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朝の英雄と村娘とのお話

澄香の留守のシスターズのお話はどうでしたか?

今話から本編に戻ります。




 ※今話から、澄香視点のお話に戻ります。

  洞窟から村人と牛たちを救出した次の日から再開です。




「距離を詰めての、追い突きからの――――」


 タタッ

 ズガッ


「――――上段蹴り、次に内回し蹴りに繋いで」


 ヒュン

 ズバンッ


「で、掌底を胸に当ててから、振り向きざまの裏拳っと」


 ゴスッ

 ボガッ


「そして、相手が怯んだすきに、両耳を掴み、引き寄せながら――――」


 グイッ


「飛び膝蹴りを、そのまま顔面に入れるっと」


 ゴガンッ


「どう? 意外と簡単でしょう?」


 実態分身を消しながら、一人の見物人に向かってクルリと振り向く。


 イナが私の戦いを見たいと言うので、実態分身を対戦相手と見立てて、対人相手の連続技を披露してみた。



「い、いや、そんな複雑な動き出来る訳ないってっ! それに早過ぎて殆ど見えないしっ! そもそもアタイと同い年なのに、なんでそんな物騒な技が使えるんだよっ!」


 こっちまで唾が飛びそうな勢いで、私のコンボ技に声を荒げるイナ。



「そう? でも私的にはまだまだ足りないと思ってるんだけどね、近接格闘戦での戦い方は。 まぁ武器ならある程度使えるけど、それにばかり頼ってもいられないからね」



 そんな私たちは、今はマング山の麓にいる。

 崩落があった、洞窟から少し離れたところに。


 昨夜はユーアの『お花摘み』の為にレストエリアを出したので、私たちはそのまま泊まる事になった。移設するのも面倒という理由も含めて。


 そして今は早朝に尋ねてきたイナと、訓練する私が偶然に出会っただけだった。 


 

「はぁ、本当にスミカ姉は凄いんだな。アタシなんて弱くて何も出来なかった…… 大切な人が危なかったって言うのにさ。ただスミカ姉たちを信じる事しかできなかった」


 朝日が昇ったばかりの空に向かってポツリと呟くイナ。

 昨夜の事を思い出し、そして落ち込んでいるのだとわかる。



「気持ちはわかるけど、そんなに気にしないでいいと思うよ? あんな魔物が現れたんじゃ、恐らく高ランクの冒険者パーティーが数グループいないと倒せなかっただろうし」


 座っているイナに近寄り、慰めるようにポンと肩を叩く。


「うん、そうかもしれないけど、でも、アタイが守りたかったんだ………… ずっとアタイが守られてたから、その恩返しみたいに」


 慰めたつもりが、逆に悪い方向に思考が偏り始める。



「……イナって、お父さんしかいないんでしょ?」


「うん、母親は少し前に病気で亡くなっちゃったんだ。だから今は親父と二人なんだ」


「それでイナはお父さんを手伝って、家の事も全部してるんだ」


「そうだな、家では洗濯と掃除と食事の準備や、最近では夜食も作ってたなぁ。あ、後は庭木の剪定や草刈りもやってたなぁ、それと母さんが大好きだった花が植えている花壇の水やりも」


 指折り数えながら、その横顔には笑顔が浮かぶ。


 そんな顔を見ると、心からしてあげていたんだろうとわかる。

 それは恩返しなんて、他人行儀な物では決してないだろう。


 

「だったらイナも凄いじゃん。私だったらそこまで出来ないよ。料理はユーアが作ってくれるし、掃除や洗濯だってしてくれるし」


「はぁ? スミカ姉はあんなに強くて、凄い魔法も使えるのに、ユーアちゃんに全部やってもらってるのか? 食事も掃除も洗濯もっ!? あんな幼い子供にっ!」


 陰鬱な表情から一転、信じられない物を見る目になる。



「うっ、だ、だって私は料理は苦手だし、洗濯物は殆どないし、掃除はハラミが家にいる事もあって、ユーアが進んでやるから、だから別にいいかなって」


 若干、視線を逸らしながら、おずおずと答える。


「はあ~、それじゃまるでうちの親父と一緒だな。親父も仕事に関しては尊敬できるほど凄いんだけど、それ以外はズボラなんだよな。洗濯だってしたことないし」


 長い溜息を吐きながら、それでも笑顔が崩れる事が無い。


「でもイナは好きでしてるんでしょう? ユーアだって楽しそうにしてるし」

「え? うん、まぁそうだな。母親がいないって事もあると思うけど」


 ちょっと考える素振りの後で、空を見上げながら答える。


「なら、イナがラボを守ってるんだ。父親がだらしない事も含めて」

「え? 守る? アタイが?」


 キョトンとした顔で、私と視線を合わせる。


「だってそうでしょう? 嫌々ながらに家事や仕事をしていないんだったら、それはイナがラボさんの生活を守ってる事にならない?」


「そ、そうなのかな?」


「そうに決まってるでしょ。昨夜は結果的に私が守る事になっちゃったけど、それは今回だけの突発的な事。イナみたいにずっと守るなんてことは出来ないからね」


「い、いや、それはそうだけど、だって親父の命を……」


「それも一緒だって。これはこじ付けかもだけど、イナは私に頼んだよね?『何でもするから親父を助けて』って。 その必死にお願いする姿を見て、私は直ぐに動く事を決めたんだよ。そこに覚悟と緊急性と、そして、イナが一番に誰を守りたいって、私たちに凄く伝わったから」


 ポンと肩を叩いて、イナに諭すようにそう話す。 


「ス、スミカ姉にそこまで言ってもらえると、アタイ、照れちゃうかも……」


「ん?」


「ううんっ! な、何でもないんだっ! でもそうだな、アタイも、そして親父も、お互いに守ってたって事なんだなっ! 知らず知らずだけど、それが当たり前のように」


「そうだよ。だって、それが家族でしょ? だから恩返しとか、何かをしてあげたいとか、余計な事は考えなくていいんだよ。普段に自然としてあげてる事が、それが恩返しに繋がってるんだから」


 スクと立ち上がり、見上げるイナの頭を軽く撫でる。

 真っすぐで、それでいて思いやりのある、大きな瞳を見ながらそう告げる。



「ちょ、スミカ姉まで、アタイを子供扱いするなよなっ! アタイはもう15だぞっ!」


 イナの頭に載せた、私の手を見上げて反論する。


「あ~、それ言ったら私も同い年なんだけど。で、ずっと聞きそびれてたんだけど、なんで私の事『スミカ姉』って呼んでるの? 私、お姉ちゃんじゃないでしょ? 年上でもないし」


「あ、そ、それは…… アタイにも、こんなカッコイイお姉ちゃんがって、アタイは兄妹もいないし――――」


「まぁ、別にいいんだけどね。私のパーティーメンバーにもそう呼んでくれる姉妹もいるから。100歳くらい年上でも、ねぇねとか呼んでくれる幼女もいるし」


 子供扱いされて、顔が赤いイナにそう説明する。


「えっ! ユーアちゃんとハラミとロアジムさんだけじゃないのか、仲間はっ!」


「ん? ユーアたちはそうだけど、ロアジムは違うよ。細かい事は話せないけど」


 何故かトーンが上がり出したイナに簡単に説明する。


「そ、それってどんな人たちなんだいっ! その姉妹って美人なのか? それと100歳の幼女って何なのさっ! 他には誰がいるんだっ!」


「ちょ、少し落ち着きなよっ! 他はちょっと口の悪いユーアの友達と、姉妹の二人は容姿端麗で、私と似てナイスバディーで、100歳の幼女ってのは、長寿命種のエルフとドワーフのハーフらしいんだよっ!」


 何の琴線に触れてしまったかわからないが、グイグイと身体を密着させて、シスターズの事を根掘り葉掘り聞いてくるイナ。

 私はその勢いに身体を引きながら口早に説明する。


 それを聞いたイナは、何故かクルリと後ろを向き…………


(よ、よし、ユーアちゃんの友達ならまだ子供だっ! 姉妹の二人はスミカ姉ぐらいの幼いスタイルだし、最後の幼女ってのは、きっとよぼよぼの小さいお婆ちゃんだっ! ならアタイにもチャンスが…………)


 なんて背中を見せ、地面に向かってブツブツと呟いていた。


『………………』


 もちろん、そんな独り言は私の耳にも入って来たけど、仲間のみんなに会える訳ではないので、この時は特に気にする事もなく聞き流していた。



 けれど、まさかそれが実現する事になるとは、この時は想像もしていなかったけど。



イナさん、何やら澄香をお気に入りに…… でも百合百合な展開にはなりません。

澄香にその気はないので。ユーア一択です。

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― 新着の感想 ―
[一言] >なら、イナがラボを守ってるんだ。父親がだらしない事も含めて  この後の説明は「極論だけど」って前置きして、最悪の状況を語ると強い説得力が生まれるんですよねぇ。  汚れ放題の汚い服を着…
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