天に昇る?おじ様たち
とうとう昇天なされた貴族のおじ様たち(嘘です)
私事ですがブクマ400人突破いたしました。
これからも末永くよろしくお願いします。
(進みは遅いですが……)
「こ、これもスミカ嬢の魔法だと言うのかっ!?」
透明な足場に慄き、若干腰が引けているムツアカが叫ぶ。
その目は浮いている地面と私を、交互にせわしなく見ている。
まぁ、その話しかけている私は偽物だけど。
「そうだよ。少しだけ慣れてきたから、ちょっとだけ気分転換をしてもらおうと思って。あ、それとその床は絶対に壊れないから安心して」
実態分身の私は未だに横になったままだ。
だから寝ころんだままで答えた。
「そ、それを聞いて安心したっ。でも本当に大丈夫なのかっ?」
小剣のおじ様の一人が恐怖で動けないといった様相で聞いてくる。
動いた途端に落ちるとでも思っているのだろう。
「本当に大丈夫だよ。だったら証明するよ。ユーア、こっちに来て」
「はい、スミカお姉ちゃんっ!」
ハラミの上から降りて「トテテ」と平然と小走りしてくる。
そして実態分身の私の前までやってくる。
「え? 空中を走ってるぞっ!?」
「だ、大丈夫そうだな、なら、ワシも」
ユーアを見て、恐々とおじ様たちが一歩前に踏み出す。
チョン、チョン
ギュム
「おおっ! みんなっ! きちんと透明な地面があるぞっ!」
つま先で確かめた後は「ギュ」と確かめる様に強く踏んでいる。
それを見て、他の貴族のおじ様たちも真似て確認する。
「い、一体どうなっておるのだっ!」
「まるで、岩の様に固いぞっ!」
「武器を叩きつけても、ビクともしないぞっ!」
「婆さん、わしゃ…………」
どうやら、それぞれが確かめて安全性を確認できたみたい。
最後の杖のおじ様は何か祈ってるけど。
「ね、だから言ったでしょ?」
ユーアの頭を撫でながらそう返す。
撫でているのは、私の偽物だけど。
確かに初見であれば、驚きを通り越して死を覚悟する高さだろう。
そもそもが100メートル上空に浮いているのだから。
ユーアはオークの討伐の時に、私と空中から中心まで行ったし、その後は透明な足場から射撃をしていた。なのでユーアが一番恐怖心がなかったりする。
それを踏まえて、ユーアを最適だと思いこっちに呼んだって訳だ。
「あのスミカ嬢。一体どこまでが透明か教えてくれぬか? さすがにそれがわからねば、気を付ける事も出来ぬからなっ!」
「あ、確かにそうだね。 だったら印をつけておくよ」
ムツアカの提案に頷き、スキルの端を着色する。
黄色と黒のまだら模様に。
これなら目立つから、気が付かない訳が無い。
一応大事を取って、若干内側に色を付けたから更に安心だ。
「ちょ、ちょっとぉっ! 俺のいる位置がギリギリなんだけどっ!」
何やら脇でバサが騒いでいる。
見ると、バサの席の下にまだら模様が浮かんでいる。
「あ、あのぅ。スミカお姉ちゃんっ」
「ん? 何、ユーア」
撫でられた後に、後ろから抱かれているユーアが顔を上げる。
何故かその目は実態分身の通り越して上空を見ているけど。
「ハラミとラブナちゃんが怖がってるから、戻りたいんですけど?」
「うん?」
その言葉に、ハラミとその上に乗っているラブナを見る。
「な、中々の高さねっ! ま、まるで人がゴ〇のようだわっ!」
『が、がうっ』
ハラミの上で腕を組み、ふんぞり返っているラブナ。
『アタシは全然平気よっ!』
みたいなアピールしてるけど、口端が引き攣っている。
ハラミは普通に立ってはいるが、尻尾が股の内側に思いっきり丸まっている。
それを見ると、こっちも恐がっているとわかる。
「ね?」
「うん、確かに怯えてるね、誰が見てもわかりやすく」
ラブナは何か言ってはいけないことを口走ってたけど。
「だからボクは戻るね? 頑張ってね、スミカお姉ちゃんっ」
「うん、わざわざありがとうねっ」
そう会話を終えてユーアは涙目のラブナと、
尻尾の丸まっているハラミの元に戻っていった。
※
「それじゃ、安全な事が分かったなら、そろそろ再開しよう。 か?」
そう声を掛けるが、みんなが私を見ていないことに気付く。
おじ様たちも含めて、ここにいる全員が下界を見下ろしている。
「………………」
いくら空の景色が珍しいからって、私を無視するのはいかがなものかと。
ユーアたちも、アマジたちも含めてみんなが景色を見ながら談笑している。
「あ、あそこがギルドかな? ラブナちゃんっ!」
「そうね、って言いたいけど上から見た事ないから自信ないわよ」
こちらはハラミの上の幼女と少女の二人。
「親父、あそこの森って、湖があるところかい?」
「ああ、ウトヤの森だな、恐らくは」
「ゴマチよ、あそこがわしたちの屋敷ではないのか?」
こっちは親バカと、その娘と冒険者バカ。
「おおっ! ビワの森があんなに小さくっ!」
「あっちは青い景色はきっと海だなっ!」
「さすがに王都は見えないのかぁ」
あれはテーブルについているおじ様たちと、その他。
それぞれが観光客の様に物珍しい景色を堪能していた。
『う~ん、喜んでくれているのは良かったけど……』
それは当初の目的ではない。
いや、「ゲスト」として歓喜してくれてるなら、これも正解なんだけど、考えていたプランとはちょっと違う。「キャスト」の私が思っていた作戦とは。
確かに空の旅に招待すれば、喜んでくれるのはわかってはいた。
この世界では、空の景色が珍しいともわかっていたし……
『に、しても随分と楽しそうだし、笑顔になってるね?』
アマジでさえ景色を眺めて、頬を緩ませている。
おじ様たちも子供の様に、無邪気な笑顔ではしゃいでもいる。
元の世界の認識であれば、そこまで珍しいものでもない。
超高層ビルや、電波塔。
はたまた、ヘリやドローンで撮った上空の映像。
更に飛行機や、衛星からの地球。
直接行ける事はなくても、何処かしこかで必ず目にしている。
だがこの世界では非常に稀有な景色なのだろう。
目に映る高い山をも、見下ろしているのだから。
『仕方ない。もう少したってから次の計画に行こうか』
私は上空でこっそりとドリンクレーション(桃味)を含みながら、
笑顔のみんなを見てそう思った。
やはりみなさん珍しいそうです。
澄香そっちのけ……