双子姉妹の挟撃
今話はまた久し振りに双子姉妹との日常です。
スラムの件で澄香も忙しいので、たまには姉妹とも仲良くさせたいなぁ、と。
今日もまたスラムにやってきた。
今日はスラムの数名の人たちと、マズナさんを会わせる予定だ。
それと出来ればビエ婆さんたちに孤児院を見て欲しいとも考えている。
そんな中、他のシスターズの予定はと言うと……
ナジメは今日も商業ギルドで打ち合わせ。
ユーアとラブナは孤児院のお手伝い。
なので今日は残りのメンバーでスラムにやって来た。
「お姉さま、私たちの体調を心配してくれてありがとございますっ!」
「お姉ぇっ! わざわざ指導を用意してくれてありがとうなっ!」
『わうっ!』
それはナゴタとゴナタの双子姉妹と、暇そうにしていた獣魔のハラミだ。
ナゴタたちは、ムツアカさんとおじ様たちが、二人に代わり冒険者の指導をしてくれている。なので今日の予定はフリーだ。
ハラミは子供たちがお手伝いで忙しく、遊び相手がいなくて暇そうにしていた。
なので、ユーアの許可を取って連れてきていた。
そして私一人が背中に搭乗している。何気に初めてだ。
「よっ! 別に気にしないでいいよ。ナゴタたちが一生懸命だってわかるから、少しは気晴らしして欲しいと思った訳だし。それにほら、私は名目上リーダーだからね。シスターズの」
ハラミの上で一本足で立ちながら、二人にそう答える。
何故かバランスが崩れないなと、不思議に思いながら。
「はいわかりましたっ! 今日はお姉さまのお気遣い通りに、ゴナちゃんともゆっくりとさせていただきます」
「うん、うんっ!」
「でも、せっかくのお休みなのに私について来ちゃっていいの? 何かやりたい事とかなかったの?」
笑顔で答える二人に聞いてみる。
私が今日は一人だと知ると、二人が付いてきてくれたから。
「はい、休日にお姉さまとご一緒できるのが、私たち姉妹のやりたい事ですから」
「うん、それにお姉ぇが救った街とかも見たかったからなっ!」
「そうなんだ。なら良かったよ」
柔らかい笑みを浮かべる二人にお礼を言う。
気を遣わせてないとわかって安心した。
「それにしてもハラミって凄いのなっ! もう何の魔物かわからないよ」
一本足で背に立っている、私を眺めてゴナタが関心している。
「そうなんだよ。正体に関してはもうどうでもいいんだけど、その能力に関しては興味があるよね? 背中に乗ると落ちないし、いつもふかふかだし」
「お姉ぇ、ワタシも後ろに乗っていいかい?」
「うん、別にいいけど。ハラミ大丈夫?」
『わうっ!』
私とゴナタを見て元気よく吠える。
どうやら大丈夫なようだ。
「…………本当に人間の言葉を理解しているんですね、ハラミは。ユーアちゃんが可愛がるのもわかります。お姉さまの言う通りに毛もふかふかしてますしね」
ハラミと私のやり取りを見て、ナゴタも興味深く見ている。
「それじゃ、ワタシはお姉ぇの後ろに座るなっ!」
「うん、いいよ」
『わうっ!』
ゴナタが後ろに座るので、立ったまま少し前に詰める。
これでもまだまだ余裕がある。
ユーアやラブナやナジメは3人で乗る事もある。
子供たちならちょうどいい大きさなのだろう。
まぁ、そうは言っても私もあんまり変わらないけど。
「よし、ゴナタ乗ったね? ハラミちょっと跳ねてみて?」
『がうっ!』
「わっ!」
ゴナタが座ったのを確認して、ハラミにジャンプしてもらう。
その時にさすがに一本立ちは怖いので両足で立つ。
「お? お、おおぉっ! 二人でも大丈夫だっ! しかも落ちないっ!」
「わわっ! って揺れはあるけど落っこちないぞっ!」
『わうっ!』
ハラミの背の上は跳ねれば視線は上下するけど、落ちる気配がない。
「マジかっ!? だったら――――」
「え? お姉ぇ?」
「お姉さま?」
全身を上下に揺られながら、試しに私も一緒に跳ねてみる。
普通に考えれば着地地点にズレが出たり、落ちそうになるはずだから。
だがその結果は――
「よ、と、ほっ! って、あれ?」
「へ? お姉ぇっ! あ、余り目の前で跳ねられるとさっ!」
私が宙に浮くと、何故か同じところに着地する。
自然と元の位置に吸い込まれるような感覚だ。
「え? 一体どういった仕組み何ですか?」
その現象を見て、不思議そうに目を見張るナゴタ。
「私もわかんないや。ユーアならハラミと話せるから知ってるかもだけど」
「って、お姉ぇっ! だからあんまり跳ねるとっ!」
それに対し「ぴょんぴょん」跳ねながら答える。
さすがに私は魔物とは話せないし。
それよりも、
「ん? なに、どうしたの? ゴナタ」
「どうしたのですか、ゴナちゃん?」
頬を染め顔を伏せているゴナタに聞く。
何やら一人で騒ぎ始めたと思ったら、今度は俯いてるし。
一体何にそんなに興奮しているのだろう。
「お、お姉ぇがさっきから目の前で跳ねるから、その、さ、下着がチラチラ見えちゃうんだよ。だからさ、そのぉ…… しかも色違いだし……」
赤面しながらモジモジとゴナタが答える。
確かにゴナタが座った目の前で跳ねたら、中身の一つも見えるだろう。
「え? なんだそんな事なの? 私たちは同性だからいいでしょう。 何もノーパンって訳じゃないし。キチンと履いてるし」
少し屈んで「チラ」とスカートをめくる。
そんな事気にする必要ないって。
元の世界の女子高の休み時間なんてこんなもんだったし。
更にこっちの家ではユーアは丸出しだし。
「そそ、そうだよなっ。ワタシたちは女子だから見てもいいよなっ!」
「そうですよねっ! 女子同士ですから下着を覗いてもいいですよねっ!」
「えっ!? う、うん…… うん?」
私の説明を聞いて赤面しながら上ずった声で答える姉妹。
なんか説明と意味合いが違う気もするけど。
見てもいいって、何? 覗くって、どういう事?
「……ま、まぁ、だからって、あまり見せるのも失礼だから座ることにするよ。親しき中にも礼儀ありって言うしね」
「へ?」
「えっ!」
少しだけ妙な空気と視線を感じたので、ゴナタの前に腰を下ろす。
途端――――
ぐにゅぅ
「わっ!」
「お姉ぇ?」
背中にあり得ない程の柔らかい二つの感触を感じる。
まるで2個のバランスボールに寄りかかっているみたいだ。
『~~~~って、これはっ!』
一瞬ハラミにはエアバッグが標準装備? って思ったけどそんな訳ない。
単純に、私がゴナタの胸部に背中をくっつけただけだ。
ただその感触があまりにも……
『や、や、や、やわ、くくっ ――――』
「どうしたんだい? お姉ぇ」
「どうしたのですか? 今度はお姉さまの顔が赤いですが。あっ!」
「ふへ?」
二つの感触に意識を奪われていると、二人が心配して声を掛けてくれる。
そんな姉妹に、寝起きのような返事してしまう。
「う、うう、やっぱり同性でもって恥ずかし…… ナ、ナゴタも乗るの?」
「ゴ、ゴナちゃんがうらやま……ではなく、ハラミに乗ってみたいですっ!」
短い悲鳴を上げた後に、急にソワソワしだしたナゴタ。
どうやらハラミの背を体験したいらしい。
なのでナゴタに背中を譲ろうとするんだけど……
「そ、そうなの? なら私は降りるって…… な、なんで乗ってくるのっ!? 私まだ降りてないよ?」
降りる前にナゴタがいそいそと乗ってくる。
そんなに興味があったのだろうか?
「い、いえ、どうせならみんなで仲良く乗ってみたいのと、ハラミは前が見えなくても道が分かっていると思うので」
それが本心なのか、いい訳なのかわからない。
でもその視線は私を見ていない。
「そ、それはいいんだけどさ、なんで一番小さい私が真ん中っ!? しかもナゴタの向き変だからっ! それじゃ前が見えないからっ!」
乗ったのはいいが、私の叫び通りにナゴタの位置と向きがおかしい。
普通なら、せめて一番後ろか真ん中。でも一番前に乗車。
更に進行方向ではなく、なぜか私の方を向いて座っている。
その状況を説明すると、
一番先頭にナゴタ。(何故か後ろ向き)
二番目に私。(前向き)
三番目にゴナタ。(普通に前向き)
こんな感じ。
あとから乗った運転手が後ろ向きに乗っている状態。
正直意味が分からない。
でも、確かにナゴタの言う通り、ハラミには高度な自動運転システムがついてる。安全って言えば安全だけど……
だけどそんな状態で乗ったら、必然的にナゴタとの距離が近くなる。
「っ!?」
「うふふっ」
息づかいが聞こえそうな距離にナゴタの小さくきれいな顔がある。
切れ長な瞳と、艶のある唇が目に入る。
『いいいっ!?』
しかもナゴタの先端が、私の先端に触れている――――
背中にはゴナタのも…………
『も、もう色々近いしっ! 柔らかいのが揺れるたびに当ってるしっ! そしてなんで顔が赤くなってんのっ! 恥ずかしいならやらなければいいじゃんっ!』
頬を薄っすらと染め、目端に涙を溜めたナゴタに心の中で突っ込む。
そこまで照れるなら、なんでそんな事をするのだろうと。
むぎゅぅ
「あっ! お、お姉ぇ、あまり後ろに来ないでくれよぉっ! あっ!」
「ち、ちがっ! ナゴタが近いからっ!」
むぎゅぅ
「お、お姉さまっ! あ、あまり動かれると、そのぉ、あぅっ!」
「ち、違うって! わざとじゃないから、そもそも狭いのが原因だからっ!」
私の背中や胸が触れるたびに艶めかしい声を上げる姉妹。
いくら同性でもこれはおかしい。女子高時代でもここまでの接触はなかった。
まるでここだけ異世界ではなく、異性界だ。
『そ、それにしても、この状況ってっ!』
前門の虎、後門の狼。
ならぬ。
『前門も乳。後門も乳』 みたくなってる。
後ろも前も絶えず、デュアルエアバッグが出っぱなし。
いつ事故っても安心。でも事故ったら大変。
世の女性の精神的にも。男性の理性的にも。
それだけナゴタとゴナタの挟撃は異世界では驚異だ。
いや、元の世界でも十分胸囲だ。だってGランクだもん。
そんな二人に挟まれながら、私はある決心した。
『か、帰ったら、ユーアとナジメに挟まれて自信を付けよう…… メルウちゃんでもゴマチでもいいんだけど、同じ双子ならボウとホウでもいいか……』 と。
そう自分を慰めてるうちにスラムの中心部までやってきた。
Gランクのサンドイッチ…… 夢のようです。