少し前進した始まり
人は多くを迷う生き物で他ならない筈だった
迷い続けるからこそ人々は進歩しつづけた筈だった
楽観主義だった筈の人間は何時しか袋小路で暮らし始め
苦難を選び続けた ただひたすら苦難の選択を繰り返して
選ぶ事をせず、ただ人々は命の迷宮に詰め込まれただけ
群れる事は生物として何も不思議ではない 進んで孤立する生物はいない
弱肉強食は理解できるし 弱者が強者から肉を奪う自然も美しい光景だ
海鳥が魚を食い、その死骸をカラスが食べ、地面にしみついた地肉に蝿がたかる
その蝿をの他の鳥や虫が食べ、やがて寿命が来るか不幸な出会いで死に
地面に落ちて腐っていき 地面はそれを糧に緑を成す
その緑に無数の命がまた育まれる そう、多くの生き物は
循環こそすれど、選び、行動し、生きている 迷い続けている
迷い続け どれが楽な道かを選択し
彼らは後悔の間もなく選択の対価を支払っている
だからこそ私は人間が間違い続けるのを理解できないでいる
楽をするのだ人間よ 楽の為に選ぶのだ人間よ 楽の為に学ぶのだ人間よ
君たちが個人個人を人間という種族だと主張するならば
選択し続けなければならない 命とは、心臓とは、脳とは、呼吸とは
その全てが君たちが迷宮で必要な灯火でありチョークなのだ
探求せよ 追求せよ 追従せよ 侵食せよ 誤れよ 正せよ
かつて人間が火を選んだ時のように また迷宮を迷い
少しでも前を進む全てに君自信だけが 共感し そしてどうか
その迷宮を楽しんで欲しい
私はそれを君たちに知って欲しい 私は文字だ
文字であり 言葉であり 音にして 声 しかれど無音だ
迷宮がどのような物だったのか
諸君らに思い出してもらうが為に身を削りて記す者だ
そう、私は物語となって思い出させよう
その為に一人の誰かを魂として迷宮に送り、例としよう
西洋の鎧甲冑に魂だけを込めた そんな存在 彼と呼ぶに相応しい主人公を
呼称しよう 彼が人であった時の名ではない
この物語となった私の上では 彼は 【ヨロイ】そう呼ぶとしよう
私は今から物言わぬ文字となり ヨロイの行動を描こう
寄り添う味方は誰もいない 深い深い 幻想の世界にある迷宮
命の迷宮よりは浅いが 冒険の舞台に相応しいここから
私は物語の土台となり 彼にはその上を歩いてもらおう
私は文字だが土であり 私は言葉だが風であり 私は今から迷宮だ
ヨロイを縛る事は出来ないし ヨロイが起こす全てに台本はない
この迷宮で始まる その迷い続きに 君たちが 取り戻す事を望み
私は ひと度黙るとしよう 再び会うなら それは物語の終わり頃だ
「では しばしの お別れを」
眼を開く 眠っていたのだろうか
身体を起こす 横になっていたのだろうか
ボーッとした頭で辺りを見渡す 見知らぬ場所で見知らぬ壁だ
土や泥?そうだ粘土だ 粘土を焼いたような色の壁だ
土の茶色の下に、固く石のようになった粘土の色が伺える
意識がハッキリしてくる 同時に、違和感に気づく
見たことがない どころじゃあない 何処だろうか?
体の質感が堅い 腕を伸ばして身体の形を確かめるが
確かめる為に伸ばした腕からは筋肉が感じられない
ググッと両手を上に伸ばせるし、指先も滑らかに動く
手のひらをそっと見てみれば・・・ 鉄?
落ち着け 自分の身体が鉄な訳ない
手の感触はある 手の平で顔、肩や胸、腰に足を触る
よしよし、少し奇妙な話だが【私】は今
鉄で出来た何かを纏っているのか
思うに鎧とか、そういうのだろう
昔ファンタジー物のゲームで見た事がある西洋風のやつだ
一先ず【私】は安堵する
どうやら幽霊ではなさそう
足があるのなら違うのだろうし そもそも鎧を着ている
さてさて自分の現状さえ掴めてくれば
少しずつだが自分の今現在の状況が見えてきた気がする
一つ、ここは洞窟?ではなく建造物なのは間違いない
洞窟は綺麗に整えられた石造りの壁などでないし
粘土が塗られもしない筈だからだ。
間違いなく建造物、酸素がある事から密室ではない
二つ、【私】はどうやら鎧を身に纏っている
鏡でもあれば、自分の姿を確認できるのだが
生憎と鞄は背負ってないし
鏡を入れることが出来そうなポケットも鎧には見当たらない
普通、鎧には必ずついてくる剣や盾もない
見事な手ぶら状態だ せめて木の棒となべの蓋くらいないものか?
三つ、今気づいたのだが、この鎧見た目以上に軽い
まるで自分の身体のように動かせる
かなり身体にフィットしているのか、肉が挟まる事もしないようだ
この鎧を作った人は相当な職人であったに違いない
うん、状況が理解できても何故ここにいて
何故こんな鎧を着ているか
うん【何も分かってこない】というのも分かってきた
諦めて切り替え、一先ず移動してみよう
下手に動くのは危険なのは承知だが飢え死にするのは勘弁だから
それに建造物である以上は脱出は当然可能な筈だ 空気はあるのだし
ゆっくりと立ち上がれば右か左か
右の道も左の道も差ほど違いはなく
右に進めば左へ曲がる道が 左は直進する道があるだけだ
・・・左にしよう、直進なら今いるこの場所に戻りやすい
直進上に部屋でもあればそこを拠点にも出来る
我ながら中々冷静で良い判断と言えるだろう
残念な事にそれを褒め称えてくれる相手はいないのだが
左の道は直進するだけ、時おり壁に線を描いて印を付ける
歩数が100毎に壁に線を引いておく
大体今ので500歩となった・・・少しくらい何か見えても・・・
そう思っていたら、何やら部屋への入り口のような穴を見つける
人為的とは思うのだが 少し奇妙なところがある
推測だが、元々あったものでなくて後から付け足されたかのような?
作ってから時間もたっているのか、埃が積もっているし
少し床を踏めば足跡ができるくらいには
作られてから誰も使っていない事がわかる
樽や、木箱も見えるし・・・テーブルの上には嬉しいものがいくつかあった
ランタンと、火打石が10個・・・それを詰めれそうな袋に
油の入った袋と・・・誰かが残した この場所に関するだろう日記?を入手
何故日記なのか分かったのか
数ページ程読んでみたが、文字は当然読めない
だが、数字に関しては何となくだが理解ができた
例えば、0は横に線を一本、1なら線の上に点一つ
5以上なら線の下にさらに点を書く事で成立する
10から先は、その隣にまた1から同じ線と点の組み合わせを繰り返す
例えば、3ページ目は最初が横線の上に点三つ、つまり三月と仮定できる
次に二桁で10二つに3一つ、つまり23となる
つまり、このページに記された日付は3月の23日となるのだ
まぁ日記でないにしても、日付をページ毎に書いているのだから
何かしらの記録であるのは間違いないだろう・・・
ただ、ランタンは腰のベルトに着ければ良いのだろうが
日記はどうしたものか・・・仕方ないのでベルトに挟んでおこう
部屋の中をもう少し探索してみたが、鍋の蓋も木の棒もなかった
考えてみれば、建物の中で薪も何も肝心の樹木も存在しないのだから
伝統的初期装備への期待はここで潰える事になる
この部屋で得られる物は何もないようだ
この部屋を起点に今後は少しずつ探索範囲を広げてみることにする
とりあえず今日は此処で休む事にしよう
少なくとも座って休める椅子もあるのだから
一息はつける・・・身体の力を抜いて、机に伏せて静かに目を閉じる
目が覚めたら夢である事を少しは期待したいが
この椅子の感触を感じるに期待するだけ無駄なのだ
次に目を覚ましたら今度は・・・
地図か紙やペンを手に入れられる事を目標にしよう
この日記(?)に地図を書いてもいいかもしれないから
最低でもペンは欲しい所だ 次点でランタンに使う油を補充したい
今いる場所はまだ薄暗いだけで探索に支障はないが
今後は更に暗い部屋がないとも言い切れない
今回の探索結果
・部屋を見つけた
・ランタン、火打石、油を手に入れた
・日記(?)を手に入れた
・日記から数字の謎を解き明かした