ジーアの魔法と進化するものたち
ジーアの魔法に巻き込まれたスミカのお話です。
ちょっとくどい内容になってますが、何卒宜しくお願い致します。
※スミカ視点
「な、なんなのこれ? もしかしてジーアの魔法?」
ジェムの魔物にお尻を突き出した瞬間に、それは起こった。
小規模ながら、相当の威力を持つであろう、竜巻のようなものに閉じ込められた。
ジェムの魔物のカマイタチが弱だとしたら、この竜巻は紛れもなく強攻撃だ。
渦巻く風の全てが、鋭利で巨大なギロチン並みの威力を持っている。
だからただの竜巻ではない。
その証拠に、今まで以上に透明壁スキルに負荷がかかる。
カマイタチと違い、重さをプラスしなくては、何処に飛ばされるかわからない。
しかもそれだけではなかった。
バチンッ バチバチバチ――――
「って、なんか電気が発生してない?」
風のギロチンの中に、時折バチっと火花が見える。
断続的に、しかも規模や数を増やしながら。
「もしかして空気の摩擦で起こってるの? 風って言っても殆ど物体に近い性質だから、それがぶつかり合って、静電気が起きてるってわけ?」
だとしてもかなりのエネルギーだ。
一瞬ではなく、絶えず光が走り続けているからだ。
これではまるで稲妻だ。
疑似的に発生させた落雷のようだ。
こんなものが直撃したら、感電するだけでは済まない。
皮膚はもちろん、その中身まで焼かれるだろう。
「まあ、私はスキルのおかげで何ともないけど、アイツはそうもいかなかったみたいだね」
私と一緒に閉じ込められた、もう一人の住人。
まぁ私はそのジェムの魔物の巻き添えっぽいけど。
そんなジェムの魔物は、圧倒的物量の風のギロチンに機動力を奪われ、それでも尚、カマイタチで堪えていたが、それもほんの数秒だった。
一度落雷を受けたのを切っ掛けに、次の雷撃がジェムの魔物を襲った。
感電し、硬直しているところに、次々と雷光が突き刺さった。
その結果、
バチンッ バチバチバチ――――
『………………』
「………とうとう感電死しちゃったみたいだね?」
なすがままに、数多の雷撃を受け続けたジェムの魔物は、時折ビクンビクンと体が跳ねるが、全く動く気配がない。
「まあ、数本の雷撃ならともかく、いくら避けるのが得意でも、あれは私でも無理だって。ほぼ無限に発生するんだから、先にこっちが力尽きるよ」
逃げようとしても風のギロチンが退路を塞ぐ。
避けようとしても雷撃がそれを防ぐ。
正に、行き詰まりの手詰まりの袋小路状態だ。
逃れようと行動することでさえ、無意味に思える。
ただし、それが――――
「ん? なんか、表皮が破れて…………」
――――普通の生物だったらの話だ。
「って、中からもう一体出てきたっ! もしかして脱皮したのっ!?」
驚いた。
死んだと思われた残骸から、無傷なままのジェムの魔物が現れた。
しかもそのフォルムが劇的に変化、いや、洗練されたと言ってもいい。
8枚だった羽根は2枚に。
6本あった手足が4本に。
これだけ見ると『弱体化』したように見える。
だが逆に考えれば余計なものを省いた結果だろう。
羽根や手足の数が、強さに直結するわけではないからだ。
その証拠に、それを補う新たなパーツが増えていた。
「…………触覚?」
表皮を破り、出てきた魔物の見た目はかなり人間に近い。
しかも身長と色合いが私と似ている。
違いがあるとすれば、頭の上の器官だ。
毛で覆われ、枝分かれしている、蛾に似た2本の触覚だった。
「で、それで雷撃を散らせてるってわけ?」
『………………』
こんな状況下でも、私の前から離れないジェムの魔物。
雷撃を受けたまま、2本の触角を動かし続けている。
その様子から見ると、恐らく触角が避雷針の代わりになっているのだろう。
片方で集め、もう片方で散らしているのだと思われる。
これはもう『進化』と言っていい。
しかも土壇場で成長した可能性もある。
ただこの進化はある程度予期していた事。
私は当初、このジェムの魔物からは何も感じなかった。
今までの魔物と違い、そこまで脅威とは捉えていなかった。
それこそが間違い。
それこそがきっと狙いだったのだろう。
蛾は擬態し、相手を騙し、敵を欺く。
弱者にも強敵にも天敵にもなりすます、己が状況に合わせて。
でも完全ではなかった。
最初に対峙した時に、私はこの結果を予期していた。
『だからジェムの数が有り得ない数だったんだ……』
改めて思い出す。
最初に見た時、腕輪のジェムの数が『0』だった事を。
今までの傾向では、ジェムの数が増えればそれだけ脅威度が増す。
なのにこの魔物だけ『0』なんてことは有り得ないと。
そして今はその数が『5』に増えている。
これが表す意味は、この姿こそが真の姿だという事。
ジャムの数さえも、敵を欺く道具として使ったって事。
「まあ、そんなこと今はいいや。いつこの魔法が切れるかわからないから、さっさとアンタを倒すよ。まだ生きてると知ったら、二人がガッカリするからね」
『………………』
マヤメとジーアは、十二分にその役割を果たした。
表皮を破り、その正体を引き摺り出しただけでも、功労賞ものだ。
だからここから先は私の出番。
二人の頑張りを台無しにしない為にも、魔法が切れる前に倒す必要がある。
「さぁ、進化してどのぐらい強くなったかわからないけど、生憎、進化できるのは、アンタだけじゃないんだよね。どっちが蝶として…… いや、どっちが個として強いかハッキリさせようか」
パサ――――
ジェムの魔物を視界に捉えながら、自分の羽根で体を包む込む。
進化に必要な条件は、もう済ましてある。
囮役と同時に、十二分にチャージが出来たから。
なので10分以上はこの姿でいられる。
だからそれだけあれば十分。
何せこの能力は、ただの進化なんて、生易しいものではないからだ。
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《表裏一体モード》
表と裏の世界の、両方の理を併せ持つ姿になる。
そこに存在はするが、第三者には触れることも認識することもできない。
自身から第三者への接触は可能。
※使用中は装備の色が変化し、一定時間ごとに薄くなる。
解除するには装備が透明になるか、羽根を2秒纏って解除する。
使用条件
一度目の前の相手に、装備の下の装備(下着)を晒すことが第一の条件。
その晒した時間=表裏一体モードの制限時間になる。
モードチェンジには羽根を2秒纏う。
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「さあ、時間もないことだから、速攻でケリをつけるよ」
タンッ
黒から灰に進化を遂げた私は、ジェムの魔物に向かい、スキルを強く蹴る。
風のギロチンも雷撃の嵐も、何の抵抗も無しに、私の体を擦り抜けていく。
その様はまるで、AR(仮想空間)のようだ。
デジタルで浮かび上がった物体を、擦り抜けているようだ。
ところがその時――――
「え?」
異変が起こった。
ジェムの魔物を目の前にして、景色が一変した。
「って、ここは?…………」
キョロキョロと周りを見渡す。
アシの森の上空なのは間違いない。
だが、ジェムの魔物もマヤメたちも、この付近には見当たらなかった。
『表裏一体モード』への条件はパンツを見せるでした。
フーナとの戦いで獲得した影響か、変態チックな条件になってます。
この能力は矛盾が出てきそうなので、どこかで加筆するかもです。




