在りし日の面影と親子喧嘩
お仕事があれで、繋ぎ繋ぎ書いているので多少わかりずらいかもです。
1話分書くのに10等分になってたりします……。
ブクマが800超えました。ありがとうございます!
ギュッ
「ユーア、本当にごめんね、ハラミもユーアも怖い目に合わせちゃって…… 私の見通しが甘かったせいだよ。ジェムの魔物が2体現れる事も予想しないとダメだった……」
未だ洞窟内にいる、残りのみんなを迎えに戻る前に、ユーアとハラミを抱いて私のミスを謝る。
「うん、でもボクも失敗しちゃったんだ…… だってハラミにいっぱい無理させて、それでケガさせちゃったんだもん…… ごめんね、ハラミ」
そんなユーアは、今は小さくなって腕の中にいるハラミをキュっと抱く。
『きゃふっ!』
「ううん、違うよ、ハラミは悪くないんだよ。ボクがスミカお姉ちゃんみたく色々と考えて戦わないといけなかったんだ。だからごめんね」
『くぅ~ん、きゃうっ!』
「うん、そうだねっ! だからボクたちももっと強くなろうねっ! もっとアイテムを使えるように、もっと色んなことを考えてねっ!」
『きゃふっ!』 ペロペロ
「くふふ、くすぐったいよっ! あはははっ!」
私の腕の中で、ユーアとハラミが談笑している。
どうやら、私が最初に謝った流れで、姉妹での反省会が行われたみたいだ。
『ふぅ~、この様子なら大丈夫そうだね。本当に良かった』
私はそんな姉妹を見て、ホッと胸を撫で下ろす。
あんな事があったのに、笑顔を見せてくれた事に。
あの時、黒の私が駆け付けた時には、前足と後ろ足の2本を失った、重症のハラミを抱いて嗚咽を漏らしているユーアだった。
そんな二人が魔物に踏み潰される前に、ギリギリ透明壁で二人を覆い、通過を使って私も中に飛び込んでいた。
『…………ユーア』
そこにいたユーアは、ハラミを抱いたまま小刻みに震えていた。
すぐ傍にいる私にさえ、気が付かないままで。
ハラミを守れなくて、悔しい、何もできなかったと、自分を責めながら。
だからハラミだけでも助けて、と私の名前を叫びながら。
私はそんなユーアを見て、胸が締め付けられた。
泣き叫び、懇願する姿を見て畏れた。
この先、戦う事なんて無理なんじゃないかと。
大切な者が傷つけられる事に、今後堪えられないのではないかと。
でもそれも、今の二人を見て少しだけ安心した。
あんな事があった直後にじゃれ合って、無邪気に笑っているんだから。
『…………強いね、本当に。出会った頃から』
柔らかい髪に、そっと顔を埋めながらそう呟く。
出会った当初、この少女は守れる力も抗う力も、何も持ってはいなかった。
今の私の様に、強さの裏付けとなる経験も乏しかった。
なのに、その心根は強い。
その根本となる、縋るものなど持っていないと言うのに。
『まるで………… いや、まさか…… ね?』
一人では何もできなかった、ある人物を思い出す。
私の背中をちょこちょこと付いて回るだけの、幼い少女を。
姉が傍にいる事により、実力が徐々に開花していった、甘えん坊の妹の顔を。
「………………」
「どうしたの? スミカお姉ちゃん」
『きゃふ?』
物思いに耽る私を心配して見上げるユーア。
「ううん、何でもないよ」
いつものように、頭を撫でながら笑顔で答える。
「あ、ボク、そう言えばきちんと言ってなかったんだ」
撫でられながら、クリッとした目で私を見つめる。
「ん? どうしたの? お腹減ったの?」
「ううん、違うよ。ハラミを助けてくれてありがとう、スミカお姉ちゃんっ!」
「え?」
ギュッ
「いつも助けてくれて、ありがとう。澄香お姉ちゃんっ!」
「っ! ――――――」
撫でる私の手を握り、ニコと満面の笑みを浮かべるユーア。
私はそんな姿に息を呑み、在りし日を思い出す。
そんな矢先、
「スミカちゃん、また洞窟に入るんだろう?」
「あ、ああ、ロアジムもお疲れ様。うん、まだ中にみんなも牛もいるからね」
ロアジムに呼ばれて軽く頭を振り、直ぐにそう答える。
「そうだよな。なら残りの村人を起こして、塞がれた洞窟を開けるかい?」
マング山とは反対方向を見て、確認してくる。
「ん、それは朝になってからでいいと思う。まだ夜中だし、それにラボやイナや他の人たちも、今夜は休んだ方が良いと思う。あんな事があったんだしね」
「うむ、スミカちゃんならそう言うと思った。ならわしも洞窟に連れて行ってくれぬか? 中がどういった構造なのかが気になるのでな」
「うん、別にいいよ。それじゃ誰かに案内を頼もうかな?」
ラボとイナの方を見ながらそう答える。
MAPはある程度出来てはいるけど、ガイドがいた方が早いから。
「ア、アタイが案内するぞ、スミカ姉……」
おずおずといった様子で、一番に手を挙げるイナ。
「え? イナ?」
思いがけない人からの立候補を聞いて驚く。
さっきまで中にいた、ラボが名乗りを上げると思ってたから。
なんて、思っていると、
「いや、俺が行くぞスミカさん。イナ、だからお前は休んでてくれ。子供にこれ以上負担を掛けさせるわけにはいかないからな」
やはりと言うか、イナの前に父親のラボが一歩出る。
「ちょ、親父、アタイはもう大人だってっ! もう15になったんだからなっ! だから親父こそ休んでいろよ。もういい年なんだからなっ!」
心配する父親の、更に前に出て反論するイナ。
「いや、俺はまだ30だぞっ! だから年寄りみたいに言うなっ! それにお前だって、大人なんて言うが先週の話だぞ? まだ15歳と数日だっ!」
そんなイナの、更に更に前に出て、声高に異を唱えるラボ。
「はぁっ!? それだってれっきとした大人だ、もう子供じゃないっ!」
「いや、お前のそういったところが子供なんだって、だから言う事を聞けっ!」
「もうっ! 親父はいつもアタイを子供扱いしてさっ! いい迷惑だよっ!」
「だから、自分を大人って言い張るのが、その証拠なんだよっ!」
「な、何を~っ!」
「何だ~っ!」
お互いの主張同士がぶつかって、気が付けば親子喧嘩に発展していた。
手四つに組み合って、出口の見えない口論が続いている。洞窟だけに。
「あのさ、私も15歳なんだけど? 大人なんだけど? そこはどうなの?」
なので、そんな二人の前に立ち、手を挙げそう宣言してみる。
イナと同じ年だから、ラボの言葉に甘えて任せていいのかな? なんて期待しながら。
「……………………」
「……………………」
そう思って聞いてみたんだけど、私を見て無言になってしまった。
『うっ…………』
この反応は、色々突っ込まれるより正直キツイ。
二人の視線が上下に行ったり来たりして、ある部分を凝視した後で固まってるから。
くっ! 一体どこ見てんのさ、親子して。
「あの、スミカお姉ちゃん、ボクも行っていいですか? 洞窟の中見たいです」
「え? う、うん。ならハラミも連れてみんなで行こうか?」
親子の視線から逃げるように、ユーアに答える。
「はいっ! お願いしますっ! それじゃハラミも行こうねっ!」
『きゃふ~っ!』
結局、ここには誰も残らずに、みんなで洞窟に入る事で話がまとまった。
何か私だけ、心に傷を負った気がするけど。
最初からみんなで行けば良かったよ。
成長だけが相変わらず残念なお姉ちゃんです。
年齢を聞いた(知った)初対面の殆どはこんな反応です。
自分は嫌いじゃないです。
次回はシリアスに疲れたので、ちょっとした閑話的なお話の予定です。