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13)薪ストーブオーブン


 日干しレンガを干し始めて3日後。


 今日、ショックなことを聞いた。

 ぬぁんと・・、日干しレンガは、1ヶ月乾燥させないと、使えない。

 賢哉は、最初から、かまど工事は、1ヶ月後を想定していたらしい。

 まぁね、急いで正解だったんだけどね。

 なにしろ、もたもたしてると、レンガの乾燥が、さらに後にずれこむんだから。

 でもさ、日干しレンガ制作者の私としては、可愛いレンガたちが、かまどに進化するのを、早くこの目で見たかったわけよ。

 いいんだけどね。

 乾燥に1ヶ月かかることを、最初に聞かなかった私が悪いんだし。


 とりあえず、これで、日干しレンガという我が担当部門最大のミッションをクリアしてしまった。


 賢哉は、台所工事をどんどん進めてる。

 古い流し台とコンロ台は取り除き、床板を剥がし、天井を剥がし、壁の漆喰を剥がし、勝手口の土間を広げる工事をしている。

 それまで8畳だった台所を広げるために、隣の納戸の壁を壊し、納戸を、台所の食器棚と収納スペースにする。

 かまどを作るから、換気のために、メインの換気扇の他に、24時間換気の小さな換気扇も付ける。


 いや、こりゃ、大変そうだわ・・。


◇◇◇


 今日のミッションは、野外トイレに、賢哉のお母さんから差し入れてもらった、米のとぎ汁液肥を入れる作業。

 手作り液肥には、米のとぎ汁だけでなく、黒砂糖や米ぬかや牛乳が入れてあって、静置発酵させたので、米ぬかの乳酸菌発酵は完了している。畑に水で薄めてまくと、作物がよく育つという。

 そんな貴重な液肥を、トイレに入れて良いのか。


「・・で、つまり、この液肥には、乳酸菌がたっぷり含まれている。だから、排泄物を乳酸菌で分解するのに役立つ、というワケですね」


「うん。そうらしい」

 と賢哉。

「なんかさ、これ、賢哉のお母さんに下の世話されてるみたいで、気持ち的に抵抗があるんですけど」

「なに変な風に考えてんだよ。

 もう下から出し終わってるブツしか関わってないんだから、気にするなよ」


 ・・賢哉の言い方・・よけいに抵抗があるだろーが。

 デリカシーゼロ男め。


 とりあえず、言われた通りに、バケツに水で薄めた液肥を入れ、野外トイレにまく。

 ミミズ箱の中のミミズが増えたら、そいつも入れてやろう、と賢哉が言い、私は可愛いミミズたちが気の毒だと言い張ったのだが、

「牛舎の糞を溜めてるところにも、大量のミミズが涌いてたりするんだぜ」

 と賢哉に言われ、ミミズの幸せと私の幸せは違うんだと思い知った。


 今日も忙しい一日だった。


 夜、布団でぬくぬくしながら、スマフォのメールをチェックしていると、香奈から着信があった。


「おひさー」

 と香奈。

「久しぶりー」

「元気やった?」

「うん、まぁ元気。

 ちょっと疲れてはいるけど」

「どうしたと?

 叔父さんちの手伝い、大変?」

「いや、あのね、今、古い家の修理手伝ってて・・。

 と言っても、私は大したこと出来んけんさ」

「家の修理?」

「うん。

 親戚のお祖父ちゃんちの家。

 あのね、幽霊屋敷みたいに凄い状態やったんやけど、今は、かなり住みやすくなっとうと。

 お風呂も直ってね。

 なんと薪風呂」

「うお。

 五右衛門、茹でたやつか」

「おい。その言い方、やめろ。

 薪のお風呂、気持ちいいとよ。

 芯まで、あったまる」

「へぇ」

「暖房器具は、火鉢」

「まじか。

 面白そう」

「うん。ちょっと、熱源的には弱いけど、遠赤外線効果があると。

 これと電気ストーブで暮らしてる」

「熊本、寒いと?」

「寒いよ。

 阿蘇が近いから。

 高校、どう?」

「まぁ、楽しくやれそう、かな。

 部活は、美術部に入ったよ。

 グラフィックデザインに役立ちそうだから」

「へぇ・・今どきの美術部は、CGもやると?」

「いや、やらんけど。でも、センス磨けるかな、と思って」

「・・なるほど」

「ゴールデンウイークとか、帰ってくると?」

「そうか。もう、そんな時期かぁ」

「だよ。

 来週には、連休、始まるとよ。

 カレンダーないと?」

「カレンダーっつうか、スマフォ使えるんだから、日付くらい判るって。

 でも、帰らないかな。

 ここで過ごす」

「ふうん。

 楽しいと?」

「うん。忙しいけどね、楽しいよ。

 屋根工事と、お風呂工事が終わって、今、台所やってて。

 あとは・・トイレと、部屋の床と天井と、玄関と、外壁と・・」

「めちゃ、残っとう」

「そうなんだよね。

 まぁ、大物の屋根が終わってるから、なんか、ほっとしてるんやけど」

「すごい入れ込んでるね。

 大工さんにでもなると?」

「いや、だから、そんなに大工仕事は手伝えてないんだってば。

 お料理係とか、掃除洗濯係とか、レンガ係とか、ミミズ係とか・・」

「ミミズ?」

「ま、その辺話すと、一晩かかるから」

「・・大丈夫か、美千留」

「それよりさ、高校で、友達とか、出来たと?」

「うーん。まぁ、喋れる子は何人か、出来たけど。

 まだ趣味が合う子は見つかってない、かな。

 美術部で、仲間が見つかるといいんだけどな。

 美千留は、そっちで、大工仲間でも出来たと?」

「大工仲間っつうか、いつも一緒に仕事してるのは、賢哉と大叔父さんだけやし」

「賢哉?

 なにその、若い男の響き」

「実際、若いと。

 3歳年上で。家の修繕やってる遠縁の青年」

「遠縁? じゃ、結婚、おっけだな?」

「いや、違う意味でおっけじゃないから」

「なんだよ~ひとに心配させといて、ひとりだけ、我が世の春かよ。

 裏切りもの~。

 ひとに悪事の手伝いさせといて~。

 許さん!」

「あのね、そういうんじゃないから」

「浮気ものめ」

「浮気とか、してないから」

「ホントだな」

「そんなこと言って、自分だって、美術部で、どんな出会いがあるか判らんでしょ」

「ないな。

 けしからんことに、美術部のくせに、芸術的な容姿の男子は皆無やった。

 そもそも、男子部員、少ないし。

 デッサンしてても描き甲斐のないオトコばかりやし。

 幸い、二年の先輩に可愛いひとが居るから、もっぱら、彼女がモデル役。

 ふつうは、美術部の顧問って、若くて美形のはずやん?

 ところが、ぜんぜん、これが、まったく、セオリー外しててさ」


 ・・なんのために美術部入ったんだ・・香奈は・・。


 香奈は、ひとしきり喋ったのち、

「まぁ、怪我しないように頑張ってね。福岡に帰ったら、電話してよ。

 賢哉くんにも会いたいしさ。

 ダブルデート出来るように、アタシも頑張るから」

 ・・勝手に締めてる。

「いや、ちょっと待ってよ。

 それはないって。

 デートとか、そういう・・」

「じゃね」

「待てって」


 勘違いしたまま切りやがって・・。


◇◇◇


 明くる日。


 旭輝大叔父さんが、なにやら、重そうな荷物を持ってきた。


「うちの倉庫に仕舞ってあった薪ストーブオーブンだよ」

 と旭輝大叔父さん。

「え・・」


 それは、真っ黒くて、年季の入った、鉄の塊みたいなヤツだった。


「実は、ちょっと壊れててね。

 前の持ち主が、置き場所を変えようとして、失敗したという話しで。

 まぁ、形が少々、いびつになってはいるけど、使用には差し支えないよ」

 旭輝大叔父さんが、ゆがんだ箇所を指さしながら説明してくれた。

「はぁ・・」

「床を張る作業を先にやって、なるべくすぐに使えるようにするよ」

 と賢哉。


「これって、アレだよね。

 映画の『魔女の宅急便』で、キキが、パイを作ってたやつ」

 と私が言うと、

「へぇ。

 こんなものが、映画に登場してるのかい。

 良かったね、美千留」

 と大叔父さん。

 いや、良かったとか言われても、困るっつうか・・。


「パイか。

 楽しみだな」

 と賢哉。


 賢哉・・私が、いつパイを作ると言った・・。

 ま、いいけど。

 作るか。

 パイ・・。

 パイレシピ、またネット検索だ。


◇◇◇


 ようやく、トイレ工事が始まる、という話しを賢哉から聞いた。


 ここのところ、賢哉は、元気がなかった。

 疲れてるのかな。

 ちょっと、休ませてあげたいな。


 3月の終わりに修繕生活を始めてから、もう、1ヶ月以上になる。

 賢哉は、1ヶ月、休みなしだった。

 私もそうだけど、賢哉は大工仕事で、私は家事雑用だから、疲れ方が違うはず。

 賢哉は、疲れたとかなにも言わずに、いつも楽しそうに仕事をしてたから、私は、賢哉が疲れてるか否かなど、あまり考えてなかった。

 でも、気遣ってあげられるのは、いつも一緒に居る私だけなんだよね。


 それとも、お金のことで、なにか、心配でもあるのかな。


 私が聞いたところによると、屋根の葺き替え費用は、約130万かかったらしい。

 それでも、賢哉や大叔父さん、それに、賢哉のお父さんの3人で工事をしたので、相場よりもずいぶん安く済んだという。

 お祖父ちゃんのお金、400万のうち、130万は、屋根で消えた。


 樹木の伐採は、使える杉の木が生えてたので、それを森林組合で引き取ってくれて、伐採費用は割引になった。

 でも、根を取り除くのにユンボを借りる費用とかはかかる。


 風呂と洗面所の工事は、賢哉が主にひとりで行い、ところどころ、旭輝大叔父さんが手伝ってくれた。人件費はかかってないけれど、天井板などの材木や薪風呂の釜、セメントやタイル代や、ドアとサッシ代などがかかってる。


 ふつう、家の修繕でお金がかかるのは、水回りと屋根らしい。

 そのうち、屋根とお風呂は終わった。

 残りの難所は、トイレと台所だ。

 もちろん、外壁とか、床張りとか、天井とか、内装とか、まだまだ、切りが無いくらいあるけれど、とくに費用がかさむのは、トイレだろう。


 家のトイレの工事については、賢哉と大叔父さん、賢哉のご両親とで、検討したらしい。


 それで、結局、合併式浄化槽というのを取り付けることにしたんだとか。


 合併式浄化槽というのは、下水道を繋げることの出来ない地域では、よくある浄化設備だという。


 合併式浄化槽の設備を敷地内に埋め込んで、家の下水を処理して綺麗にして、河川などに流すものだ。


 現在、この家は、トイレは野外トイレ、その他の汚水は、そのまま水路に流している。

 一応、自然に返りやすい石けんを使ったりしているけれど、浄化槽は必要だよね。


 それで、賢哉のお父さんが、長く付き合いのある地元の業者に頼んでくれた。

 工事期間は3日。


 業者さんの下見は、もう終えた。

 工事は、ゴールデンウイークの後、5月半ばになる。

 けっこう大がかりな工事だという。

 費用もお高いんだろうな・・。


 あとは、私と賢哉がここで暮らす費用。

 大叔父さんは、それも経費に入れてて、とりあえず、賢哉に渡してくれてる。足りなくなれば、また、出してくれるらしいけれど、賢哉はなるべく節約してる。

 それに、野外トイレの費用や、大叔父さんが買ってくれてたセメントを練る小型ミキサーとか、細かい雑費もかかってる。


 ・・大丈夫かな。


また本日の2話目を、午後9時に投稿いたします。

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