第64話 待ち人来た
「報告します!ただいま女神の使徒様が、このセレスハートに向かっているとの報告が届きました!」
私達家族が食堂で昼食を食べていると、緊急の伝令が来げました。
それを聞いた家族全員が、その伝令の方を一斉に向く。
あ、言っていなかったですが、私には兄と弟が1人ずついます。
兄はグラディスで、弟はデュラントです。
「それは本当か!?使徒様は今どこにおられるのです!?」
代表して教皇たるお父様が質問をする。
「はっ!この報告は4日前に国境の街、アルケルドから早馬で送られた物です。使者様は馬車に乗って向かわれているとのことですので、おそらくですが、今はユーラの街辺りかと。ここセレスハートには、あと4日ほどで到着すると思われます!」
「よし!急いで歓迎の準備に取り掛かかりましょう!各部署に連絡を回してください!」
「はっ!」
遂に星夜君(仮)がここにやって来る!
待ちに待った瞬間が訪れようとしています!
「はっはっはっ!遂にセシリアの婚約者候補が見えられたね!これは国を挙げて歓迎しないといけないね」
「ええそうね。私達の新しい息子になるのだから、しっかりお出迎えしてあげましょう」
「いやいや、マリアンヌ?まだ結婚するわけではないのだから、少し気が早過ぎるよ?」
「あら、そうでした。嬉しくてつい」
などと、私の両親はすでに浮かれていますよ。
2人の兄弟も、それはそれは嬉しそうにしています。
食事を終え、私は礼拝堂へ行き、女神セレス様に感謝の祈りを捧げに行きました。
セレス様、ありがとうございます!
そして、あの神託が聞こえた。
「セシリア!今すぐ北に向かって真っすぐ逃げるんだ!今そっちに向かっている女神の使徒は偽物だ!急いで!」
え?どういうこと?
「今向かっているのは女神の使徒じゃないなんだ!その偽物の狙いはキミだ!キミと結婚し、この国を乗っ取り、きっとこの国を、いや、世界をメチャクチャにしてしまう!だから逃げるんだ!今すぐ!北に真っすぐ進めば、必ず君を助けてくれる者がいるから!」
私はすぐに礼拝堂を出て、お父様の所へ向かった。
「お父様!」
「何だいセシリア?そんなに慌ててどうしたの?」
「落ち着きなさいセシリア?聖女として恥ずかしいわよ?」
丁度お母様も一緒にいた。
今は2人だけのようなので、今下った神託をそのまま伝えた。
「偽物、だと?女神セレス様がそう言ったのかい?」
「はい。目的は私なので、すぐに北に向かって逃げろ、とおっしゃっていました」
「う~ん、信じられないけど、神託が下ったのなら間違いない、か?・・・よし、それじゃあ護衛を付けるから、セシリアは今すぐ北に向かって逃げなさい!その偽物のことは、私達に任せるんだ」
一緒に逃げようと提案しましたが、教皇として、そしてその妻であり大司祭として、両親はこの場に残ると言いい、私を送り出してくれました。
さらに私が逃げたことを悟られない為に、兄弟含め、私の護衛に就く騎士たち以外には黙ってセレスハートから逃げ出しました。
いつも使っている馬車は立派過ぎて目立ってしまう為、一般的な馬車に乗って行きました。
護衛の人数も6人と少なく、全員軽装備で身を包んで騎士には見えないようにしてもらっています。
馬車の中には私と、女性の騎士見習いであり、私の数少ない友達のチェスカが乗っています。
男ばかりでは気が休まらないだろうというお父様の配慮で、一緒に来てもらいました。
このチェスカはまだ15歳と若く、騎士見習いではあるけど、その実力は並の騎士よりも上と評されています。
幼い頃より鍛錬を積み、鍛え上げた成果だそうです。
チェスカが12歳で騎士見習いになりたての頃に知り合い、それから3年の付き合いです。
他は馬車の御者に1人、前後に2人ずつの合計5人の騎士がいます。
この5人は、セレストメディエル聖教国の主力である聖騎士です。
私が両親に報告した時、1番近くにいた5人の聖騎士にお父様が声をかけ、同行させてくれました。
護衛の皆には、私が受けた神託を全て話し、私の置かれている現状を知ってもらいました。
女神の使徒が偽物だという事を聞かされた皆は、最初は信じられずにいましたが、これが女神セレス様からの神託だともう1度伝え、やっと信じてもらえました。
この逃避行も、最初の5日間は問題ありませんでした。
ですが、6日目から少しずつ不穏になってきました。
私達は神託通り、北に真っすぐ進んでいた為、道なき道を通ることもあり、決して移動速度は速いとは言えません。
そして、セレストメディエル聖教国とヴェージガーブ王国の国境を超えた先の街、ミルストに到着した時、噂を聞きました。
それは、セレスハートに到着した女神の使徒様が、女神セレス様の名のもとに現教皇とその家族を捕縛した、とか、聖女が逃げたため追手が向かっている、とか、聖女を捉えた者には莫大な褒賞が出る、とか。
目の前が真っ暗になり、その場で倒れそうになってしまいました。
あくまで噂でしかないですが、これが本当なら、私の家族はどうなったの?
私に追手が迫っているって、私捕まったらどうなっちゃうの?
不安で不安で、それからほとんど眠ることが出来ませんでした。
それでも北に逃げ続け、セレスハートを脱出して10日目、遂にその時が来ました。
私達の後ろから、30人ほどの人達がやって来たのです。
彼らは全員が武装し、こちらを指差しながら、大声で叫んでいます。
間違いない、追手です!
そう察知した護衛の聖騎士の皆は、行動が早かった。
私とチェスカを布にくるみ、追手から死角になる位置で私たちを近くの森の中に投げました。
その時、風魔法を使っていたようで、落下の衝撃は無く、静かに地面に落ちました。
そして護衛の聖騎士の皆はそのまま走り続け、私達が居なくなったことに気付いていない追手達が後を追って通り過ぎていきました。
いくら聖騎士と言えど、5対30では分が悪いにも程がある。
きっと彼らとはもう、会えないでしょう。
彼らは命を掛けて、私とチェスカが逃げる時間を稼いでくれたのです。
彼らの犠牲に報いるためにも、私とチェスカは北に向かって自分の足で逃げ続けました。
そして2日後、私達は遂にヴェージガーブ王国の最北端、つまり、ダストレア大樹海の入り口に辿り着きました。
ここに来るまで、何度も魔物に襲われましたが、チェスカが奮闘してくれたおかげで、何とかまだ生きています。
私も得意の光魔法で闘い、傷を癒しましたが、そろそろMPが尽きてしまいそうです。
MPが尽きると、その場で倒れてしまい、今ここでそれをやることは、ただの自殺行為と分かっているので、これ以上は魔法が使えません。
そんな状況でダストレア大樹海に入るのは、それこそ自殺行為であり、チェスカと一緒に躊躇ってしまいました。
が、それでも私達は、この世界で最も危険な樹海に入らざるを得ませんでした。
なぜなら、後ろから追手が迫って来たのが見えたからです。
その数は50人。
そして、その中には見覚えのある格好をした人もいました。
一昨日私達に追いついた、あの追手です。
彼らが来たという事は、あの聖騎士達はもう・・・・
彼らの犠牲を無駄にしない為にも、私達は樹海の中を走りました。
片や50人からなる屈強そうな男達で、馬に乗っている者もいる。
片やたった2人で、一人はMPが尽きかけた9歳の少女と、もう1人は魔物との戦いで深手は追っていないが傷だらけな騎士見習いの15歳の少女。
しかも2人ともこの2日間は歩きっぱなしで、殆ど寝ていない為、体力が殆ど無い。
追手との距離は300m程だったから、すぐに追いつかれると思いきや、1時間経ってもまだ追い付かれていません。
私達が早いのでなはい。
男達が遊んでいるからです。
私とチェスカという獲物をゆっくり追い詰め、私達が絶望するのを楽しんでいるのでしょう。
最低のゲスですね!
幸運なことに、本当に幸運なことに、一度も魔物に遭う事はありませんでした。
もし魔物と遭遇していたら、とっくに私達は死んでいたでしょう。
それでも、こんな所で捕まってなるものかと一生懸命逃げましたが、遂に追い詰められてしまいました。
まだ前方を囲まれただけで、後ろは空いているのに、もう足が動かないのです。
動けなくなってしまった私を、チェスカが背にかばい、男たちに剣を向けている。
私達は知っている。
賞金は2人共掛かっているけど、生きたまま捕らえるように手配されているのは私だけ。
他の皆は生死不問で、生け捕りにした場合は、捕まえた人の好きにしていい、ということになっていることを。
チェスカは女の私から見ても美人です。
邪魔になるからと押さえつけていますが、女性らしく出る所は出ています。
そんなチェスカが男達に捕まったらどんな目に遭うか、想像に難くないでしょう。
きっとチェスカだけなら、とっくに自害しているはずです。
でも、私が後ろにいるから、私を守らなければならないから、それが出来ない。
私は、無力だ。
いっそ、私が自害すれば、チェスカも自害できるよね?
女神セレス様に言われた通り北に逃げて来たけど、私を助けてくれる人なんていなかった。
私が方向を間違えちゃったんだよね?
もう諦めて、持っていた聖女ヴィヴィアンの剣、『エデン』で自害しようと決めた時、
「こんにちは。皆さんはこんな所で何をしているのですか?」
「「「「「!?」」」」」
唐突に、私達の後ろから声がした。
え?私達の後ろって、ダストレア大樹海の奥から!?
振り返ってみると、銀髪碧眼の軽装備に身を包んだ、私と同じくらいの年齢の男の子がいた。
あれ?この男の子、どこかで会ったことない?
私に婚約を申し込んで来た男の子の誰か?
いえ、違うわ、こんな男の子はいなかった。
でも、何だろう?この男の子を見ていると、凄く安心できる。
これは昔感じた感覚?私がもっと小さい頃?
いえ、違う。
じゃあ、いつ?もっと前?すると転生する前?
えっもしかして!?
私がその男の子を見続け、思い出そうとしている間、私達の追手と男の子は会話をしていた。
そして、急に追手のリーダーっぽい男が斬りかかった。
危ない!
と思った時には、そのリーダー(仮)の首が斬り飛ばされていました。
え?今の、彼がやったの?
そしてこちらを振り返った彼と目が合いまいた。
ドクンッ
心臓が大きく撥ねたのを感じた。
彼も、私の顔を凝視している。
間違い無い!この男の子は・・・
そして、彼が口を開いた
「お前、もしかして、雪乃、か?」
「星夜、君?」
「ああ、やっとだ。やっと、お前を見つけたぞ、雪乃・・・!」
「私も会いたかったよ」
ああ、やっぱり星夜君だった。
女神セレス様の言っていた助けてくれる者は、星夜君だったんだ!
諦めないでここまで来て良かった。
「あの、セシリア様?この少年とは知合いですか?」
状況が分からないチェスカが、困惑しながら聞いてきました。
それはそうでしょう。
いきなり現れた見ず知らずの男の子と、急に会話をし始めたのだから。
「ええ。彼は私の・・・・大事な人です」
「え!?」
驚くチェスカを無視して、星夜君の方を向く。
「ねえ、コイツ等はお前を狙っている追手なんだよね?」
「うん、そう。それに、私達を守ってくれた騎士達も、きっとコイツ等に・・・」
「そうか、分かった。すぐ終わらせるから、少し待っててね」
「うん!」
そう言った直後、星夜君対50人の追手との戦いが始まり、10秒しない内に決着がついた。
圧倒的な力を見せつけた、星夜君の圧勝だった。
50人の追手全てを無力化した星夜君が、こっちに近付いて来た。
「お待たせ。もう大丈夫だよ」
そう言った星夜君の声を最後に、安心した私は気を失ってしまった。
誤字、脱字など、お気付きの点が御座いましたらご指摘をお願いいたします。
もし、この作品を読んで面白い、と思って頂けたら幸いです




