えた狙撃兵がいた。


 

実はマヤメって、今まで意見を殆ど言わなかったりします。

特にスミカには、全幅の信頼というか、信仰心に近いものを持っているので。

トテラに出会って今後、どう変わるか楽しみにしてください。



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― 新着の感想 ―
>「うん、そうだよっ! どれもみんな栄養があって美味しいのっ! だからお土産にしたくってっ!」 >虫やトカゲは知らないけど、ネズミやコウモリなんかは病原菌がヤバそうだし。  今のトテラなら森の動物を…
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