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9)テーブル作り


 賢哉が、洗濯機と冷蔵庫を設置してくれた。

 洗濯機は、本当は、洗面所に置くのだけれど、今は、隣のお風呂場は出来ていないし、洗面所の工事もあるので、台所の勝手口そばに置いた。排水ホースは使うときに勝手口から外に出す。排水パイプから外の水路へは、賢哉が雨樋用の樋を使って流せるようにした。

 給水は、料理や片付けをしない時間帯に、台所の流しから引っ張ることになる。面倒だけど、洗濯機の給水は、蛇口に専用金具を取り付けておけば、カチッとワンタッチで付けられるので、大丈夫そう。

 冷蔵庫は、台所の所定の位置に置かれた。それだけで、台所が、台所らしくなった気がする。


 賢哉が、台所を見回して、

「先に、食堂のテーブルセット、作るかな」

 と言う。


 うーん・・。これは、許すべきか。それとも、脱線として反対すべきか。

 でも、家具職人の賢哉としては、いつまでも段ボールをテーブル代わりにするのは、嫌だろうなぁ・・。


「材料の材木、あるの?」

 と私は尋ねてみた。


「大叔父さんちの倉庫に積み上げてある。

 俺が作ってる飾り棚とかの材料は、間伐材を安くもらってきて、乾燥させて使ってるんだ。

 俺が、家具職人になりたい、って大叔父さんに言ったときから、大叔父さんは、間伐材だけでなく、良い材木が手に入ったときは、少しずつ貯めて、乾燥させてくれててさ。何年か乾燥させてから、除湿機の入った部屋に置いて、仕上げの乾燥までしてくれてる」

「ずいぶん、念入りに乾燥させるんだね」

「無垢の木の材木で家具を作るなら、乾燥は大事だな。

 もし乾燥が不十分で、家具材が、作った後から乾燥したら、歪んじまう」

「そっか・・」

 賢哉は、こだわり体質だから、そりゃ、材料からこだわるよな・・。


「まぁ、今回は、そういう良い材料じゃなくて、余り物の端材を使う予定なんだ」


 賢哉は、食堂に置くテーブルセットのデザインを見せてくれた。

 CGでリアルに描いてある。

 嵌め木細工で模様を描いたテーブルと椅子だった。


「綺麗だね」


「端材をリサイクルして使う積もりだから。こういうデザイン。

 自分ちの家具は、こんな感じで、端材とかをどんどん使って、凝ったやつを作ろうかと思ってさ」


「・・手間かかりそうだね」

「そうなんだよ。

 贅沢だろ」

 賢哉が朗らかに笑う。


 ・・やっぱり、脱線と見做すべきだった・・もう遅いけど。

 すっかり乗り気になってるのに、今更、反対できるはずもない。

 私は心で泣きながら、「そうだね・・」と答えた。


◇◇◇


 とりあえず、妥協案を作り、賢哉に提示することにした。

 今は、家の家具は、食堂のテーブルと椅子3脚だけにしておく。

 3脚にしたのは、私と賢哉と、あと、旭輝大叔父さんが、ときどき来てくれるだろうから。

 他の家具は、家づくりが、もっと進んでからにした方が良いんじゃないか、という、私なりの提案だ。


 ・・というわけで、

「家の方を先に住めるようにしようよ。

 家具は、テーブルと椅子3つくらいにしておいてさ」

 と、やんわり言うと、

「そうだなぁ。

 家が先だよなぁ」

 と、賢哉も、じゃっかん、寂しそうに同意してくれたので、まぁ、大丈夫だろう。

 やっぱり、賢哉は、家具作りの方がやりたいんだろうなぁ。

 でも、家を住めるようにする、って自分で言ったんだし、夏までという期限も切ったんだから、ここは我慢して貰わないとな。


 賢哉は、さっそく、大叔父さんの倉庫に材木を取りに行き、板の間を一部屋、家具工房にして嬉々として作業を開始した。

 とはいえ、今日は午後から大叔父さんの店まで2往復もしたし、リサイクルショップにも行ったおかげで、あまり作業時間はなかったけどね。

 その間、私は、晩ご飯の支度をしていた。

 食材の買い出しをしたので、料理しやすかった。

 豚肉の生姜焼き丼と、クリームシチューを作った。

 賢哉が重労働してるから、こってりメニューにした。

 クリームシチューは、シチューの素を使った簡単なやつ。

 シチュー作りは、途中まではカレーと一緒だった。

 カレールーが、クリームシチューの素になっただけだ。

 難なく出来た。

 豚肉の生姜焼きは、豚肉を焼き肉のタレと、刻んだショウガで味付け。ネットのレシピを参考にした。

 あとは、ご飯を炊いて出来上がり。

 定番のインスタント味噌汁も付けた。


 ご飯が出来たので、賢哉の作業場に行くと、賢哉は、テーブルのメインとなる板部分を作る作業をしていた。

 基部となる板も、端材を使うらしい。

 厚さの同じ板を何枚か、「巾はぎ」という板の加工方法でつなぎ合わせていく。

 ずいぶん、手間のかかるやり方だ。

 一枚板を使えば済むことなのに。


「ずいぶん、面倒なことやってるね」

 私が言うと、

「うん。

 修行のため」

 と賢哉。

「家具作りの練習みたいなもの?」

「そう。

 面白いし」

「・・面白いんだ」

 こんな、やたら面倒くさそうな作業が・・。


 賢哉は、「巾はぎ」で一枚板にしたものを二枚も作り、それを膠で貼り合わせた。

 膠って、ネットで調べたら、「にかわ・・獣類の骨・皮・腸などを水で煮た液を、かわかし固めたもの。ゼラチンが主成分。粘着剤などに使う」などと出てきた。

 動物性なんだ・・。

 植物性の材木を、動物性の接着剤で貼り合わせるとか、自然の素材を自由に使ってるな。

 貼り合わせた板は、乾くまで上に重しを乗せた。


 賢哉は、次の作業に移る。


 今度は、端材を材料に、嵌め木細工で、模様を描いていくらしい。

 先ほど貼り合わせた板の上に、さらにもう一枚、模様を描いた嵌め木細工の絵の板を乗せて仕上げるという。その作業の下準備をし始めた。

 デザイン画を見ると、賢哉は、リンドウの花を描いていた。

 五角形の星形に似たリンドウの花が、満開に咲いている。

「おぉ、美しいね。リンドウ?」

 と私。

「うん。

 リンドウは、熊本県の県花だから」

「へぇ」


 賢哉って、熊本loveなんだなぁ。

 賢哉は、熱心に、夢中で作業をしているが、このままじゃ、ご飯が冷める。


「賢哉、あのさ、切りの良いところで、ご飯にしようよ。

 出来たから」

「そうか。

 もう、そんな時間か」


 賢哉は・・私が居なかったら、食事も睡眠も、なにもかも放り出して、家具作りしかねないな・・。

 心配だ。

 私、福岡、帰れないやん。

 まぁ、今まで生きてこられたんだから、大丈夫だろうけどね。


 晩ご飯を食べて、1時間くらい時間をおいてから、今日も岩風呂温泉に行って、一日が終わった。

 賢哉は、そのあとも寝るまで作業を続けたみたいだけど、私が、「ほどほどにしておいてよ」と言ったのを聞いてくれたのか、夜中まではやらなかったみたい。


◇◇◇


 3日後。


 この3日の間、私は家事と畳の解体作業、賢哉はテーブル作りに取りかかっていた。

 お天気が悪く、冷たい雨が降ったりして、けっこう寒かった。

 賢哉は、途中で1度、家に帰り、バイトに行ってた。雨の日は、「わんこたちに雨合羽を着せなければならないので、少々、時間がかかるんだ」とか言いながら。

 賢哉は、高2のときから、近所のお年寄りの家で、犬の散歩のバイトをしていた。

 週に1度、日曜日の朝、時間は、1時間半、散歩としてはけっこう長時間だ。

 2匹のわんこは、大型犬で、年は中年くらい、という。

 平日は近所の娘さんが散歩しているけど、土日は来ないので、それを補うためらしい。

 賢哉のバイトは、1時間半の散歩と、プラス、わんこたちの足拭きにブラシ掛けで、合計2時間くらい。それで、2000円という、時給としては高めのお給料を貰っている。

「受験のころは、聞くタン聞きながら散歩してた」そうだ。



 それから、私は、とうとう、畳の解体作業を完了させた。

 やったね。

 作業に使っている部屋に積み上げられた藁を見て、しみじみ、達成感に浸る。

 洗濯や料理や掃除や片付けや・・もろもろの雑用をこなしながらの作業だったので、予定よりかかってしまった。

 あとは、ミミズの住処を作らなきゃ。


 賢哉のテーブル作りも、順調に進んでる。

 なにしろ、やたら熱心に作業に打ち込んでいるし、彼はさすがに器用で、作業が早くて上手い。天才じゃないかと思うくらい。

 ひとは夢中になって集中しているとき、なにか、神がかり的な存在になれるのかな。そういう風に、凄いことが出来るように作られてるのかな。

 賢哉の手を見ていると、なんでこんなに的確に作業できるんだろうって、目の前の光景が信じられないくらい。

 いわゆる、職人技ってやつ。


 テーブルの板の部分は、綺麗に出来上がっていた。

 端材で作ったとは思えない完成度。

 膠で貼り合わせたあと、賢哉の知り合いの工場に持っていって、プレスしてもらってきた。すっかり一枚板だ。

 賢哉は、さらに磨いてニスを塗って、見事に仕上げた。

 今は、足の部分を作っている。それも、もう、最後の段階だ。

 足を板に留め付けて、完成してしまった。


「凄いね、ホントに綺麗。

 高く売れそう」

「アハハ。

 売らないよ。

 端材で作ったし」

「余り物の再利用に見えないよ。

 完成も早かったね」

「リンドウを描く端材を切る作業は、予め、暇を見て終わらせてあったからね。

 あとは、組み合わせるだけの段階だったから。

 デザインと製図も終わってたし。

 予定より時間がかかったくらいだよ」

「へぇ」


 台所に賢哉とふたりで、テーブルを運んだ。

 部屋の一隅が、いっきに食堂らしくなる。

 でも、台所、古くてボロボロだから、テーブルだけ立派だと、「掃き溜めに鶴」状態なんだよな。


「見惚れちゃうよ。

 大叔父さんに早く見せたいね」

 と私。

「まだ椅子が出来てないから、本当は、すっかりセットが出来てからがいいけどな。

 でも、椅子は、とりあえず、ベンチをふたつ作っておいて、風呂場を先にやろうかと思ってる。

 温泉もいいけど、自分ちの風呂で、のんびりしたくなってきた」

「激賛成。

 頼んます」

「うん、まかせろ」


 賢哉は、この日のうちに、ベンチを完成させた。

 ベンチは、家が出来上がったら、バルコニーに置く予定らしい。

 食堂の椅子は、嵌め木細工で模様を描きながら、丁寧に作る計画だけど、今は、椅子作りはお預けだ。


本日の2話目、昨日と同じく、午後9時に投稿いたします。

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