10)手作り火鉢
今日、2話目の投稿になります。
夕方になって、旭輝大叔父さんが来た。
私は、夕食作りを始めるところで、賢哉は、お風呂場と洗面所の工事をしていた。ずっとテーブルやベンチ作りをしていたので、お風呂場工事は遅れ気味だった。
「やぁ、美千留、大きくなったなぁ」
と旭輝大叔父さん。
実は、私は、旭輝大叔父さんに、2,3歳のころ、会っているそうだ。
でも、ぜんぜん、記憶にない。
そりゃ、2,3歳じゃ、判らないよね。
「あ、あの、お世話になってます」
私は頭を下げた。
「いやいや、お世話になってるのは、こちらの方だね。
いろいろ、ありがとう」
「いえ、あの、猫の手程度ですから、私なんて。
えっと、晩ご飯、食べますか? 大叔父さん」
私は、晩ご飯を作るために、スパゲティのレシピを検索しているところだった。
今夜は、スパゲティと決めた。それで、ミートソースにするか、あるいは、ミートソースが難しかったら、もっと簡単なのがあるか、調べてた。
ミートソースは、レトルトパックを使うという究極的に簡単・・というか、料理してないよね、というレベルのものから、トマトを湯むきしてソースを作るという私にはムリレベルまで、色々だった。
どうすべ。
「御馳走になってもいいかな」
と大叔父さんが言うので、
「はい」
と私は自信満々なフリをして答えた。
ヤバい・・ちゃんと出来るかな。
賢哉なら失敗してもいいけど。
大叔父さんの前で恥かきたくない。
レシピ選びは慎重にいこう。
結局、トマトの湯むきに挑戦した。
トマトを道の駅の市場でたくさん買ってあったし、トマト湯むき動画を見たら、私でも出来そうだったから。
挽肉とタマネギ、セロリを刻んだやつを炒める作業は終わった。
湯を沸かして、トマト、投入。
豪快に5つも入れた。
賢哉はけっこう食べるし、大叔父さんの分も追加だ。
トマトを湯の中でコロコロさせてから、手早く・・いや、かなりもたもたしながらも、お玉でボールに取り、水で冷やしてから、湯むき。
おぉ。ペロリペロリ剥けてく。
おもろい。
皮を剥いたトマトを刻んで、挽肉とセロリとタマネギの中に入れる。
レシピの通りに、塩コショウもした。
本当は、ナツメグとか、オレガノとか、香辛料を入れるんだけど、ないから、まぁいいや、賢哉だし。大叔父さんには、ゴメンナサイをしておこう。
でも、セロリとタマネギの匂いだけでも、けっこう良い感じ。
味見・・うん、大丈夫。
トマトソースがくつくついっているフライパンの火を消す。
万が一、消し忘れたら悲惨だ。
ポイントを外さなきゃ、料理は出来るよね。
上手ではないけれど、大失敗しなければ、食べられる料理にはなるんだよね。
スパゲティがゆであがったころ、賢哉と大叔父さんが台所に来た。
「いい匂いだなぁ」
と大叔父さん。
私は、インスタントワカメスープの素を用意していた。
インスタントを使うところ、あまり見られたくなかったけど、私は、これ以上、料理はムリだもんな。
あとは、レタスをちぎってコーン缶を開けてサラダっぽくしたら、出来上がり。
「美千留は、料理うまいよ、旭輝叔父さん」
と賢哉。
プレッシャー感じるなぁ。
こんなんでうまいとか、賢哉、レベル低すぎだよ。
ここに来て、けっこう、料理作ってるから、だいぶ慣れたとはいえ・・。
スパゲティとサラダを盛り付け、ワカメスープも出来た。
「いただきます!」
ミートソースは、美味しかった。
新鮮トマトのおかげだと思う。
香辛料は足りなかったけど、トマトの味が補ってくれた。くつくつ煮込んだトマトが、とにかく美味しくて、スパゲティに絡めて食べると我ながら上手く出来たと顔がにんまりする。
賢哉も大叔父さんも、旨い旨いと食べてくれた。
「風呂場が、ずいぶん、はかどってて、驚いたよ。
家の中も、きれいに、快適になってるし。
このテーブルも良い出来だな」
ご飯が一段落したころ、大叔父さんが機嫌良く言った。
初日に大掃除したもんね。拭き掃除頑張ったかいがある。
ま、床は張り替えなんだろうけど。張り替え終わるのは、まだ先みたいだし。
テーブルセットも・・まだ賢哉的には完成じゃないらしいけど、一応、出来たから、格段に居心地が良い。
晩ご飯のあと。
賢哉が、分厚い木を組んで作った一抱えもある箱を運んできた。
3つもある。
木箱は、ピカピカすべすべに磨かれていて、なかなか綺麗だ。
角は丸みを帯びるように仕上げられていて、可愛くもある。
ただの箱だけど、手が込んでる。
私の知らない間に、こんなもんも作ってたのか・・。
やっぱり脱線男だった。
賢哉の作った木箱の中には、銅製の箱がはめ込まれていた。
旭輝大叔父さんが、
「火鉢か」
と言った。
「火鉢?」
思わず聞き返してしまった。
火鉢って、聞いたことがあるぞ。
時代劇の場面で見たこともある。
若旦那が、キセルで、カンカンと灰を落とす、アレだ。
この木箱、暖房具だったのか。
銅板と木箱の間の白い板は、断熱材らしい。
「うん。
まだまだ、この辺は電気ストープだけじゃ、寒いから」
と賢哉。
「火鉢の中に入れる灰が要るなぁ」
と旭輝叔父さん。
「木切れが大量に出たから、明日燃して灰を作るよ。
ホームセンターで草木灰を買って足してもいいし。
炭も買ってくれば使える」
たしかに、朝晩は寒かった。
助かったかも。
明日から、火鉢でぬくぬく出来るのかぁ。
「肉の串焼きとか、出来る?」
と私が尋ねると、
「ハハ。
きっと旨い串焼きが食えるよ。
網焼きも旨いが、網焼きは、肉や魚の油が火に落ちて焦げやすいから、案外難しいんだよなぁ。
だから、串焼きにすればいいよ。
市場で魚を買ってきて焼いてもいいな」
と旭輝大叔父さんが答えてくれた。
超楽しみやん。
旭輝叔父さんは、くつろいだあと、
「じゃぁ、美千留、そろそろ帰ろうか」
と言う。
「え? 帰るって?」
「・・風呂場も出来てないし、3人で泊まるのも大変だろう?」
「そうでもないよ。
叔父さん、私、ここに泊まるからいいよ」
「え・・?
美千留・・まさか、ここで、賢哉と泊まってたのかい?」
と大叔父さん。
賢哉が隣で、たいそう、気まずそうにしている。
「泊まってれば、通わなくていいから楽だし。
手間もかからず、朝ご飯も早くから作れるし。
良いことばっかりだよ」
と私。
「美千留は、女の子なんだから、賢哉みたいな男と一緒に寝泊まりさせるわけにはいかないなぁ。
湊斗に怒られる」
「怒らないよ。
ぜんぜん、平気。
大叔父さん。賢哉は、マジ大丈夫だから。
まるっきりの無害だから。
ハムスターの雄なみに安全地帯だから」
私がそう言うと、
「なんでハムスター・・」
と賢哉は脱力し、大叔父さんは呆れた顔をした。
「いったい、なにがあったんだい?」
大叔父さんが賢哉に尋ねてる。
「いや、なにもなかったから、そう言われてるんだけど・・」
賢哉が力なく応えた。
なに言ってる! 色々あったやんか!
大叔父さんが、
「とにかく、湊斗が心配するから」
と言うので、お父さんに電話することにした。
私は、スマフォを取り上げ、久しぶりに、アドレスからお父さんの番号を選ぶ。
お父さんは、すぐに電話に出てくれた。
「あ、お父さん。お久しぶりです」
「美千留、元気にしてたか」
「うん。超元気。
熊本楽しいとよ。
あ、それでさ、私、今、賢哉のお祖父ちゃんの家、修繕するの手伝ってるんやけど。
この家に住み込んで手伝っていいと?」
「賢哉というのは、大叔父さんの甥の賢哉かい?」
「うん、そう、それ」
「じゃぁ、いいよ」
「ホント、良かった。
大叔父さん、お父さん、いいって言ってる」
「いや、美千留、ちょっと説明が足りないから」
大叔父さんが苦笑している。
大叔父さんに電話を代わってもらった。
「美千留が、この古家で修繕するのに、賢哉と二人暮らしをすると言っていてね。
湊斗が心配するといけないから、通いにしなさいと言っているところだったんだよ」
大叔父さん、完結に説明している。
お父さんがなんて返事をしているのかは聞こえない。
気になるなぁ。
大叔父さんとお父さんの会話は続く。
「ああ、湊斗が賢哉と会ったのは、もう、5,6年も前だったなぁ。
うちの店を建てているときだったか。
賢哉と話すかい? 代わるよ。
ほら、賢哉」
大叔父さんからスマフォを差し出され、賢哉は、ほうじ茶をむせかけた。
珍しく緊張してる様子の賢哉は、一瞬、躊躇したのち、スマフォを受け取った。
「ご無沙汰しております。
柴崎賢哉です」
賢哉、やけに固くなってる。カチコチやん。
大叔父さんが、「恋人の父親に挨拶している男みたいになってるな」と、ちょっと面白そうに言う。
いや、それはないから、大叔父さん。
「あ、はい、いえ、あの、こちらこそ、息子さんには、大変、お世話になっております」
・・ん? 息子さん・・? 誰のことや、それ。
「え? いえ、はい、畳を解体してくれたり。助かってます。
まぁ、親しくさせてもらってます、弟みたいな感覚で」
・・弟・・。
おい、賢哉・・。
「はい、では、叔父に代わります」
賢哉からスマフォを差し出され、大叔父さんが、なんともいえない表情で受け取った。
緊張から解放された賢哉は、ほっとした様子でほうじ茶を飲んでいる。
それから、しばらく、大叔父さんは、父とのんびりと会話してから、スマフォを切った。
「湊斗は、若者たちで、好きに決めて作業すればいい、と言っていた・・」
「・・そう」
お父さん、どう思ったろ・・。
「よく了解してくれたね」と賢哉。
おみゃーの天然のおかげじゃ、ボケ。
また明日午後6時に投稿いたします。




