救出劇
体調不良で4日間寝込んでいました。
寝ても覚めても頭の中がグルグルで最悪でした。
皆さまもお気を付けくださいませ。
ガギ――ンッ!
弾く。
ドゴンッ!
叩き付ける。
キィ――ンッ!
躱し、そして捌く。
四方から襲い来る、6本の太刀全てを、スキルで相殺し、体術で躱していく。
二種類ある太刀の内、赤い方は透明壁スキルで防ぐ事が出来る。
その事実はつい先刻実証済みだ。
ただし、そうは言っても油断はできない。
身体に触れたら最後、その部位が一瞬で切断されてしまうからだ。
防御無視。若しくは、ガード不能。
赤い太刀には恐らく、そう言った能力が付与されている。
そして――――
ザンッ
「はははっ! さすがに同じ轍は踏まないかっ! だがいくら貴様でも、この狭い空間じゃ避け続けるにも限界があるだろうにっ!」
「ちっ」
斬撃と刺突の雨を掻い潜り、タチアカの前に抜け出したのはいいが、またもやあの黒い太刀に行く手を遮られ、思うように攻めきれない。
万物貫通。それか、特殊スキル無効。
あの黒い太刀には、全ての矛盾や理を斬り裂く、不条理な能力が備わっている可能性が高い。
もし、仮にそうであれば、それは私にとっては天敵だ。
この装備の真骨頂ともいえる、透明壁スキルが通用しないからだ。
いや、この場合は、私だけではないだろう。
この世界の常識や、事象を逸脱するもの全てが、対象なのだから。
「ほらほら、どうしたっ! 貴様から来ぬのならば、再度ワレから仕掛けるぞっ!」
黒太刀を肩に担ぎ、悠々と歩を進めるタチアカ。
片腕を失った割に、なぜかテンションが高い。
『ったく、マジで面倒な能力だよっ! これじゃ、PVPに特化した、対プレイヤーのアンチ武器だってっ!』
チートの更に上を行く、チートの上位武器。
逆の立場になってわかる、理不尽過ぎる能力。
『……ってか、なんでさっきから嬉しそうなの? 洞窟で戦った時とは、なんか雰囲気が別人なんだけど』
ここでふと、タチアカの様子が変わった事に気付く。
愉悦に浸る。と言うよりかは、もっと純粋な笑みを。
鋭い眼光。とは違う、どこか熱を帯びた眼差し。
だが、そんなタチアカとは対照的に、もう一人の元プレイヤーのマカスは、
「………………」
この戦いには参戦せずに、無表情に私だけを見ていた。
元から勝敗の行方など、関心も興味もなさそうに。
『ま、私の事知ってるみたいだから、色々と探っているってところか。普通の相手だったら、そこまで警戒する必要はないんだけど……』
この短時間での、度重なる戦闘で、装備のレベルが上がっていた。
それに伴い、新しい能力も増えている。
この局面を逆転できるであろう、強力な能力が。
だと言うのに、あのマカスの存在が、使用を躊躇させてしまう。
奇抜な風貌とは裏腹に、妙に大人しいのもあるが、それよりも特に、
『……もしかして、あれも未来のアイテムか、改造した可能性があるって事? だとしたら、迂闊に手の内は晒せないな』
私を捉えて離さない、マカスのもう一つの目玉。
カチューシャの上についている、見るからに人工的な眼球。
その目はまるで、私の一挙手一投足だけではなく、癖や能力、はたまた、心情やスリーサイズまで、全てを見透かされるような、そんな不気味さを感じる。
『ま、そんなに私の事見たいなら、それはそれで、やりようはいくらでもあるんだけど――――』
ガギンッ
「おっと、惜しいなっ! この期に及んで、更に速度を上げるとはなっ! だがまだその程度ではワレの身体には一生届かぬぞっ!」
「あっそ、ならこの100倍でもそんな余裕見せれるの?」
「100倍だと?」
「『Safety device release』『sept』」
キュ、 ン――――――
「く、疾いっ!? だがっ!――――」
身体能力を底上げし、全パラメーターを128倍まで引き上げる。
今の私の状態では、これが限界で、最大の攻撃だったのだが、
スパンッ
「くっ」
私の攻撃が届くよりも早く、黒太刀の軌跡が、私の右腕を通過した。
タチアカの反射能力とは無関係に、まるで私に吸い込まれるように。
「はん、だから言ったではないか、貴様ではワレに勝てぬと」
「…………」
コッ、コッ、コッ――――
両腕を失った私に、トドメを刺そうと、タチアカが近づいてくる。
勝利を確信したとばかりに、なんの躊躇いも疑問も持たずに。
「あ、それ私の分身だから?」
「なっ!?」
「それとそこ危ないよ?」
ギュムッ
「えっ!?」
ドガンッ!
「ぐはぁ――――――っ!」
タチアカの巨体が一瞬で、この部屋の天井を突き破る。
予め床に設置しておいた、反発力最大の『Gホッパー』を踏み抜いて。
しかもこの施設は、階層の多い施設だったのか、タチアカの悲鳴と破壊音が断続的に響き、やがて小さくなっていった。
そして、残された6本の赤い太刀も、所持者を追って天井に消えていった。
これで少しは時間が稼げるはず。
あとは――――
「な、なんだっ! なんでタチアカがいきなり天井をっ!」
とんとん
「それと、マカスだっけ? あんたにはこれ上げる」
「なんだ? ぐはぁっ!」
振り向き様に、光力を最大にした『発光』をマカスに見舞う。
失明とまではいかないが、暫く視力は戻らないだろう。
「ぐ、ぐわっ! め、目がっ!」
「それじゃ、私はあっちの世界に帰るよ。また仲間割れしないように、その原因だったトテラは、宣言通り私が貰っていくから」
「目があぁ~っ!」
「あ、あとそれと、もう一つ。未来の武器がいくら強力だからと言って、結局、使い手が未熟なら、付け入る隙なんていくらでもあるんだよ。あんな単純な騙し討ちに、簡単に引っかかるなんてさ」
「め、目がぁ~っ!」
「……今思ったんだけど、あんたのその目って、実は飾りなの? 本物がやられたら、代わりになるとかじゃないの?」
パシッ
目蓋を抑え、床でジタバタするだけの、マカスのカチューシャを奪う。
「よし、これでお土産もできた。それじゃ、帰るよ?」
目玉を収納し、部屋の片隅にいた、トテラに近寄り、手を握る。
余程緊張していたのか、かなり冷たかった。
「ありがとうスミカちゃん。本当に強くて優しいんだね。アタシ、お姉さんいないけど、本当のお姉さんみたいだったよ。ずっとアタシよりも大人のね?」
私の手をキュッと握り返し、和らいだ表情で答える。
『うん? 大人のお姉さんか…… もしかしてトテラには、野生の本能とかで、疑似的にそう見えちゃうのかな? 元の私がグラビアアイドル級のナイスバディーな高身長美女に。にっしっし』
なんて、憧れの眼差を向ける、そんなトテラの視線も満更じゃないな。
なんて思っていると、
「あ、でもそう言えば、なんでスミカちゃんは裸なの?」
一気に目が覚める発言で、無理やり現実に引き戻された。
「はだかっ!? あ、も、もしかして、途中から時間が、あっ――――」
シュ、ン――――
こうして二度目の裏世界から、元の表世界へと帰ってきた。
不気味な目玉のカチューシャと、笑顔の戻ったトテラを連れて。
もう少し踏み入った話まで書く予定でしたが、
スミカのタイムリミットなので今回はここまでになります。
それとマカスが何も出来なかったのは、単純に目が弱点だったりします。




