第60話 もう1つの使命を思い出す
魔神ヴァッシュの封印を補助する魔導具、『天岩戸』を完成させ、女神セレス様に報告した翌日、僕はミコトさんと古代龍達に別れの挨拶をしていた。
ことの発端は、昨日の女神の間で会話まで遡る。
「おし、それじゃあ作るモンも作ったし、また明日から遊ぶか?」
「そうですね!これで依頼は完了した訳ですから、ずっと遊んでられますよね!」
「だな!じゃあ、何すっか?」
などと、夏休み前に、遊びの計画を友達と立てる子供の様にはしゃぎ出す僕らに、女神様の冷静なツッコみが入った。
「あのさ、レオナルド?キミは国から任務があったんじゃないの?遊ぶのは構わないけど、そっちはもういいのかな?」
「え?・・・・・・・あ」
すかっり忘れていた・・・・
そう、僕はアステリア王国からの依頼で、この樹海を調査しに来ていたんだった。
余りにもミコトさんを遊んでいるのが楽し、ゴホンッ!魔導具の作成に集中しすぎた結果、頭から完全に抜けていましたよ!
そう、僕にはこのダストレア大樹海を調査し、踏破するという任務があったんだ。
それと、僕にケンカを売って来たザカート侯爵と、ついでにガロウデットに仕返しをする、という目的も。
なにより、僕の帰還を家族が待っているんだった。
そのことを、女神様のツッコみで思い出しましたよ!
「そうでした!僕には任務があったんでした!?」
「そいや、そうだったな?わりぃ、すっかり忘れちまってた」
「いやいや、忘れていたのは僕ですよ。ミコトさんが謝ることではありません」
「で、レオナルド。どうするんだい?」
「そうですね。名残惜しいですが、思い出した以上は本来の任務に戻りますよ」
そして女神の間から帰還後、ミコトさんの眷属達が協力してくれて、食べると美味い魔物を狩り、それを調理して食事会、というか宴会をすることになりました。
ただ、この中でまともに料理が出来るのが僕しかいなかった為、下拵えから調理、盛り付けまで全て僕がやることになった。
それも、人化ができないドラゴン達の分も作ったから、それはそれはとんでもない量を作ることになってしまいました。
全ステータスを開放し、スキルを駆使して、全ての調理を終えたのは準備を始めてから6時間後でしたよ。
普通こういうのって、ゲストである僕は何もしないもんじゃないの?
という疑念はあったけど、皆が喜んで食べてくれたので良しとしましょう!
ちなみにだけど、僕が調理したのを人間基準の量に換算すると、軽く20万人分は作りましたよ。
広大な平地に土魔法を使って巨大なキッチンを作り、あらゆる魔法を使って調理時間を短縮し、8億のAGLとDEXで超スピードで動きながらも器用に調理しました。
調理中の僕を見たドラゴン達の目には、僕が速すぎて分身しているように映ったそうです。
そして何とか超大量の料理を仕上げ、僕の送別会という名の宴会が始まった。
その夜は皆で大いに食べ、大いに笑い、大いに騒いだ。
それは、とてもとても楽しい夜でした。
そして、今に至ります。
傷だらけのドラゴンが目立つのは、悪ノリした僕とミコトさんが無差別にドラゴンを襲った為ですが、僕は都合が悪いことは忘れる主義です。
決して彼らとは目を合わせず、何事も無かったかのように振る舞います。
「それじゃあレオ、元気でな」
「ええミコトさんも皆もお元気で。お世話になりました」
「ああ。もし俺の力が必要な時は、遠慮なく呼べよ?いつでも駆けつけてやるからな!」
「ええ、その時は頼りにさせてもらいますよ」
僕の空間転移を使えば、支配圏の中ならどこにでも転移できるので、もしミコトさんの力が必要になった場合は、ミコトさんに助力を求めることもできます。
自分で言うのもアレですが、僕のステータスを以ってしても、ミコトさんの助けが必要な状況ってのは想像できないですけどね。
そして、別れの挨拶をすませた僕は、ノイシュヴァン山脈を後にした。
それから1ヵ月、僕はダストレア大樹海の南側を調査しながら進みました。
環境の違いなのか、僕が今まで通って来た樹海の北側と、今いる南側では、若干生息している魔物と魔獣に違いがある。
簡単に言うと、新種が何体かいまいた。
なので、従来通り写真と見まごうばかりの絵を描き、行動を調査をし、まとめていた。
と言っても、新種はそんなにいる訳ではなかったので、どんどん進みました。
ちょっとミコトさんと遊び過ぎて、時間を浪費してしまった為、以前よりもペースは上げています。
その結果、1ヵ月でダストレア大樹海の南端、つまり、ダストレア大樹海縦断まで残りわずかとなりました。
支配圏とMAPを駆使して確認した結果、明日でダストレア大樹海を出られそうになったのを確認した日の夜、僕はいつも通りの小屋を建て、食事の前に、久しぶりに女神セレス様に会いに行った。
以前作った女神像を異空間収納から取り出し、その前に跪いて祈りを捧げる。
いつも通り意識が離れ、女神の前とやって来た。
「ああ、良かったよレオナルド!やっと来てくれたね!」
目を開けると、そこには焦った表情の女神様がいた。
何かあったのかな?
「どうしたんですか?そんなに慌てて?」
「どうしたも何も、キミに伝えたいことがあったのに、全然会いに来てくれないし、ステータスの女神の一言に伝言を書いても、全くステータスを見てくれないし、どうしたらいいのか頭を抱えていたんだよ!」
かなり焦っていたようで、一気にまくし立てられてしまいましたよ。
女神様がこんなに慌てるなんて、何があったんだろう?
「それで、僕に伝えたいことって何ですか?」
取りあえず聞いてみましょうか。
「キミはセレストメディエル聖教国って知っているよね?」
「ええ、女神教の総本山で、教皇が治めている国ですよね?確か、世界に対しても大きな発言力を持ち、このレシタクルス大陸でも5本の指に入る大国ですよね?」
「そう、その大国なんだけどね、今、滅亡の危機に瀕しているんだよ」
「え?まさかまた魔王が現れて、侵攻して来たんですか?」
「ちょっと違うね。クーデターが起きたんだよ」
「クーデター?何でまたそんなことが?」
「それはまだ分からないんだ。私はこの世界の管理者だけど、全てを知っているわけではないんだよ。過去に起きたことならその全てを把握できるんだけど、現在起きていることに関しては、それ程知っているわけではないんだ。神にも制約があるんだよ」
「つまり、何でクーデターが起きたか分からない、と?」
「そうなんだよ。このクーデターが成功するにしても失敗するにしても、その結果が出たら、1年後には私にも何が起きたか全てが分かるんだけどね。残念ながら、今の段階では、私が見たことだけしか分からないんだ」
「なるほど。それで、僕は何をすれば良いんですか?」
「うん。そのクーデターを止めて欲しいんだ。いや、もうほとんど成功してしまっているんだけどね。けど、クーデターの首謀者がセレストメディエル聖教国を支配したら、世界がとんでもないことになるのは間違いないね」
「つまり、そのクーデターの首謀者を倒せばいいんですね?」
「それもあるけど、今回はもっと色々やってもらいたいんだ。そいつは民衆を味方に付けている。だから、そいつをただ倒すだけだと君がセレストメディエル聖教国の敵にされてしまうかもしれないから、民衆の目を覚まさせてもらいたいんだ。それと、ほぼ全員が捕まっている現教皇の一族が殺されないようにしてもらいたい。彼らが処刑されてしまうと、このクーデターを食い止めても、聖教国を立て直すのが難しくなるからね」
「分かりました。それじゃあ、僕はこのまま南に向かい、セレストメディエル聖教国を目指せば良いんですね?」
「うん。女神の制約で詳しく教えてあげることが出来ないんだけど、とにかくお願い」
「女神の制約って面倒なんですね?どうすれば制約を解除できるんですか?」
「解除は出来ないよ。これが無いと、私は無限に人々の願いを叶えることが出来てしまうんだ。ただ、女神の使徒が依頼をこなし、その成功報酬として情報を求めた場合は、私ができることなら、どんな願いでもかなえることが出来るんだよ。たとえば、知りうる限りのことを教えてあげる、とかね」
「本当に面倒ですね。分かりました。じゃあ、明日の朝になったらすぐに向かいますね」
「よろしくね。ただ1つ出来るアドバイスだけど、今キミがいる所から、南に真っ直ぐ進んで欲しいんだ。そこから先は自分の目で見て判断してほしい。決して後悔しないようにね」
妙に引っ掛かる言い方だったのが気になったけど、何だろう?
取りあえず明日に備えてこの場はお暇し、すぐに寝ることにしました。
翌日、朝早く目を覚ました僕は朝食を摂り、小屋の片付けを終え、南に向けて出発しました。
このままダストレア大樹海を南に進むと、ヴェージガーブ王国に辿り着きます。
この国は、僕の故郷、アストレア王国と同じくダストレア大樹海に隣接した国で、アストレア王国と同じく、ダストレア大樹海から魔物が溢れるのを防ぐ役目を持っている。
アステリア王国との違いは、アステリア王国は独立した国家であり、自分達の意志で行動できるのに対し、ヴェージガーブ王国は、その南に隣接するセレストメディエル聖教国の属国であり、聖教国の指示に逆らうことが出来ない。
いや、ヴェージガーブ王国だけでなく、レシタクルス大陸南部にある殆どの国が、女神教の総本山であるセレストメディエル聖教国の属国となっている。
何せ聖教国とは、レシタクルス大陸南部で最大の国であると同時に、世界中の人々が信仰している女神教の総本山です。
そんな所には、当然のように人と金が集まり、武力においても財力においても、周りの国を圧倒しているのです。
だからと言って、女神教の総本山である聖教国が、その力を使って他国を侵略することなど無く、他国を威圧しているということもありません。
歴代教皇が超善政を敷き続けていたことも手伝い、聖教国は周辺国の盟主として認められているのです。
そんな聖教国も、敵と認めた相手には容赦せず、その圧倒的な武力を行使することも厭わない。
例えばどこかの国が世界征服を企み、他国を侵略した時。
例えば魔族や魔物、魔獣といった魔神の眷属が現れた時。
周りの属国はもちろん、世界中に存在する女神教の教会を介して各国に情報を伝え、世界の敵と戦うこともある。
ちょっと脱線しましたが、僕は今、ヴェージガーブ王国に向かって移動しています。
お昼を少し過ぎた頃、前方1km先に複数の人の気配を感じました。
移動速度を下げ、支配圏を展開して状況を探ってみる。
その結果、2人の女性が50名の男に追い詰められているようだった。
2人の女性の内、1人は10代半ばくらいで、騎士の格好をしていた。
もう1人は僕と同じくらい、つまり10歳程度の女の子で、男達から逃げ回っていたためかボロボロになっていたが、上等な服に身を包んでした。
恐らく、この少女は高貴な身分の出で、騎士の女性は護衛だろう。
対して50名の男たちは、全員が武装していて、その装備がバラバラであることからどこかの騎士団ではなく、傭兵か冒険者、もしくは野盗の類だと思われる。
どう考えても、彼らの目的はこの2人の女性、というか、少女の方だろうね。
さて、どうしようか?
女性2人がこんな所まで逃げて来て、男達はこんな所まで追いかけて来ていることから、 明らかに異常事態だという事が分かる。
だってここ、まだダストレア大樹海の中なんですよね。
ここって世界の常識で、超危険な場所だと認定されているんですよね。
そんなダストレア大樹海に逃げ込むという事は、もしかしたらここ以外に逃げ場が無いくらい、追い詰められているのかもしれない。
そして、危険は追手の方にも当然あるのに、態々こんな所まで追いかけて来ている。
よほどおいしい報酬が貰えるのか、それとも逆らう事の出来ない相手からの命令なのか、とにかく追手の方も命がけなのだろう。
この2人がなぜ追われているのかは分からないけど、取りあえず行って、自分の目で状況を確認しるとしましょう。
その結果、どちらかに手を貸すか、それとも無関係を貫くかを決めます。
女神セレス様からのアドバイスも気になりますからね。
おそらくセレス様が僕に見せたかったのは、この状況でしょう。
そして、僕の目で確認し、後悔のないように判断しろ、とのことでしたしね。
さてさて、これからどうなることやら。
誤字、脱字など、お気付きの点が御座いましたらご指摘をお願いいたします。
もし、この作品を読んで面白い、と思って頂けたら幸いです。




