第84話 聖女無双2
「レオナルド様!前方より魔物が接近!数は50!我々が前に出ます!」
「いえ、あの程度の魔物ならこちらは1人で充分です。チェスカさん、行けますか?」
「はい!お任せください!」
「では、御者を代わりますので、お願いします」
「はい!それでは、セレスハートを穢す魔物達を殲滅して参ります!」
「レオナルド様!?この嬢ちゃんが強いのは知ってやすが、いくらなんでも1人じゃ危険ですぜ!?俺達が援護しやす!」
「ヴァンド殿、あの程度の魔物など、私1人で充分ですから、手出し無用でお願いします!」
「オイ嬢ちゃん!?まだまだ魔物どもは集まって来てんだぞ!?無茶すんなっ!」
レジスタンスの集団の先頭を走っていた僕は、セシリアの乗った馬車の御者をしていたチェスカさんと入れ替わる。
僕が作った魔導装備に身を包んだチェスカさんは、御者台から飛び降りると、ヴァンドさんの制止を振り切り、疾風の速さで駆け出し、前方に群がって来た魔物の群れに突っ込んでいく。
魔物の群れとチェスカさんが接触した瞬間、血飛沫が上がる。
その血はもちろん、チェスカさんに斬られた魔物達の血です。
今のチェスカさんの動きは、群がっている魔物には捉えることが出来ない速さで、おそらく魔物達は何が起きたか分からないまま絶命していることでしょう。
今、僕達の進行を妨害するように前方に集まって来ている魔物は、下級と中級のゴブリンやハウンドの系列ばかりで、1番の大物は1体だけいるオーガですね。
この程度の魔物なら、例え100体集まろうとも、今のチェスカさんの敵ではありません。
とは言え、斬り捨てられた魔物の残骸が道の妨げになってしまっていたので、それらは全て、馬車に備わっている防御結界を使って弾いて行きます。
それにしても、どうやらこの街にいる全ての魔物が、僕達に向かって集まっているようですね。
さっきからチェスカさんが奮戦していますけど、その数は全く減らないどころか、増援の方が多いくらいです。
この街にいる魔物の数は、何と約1000体。
何でこんなに魔物がいるのか?と言う疑問は横に置いて、このままだとチェスカさんだけでは討ち漏らしが出てしまいそうですね。
僕が魔導銃で加勢しようかな?と考えていたら、僕の後ろから、つまり馬車の中からセシリアが出て来て、僕の横に立つと、
「チェスカ!私も戦いますので、少し離れてください!」
と、声を張り上げ、手を魔物の方にかざした。
「セシリア様!?分かりました、お願いします!」
「ちょ、え、聖女様!?何をする気ですか!?」
セシリアの実力を理解しているチェスカさんは、すぐにその場を離れ、セシリアの魔法に巻き込まれないように移動した。
対して、レジスタンの皆さんは、セシリアの声を聞き、慌て始める。
僕からセシリアが強いという事は聞いていても、戦っている姿を見たことが無いし、超級の魔物を倒せると言われても、信じ難いのは仕方がないでしょう。
なにせ、セシリアはこのセレストメディエル聖教国の現教皇の娘であり、聖女なのだ。
そんな10歳にも満たない箱入り娘が強いと言われても、誰も信じられないでしょうね。
まあ、ここに、同じ年齢で女神の使徒であり、圧倒的な戦闘力を見せつけた子供もいますけどね?
レジスタンスの皆にとって、僕はもう、異次元の存在だとでも思われているみたいです。
「聖女様!ここは俺達が前に出ますから、馬車の中にいてください!あなたにケガをさせちまったら、教皇様や聖騎士の奴らに合わせる顔が無くなっちまう!」
そう言って、馬車のすぐ後ろを走っていた馬に乗ったレジスタンス10名が、馬車を追い抜こうと走っていく。
だけど、
「あ、ちょっと!?そこにいると、私の魔法に巻き込まれてしまうから、下がっていてください!」
「へ?」
「いいですか?決して私達の前に出ないでくださいね?」
ポカーンとした顔をしているレジスタンスに向けて、警告を発したセシリアは、これ以上レジスタンスが前に出る前に、魔法を発動した。
「せーの、えいっ!」
可愛らしい掛け声とともに放たれたのは、今ではすっかりセシリアの得意魔法となった、例のガトリングガンの如き連射スピードで光魔法を撃ち出す、『聖光弾斉射』という名が付けられた魔法です。
もちろん命名したのは、セシリア本人です。
最初はジェノサイドとか、デストロイとか、かなり物騒な名前を付けようとしていたので、全力で阻止しましたよ。
既存の魔法ならともかく、聖女様オリジナルの魔法にそんな名は付けられないでしょ?
そんなことを許したら、将来『破壊の聖女』とか『殺戮の聖女』だなんて二つ名が付けられてしまうかもしれないからね
セシリアは当然、僕が作った魔導装備を付けています。
ステータスを+20万にする、ちょっとイカれた性能の、神器と言っても過言ではないオリハルコン製のローブ『アルテミス』を。
あ、これもセシリアにねだられて命名しました。
ギリシャ神話における、月の女神から名前を拝借しました。
最初は、ローブの色が真っ白なことと、セシリアがお姫様みたいな立場だったから、雪のように白いお姫様の名前にしようと提案したのですが、
「レオ君知ってる?あのお話しの原版って、実の母親に何度も命を狙われた挙句、結局殺されて、しかもその死体が美しいからと保管されて、それを見た王子に死体の入った棺ごと貰われて、その後なんとか生き返ったら、その王子との結婚式で自分を殺そうとした母親を殺しちゃうんだよ?そんな怖いお話しのお姫様の名前を貰っても、嬉しくないんですけど!?」
と、僕も知らなかった衝撃の事実を教えられ、却下しました。
って言うか、あの王子って、死体を愛したんだよね。
しかも、セシリアの説明だと、お姫様が殺されたのって10歳かそこそこの頃の話しらしいし、そう考えると、当時の王族の趣味って・・・・
いや、このことは考えるのは止めましょう。
なにせ、今僕達がいるこの世界は、中世ヨーロッパ程度の文明レベルで、しっかり王権制度が敷かれている。
つまり、この物語の世界観と一致する部分が多くある訳ですよ。
もしかしたら、どこかの国の王族にも、同じような趣味嗜好の人がいてもおかしくない・・・
と、言う訳で、やっぱり神様から名前を貰うことにして、どうせならセシリアと同姓の女神様の名前を貰いました。
気に入ってくれたようで、何よりです。
ちょっと脱線してしまいましたが、『アルテミス』を装備したセシリアのINTは、約46万です。
そんな桁外れのINTで放たれる魔法は、1発1発の大きさは小指程度と小さいですが、そこに秘められた攻撃力はというと、一撃で魔物の体を貫通するほど。
そこいらの騎士が相手なら、装備していた盾と鎧を楽々貫通してしまうでしょう。
この『聖光弾斉射』の前では、超級の魔物ですら、あっという間にボロボロにされてしまうという、とても恐ろしい魔法です。
僕は一度、ステータスを1/10000の状態にして受けてみたことがありますが、あれは本当にヤバかったですよ。
避けることが難しいですし、一度喰らったら、怒涛の連射から逃げることすら出来なくなります。
HPだけはそのままにしていたので、削りきられる前にステータスを上げて脱出し、何とか生きていましたが、かなり凶悪な魔法です。
で、そんな魔法を、中級以下の魔物が喰らったらどうなるかと言うと、もう、肉片しか残っていません。
あ、射程は調整してあるので、流れ弾による被害はありませんからね?
斉射した時間は僅か10秒程度でしたが、僕らの前に集まっていた、700を超える魔物は全滅しています。
余談ですが、チェスカさんが頑張って倒した魔物の数は、100ちょっとです。
「よし、いい仕事したわね、私!」
「お疲れ様。これで暫くは魔物は寄って来ないだろうね」
「流石です、セシリア様。あれだけの魔物をあっという間に殲滅されるとは、素晴らしいお力です!」
「「「「「・・・・・・・・・・」」」」」
一仕事終えて、清々しい表情のセシリアと、そのセシリアを褒め称えるチェスカさん。
そして平然と現状報告をしている僕。
そんな僕らを、ただただ絶句して見ているレジスタンスの皆さん。
幸か不幸か、この戦いを目撃できたのは先頭にいた集団だけで、それ以外のレジスタンスの人達は見ることが出来なかった。
その為、後ろから追い立てられる形となり、絶句していたヴァンドさん達先頭にいたレジスタンスは止まることなく前進を続けていました。
初めて見た、聖女様が戦う姿。
レジスタンスの目的の1つに、もし聖女セシリアが賞金目当ての賊に捕らわれていたら、命に代えても救出する、と言うのがあった。
聖女は非力な少女だと思われていたし、現に、レオナルドに会うまではその通りだった。
けど今は、レオナルド謹製の魔導装備と、自身のユニークスキル『成長補正(中)』によって、とんでもない強さを手に入れてしまっている。
その圧倒的な力を目にして、レジスタンスの面々は、ちょっと自分達の存在意義が分からなくなってしまった。
だって、この3人がいれば、セレスハート開放なんて余裕じゃね?と、思えてしまったからだ。
だけど、全員は思い出した。
女神の使徒のレオナルド様から、自分達だけでは救うことが出来ない人々を助けてほしい、と頼まれたことを。
その時、偽物の女神の使徒の連れて来た騎士との戦闘になるかもしれないから、それまでは傷1つ負うことなく付いて来て欲しい、と言っていたことを。
レオナルド様は言っていた。
絶対に誰も死なないでくれ、全員生きて、また会おう、と。
その願いを叶えるべく、レオルド様と聖女様、そして護衛の騎士の3人は、自らが先頭に立って、戦い続けているのだ。
全ては、自分達レジスタンスと、セレスハートにいる人々を1人でも多く生かすために。
その想いに気付いたレジスタンス達は、今はこの頼もしすぎる味方の戦いを見守り、この後訪れるであろう、聖騎士をも圧倒したという敵との戦いに備え、力を温存することにした。
魔物を蹴散らした後は、一切の妨害も無く、セレスハートの大通りを突き進んでいく。
これだけ派手に戦えば、建物の中にいる人々が何事かと顔を出しそうなものですが、それも一切ない。
これは、僕が昨晩偵察に来た時にやっておいた、仕込みのおかげです。
この戦いの最中、下手に顔を出してしまった結果、戦いに巻き込まれてしまうだろうと考え、手を打っておきました。
おかげでホラ、この通り!
敵以外が現れない為、余計な被害が出ることなく順調に進んでおります。
このセレスハートは、僕の故郷、アステリア王国の首都、エスカフィールよりも大きい街です。
そんな街の中央通りが無人と言うのは、すっごい違和感がありますが、おかげでもうすぐ城に到着しそうです。
街の構造はエスカフィールと同じようで、街の中心に城があり、そこから貴族街、上級街となっている。
貴族街とは言いましたが、ここは宗教国家であるため、確かに貴族もいますが、上級職に就いている聖職者の人やその家族も、ここで暮らしている。
その貴族街の手前の区画、上級街の入り口に、武装した騎士達が集まっていました。
さっき、突破した外壁の方から魔法による照明弾が上がっていた為、きっとそれで僕達の存在に気付き、ここで待ち構えていたのでしょうね。
では、ここを突破したら、いよいよレジスタンスの皆と別れて、各々に割り振られた役割を果たしましょうか。
まずは、この聖騎士達を圧倒したという噂の騎士達を蹴散らしましょう。
誤字、脱字など、お気付きの点が御座いましたらご指摘をお願いいたします。
もし、この作品を読んで面白い、と思って頂けたら幸いです。




