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『剣も魔法も使えない【黒蝶少女】は、異世界に来ても無双する?』  作者: べるの
第16蝶 影の少女の解放と創造主

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赤マスク男VS赤髪のラブナ その2

何やらいつもの様子と違うラブナ。

その訳とは?




「………………」


「くくく、さっきまでの威勢はどうした。もしかして図星を突かれて怖気づいちまったのか? 今度は足だけじゃなく、体まで震えているぜ?」


 開始の合図がされたと言うのに、頬を紅潮させ、動き出す気配のないラブナ。

 そんなラブナを相手に、赤マスクは更に挑発を繰り返す。 



「それと、もっといい情報を教えるぜ。俺の職業は『盗賊』だ。お前は見たところ、駆け出しの魔法使いだろう?」


「………………く」 


「なら相性は最悪だな。お前が魔法を唱えている間に、俺はお前の懐に容易に入り込めるぜ? なにせ俺の能力は【足捌】だからな。ん?」


 ここでようやく異変に気付く黒マスク。

 震えるだけで、何の反応も見せないラブナに、意気揚々と語っていたが、



「ひ、く、くくく………………」


「あん? おま――――」


 俯いて、すすり泣きしている姿に呆気に取られる。

 まさか、戦う前から()()()しまうとは予想外だった。



『くくく、これはおもしれえな。まだまだこれからって時に、一瞬、肩透かしを食らっちまったかと思ったが、そもそも勝敗のルールにゃ、泣いたら終わりだなんてねえんだよな』

    

 両手で顔を覆い、小刻みに震えている姿に、更に嗜虐心(しぎゃくしん)が芽生える。

 この高慢ちきなメスガキを、一層堕としてみたいと欲求が大きくなる。

 


「さて、それじゃ、早速その邪魔なもの(赤いローブ)を剥いで、羞恥に泣き叫ぶさまを、観客共々楽しもうじゃねえかっ!」


 タンッ


 短剣を逆手に構え、一直線に獲物に向かって地を蹴る赤マスク。

 その表情は、口端も目尻も下げ、おぞましい笑顔で歪んでいた。 






「で、どうなんじゃ? ラブナの調子は」


 隣に陣取る、ラブナの師匠である、ナゴタとゴナタに声を掛けるナジメ。

 普段とはかけ離れたラブナの様子を、不思議そうに眺めながら。



「別に普通よね? ゴナちゃん」

「そうだな、なんか我慢してるっぽいけどな」


「そうか、お主たちは寝食も共にしておるから、その話は本当なのじゃな。ならあれは怯えてるわけではないのじゃな? 今回のような実戦形式に近い対人戦は、あまり経験がないようだしの」


「怯える? あの子が? いいえ、それは絶対にないわ。そもそもあの子の最初の相手は、お姉さまでしたから」


「そうだぞ。それにお姉ぇと依頼を受けて、あっちでも活躍したって聞いてるから、度胸も経験もずっとついてると思うぞ」


 両手で顔を覆い、震えている弟子を前に、あっけらかんと答える師匠たち。



「おお、そうじゃったなっ! ねぇねを相手にしておるのじゃから、どんな輩を前にしても、有象無象に感じるじゃろうなっ! ぬははっ!」


 二人の説明に合点がいったようで、八重歯を見せて破顔するナジメ。



「それと、つい先日、この街に現れた、竜族のエンドって子ともラブナは戦っているのでしょう? 尚更、普通の人間になんて臆する理由はないわ」


「ああ、あの日はラブナも大変だって聞かされたなーっ! こっちもナゴ姉ちゃんと、おまけでルーギルと、アドって竜族を撃退したからな。今更相手が怖いってないよなっ!」


「うははっ! それもそうじゃなっ! 尚更ラブナが怖気づく理由など皆無なのじゃっ! 竜族のあ奴にはわしも肝を冷やしたからの。確かにお主らの言う通り、今更な話なのじゃっ!」


 顔を見合わせて、フーナの家族たちとの戦いを思い出す三人。

 あのような存在と相対する事自体が稀だったが、その分、膨大な経験を与えてくれた。



「ならわしたちは、大人しく観戦する事にするのじゃ。きっとラブナは期待に応えてくれるじゃろう」


「そうね、あの子は元々強い心を持っていたわ。足りないのは知識と経験だったけれど、それもこの数週間で、かなり補ってきたわ。だから――――」


「うん、だからワタシたちは、なんの心配しなくてもいいよなっ!」    


 ラブナを送り出した時よりも、表情を緩めるナジメとナゴタとゴナタ。 

 その心情は、見守る側から、成長を楽しむさまに変わっていった。


 


  

※ 



 一方、そんな三人に、期待されるラブナはと言うと――――



『な、なんか赤いのがごちゃごちゃ言ってるけど、今はそれどころじゃないのよっ! 別にアイツが怖いって訳じゃないわっ! だってあの赤いのからは何も感じないんだからっ!』


 赤マスクが何やら、前口上を述べていたが、殆ど耳に入っていなかった。



 そんなラブナが、今まで手合わせをした相手はかなり少ない。

 回数で言えば、片手で数えられるぐらいだ。


 冒険者になってまだ間もないのだから、至って普通ともいえる。

 そもそもFランクでは、討伐系の依頼が少ないのも理由の一つだろう。


 ただ、今まで相対してきたラブナの相手は普通ではない。


 デビュー戦のスミカから始まり、アマジの仲間の大剣使いのバサ。

 次いで、シクロ湿原に現れた、白リザードマンとジェム4の魔物。

 

 そしてつい先日には、この街のスラムで邂逅した、フーナの家族の竜族エンド。

 

 場数こそ少ないが、それでもその数以上に、稀有な出会いと経験を積んだ。

 特に、この世界でも上位に位置する者との戦いは、ラブナの価値観を大いに変えた程だ。


 だが、そんなラブナでも未経験のものがあった。

 異世界人や人族、魔戒兵や竜族と相まみえていても、未だ苦手なものがあった。



 それは――――



『うう~、あの子は豆腐屋の娘じゃないのっ! あっちは、アタシがいつもおやつを買いに行くお店の奥さんだわっ! あ、あそこにいるのはボウとホウっ!? あれは屋台で可愛い装飾品を売っている、あのお姉さんだわっ! あああ~、なんでこんなに見られてるのよっ!』


 それは、大勢の観客の前で戦うという状況に、緊張を感じていた。

 目の前の相手がどうこうよりも、知り合いが多い事に、身体を震わせていた。

 

 ある意味この状況は、ラブナにとっては晴れ舞台。

 拠点とするこの街の人々に、自分の実力を知ってもらう大舞台。


 だが、強者や手練れに慣れていても、人の目には慣れていなかった。

 全くの他人ならともかく、知り合いの多いこの街なら尚更だ。 



『ユ、ユーアはあんなに堂々としてたのに、アタシがこんなんじゃカッコつかないわっ! さっきまで何も意識してなかったのに、あの赤い奴のせいで――――』



 恥ずかしい。

 傍から見れば、格上の冒険者を前に、尻込みしている新人に見えるだろう。


 憎い。

 無意識に震えていた足を、さも自分が原因かのように、得意げに嘲笑(あざわら)った事を。



『あああ、もうっ! あったまきたわーっ! 結局全部アイツが原因じゃないのっ! これで万が一負けたりしたら、この街で活動しにくくなるし、蝶の英雄の名に泥を塗ることになるわっ!』


 許せない。

 ユーアを含め、この街のみんなに、こんな醜態をさらす要因となったアイツが。



 その結果、自分の事だけならまだしも、蝶の英雄のスミ姉が、揶揄され嘲笑される事は、決してあってはならない。

 

 自分はユーアとスミ姉に出会い、孤独と貧困から解放されただけではなく、師匠と三人で住める、快適で便利な家や、大勢の子供たちが楽しく生活を送れる、新しい孤児院や仕事も与えてくれた。



 

「ひ、く、くくく…………」


 なんだか震えが収まってきた。

 緊張や羞恥心を、憤怒の感情が上回ったようだ。



「あ、あは…………」


 だからといって、このまま感情に任せて突っ走るのは悪手だ。

 怒りは視野を狭め、冷静さを失わせるだけではなく、相手に絶好の隙を作ることになる。



「あ、ははは…………」


 だったら答えは簡単だ。

 感情を読み取らせないように、高笑いを上げる事だ。


 そもそも、笑うという行為は、緊張や筋肉をほぐす事だけではなく、相手を困惑させ、自分を鼓舞する事ができる。

 


「あははははははははは――――――っ!」


 その見本という訳ではないが、あの蝶の英雄はいつもそんな感じだった。

 数々の強敵を前にしても、どこか楽しげに、戦場を縦横無尽に舞っていた。 



 ザッ


「な、なんだお前っ!? 恐怖で気でも触れたかっ!」


「えっ!?」


 我に返った瞬間に、赤マスクが目の前に迫ってきていた。

 背後からローブに向かい、2本の短剣を振り下ろした瞬間だった。



「ちょっ!」


 これはヤバイ。

 魔法使いは接近されたら何もできない。


 ナジメのような鉄壁の能力を持っているならまだしも、そんな都合のいい能力は、あいにく持ち合わせてはいない。



 だったら――――



 ガキ――――ンッ! ×2



「なっ――――」



 ――――だったら、最初から用意をするのは当たり前だ。


 自分(魔法使い)の弱点は、自分(魔法使い)がよく知っているのだから




「な、なんだこれはっ!」


 振り下ろした短剣が弾かれ、驚愕の表情を浮かべる赤マスク。

 得体の知れないものを前に、咄嗟に後方に下がる。



「あははははは――――っ! 何よその顔はっ! さっきまでの薄ら笑いはどうしたのよっ! そもそも魔法使いのアタシが、なんの準備も無しに接近戦に付き合うとか思ってたわけっ! あはははははっ!」


 慌てて距離を取った赤マスクを、今までの仕返しとばかりに小馬鹿にするラブナ。


 その頭上には、直径20センチほどの、◇形のミラーが3つ浮遊していた。



 どうやらスミカから貰った『リフレクト(マジック)ソーサラー』を、自分の弱点を補う為に、盾代わりに使ったようだ。






どうやら大勢の人たちを前に、緊張していたみたいです。

実はああ見えて人見知りなところもあり、特に異性は苦手みたいです。

なので知り合いの殆どは、子供か同性ばかりです。

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― 新着の感想 ―
[一言] >感情を読み取らせないように、高笑いを上げる事だ。 >その見本という訳ではないが、あの蝶の英雄はいつもそんな感じだった。  なぜ笑ったのかの要点を絞ってみたら……。  スミカ……お前、高笑…
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