第90話 決着のつかない戦い
「はっ!」
ピエナスから殺気が膨れ上がった次の瞬間、ほんの瞬きをした程度の時間で僕との距離を詰め、殴りかかって来た。
今の僕は、防御に関するステータス以外を1/10000に抑えているため、この動きに対応することが難しかった。
「うおぉっ!?」
それでも、今までの戦闘経験と各種スキルのおかげで、何とか防御することは出来ましたよ。
いや~危なかった。
別に舐めプをしようとしていたわけでは無かったのですが、危うくいきなり一発貰ってしまうところでしたよ。
さすがはステータス500万、と言った所ですね。
けど、思っていた以上に攻撃が軽かったような?
きっと、まずは様子見で手加減をしたのかな?
「ふむ?流石は女神の使徒に選ばれただけはありますね。少し手加減しすぎましたかね?普通なら今の攻撃で、ただの肉塊になっているはずですからね」
「手加減したんですか?そのスピードには驚かされましたが、攻撃は結構軽いですね?その程度では、僕に傷1つ付けることは出来ませんよ?」
やっぱり手加減していたみたいですね?
このままだと、ちょっとスピードに付いていけなくなりそうなので、ここはSTRとINTはそのままにして、AGLとDEXは1/100に変更しておきますか。
こうすれば、僕がコイツに後れを取ることは無いでしょうね。
「はははっ、ギリギリで防御が間に合ったくせに、大きく出ましたね?では、次はこれで行きましょうか?」
そう言って、どこから取り出したのか、ピエナスの手には剣が握られていた。
きっと、僕と同じく異空間収納を持っているんでしょうね。
無属性魔法があれば、その位は出来るでしょうし。
「私の剣術スキルはね、なんと最高ランクの極なんですよ。そして、この剣は私の全力にすら耐えられるように強化された特別製です。もちろん、切れ味も鋭いですよ?キミのその変わった形の剣では、すぐに折れてしまうだろうね?さあ、どうしますか?」
「どうするも何も、それがどうかしたんですか?え、まさかその程度で僕に傷を付けられるとでも思っているのですか?」
だって、ステータス上でも僕の方が上だし、僕も剣術(極)は持っているし、僕のこの刀はそっちが持っている剣よりも優れているし、これでどうやって負けろと?
そんなことを知る由もないピエナスは、僕の言葉を挑発と受け取ったようですね。
事実、挑発した訳ですが。
「流石の私でも、ちょっとイラッと来ましたねぇ?そこまで言うのなら、今度は手加減抜きで戦いましょうか。せめて、すぐには死なないでください、よ!」
そう言って、今度はさっきよりも速いスピードで僕に迫り、上段から斬りかかって来た。
ふむ?さすがに剣術(極)だけはあり、隙が無く、一撃で相手を真っ二つに出来そうなほど鋭い斬撃だね。
ま、僕には効かないけどさ?
「ふっ!」
ピエナスが間合いに入った瞬間、僕は納刀したままの刀を構え、ピエナスが振り下ろしている斬撃よりも早く、居合抜きを放った。
その斬撃は、スピードはあっても攻撃力が足りず、ピエナスを横に弾き飛ばして倒しただけでした。
だって、STRは1/10000のままだから約8万ですよ?
500万のVITを持つピエナスを、この一撃で真っ二つにすることなんて出来ませんよ。
あ、僕に弾き飛ばされたピエナスが起き上がった。
「今、何が起きたんですか・・・?何故私が、倒されているのですか・・・・?」
どうやら僕の今の動きは、ピエナスには見えていなかったみたいですね。
今のは単純に、僕の方が早かっただけの話しだけど、僕の今のAGLは約8000万だからね。
500万しかないピエナスには、この動きが見えなかったのはしょうがないでしょう。
僕が居合を放った後、そのまま刀を振り抜いた姿勢でいれば気付いたかも知れないけど、刀はとっくに納刀しているからね。
一応、説明だけはしてあげますか。
「何故って、貴方の斬撃が余りにも遅かったから、僕の斬撃の方が先に届いてしまっただけですよ」
「キミの斬撃が?そんなわけ無いでしょう?」
「じゃあ、もう一回やってみたらどうですか?今度は慢心しないで、しっかり僕の動きを見ながら攻撃すれば、ギリギリ見えるんじゃない?」
「ほう、言ってくれますね?いいでしょう。その挑発、敢えて乗ってあげましょう」
そう言って再び剣を構えるピエナス。
そして、斬り込んで来たピエナスが僕の間合いに入ったと同時に刀を構え、加減して居合を放つ。
再びピエナスが僕に弾かれるが、今度はしっかり踏みとどまった。
さすがに2回は倒れてくれなかったですね。
「どうです?さっきより少し遅くしましたが、何とか見えましたか?」
「・・・・・ええ、信じ難い事ですが、キミが私よりも早く動くのが見えましたよ・・・」
やっぱり見えたみたいですね。
自分が一番強いと思い込んでいる変態野郎に、上には上がいる、という事を教えてあげられたかな?
はい、単純にさっきコイツにそう言われたのが気に入らなかったので、見せつけたやりたかっただけです。
僕がスッキリした以外、特に意味はありません。
「ですが!」
「ん?」
「確かに君の攻撃は早かったが、私には傷1つ付けられていないですよ?」
「まあ、そうですね?それが?」
「それが?ふふっ、やはり子供ですね?いいですか?キミの攻撃がどれだけ当たろうと、私にダメージを負わせることは出来ない。つまり、どんなに頑張っても、キミは私を倒すことができない、という事ですよ!」
「このままだと、そうですね。それで?」
「まだ分からないのかな?キミの攻撃は私に効かないが、私の攻撃はキミには効くんですよ!」
そしてまた、僕に斬りかかって来た。
その斬撃を僕は、素手で掴み、止める。
「え?」
「いや、え?じゃなくてね?僕にも貴方の攻撃は効かないんですよね。で、どうするんですか?」
これは完全に想定外だったようですね?
まさか、ステータス500万と剣術(極)による斬撃を、素手で止められてしまうとは。
あ、もちろん、刃の部分を手の平で止めてから掴んでますよ。
「そんなバカな!?いったいどんな魔法を使っている!?」
「魔法?そんなの使っていませんよ?」
「ウソですね!・・・まあ、いいでしょう。ではそのウソが、どこまで続くのか見させてもらいましょうか!」
そうしてピエナスが剣を構え、またしてもめげずに斬りかかってきましたよ。
常人では捉えることすら出来ない、あり得ないスピードで僕に襲い掛かるピエナスに対し、僕はそれ以上のスピードで動き、カウンターを決める。
しかしピエナスにはダメージを与えられない。
すぐに反撃を試みるも、またしても僕に斬られる。
そんなやり取りを何度も重ねると、さすがにピエナスも慣れて来たのでしょうね。
何度目か数えていなかったけど、僕の居合がまたピエナスを捉える。
だけど、今度のピエナスは剣の軌道を変え、居合を防いで見せた。
おおっ!初めて防御に成功したじゃないですか!
なんて、ちょっとピエナスを褒めてしまいました。
さらに、居合を防がれたことで動きが止まった僕に対し、素早く反撃を入れて来た。
避けるのは簡単だけど、ここはピエナスの防御初成功を祝し、敢えて喰らってやりましたよ。
ま、ダメージは無いんですけどね?
「はははっ!どうですか!?もうキミの動きは見切ったよ?ここからは、私が攻撃をする番だ!」
「・・・・・・・」
「どうしました?恐怖で何も言えないのかい!?」
僕が沈黙したことを、自分にとって良い方向に解釈してしまったようですね?
けど残念ですが、僕が黙っていたのは、わざと攻撃を受けなければよかったよ、という後悔からでした。
何と言いますか、調子に乗らせてしまってスミマセン・・・
「さあ、どんどん行きますよ!」
ああ、調子に乗ってしまった勘違い野郎が、嬉しそうに斬りかかってきましたよ。
しょうがないから、戦い方を変えましょう。
さっきまでは、ピエナスに斬りかからせてからのカウンターで迎撃した、後の先を取る戦い方でしたが、今度はこっちから積極的に動くことにしました。
ピエナスの斬撃を避け、すぐにその場から移動。
ピエナスの背後に移動して、そこから斬撃を放つ。
あ、後ろから斬られたピエナスが、勢いよく顔から地面に突っ込んだ。
状況としては、攻撃が当たると思った瞬間、目の前から標的が消え、空振った体勢のまま後ろから斬られた。
そりゃ当然、前に転んでしまう訳ですね!
あ、起き上がった。
「何ですか、今の動きは!?」
「何って、余りにも遅い攻撃を避け、貴方の背後に移動し、斬りつけただけですよ?」
「そんな、あり得ません!」
そう言ってまた斬りかかってきましたよ。
せっかく攻撃の仕方を変えたのだから、このまま戦いましょうか?
と、いう事で、高速で動くピエナスに、それ以上の高速で動いた僕の攻撃がどんどんヒットする。
ダメージは無いに等しいけど、こんな状況が10分も続けば、さすがに精神がやられてしまったのでしょうね。
「ウソだ・・・あり得ない・・・」
「あれ?お~い?」
ピエナスがブツブツ言い始めてしまいましたよ。
そんなにショックだったんですかね?
ステータス500万って言ったら、ミコトさんの配下の古代龍と同じだから、レシタクルス大陸におけるステータスランキングなんて物があれば、間違いなく上位にいる実力者だろう。
これだけの力なら、厄災級の魔物にも勝てるしね。
それなのに、こんな子供にダメージはないとは言え攻撃され続け、さらに自分の攻撃が効かないというか当たらない現実は、受け入れ難いみたいですね。
とか思っていたら、
「よし、それでは攻撃方法を変えてみましょうか?」
お、何か閃いたのかな?
なんて余裕を見せていたら、ピエナスは両腕を横に伸ばし、手の平は上にした。
そして、その手の平の上に、巨大な火炎球が2つ現れた。
「物理攻撃が効かないなら、魔法で攻撃してみましょうか?」
「ちょっと!?」
僕は焦った。
まさかこんな城のすぐ横で、ここまで巨大な魔法を使うとは思ってもみませんでしたよ!
別に、そんなの喰らっても僕にはダメージなんかありませんよ?
だけど、間違いなくこの城には被害が出るね。
セシリアの家である、この城が。
これじゃあ、ここまで移動した意味がないじゃないか!
道中、この変態の個人的な歪んだ価値観に彩られまくった過去話を聞かされ、僕がどれだけ精神にダメージを受けたと思っているんだい!?
「ふふ、焦っているね?どうやら君には、こっちの方が効くようだね?」
あ~しまった。
僕の焦りが、弱点を突かれたことによる焦りだと勘違いされてしまいましたよ。




