第94話 偽物と聖女
上空から一直線に、城の中庭にいる集団めがけて急降下しながら、ピエナスは昂る気持ちを抑えられずにいた。
『ああ、もうすぐですよ!もうすぐ会えますよ、セシリア!私が長年かけて探し続けた理想の女性を完璧に体現した、まさにこの地上に舞い降りた天使!ああ、それがすぐそこにいるなんて、待ちに待った瞬間が遂に訪れるのですね!?今行きますよ!私の運命の人!』
とか心の中で叫んでいる内に、地上はもう目の前まで迫っている。
降下してからここまで4秒しかかかっていなかったので、口にしていると言いきれなかったのだろう。
地上まで残り10m程の距離になった時、ピエナスは『無属性魔法』を発動させ、一切の減速も無く一瞬で空中に停止した。
そして神々しさでも出したかったのか、体を金色の光りで包み、ついでに1対の翼が生えたかのように光を広げていた。
「おお、何だこれは!?」
「金色の光り・・・女神の使徒様か!?」
「いや、あれは、ピエナスだ!女神の使徒を騙った罪人だ!」
「空での戦いはどうなったのだ!?真の女神の使徒様が、奴と戦っていたのではないのか?なぜヤツがここにいる!?」
「まさか・・・負けてしまわれた?」
「それにしても、ヤツのあの神々しいまでの姿はいったい・・・本当に偽物なのか?」
色の中庭にいた人々は、魔法が乱発されていた空を見上げていた。
そこでは、偽物の目街の使徒であるピエナスと、本物の女神の使徒であるレオナルドが戦っていると、セシリアから教えられていたからだ。
そして先程、突如として空中に現れた巨大な火炎球に目を奪われていた。
その直後、自分達の目の前に、金色の光りに包まれたピエナスが現れ、騒然とした。
空中からそんな人々の姿を観察し、ピエナスはゆっくりと地上に降りる。
ピエナスが着地した場所の近くにいた人達は距離を取り、ピエナスの周りにはぽっかりと無人地帯が出来ていた。
「ああ、諸君、出迎えご苦労。女神の使徒を騙った偽物、レオナルドは私があそこに封じて来ましたよ」
空に浮かぶ火炎球を差し、ピエナスは言った。
レオナルドは偽物の女神の使徒だ、と。
もちろん『無属性魔法』を発動させ、効果範囲の半径4m以内にいる人達の意識を改竄させながら。
今は自分を中心に、半径3m程度の空白が出来ているため、効果が及ぶのは3mから4mの間にいる僅かな人だけだ。
それでも、自分が全員に近付きながら移動すれば、あっという間に全員の意識の改竄ができる、はずだった。
「レオナルド様が偽物?貴様は何を言っているのだ?偽物は貴様だろう!」
「・・・・え?」
明らかに『無属性魔法』の交換範囲内にいる女騎士が、自分を偽物だと言っていることに、ピエナスは何が起きたか分からなかった。
意識を改竄されているはずなのに、その効果が無い。
どういうことだ?
その女騎士、チェスカは、救出された聖騎士達と一緒にいたため、今はセシリアから離れ、偶々ピエナスが着地した場所にいた。
「レオナルド様は、間違いなく本物の女神の使徒様だ!それは、聖女であるセシリア様が認められている!さらにセシリア様は女神セレス様からの神託で、貴様が偽物だと告げられたと言っているぞ!」
チェスカのその言葉に、周りにいた人々は、やはりこいつは偽物なのかと確信していく。
チェスカが偽物と言ったからではない。
女神セレスの声を聞くことが出来る、聖女セシリアがそう言った、とチェスカが言ったからだ。
女神教の敬虔な信徒である彼らにとって、聖女が受けた神託は絶対である。
だが、ピエナスは今、そんなことはどうでも良かった。
今、1番の問題は、万能の力である『無属性魔法』が、どういうことか発動しないのだ。
さっきから歩き回り、多くの人をその効果範囲内に収めているのに、何度も『無属性魔法』を発動させているのに、誰も意識が改竄れてていないのだ。
だが、おかしい。
『無属性魔法』を使って、この体は金色に輝いたままだし、翼のように広げた光も維持できている。
なのに、なぜか意識改竄だけが出来ない。
これは先ほど、レオナルドが張った結界のせいなのだが、ピエナスはもちろん、この場にいる全員がその事を知るはずも無かった。
この想定外の事態に慌て、辺りをキョロキョロと挙動不審に見回していた時、見つけてしまった。
いや、遂に見つけた、と言うべきだろうか?
ここから少し離れた場所で、将来のお義父さん、お義母さん、お義兄さん達と一緒にいる、あのピンク色の髪をした愛らしい顔をした少女。
その姿は、周りにいるのがどうでもいい雑草にしか見えなくなるほど、存在感をこれでもかと放っていた。 注:ピエナス視点です
この少女と結婚する為だけに、ここまで来たのだ。
興奮したピエナスは、自分とその少女、セシリアとの間にいた人達を吹き飛ばし、そしてセシリアの方にゆっくりと歩み寄って来た。
来てしまったのだ、この変態が!
「嗚呼、セシリア、会いたかったよ!私はね、貴女に会う為だけに、ここまで来たんだよ!」
「え?あ、はあ。それはどうも?」
ピエナスの訳の分からない勢いに圧倒され、間抜けな返事を返してしまったセシリア。
この男は、つい先程まで上空で大規模な魔法を乱発させ、そしてたった今、目の前にいた騎士、非戦闘員を問わず吹き飛ばした張本人である。
普通なら警戒して然るべきなのだが、困ったことに、この男からは害意や悪意は一切感じられないのだ。
ちょっと変な人だけど、話しくらいは聞いてあげてもいいのかな?
などとセシリアが考えていたら、
「さあ、待たせたねセシリア!今すぐ私と結婚しよう!」
「「「「「はあっ!?」」」」」
この発言には、本人だけでなく、周りにいたストラテラ家一同びっくりですよ。
何と言うか、とにかく過程をすっ飛ばしすぎている。
そもそも、セシリアにとっては、このピエナスとは初対面なのだ。
なのに、まるでお互いが知り合いのように声をかけ、それが当然のことのように結婚を申し込んで来たのだ。
そりゃあ驚くでしょうね。
「あの、貴方は何を言っているのですか?何故私が、貴方と結婚しなければならないのですか?」
それは当然の疑問だろうね。
その理由を知りたいと思うのは当然であり、結婚を申し込まれた当人としては当然の権利だろう。
だが、返ってきた答えは、
「何故って、それが私と貴女の運命だからだよ?私は貴女をこんなに愛しているんだから、当然貴女も私を愛しているでしょう?なら、私達が結婚するのは当たり前じゃないですか?」
「はい?私、貴方のことなんか、何も知りませんよ?それなのに、どうして貴方を愛さなくてはならないのですか?」
「そんなこと、私達の愛の前では大した問題ではないよ!さあ、今すぐ私と一緒になろう!」
「嫌ですよ、気持ち悪い」
断られて当然ですよね。
言動がまるでストーカーでしかない。
自分が愛しているんだから、そっちも愛しているんでしょ?なんて理屈がまかり通ってしまったら、世の中がどうなってしまうのだろうか?
想像したくないので、この考えはここで終了!
プロポーズ?をして、セシリアに見事フラれてしまったピエナスはどうなったかと言うと、
「ははは、そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃないか?あ、もしかして、周りにたくさん人がいるからかな?彼らは私達の結婚を祝福してくれるのだから、それは失礼と言うものだよ、セシリア?」
セシリアは確信した。
さっきから薄々とそうではないかと思っていたけど、コイツはヤバい、と。
だって私、まだ9歳だよ!?
そしてコイツは30代。
そんな子供の私に求婚してくるなんて、変態ね!?
いや、確かに私に求婚してきた人の中には、少数だけど30代40代の男の人もいたかえど・・・
セレス様の絶対に当たってほしくない予想が当たってしまったわ・・・
この短いやり取りで、セシリアはピエナスが変態だと悟り、そしてそれは正解だった。
「私、貴方と結婚する気も無ければ、これ以上話す気も無いので、近付かないで貰えますか?」
なので、全力で拒否することを選んだ。
しかし、セシリアは知らない。
コイツは、そんな事ではめげない男だという事を。
と、言うか、セシリアを諦めるつもりなんて微塵も無いことを。
「またまた、そんな嘘なんか吐かなくても良いんだよ?さあ、本音を言ってごらん?」
そう言って、セシリアの方へ歩み寄って来るピエナス。
「貴様!これ以上こっちに来るな!」
その前に、セシリアの父親と2人の兄が立ち塞がる。
母親であるマリアンヌは、セシリアを連れて後ろに下がる。
ストラテラ家一同、こんな変態野郎にセシリアを渡す気など、全く無い。
勝てないことは分かっている。
けど、愛する娘を、愛する妹を守る為、圧倒的な強さを持つピエナスの前に、3人の男が立った。
それを見ていた周りの人々も動き、ピエナスとセシリアの間に入ろうとする。
「セシリア様に、近付くなああああっ!」
その人々の中で1番強いチェスカが、ピエナスに正面から斬りかかる。
そのスピードは、その場にいた聖騎士達の殆どが、目で追うのがやっとな程だった。
圧倒的なスピードで迫り、レオナルドによって鍛えられ、そして与えられた装備により強化されたステータスで以って放たれた攻撃は、
「邪魔ですよ」
無造作に振るわれたピエナスの手によって弾かれ、そのまま吹き飛ばされてしまった。
チェスカの力は、この場にいる多くの人が先程の戦闘で目にしていた。
教皇達を幽閉していた尖塔を守っていた、街にいるピエナスの配下とは一線を画す実力を持った自称聖騎士達を、あっという間に制圧した実力を。
しかしピエナスは、そのチェスカを造作も無くあしらってしまった。
そのことに、勇んで立ちはだかった人達に動揺が走った。
そのことに気付いたセシリアは、
「皆さん、道をあけて下さい。そうもっと広がって、もっとです」
自分を守るために立ち塞がってくれた人たちに、これから被害が出ないように、自分とピエナスの間に道を作ってもらった。
父親と兄達は最後まで動かなかったが、セシリアにお願いされ、渋々離れた。
今、セシリアとピエナスの間を邪魔する者はいなくなり、2人は直線上で向き合っている。
「おお、遂に私を気入れる準備が出来ましたか?」
「そんなワケありませんよ」
「ん?ではなぜ、彼らを引かせたのですか?」
「そこにいると、巻き込んでしまうからですよ」
「何からです?」
「これからですよ。『聖光弾斉射』!」
セシリアの手から、無数の光弾がピエナスに向かって放たれる。
超級の魔物ですら倒してしまう、セシリア最大の攻撃魔法。
その魔法を見た全員が、その一発一発に秘められた圧倒的な破壊力を感じ取ることが出来た。
それ程までに凄まじい攻撃だった。
そんな攻撃をされたら、いくらピエナスと言えど、無傷で済むはずは・・・
「ははは、そんな可愛らしい魔法で私を出迎えてくれなくても、私には貴方の愛が伝わって来ていますよ?」
「え?」
約1分間の斉射の後、そこには無傷のピエナスが立っていた。
相変わらず言っていることはアレだが、全員が理解してしまった。
この男には誰も勝てない、と。
「さあ、セシリア。今すぐ式を上げましょう?」
「いや、来ないで!」
「安心してください。貴女がこれ以上歳を取って醜くならないように、その成長は止めてあげますからね?」
「来ないで!私には好きな人がいるの!」
「何!誰ですか、セシリア!ちゃんとお父さんに教えなさい!」
「そうですよ、セシリア?今度その人を連れて来なさいね?」
『『『『『今、そんなことを言っている場合じゃないでしょう!?』』』』』
セシリアの発言に、こんな状況であるにも関わらず、ちょっとズレたことを言い出した現教皇と、その妻(大司教)の2人。
その2人に対し、周りにいた人々の心が1つになったツッコみが入りそうになったが、残念ながら教皇と大司教に意見できる者などおらず、その為、心の中で全力で叫ぶことになった。
「そんな嘘は、私には通じませんよ?」
そしてピエナスは通常運転だった。
つまり、自分に都合よく解釈している。
そして遂に、ピエナスはセシリアまで残り3mの距離まで来ていた。
「さあ、セシリア。私と一緒になりましょう」
「嫌だ!私はアンタなんかと結ばれるために、この世界に生まれたんじゃない!」
「そりゃそうだ」
「え?」
急に男の子の声が聞こえ、次の瞬間、
「があああああっ!?」
目の前まで迫っていたピエナスが叫び声を残して消え、代わりに1人の男の子が立っていた。
「ごめん、セシリア。遅くなった」
誤字、脱字など、お気付きの点が御座いましたらご指摘をお願いいたします。
もし、この作品を読んで面白い、と思って頂けたら幸いです。




