12)薪風呂の完成と、屋根工事
今日、2話目の投稿です。
3日後。
賢哉のお風呂工事が完了した。
エラいなぁ。
有言実行だもんな。
お風呂場は、湿気から木材を護る木の色をそのまま生かした塗料と、クリーム色のタイルで、明るく爽やか系に仕上がってた。槇の木の湯船も素敵だ。贅沢だよね、木の香りのするお風呂。
賢哉が、
「一番風呂、美千留につかわせてやる」
と、言ってくれて、私は必死に遠慮したのだけど、「大丈夫、ちゃんと涌かして湯加減みてから入ればいいから」と、なにか微妙に勘違いした説得のされ方をして、断りきれなくなった。
お風呂は、最高に気持ち良かった。
身体を、ゆったり洗って、お風呂に浸かると、そこは極楽だった。
木の香りだけでなく、薪の燃える香ばしい匂いもほのかに漂い、リラックス感がはんぱない。
お風呂場の外で、薪の調整をしている賢哉が、
「湯加減、どうだ?」
と聞いてくる。
「すんごい、快適」
と私。
「そうか。俺、工房の方に行くから、なにかあったら、スマフォで知らせろ」
賢哉が裏口の方に歩いて行く足音がする。
薪のお風呂は、薪が熾という熱々の状態になって、保温してくれるので、ずっと暖かい。
ぬっくぬっくなのだ。
もう・・出たくない。
でも、賢哉にもこの極楽を味あわせてやらねばならん、なにしろ、一番苦労したひとが二番風呂に甘んじてるんだから。
身体が芯まで温まると、やむなく、極楽から出る。
脱衣所には、台所から移動させた火鉢が置いてあって、ほんのり暖かい。
洗面所と脱衣所は、まだ、工事途中だけど、とりあえず、今日は、大工道具や材木を隅に片付けてある。
明日にはだいたい完成する、と賢哉は言っていた。
洗面所の流しは、大きな陶器の鉢を使って作られている。お洒落だ。
陶器の鉢は、薄青色で、山水画のような雰囲気の、麗しいキキョウの花の絵が描かれている。
古い鉢は、中古品を、賢哉が修理したもの。欠けた縁やヒビを、金継ぎという日本古来の技、金粉と漆を混ぜた補修剤で直し、真ん中に穴を開けて配管し、味のある流しを作った。
センスいいよな。賢哉は、中身、かなり残念なヤツだというのに。
天は二物を与えずと言うけど、賢哉は、デリカシーの分が、別の才能に搾り取られてるんだろうな。
◇◇◇
明くる日。
私と賢哉は、ミミズを手に入れるべく、ジムニーを走らせていた。
賢哉がバイトで得たお金を、ミミズに注ぎ込むという。
わんこたちを散歩させて得た貴重なお金を、ミミズに使うのか。
ミミズは、釣具屋で買うという。
釣り針にぶっさされ、魚の餌となる運命だったミミズたちを、ミミズ箱という餌のたっぷり入った楽園に放してやるのだ。
感謝しろよ、ミミズたち。
一カ所目の釣具屋さんで、ミミズは1箱買えた。
小さい釣具屋さんだったので、1箱だけだ。
賢哉は、もっと買うと言って釣具屋さんを求めてまたジムニーを走らせる。
釣具屋さんのはしご、3カ所目で、ミミズは7箱手に入れた。
「こんなに飼うんだ・・」
私はミミズの入った小箱を呆然と眺める。
「小さい箱だから、どうせ、大して入ってないよ。
それなりの量は要るだろ。
生ゴミを食べてもらわないといけないからな」
「エサ食べるのがお仕事なわけだ・・」
その怠惰な仕事、ちょっといいな、と思ってしまった。ダメやろ、ミミズをうらやましがるなんて。人間としてどうよ。
「野菜屑とかの生ゴミを、堆肥化させて、肥料にすることがあるだろ。
生ゴミを堆肥化させるときは、ときどき、かき回したり、あと、発酵しやすいように、米ぬかや石灰や草木灰とか混ぜないとうまくいかないんだ。でも、ミミズを入れておくと、ミミズが代わりに、生ゴミを分解してくれる」
「すごいな、ミミズ」
家に戻ってから、私たちは、苦労して作ったミミズ箱のところに行った。
ミミズ箱には、すでに、大量の生ゴミと、藁が投入してある。
生ゴミは、藁で覆われているので、一見、ただ藁が詰まった箱に見える。
賢哉とふたり、藁を一旦、脇に避けて、生ゴミのところに、箱の中の詰め物ごと、ミミズを入れる。
ミミズは、白いおからみたいなものと一緒に小箱に入れられていた。
箱によって・・というより、店によって、ミミズの様子が違う。
おそらく、売れ残っていたミミズは、弱って、細い。
入荷したばかりのミミズは、ちょっと元気。
賢哉は、小さい箱だからミミズは少ないとか言ってたけど、案外、入ってる。
見た感じ、50匹以上、100匹以下・・たぶん、その中間の7,80匹くらいかな。
ミミズたちは、無事、生ゴミの中に潜り込んでいった。
◇◇◇
2週間後。
4月も半ばを過ぎても、阿蘇は肌寒かった。
火鉢が活躍してる。
今、賢哉たちは、屋根工事をしてる。
屋根工事作業を始めてから、すでに2週間が過ぎた。
作業は、そろそろ終盤。完成が近づいているという。
旭輝大叔父さんと、賢哉のお父さんと、賢哉と、今日は3人揃ってる。
いつもは、賢哉がひとりで作業をしていて、ときどき、賢哉のお父さんや、大叔父さんが助っ人に入っていた。とくに、旭輝大叔父さんは、お店をしばしば沙月叔母さんに任せて、手伝いに来てくれてた。
平屋だから、そんなに高くないとはいえ、やはり高所の作業は、安全第一で慎重にやってる。
古い瓦を全部、地面に投げ捨てて、傷んだ野地板や垂木などを張り替えて、ルーフィングという防水シートを貼って・・までの作業は、2日前までに済んでいた。
昨日から、屋根材の取り付け作業中。
旭輝大叔父さんが、ユンボを使って、屋根材を屋根に上げて、賢哉とお父さんが受け取り、それから、3人で、屋根材を打ち付け始める。
屋根材は、新素材で、軽い。
見た感じも軽い。
可愛い感じに仕上がってる。
賢哉は、本当は、銅板の屋根にしたかったけれど、価格で挫折したそうな。
次回、葺き替えるときは、銅板にする、と言っていた。
夕方近くになって、ようやく、屋根、完成。
思わず、みんな笑顔になった。
屋根が綺麗になると、家の見栄えが違うなぁ。
もう、幽霊屋敷じゃないよね。
みんなで記念写真を撮った。
感動の記念写真は、福岡のお父さんにも送ってあげた。
◇◇◇
屋根工事の間、私は裏方を頑張っていた。
今日も、朝から、屋根工事をしている3人のための、料理係をしていた。
お昼は、賢哉のお母さんが、かしわ飯のおにぎりを差し入れしてくれてた。
賢哉のお母さんは、週末は、賢哉の弟妹たちの部活の手伝いにかり出されるので、こちらには来られないんだとか。
屋根工事に、お母さんのお仕事はないから、気を遣わなくてもいいのにな。
ご飯はおにぎりがあるので、豚汁にした。
外のペール缶ストーブを使い大鍋で作った。
火鉢を外に運んで、串焼きも作った。ねぎまの焼き鳥が好評だった。
晩ご飯は、ちょっとお祝い気分で、ご飯とお刺身と、魚貝のスープ。
それに、鶏肉の竜田揚げに挑戦することにした。
もも肉を、しょうゆ、みりん、下ろしたニンニクやショウガのタレに漬け込んでおく。
晩ご飯の前に、賢哉たちは、お風呂に入りたいだろうから、お水を張っておいた。
槇の木製のお風呂は、毎回、水を捨てて、掃除して、乾かしておく。木を傷めないためだ。
賢哉のお母さんが、手入れが大変と言っていた意味が分かった。
うっかり、水を入れっぱなしにしておけないのだ。
でも、ただ柔らかいスポンジで洗って、水を捨てて、乾かしておくだけなので、慣れれば大丈夫。
掃除は、賢哉と私と、交代でやってた。でも、ここのところは、屋根工事で忙しい賢哉のために、私がもっぱらお掃除係。屋根工事は手伝わせてもらえなかったので、それくらいはやらなきゃね。
薪風呂の釜に火を入れるのは、賢哉か大叔父さんにお任せしてる。
釜に薪を入れて火を付けるだけだから、私にも出来るけど、賢哉と大叔父さんは、薪風呂の釜に火を入れるのが好きみたいだから。
男のロマンを感じるらしい。
私にはよく判らんが。
湯船に水が張ってあると賢哉に伝えると、案の定、大叔父さんたちは、3人で喜んで、釜に火を入れてくれた。
賢哉のお父さんも、釜の火入れが好きとは思わなかった・・。これは、遺伝子のせいかもしれん。
味付けを終えた肉に、片栗粉をまぶして揚げた。
揚げ物料理は、実は、これで2回目。
1回目はタラの芽を貰ったので天ぷらにした。
2回目の今日は、竜田揚げ。
屋根工事を頑張ったみんなに、美味しいものを食べて欲しい。失敗は許されない。
厚手の鍋を用意して、油を入れる。厚手の鍋の方が温度が安定してるので、揚げ物がやりやすいというのは、ネット情報。
私はスマフォがなかったら、料理は無理だったな。
水溶き片栗を一滴、油に落とす。
ジュアっと、片栗の滴が揚がってくる。
温度は良さそうだ。
竜田揚げをどんどん揚げていく。
美味しいといいんだけどな。
火鉢では、魚貝のスープがコトコト煮えている。
居心地いいな、この台所。
福岡に帰りたくなくなる。
仕事を終えてきた3人は、交代で風呂に浸かり、台所に入ってきた。
「ぬくいなぁ。この台所」
と賢哉のお父さん。
ちょっとくまモンっぽい、優しそうで大柄なお父さん。柴崎隆夫さん。
お茶のお湯も沸かしたいので、我が家の火鉢が2個、台所に集結している。
今日は、風が冷たくて、ちょっと寒かったんだよね。
古い家に隙間があるからいいけど、密閉されてたら酸欠が心配になるところだ。
賢哉は、だから、修理が終わって気密性が良くなった洗面所には、火鉢を置いても安心なように、警報器を設置してた。
賢哉と大叔父さんもお風呂から上がってきて、宴会が始まった。
飲み物は、日本酒とビール。
賢哉は、未成年とか関係なしに、酒類は飲まない。もっぱら、アルコール類は叔父さんたち。
竜田揚げは、大好評だった。
トマトを切って鰹節と醤油をかけたのも小鉢に入れて出した。道の駅の市場のトマトは美味しいんだよね。
魚貝のスープは、何度も味見しながら味を調整したので、よい塩梅に出来た。魚貝の出しがよくきいてる。
3人は、豪快に食べながら、次は、敷地の林を伐採して、ユンボで木の根を始末する算段をしている。
次は庭かぁ。
私は、これから、かまど作りなんだよな。
なにしろ、隆夫お父さんが、賢哉が頼んでいた粘土質の土を大量に持ってきてくれたので。
ミミズ箱だの、日干しレンガだの。
私、なんだが、土っぽい仕事担当っていう感じになってるな。
◇◇◇
明くる日。
賢哉は、日干しレンガを作るための、木枠を作ってくれた。
木枠の中に、粘土土をぎっちり押し込み、成形する。
それを日に干す。
出来上がり。
実にシンプルだ。
私が粘土土と格闘して、一休みしていると、
「庭を調べに行こう」
と賢哉が喚びに来た。
私は、捏ねかけた粘土にビニールシートを被せて乾かないようにしてから、賢哉に付いていった。
今日は、森林組合のひとが下見にくる。
敷地内に、丁度良く育った杉の木があるので、材木として森林組合に持ってってもらえば、伐採費用が安くなるという。材木の品質しだいでは、伐採費用が相殺されるかもしれない、らしい。
その前に、庭を調べて、伐採せずに残しておいてもらう木を選ぶのだという。
「祖父ちゃんが植えた果樹があるらしいんだ。
それを見に行くよ」
と賢哉。
旭輝大叔父さんも朝から来ていて、すでに庭を回っていた。
賢哉と庭に出ると、
「こっちだよ」
と大叔父さんが喚ぶ。
巨大化した雑草や、ひょろひょろと生えてきた雑木に隠れて、小さな果樹園があった。
果樹は、敷地の南の端に植えられていた。
「これは、柿の木だね。
それから、梅・・あぁ、実が生ってるよ。
可哀想に、こんな環境でも、実が生るんだな。
あと、ひと月もすれば収穫できるかもしれんな。
梅の木は、1本・・2本だね。
それから、イチジク。
小さい実が生ってるけど、熟すのは、まだまだ先だな。
あと、これは・・」
と、旭輝大叔父さんは、木の葉をちぎって匂いを嗅ぎ、
「デコポンだな」
と言う。
すごいな、旭輝大叔父さん、樹木博士か。
私が尊敬の眼差しで大叔父さんを見てると、大叔父さんは苦笑して、
「ミカンの木は、葉っぱに、果実の匂いがするんだよ」
と教えてくれた。
なんと、デコポンの木は3本も植えてあった。
デコポンの旬は、冬から春までで、よく見ると、しなびたデコポンが木のあちこちに引っかかってる。
「鳥が食い散らかしてるみたいだから、甘かったのかもな」
と大叔父さん。
・・惜しかった・・。
野生化したブルーベリーの低木も見つかった。
「あぁ、これは、環境が悪すぎたな。
実は生ってはいるが・・」
残念。
実はまだ小さい。熟すのはまだ先のようだ。
それに、実の数が少ない。
ごくわずかしか、実がついていない
「周りの雑草と雑木を伐採して、日当たりを良くして、栄養を与えれば、生き返るんじゃないかな」
と賢哉。
来年に期待しよう。
「祖父さんは、年取ってからは、庭の手入れはおざなりだったからなぁ」
賢哉と旭輝大叔父さんは、果樹と、敷地の北西の端に生えていた枝振りの良い松の木だけ残して、他は伐採することに決めた。
杉の木は、良い木が生えていて、材木に最適な樹齢だった。賢哉は、自分の家具作りに使いたいところだが、今は、製材までやりきれないから、と諦めた。
おそらく、お祖父さんは、薪の材料にする積もりで植えたんじゃないか、と旭輝大叔父さん。
でも、杉は、薪にするにはあまり適してないので、森林組合に提供でいいだろう、とのこと。
森林組合の人たちが下見に来られた。
伐採費用は、杉の木のおかげで、あまりかからなくて済むそうだ。
木が伐採されたら、旭輝大叔父さんが、ユンボで根を掘り返して始末する。
賢哉いわく。庭仕事は、力が要るので、力仕事担当の賢哉のお父さんが活躍する予定、だそうだ。
土仕事担当の私としては、力仕事担当と割り振られてしまっているお父さんに、なんとなく、シンパシーを感じてしまう。
洗面所の工事が終わったので、洗濯機は、洗面所にお引っ越しした。
きれいな洗面所なので、使うのが楽しい。
陶器の流しで顔を洗うと、リッチな気分になれる。
洗面所の部屋全体は、無垢の木に、木目を生かした透明ニス仕上げ。
窓は、白木の窓枠に窓ガラスはレトロな感じのツタ草模様ガラスで、お嬢様のお部屋風だ。
北側の壁半面が棚になっていて、今はオープン棚だけれど、賢哉は、余裕が出来たら戸を付けると言っていた。
タオル掛けも、賢哉が凝って作ったやつで、槇の木をねじったような形に削り出し、磨いて、ニスで仕上げてある。
まさかのタオル掛けに、こだわり職人の本領が発揮されてた。
私が、洗濯機のそばに居ると、賢哉が、台所工事を始めるから、改善点、ある? と聞きに来た。
「居心地が良くて使いやすい台所を目指すからさ」
と賢哉。
「今でも、けっこう、居心地良いよ」
私が答えると、
「でも、使い難いだろ。カセットコンロだし」
と賢哉。
「あ、うん、それはそうだね。
コンロはもっと要る。
カセットコンロ、火加減、難しいし」
私は、しばし考えた。
私の料理の腕が上達してるから、余計に物足りないんだよね。
「出来れば、3つくらい、コンロが欲しいかな。
あと、ケーキとかお菓子作りにも挑戦してみたい。
オーブンが欲しい。
オーブンがあれば、グラタンとかも作れるし」
「オーブンかぁ。
よっし、判った」
賢哉、張り切ってるな。
一抹の不安。
でも、私、不安に陥ってる暇、ないんだよね。
早いところ、日干しレンガ作らないと。
賢哉が台所工事始めたら、土間のかまど作りがもうすぐやん。
必要な日干しレンガは、なんと、80個。
この数、聞いたときは、思わず、3回くらい、聞き返してしまった。
私は、超特急で日干しレンガを作り始めた。
粘土土に切り藁を混ぜ、よく足で捏ねる。
この足捏ね作業は、賢哉も手伝ってくれた。
レンガの土は、空気が入らないよう空気抜きをしながら、型枠に押し込んでいく。
こういう手作業は、慣れると、手が自動的に動くようになるな。
でもさ、せっかく技を極めても、日干しレンガ作りなんて、もう二度とやる機会ないよね。
丸二日かけて、少し多めに90個の日干しレンガを作った。
また明日、午後6時に投稿いたします。




