第81話 偵察
「なんなんだ、嬢ちゃんのこの強さは・・・・」
今は僕とセシリアで、チェスカさんに倒された全員を回復しています。
そしてヴァンドさんは、完膚なきまでに叩き潰された相手、チェスカさんの強さに戦慄しているようですね。
「あなた方は、上級の魔物と戦ったことはありますか?」
「そりゃあ、何度かはありますぜ?」
「1人で?」
「まさか。仲間と数人がかりで、犠牲を出しながらも何とか倒したんですよ」
「そうでしたか。実はチェスカさんは僕との訓練の結果、1人で上級の魔物数体を倒せるほど強くなりましたからね。超級の魔物にはまだ勝てませんが、それでも手傷を負わせれる程度には強いですよ?」
「・・・・本当、ですか?」
「はい、本当ですよ?ついでに、セシリアは超級の魔物にも勝てます」
「「「「「・・・・・・・」」」」」
全員が見事に黙ってしまいましたよ。
疑いたい気持ちはあるのでしょうが、他の誰でもない、女神の使徒である僕の言葉だからこそ、その言葉が真実だと分かったのでしょう。
そして、しばらく沈黙が続いた後、
「その、なんだ、嬢ちゃん。すまなかった・・・」
ヴァンドさんの弱々しい声による謝罪で、この場は収まりました。
「それにしても、レオナルド様に訓練してもらえれば、誰でもそんなに強くなれるんですかい?」
僕が鍛えた2人が、自分達の想像を超えた強さを持っていることを知り、興味を持ったみたいですね。
ヴァンドさんは、あわよくば、ここにいる全員のレベルアップを図ろうとしているのかも知れません。
「ええ、見事生き残ることが出来れば、強くなれますね」
「生き残れば?そんなに厳しいんですかい?」
「そうですね。簡単に言いますと、ダストレア大樹海の中で10日間ひたすら魔物の群れと戦い続けた結果ですからね。それが出来るなら、大抵の人は強くなれるでしょうね」
「なっ!?」
そりゃあねぇ?世界最高の危険地帯であるダストレア大樹海に10日間なんて、ただの自殺行為でしかない。
そんなことは、このレシタクルス大陸に住む人なら誰でも知っている常識です。
この会話を聞いていたレジスタンスの全員が、満場一致で無理だ、と判断したようです。
「それで、僕からも皆さんに伺いたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「はい、何でしょうか?」
やっと僕の本題に入れますよ。
長かった・・・途中に余計なことがあったせいで、大幅に時間を費やしてしまいましたよ。
あ、今僕と話しているのは、参謀のヘックスさんです。
「レジスタンスの皆さんは、いつ、セレスハートに向かう予定ですか?」
「早ければ明日。遅くても聖騎士達が処刑される3日後までには、と考えています」
「そうですか・・・準備はどのくらい進んでいるのですか?」
「準備は終わっています。後は、同志が出来る限り集まるのを待っているのです。正直に申し上げますと、この戦力だけでは心許ないのですよ」
なるほどね。
確かにそれは僕も感じていましたよ。
これだけ人数がいても、それなりの強さを持っているのは僅か数人だけ。
ならば、質より量で対抗するしかないのでしょうね。
「ですが、貴方様方が加わって下れば、その戦力差も覆せるでしょう」
「ええ、その通りです。なので、準備が整っているのなら、明日出発しませんか?」
「明日、ですか?」
「そうです。早ければ早い方が良いでしょう?そもそも、僕達は始めから明日、セレスハートに突入する予定でしたからね」
「え?たった3人で、ですか?」
「はい。偽物の女神の使徒を倒すだけなら、充分可能です」
「では、なぜ私達に接触して来たのですか?」
尤もな質問ですね。
3人だけで充分なら、なぜ態々レジスタンスに接触して来たのか?
ただの足手まといにしかならないのに、どうして?と、ヘックスさんは思っているでしょうね。
「理由は2つあります。1つは、この街に立ち寄って情報収集をしていたら、貴方達レジスタンスの存在が見えて来たので、より詳しい情報を得る為。もう1つは、僕達3人だけでは、救える人が限られてしまう為、捕らわれている人達を助け出す人手が欲しかったからです」
「そうでしたか。つまり、人数さえ集められれば、誰でも良かったのですか?」
おっと、流れが怪しい方向に行きそうですよ?
さて、ここは先ほど同様、下手なウソなど吐かず、本心を話しましょうか。
ウソも方便とは言いますが、本気の人には本気を以って返さないと、失礼ですからね。
「まさか。誰でも良ければ、適当に傭兵でも雇いますよ。僕が求めていたのは、捕らわれている人の身を案じ、本気で助けようとする気持ちを持った人です。もし貴方達にその気持ちが無く、レジスタンスとは名ばかりの集団でしたら、とっくに僕が壊滅させていますよ」
「それは、つまり、私達は貴方様のお眼鏡に適った、と受け取っても宜しいのですか?」
「そんな大袈裟な話しではありませんよ。でも、そうですね。皆さんが本気でセレスハートを救おうとしているのは良く分かりましたからね。僕達が求めていたのは、貴方達のような人です。改めて、僕達に協力をお願いできませんか?」
「ヴァンドさん。レオナルド様からのこの要請に、どう応えるかはリーダーである貴方に任せますよ」
「おいヘックス!?何で俺なんだよ!?」
「リーダーだからですよ!これほどの名誉ある要請に、私が応える訳には行きませんからね?」
このヘックスさんは、欲が無いのでしょうね。
自分でも言っていましたが、これはとても名誉あることなのでしょう。
何せ、女神教の総本山であるセレストメディエル聖教国の首都、セレスハートの奪還の協力を、女神の使徒と聖女にお願いされているわけですからね。
こちらとしては、そんな気持ちは一切なく、純粋に協力してもらいたかっただけなんですけど、女神教の信徒である彼らにとって、これはそう言ったことらしいです。
「ちっ、俺はこういうのは苦手なんだよ・・・」
そう言いながら、渋々僕とセシリアの前に進んでくるヴァンドさん。
ん?この流れって、もしかして・・・
「女神の使徒、レオナルド様。我々レジスタンスは、貴方様と共に戦う事を誓います!」
止める間もなく、僕達の前で跪いたヴァンドさんが、丁寧な口調で宣誓をして来た。
マジですか!?
僕、そんなに偉い人じゃないんですから、畏まらないでくださいよ!
いや?女神の使徒って、女神教においては女神セレス様の次と言うか、同等の地位だったような?
という事は、僕は偉いのかな?
なんて考えている内に
「レジスタンスのリーダー、ヴァンド、及びレジスタンスの皆さん。ご協力感謝いたします。私達は必ずや、あの偽物から、私達の国を、セレスハートの街を取り返しましょう!」
「「「「「はっ!」」」」」
と言った感じで、セシリアがまとめてくれました。
さすがは聖女様!
「これ、本当ならレオ君の仕事だったんだからね?」
「はい、すみません・・・」
睨まれてしまいました。
レジスタンスの協力を得た後、僕達は明日の作戦を練り、そして早めに休むことになりました。
僕達には個室が用意され、今は明日に備えて全員寝ています。
正確には、何でも出来る万能スキル『空間支配』を使って、僕が無理矢理眠らせました。
緊張や興奮で、全然寝付けない人が多数いましたからね。
「さて、と。確認した限りでは皆寝たみたいだから、ちょっと散歩にでも行ってくるかな?」
支配圏を広げて確認したので、間違いないですね。
僕は部屋の窓を開け、そのまま空へ飛び出す。
まずは10km程上昇し、そこから音速に近い速度で南へと向かう。
『空間支配』を使って周りに被害と音が出ないように配慮してありますが、念の為に高度を取ってあります。
そして、セレスユカティスの街を出て程なく見えてきたのは、この国最大の街にして首都であるセレスハート。
僕は今、明日に備えて偵察に向かっています。
必要ないかもしれませんが、今の内に一度、セレスハートの現状を見ておきたかったからです。
街の中に静かに降り立ち、『空間支配』を使って気配を完全に遮断し、更に誰にも見られないように光を屈折させてのステルス化をしています。
念の為、探知系の魔法にも引っ掛からないように、探知系統の魔法に触れても、そこには何も無いと錯覚させる結界も僕の周りに張ってあります。
さて、街の様子はどうかと言うと、流石に夜だけあって静かですね。
ただ、それは人の喧騒がない、と言うだけで、街の中には多くの生き物が闊歩している。
魔物ですね、間違いなく。
支配圏で感知した限りでは、この魔物達はセレスハート中に散らばっていて、全て中級以下の、世界中至る所に出没する魔物のようです。
けど、その魔物が大人しく街の警備をするかのように歩いているのは、ちょっと不気味ですね。
誰かが操っているのは明確ですが、いったい誰でしょうね?
魔物使いという職業があるとは聞いたことがありますが、1人でこれだけの数を従えられるものなのかな?
それとも、複数の魔物使いがいるのかな?
でもまあ、この程度の魔物なら、チェスカさん1人でも十分対応できるから、今は放っておきましょうか。
ここで下手に魔物の数を減らし、態々敵を警戒させる必要もないですからね。
外を出歩いている人はいませんが、建物の中には、しっかり人がいます。
おそらく、この時間に外を出歩いた場合、徘徊している魔物に容赦なく襲われてしまうのでしょうね。
家の中では、眠ることも出来ずにガタガタ震えている人が、たくさんいます。
家族で1か所に固まり、親が子を守るようにして抱きしめている。
そりゃあ、恐怖以外の何者でもない魔物が、これだけたくさん街の中を徘徊していたら、普通は怖いですよねぇ?
なんて、呑気に言っている場合ではないですね。
僕にとっては、この程度の魔物が、仮に万の軍勢でかかってこようとも、簡単に殲滅できるので微塵も怖くない。
けどここにいるのは、僕と違って戦う力を持たない、ただの一般人だ。
首都セレスハートが占拠されて、2週間以上の時間が経っている。
その間、彼らは恐怖に怯えながら暮らしていたのだ。
さらに、この街の安全を守って来た聖騎士達も、今は全員捕らえられている。
自分達がいつ、この魔物達に襲われたとしても、助けてくれる者がいないのだ。
その恐怖がどれ程の物なのか、圧倒的強者である僕には、決して理解できない。
理解はできないが、今、彼らがどれだけ恐怖に耐えているのかは感じられる。
セレスハートの現状を知っていたにも関わらず、まだ大丈夫だからと呑気にしていた自分に、腹が立ってきた。
別に僕は、聖人君子ではないし、彼らを救う義理もない。
でも、この現状を知ってしまった時、僕の中に芽生えたのは、今まで何もしてこなかった自分への後悔と、現状に怯えている人達を救ってあげたいと思う気持ちでした。
僕は支配圏を、このセレスハート全体に広げる。
そして、明日戦いに備えて、いろいろと仕込みをしておきます。
やることを終えた僕は、セレスハートから空間転移でセレスユカティスの宿まで戻り、眠った。
明日、絶対にセレスハートを開放する!
誤字、脱字など、お気付きの点が御座いましたらご指摘をお願いいたします。
もし、この作品を読んで面白い、と思って頂けたら幸いです。




