引き分けと半分このお話
引き分けだった理由と、賞品のお話になります。
トロールってどのくらい美味しいんですかね?
人型のお肉は食べたくはないですけど……
「それじゃ『引き分け』て言った訳を話すよ」
ジロジロと見られている実態分身を消しながら話し出す。
「先ずは…… て、ユーアどうしたの?」
ガバッ
にこにこと駆けてくるユーアを受け止める。
「うん、やっぱりこっちのスミカお姉ちゃんだねっ!」
胸の中で顔を上げ満面の笑みでそう答える。
「え? あ、ああ、本物がいいって事?」
「うんっ!」
「そうだね、私も本物がいいもんね、だってこうやってユーアを――――」
「えっ! ちょっとスミカお姉ちゃんっ!?」
「――――堪能できるかんねっ!」
私は胸に抱きついたままのユーアの腰に腕を回しロックする。
そして首筋に「かぷっ」と甘噛みする。
「あっ! く、くふふっ、ス、スミカお姉ちゃんっ」
「♪」
かぷかぷ
「く、くぅっ、も、もうやめてよぉ~~っ!」
「♪♪」
かぷぷ
「わ、わははははは――――っ!!」
「むふふ、これでユーア成分補充完了っと」
耐え切れずにユーアが笑い出したところで止める。
加減を間違えると、後が恐いからね。
「ちょ、スミ姉っ、な、何やってるのよぉっ!」
ハラミの上のラブナは、それを見て顔を赤くしていた。
他のおじ様たちはにこやかに見守ってくれていた。
※
「で、何の話だっけ?」
ユーアを脇に置きながらみんなを見渡す。
「お前が『引き分け』と言った理由だろう? その続きだ」
アマジが、ゴマチと手を繋ぎやってくる。
その後ろにはロアジムもいる。
「ス、スミカ姉ちゃん、さっき、ユーア姉ちゃんにしてたのって?」
言いずらそうに、少しモジモジしながらゴマチが聞いてくる。
「さっき? ああ、あれは私なりの充電だよ。何だかんだで疲れたからね」
「じゅ、じゅうでん?」
「そう、充電。要はユーアで気力を補充したって感じかな?」
「そ、それって、だ、誰でも、いい、の、か、い? ごにょごにょ……」
「うん? 誰でも?」
「あ、いや、何だもないんだっ!」
そう言ってゴマチは顔を伏せてアマジの後ろに隠れる。
見間違いでなければ耳が赤くなっていたような?
まぁ、姉妹の仲睦まじい姿を見て、照れちゃったんだろうね?
「それでだが、結局どうなんだ?」
「どうって、誰でもいいわけないでしょ?」
「は? 一体何の話だ」
何やらアマジが絡んでくる。
「私だって、選ぶ権利があるんだよ」
「お、お前はさっきから何を言っているんだ?」
「何って? アマジに何て甘噛みしないから」
「は、はぁ? 俺が何故お前にっ!」
「そういう嫌がる振りはいいから。いい加減ゴマチが睨んでるよ?」
「はっ!」
ゴマチが後ろから顔を出し、アマジを見上げている。
「お、親父………」
「くっ、いいから先を続けろ、スミカ」
ゴマチのジト目を振り切って、険しい顔で先を促すアマジ。
どうやらからかい過ぎたようだ。
「それじゃ簡単に説明するよ」
気付くと私の回りに全員が集まっていた。
その顔を見渡して口を開く。
※
「と、まぁ、こんな感じかな? 引き分けって言った詳細は」
話を終え、みんなの反応を見る。
おじ様たちは、困惑しながらも話し合いが始まった。
アマジとロアジムは、首を捻り何やら私を見ている。
今回の模擬戦で話した『引き分け』の内容はこうだった。
簡単に言うと――
「私が攻撃を受けた」
以上。
これを正直に話した。
ルール上であれば、実態分身の私に攻撃が当たってないから問題なし。
受けたのはターゲットではない本物の私。だからセーフだと断言できる。
実際それが普通だと思うが、そもそも最初から攻撃を喰らうつもりはなかった。それが本物の私だろうが、偽物の私だろうが関係ない。
私はおじ様たちに、遊戯でも実戦の様に戦って欲しいと望んでいた。
その理由は、今は割愛するとしてそう思っていた。
それなのに、私だけその望みを蔑ろにするわけにはいかない。
実戦だったら、私が敗北していたわけだから。杖のおじ様の魔法を受けて。
なので、本来であれば私の「負け」が通説だろう。
だけど、それを言ったらおじ様たちは反論する。
『対象に攻撃を当ててはいない。だからこちらの負け』
だって。
だから私は『引き分け』という結果を宣言した。
その方が、双方にとっても受け入れ易いだろうと思っての事。
『まぁ、それでも不服だったら、私の負けでもいいけどね』
何やらざわざわと審議が盛り上がってきた、おじ様たちを見てそう思った。
「うーむ、わしはスミカちゃんの勝ちでいい気がするのだがなぁ? 元々有利な条件だったムツアカたちだし、逆にスミカちゃんは難易度が高かったからなぁ?」
腕を組みながら、唸るロアジム。
「ユーアはどう思う?」
それを見て、隣のユーアにも聞いてみる。
「スミカお姉ちゃんが思ってる事が正しいですっ!」
「シュタッ」と元気に手を上げて答えるユーア。
「何だか答えじゃないような? でもそれだとトロールのお肉あげちゃうよ?」
「えっ?」
「多分、半分こだけど」
「は、半分もっ?」
「うん、引き分けだから、そのくらいはあげないとね?」
「は、半分、半分、…… 半分あれば……」
「?」
何やら下を向きブツブツと呟き始める。
「だ、だったらっ!」
「うん?」
「だったらオークのお肉でもいいんじゃないですかっ?」
「オーク?」
「うん、オークならいっぱいありますよねっ?」
「まぁ、あるけど、それは向こうに話してみないと――」
「だったら、ボクが話してきますっ!」
「え? あ、ちょっと、ユーアっ!」
ヒュン――
一瞬で駆け出し、ムツアカたちおじ様に声を掛け始めるユーア。
それに気付き、笑顔で話し合いに入れてくれるおじ様たち。
やっぱりユーアはおじさん達には大人気だった。
「スミカ嬢。こっちの話はまとまったぞっ!」
ムツアカが晴れ晴れとした表情で話しかけてくる。
どうやら納得できる話し合いが出来たようだ。
「で、引き分けでもいいの?」
「おうっ! ワシたちはそれでいいぞっ! なぁ、みんなっ!」
「ああっ! こんな不思議体験初めてだし、楽しかったぞっ!」
「また昔みたいに、何かの為に戦いたいもんじゃっ!」
「英雄の強さの一端も見れたし、それにオークを一体だなんてなっ!」
「婆さんに、いい土産が出来たぞ、新鮮なオークを一体だってな」
戦ったおじ様たちは、それぞれ笑顔で答えてくれた。
どうやらユーアも加わって、うまく纏めてくれたみたいだ。
それにしても、オークってみんなに分けるの?
話を聞いているとそんな流れになっている。
「ねぇ、ユーア。一人一体ってなってるの? オークは」
ユーアを引き寄せ、耳元で直接聞いてみる。
「は、はいそうですっ! ボクの分からも引いてください」
「引く?」
「スミカお姉ちゃん、この前ボクの分もあるって言ってたので」
「ああ、そういう事ね」
オークの討伐はユーアの貢献も大きかったので、取り分として別にあるって、前に話してたんだよね。その分からあげたいって事だ。
「別にユーアの分からじゃなくていいよ。今回は私の模擬戦だったしね」
軽く頭を撫でながら、そう伝える。
殆ど個人的な話だったし、引き分けも私のせいだったし。
「うん、でもわがまま言ったのはボクだし、気にしないでください」
「だったら半分こしようか? 二人仲良く半分こ」
「仲良くですか?」
「そう、仲良く半分こ」
「わ、わかりましたっ! 半分こしますっ!」
「うん、ありがとうね。ユーア」
そういう事で、私とユーアも引き分けとして、半分ずつ分ける事にした。
次回も、もう少しおじ様たちの話が続きます。
何やら他にも企んでいるようです。