第93話 無属性魔法
どうして僕はコイツに、ここまで付き合ってあげているんでしょう?
もう少し会話が成立するようなら、転生者の先輩として敬い、色々と話しを聞いても良かったのですが・・・・
いや、やっぱり今のはナシで。
あんな変態に対して、敬うことが出来ません!
コイツの話しにまともに付き合うと、何と言うか、精神的にすっごく疲れるんですよね。
会話は噛み合わないし、発言内容はアレだし、余裕がある時は紳士っぽいけど、不利になると子供みたいな理屈を並べるし。
つまり、面倒になったので、終わらせることにしました。
「今度は峰ではなく、刃で斬ります。もう、骨が折れる程度じゃ済みませんからね」
「だから待って!?その武器はおかしいだろ!?キミの強さの秘密はその武器なんだろ!?」
「ええ、そうですよ。今の僕の力は、この刀があってこそですからね」
うん、嘘は言っていないですよ?
だってこの魔導具の刀、魔導刀のステータス抑制で、僕のSTRはこの程度に抑えられているからね。
これを持っていなかったら、ちょっと本気で動いただけで、セレスハートが壊滅してしまう事間違いなしです!
「やはりそうか!?ならばその武器を捨てろ!いや、私に寄こせ!それで対等だ!」
「うるさい黙れ」
ザンッ
右腕を伸ばして僕を指差し、またしても訳の分からない事を言い出したピエナスに一瞬で近付き、その右腕を斬り落とす。
「え?私の腕が、え?え?・・・・・う、うぎゃああああっ!」
あ~少しだけどスッキリした。
悲鳴を聞いたからじゃないですよ?
ピエナスの、ただ聞いているだけでイライラする会話が途切れたからですよ?
何が寄こせだ、何が対等だ。
自分は今まで敵対した相手が弱かった時に、その敵と対等な条件で戦ったことがあるのか?と、問いたい。
問いたいのですが、それをすると、また疲れる会話になる事が予想できているので、しません。
「さて、何か言いたいことはありますか?最後だから聞いてあげますよ?」
僕は今、ピエナスとは1mも離れていない。
この距離は、僕が刀を振るえば、いとも容易くピエナスの命を狩り落とせる距離でもある。
とは言っても、殺す気はありませんよ?
しっかり罪を償わせようと思っているので、気絶させるつもりです。
その後は『空間支配』を使って動けなくして、裁きはこのセレスハートに住む人々に委ねようと思っています。
なので、これはただの脅しです。
死の間際に、もしかしたら改心するかな~?という期待も、僅かですがあります。
ですが、その判断は間違ったみたいです。
「こ」
「こ?」
「こっちに来るなああああああっ!」
「なっ!?」
ピエナスが叫ぶと同時に、動けなくなってしまった。
何が起きた!?
「え?」
ピエナス自身も驚いている所を見ると、この現象はピエナスにとっても予想外だったみたいですね。
では、何が起きたのだろうか?僕は未だに動けないままです。
その原因を考え、そして気付いた。
今の状況を作ることが出来る、たった1つの可能性があることに。
同時にピエナスも気付いたようで、さっきまで恐怖で歪んでいた表情が、今ではニタリと嫌らしい笑顔になっている。
「ふ、ふはは、ふはははははっ!そうですよ!私は何に怯えていたのでしょう!?予想外の痛みで、冷静さを失っていたようですね!私には無敵のスキル、『無属性魔法』があるじゃないですか!?はははははははっ!」
「ちっ」
そう、コイツがド変態すぎてすっかり忘れていましたが、コイツは伝説の魔法、神の魔法とも呼ばれている、『無属性魔法(中)』を持っている。
その効果は、自身の半径4メートル以内の空間に対し、あらゆる干渉ができる、という代物です。
ピエナスは今、自身から1mも離れていない僕に対し、来るなと叫びながら無意識に『無属性魔法』を発動させたようですね。
言葉では来るな、と言っていましたが、空間に干渉した内容は僕の動きを封じるものだったみたいです。
おかげで、僕は完全に動けなくなってしまいましたよ。
でもまさか、今の状態の僕の動きを封じられたのは、完全に想定外でした。
だって、殆どのステータス抑制を、一番軽い1/10にしていたんですよ?
なのに完全に動きを封じられてしまうとは、油断してしまいましたね。
なんて考えている内に、余裕を取り戻したピエナスは、僕に斬られた腕を再生していた。
さっき骨折を治した時は一瞬だったのに対して、腕の再生はちょっと遅い気がしたけど、治癒と再生の違いかな?
でも、以前僕が実験で再生をした時は一瞬で治った気がしたけど、何かあるのかな?
「ふぅ~、やってくれましたね、レオナルド君?まさかここまで追いつめられるとは、この私も思ってもみませんでしたよ。ですが、やはり私の方が強いみたいですね?」
「え?強いの?さっきまであんなに取り乱して、情けない姿を見せてくれていたのに?」
「何、さっきのは少し慌ててしまっただけだよ。それにキミを消せば、あの姿を見た者はいなくなるからね。つまり、それは無かったことになるんだよ」
「ああ、そうですか。で?これからどうするんですか?」
「そうですねぇ、どうしましょうか・・・・」
考えてなかったの!?
ああ、そうか。
さっきまでそんな余裕は無かったし、しょうがないか?
「今すぐキミにトドメを差してもいいけど、それじゃあ私の気が収まらないし、かと言って、キミのような子供を甚振るのは私の良心が痛むし・・・・」
今、コイツ何て言った?良心?あったの!?
いや、良心って、個人個人異なるものだから、別に良いのか?
「そうだ、こうしよう!」
「何です?」
「このセレスハートにいる人々に、キミのことを偽物の女神の使徒だと喧伝し、裁きを受けてもらおう!女神教において、女神の使徒は絶対の存在であり、それを語るなどこの街の人々が許すはずがないからね?本物の女神の使徒が、偽物の私によって扇動された信徒によって殺される。なかなか面白そうじゃないか?」
良心はどこに行った!?
そもそも、その内容って盛大なブーメランですよ?
自分で自分が許されない、って言っているようなもんですよ!?
しかも困ったことに、僕がやろうとしていたことと被っているんですよね。
相手の動きを封じて、民衆に裁かせる。
コイツと同じことを考えていたと思うと、それだけで負けた気分になりましたよ・・・
でもね、
「あ~、残念だけど、セレスハートにいる人達は、貴方が偽物の女神の使徒だって知ってますよ?」
「え?どうしてです?」
「知らないんですか?今、この街には僕と一緒にレジスタンスが来ていて、この街にいた魔物や、貴方が勝手に叙勲した聖騎士もどきを制圧し、人々を開放しているんですよ。あ、ついでに捕らわれていたセシリアの家族と、処刑される予定だった聖騎士達はすでに解放されていますよ。今頃街は、貴方を弾劾する人達で溢れているんじゃないですか?」
今このセレスハートで戦っているのは、僕とピエナスだけ。
幽閉されていた教皇猊下と家族を開放したセシリアとチェスカさんは、そのまま捕らわれていた聖騎士達を救出しに行き、僕達が上空で戦っている間に全員解放していたりします。
街では、レジスタンスの皆により、まだ少し残っていた魔物や聖騎士もどき達を全て倒し、今は解放された街の人々がピエナスに抗議すべく、城に向かっている。
いや、向かっていた。
その道中、セレスハート上空に強大な魔法が乱れ飛んでいた為、人々はパニックを起こし、それどころでは無かったりします。
今は魔法は止んでいますが、またいつ再開されるのかと、人々は戦々恐々としているわけですよ。
それは横に置いておいて、つまりこの街には、ピエナスが女神の使徒だと信じている人がほとんどいない、という事です。
こいつ、ずっと城の中、というかセシリアの部屋にいて、外の情報とか気にしていなかったな?
「そうですか。では『無属性魔法』で全員の意識に干渉して、私が本物、キミが偽物、と認識してもらいましょうか?」
「うっわ~、人の意識を操るなんて、人として最低ですね?」
「そうですか?これは私にだけ許された能力なので、羨ましいのですね?」
「いえ、全然」
やっぱりコイツはダメだね。
あ、そうだ。
「それにしても、そのスキルは卑怯ですね?そんなの使わないでくださいよ?」
「何を言っているんですか、キミは?これは戦いですよ?卑怯とか言うのは、弱者が強者に対して言う、ただの負け惜しみです。戦闘中にそんなことを言うなんて、バカなんですか君は?」
よし、ぶっ飛ばす!
コイツの真似をしてみた結果がこれですよ!?
やっぱりコイツ、自分が有利になったら、相手と対等になる気なんて無かったですよ。
けど、どうにかしてやりたいけど、まだ体が動かないんですよね。
きっと、ピエナスの半径4m以内にいる為、『無属性魔法』がずっと有効になっているのでしょうね。
動けないだけで、スキルや魔法は使えるんですけどね。
「では、そろそろ行動を開始しますか。まずはキミが執着していたセシリアから、意識を変えに行きましょうか?え~っと、あ、あそこですね」
セシリアは城から出て来て、解放した家族や聖騎士達と一緒に空を見上げている。
空と言うか、僕達をなんですけどね。
結構人数がいるおかげで、ピエナスにあっさり見つかってしまいましたよ。
「それではレオナルド君。また後でお会いしましょう。と、その前に」
ピエナスは僕から離れてから両手をこちらに向け、今までで最大規模の火炎球を生みだし、こちらに向けて放った。
「これはさっきのお返しです。たぶんキミなら死なないでしょう?それでは」
真っ赤に染まった視界の外で、ピエナスがセシリア達の所に向かって飛んで行くのが分かった。
僕はと言うと、ピエナスが放った炎に包まれています。
包まれているだけで、ダメージは無いんですけどね。
そんな事より、今は支配圏をセレスハート中に広げ、この街にいる全員を守るための結界を張っています。
すなわち、ピエナスの『無属性魔法』による精神干渉を無効化するための結界を。
これは結界内で作用するもので、この中にいる限り、ピエナスが誰かの意識を改竄することは出来ません。
さすがにセレスハート全体に、この結界を張るのは時間がかかって大変でしたよ。
けど、これはピエナスが意識改竄をやると言った時から準備していたので、すでに完了していいます。
いつもの防御結界は発動するのに1秒とかからないですが、今回の結界は、その規模の為、1分近くかかりましたよ。
あ~大変だった。
あ、『無属性魔法』自体を無効化する結界も考えたのですが、こっちは複雑すぎて、かつ燃費が凄く悪かったので、断念しましたよ。
先程のピエナスとのやり取りで、僕はある仮説を立てました。
空間に干渉する能力は、先に発動させた干渉が優先され、後から発動した方はそれに抗う事が出来ないのではないか、と。
ピエナスに動きを止められた後、当然僕も『空間支配』を使ったのですが、他のことは出来ても動くことが出来ませんでした。
ならば同じ『無属性魔法』ではどうだ、と思ってやってみましたが、結果は同じ。
つまり、動くな、という命令に対し、術者が解除するか、その効果範囲から離れて自力で解除するまでは、どうすることも出来ない。
厄介なことにこの動くな、という命令は、ピエナスが4m以上離れても継続していましたよ。
あ、今はとっくに4m以上離れているので、『空間支配』で干渉して動けるようになっています。
では、これでみんなの安全は確保できたので、ゆっくりピエナスの所に向かいますか。
次が第3にして、最終ラウンドになりますね。
誤字、脱字など、お気付きの点が御座いましたらご指摘をお願いいたします。
もし、この作品を読んで面白い、と思って頂けたら幸いです。




