第6話 スティード家を揺るがす驚愕の事実
目を覚ますと、室内は真っ暗だった。支配圏を広げて周りを確認したら、母クリスが隣の椅子に座って寝ていた。きっと、僕を心配してずっと隣にいてくれたんだろう。このまま寝かせてあげたいけど、きっと僕が起きるのを待っていたはずだから、空間支配を使って、優しく母を揺らしてみる。
「ん、うん」
少ししたら母が起きたので、僕はすぐに寝たふりをする。母が明かりを点け、心配そうに顔を覗き込んできたので、タイミングを見計らって目を開けた。すると、母は安心し、嬉しそうに微笑んでから、僕を抱き上げた。
「良かったレオ。ずっと寝ているから心配したのよ。1日中寝ているなんて今まで無かったから、もう、目を覚まさないんじゃないかって心配したのよ。」
そう言う母の目には、涙が浮かんでいた。どうやら僕は、あれから1日中寝ていたらしい。いや。外が暗く、夜だということを考えると、1日半以上は寝ていたみたいだ。
「お医者様に診ていただいても、異常が何もないって言われて、原因が分からなかったのよ?MP切れを起こした時と、同じような深い眠りだったから、もしかしたら、とも言っていたけど、1歳のレオが魔法を使える訳ないものねぇ?でも、目を開けてくれたから、もう、何でもいいわ」
そう言って母は僕を抱いたまま、部屋から出ようとする。
「みんな心配していたのよ?きっとまだ起きているから、元気な顔を見せに行きましょうね?」
そう言って廊下に出て、階段を下り、1階の広間まで向かった。
広間には、父グレンと、第1夫人のジェシー、執事のジョンソンがいた。兄のメルトは、さすがに寝ているようだ。
ジョンソンは曾祖父の代から仕えている執事で、スティード家にいる中では最年長の52歳。見事なまでの白髪をオールバックにした、これぞまさしく執事だ!と言わんばかりの老紳士である。
母に抱かれた僕を見て、父が真っ先に椅子から立ち上がり、駆けつけてきた。
「大丈夫なのかレオ!?どこか痛い所はないか!?おなかが減ってないか!?」
とても慌てた様子でまくし立ててくる。いつもの落ち着いた雰囲気は無く、そこには我が子を心配する、1人の父親がいた。
「ほらグレン!そんなにまくし立てては、レオが怯えてしまいますよ!」
ジェシーに窘められて、ハッとするグレン。慌てて身だしなみを整え、
「ま、まあ、スティード家の男なら、このくらい何ともなかったようだな」
頬を少し赤らめて、取り繕うように話しているが、その前の姿を見てしまっているため、威厳も何もあったものじゃない。事実、この場にいる全員が苦笑いしている。まあ、誰1人としてツッコまないのは、当主を立てているのだろう。
「ほらレオ~。お父様もこんなに心配していたんですよ~」
そうでもなかった。我が母は、グレンを突っつきながら僕にニコニコと話しかけてくる。
「っ・・・」
それにグレンはより顔を赤くさせ、明後日の方を向いている。
「それにしてもレオは大丈夫なのかしら?以前も高熱で動かなくなってしまったし、今回も原因不明の症状で眠り続けてしまったし」
ジェシーが本当に心配そうに語りかけてくる。でも、子供が病気になるのは普通なのではないだろうか?
そしてさらに驚愕の事実が伝えられる
「もう1歳半になるのに、未だに立ち歩きもしないし、それどころか殆どベットから動かないし」
え?
「そうだな。言葉もとっくに話せるようになっても良い頃なのに、まだ片言の言葉すらろくに話せていない。メルトは1歳になる前に立ち歩きをしたし、言葉も少しずつ話し始めていたのにな・・・」
「え?うそ?」
「「「「えっ?」」」」
しまった。声を出してしまった。
「もしかして、レオ、お前今しゃべらなかったか?それとも我が子の心配のし過ぎで、幻聴でも聞こえたか?」
グレンが驚いて顔を覗き込んでくる。
クリスは相変わらず「アラアラ♪」と、僕を抱きながらニコニコしているだけ。
「間違いないわ、今明らかにしゃべったわよ、この子!」
「はい、わたくしもはっきりと聞こえました」
ジェシーとジョンソンも驚いて覗き込んできた。
「どういうことだ、レオ?お前、本当は話せるんじゃないか?」
父グレンに真剣な表情で問い詰められ、
「はい、実は話せます・・・」
ついに観念して告白した。
「なっ!?普通に会話が出来るだと!?」
さっき以上の驚愕が、この広間を支配した。あ、クリスだけは変わらず「アラアラ♪」している。本当にブレないな、この人。
「おい、レオナルド!どこまで会話が出来る!?ちょっとこっちに来なさい!」
興奮した父に手招きされ、僕を抱いているクリスが、グレンの方に近づこうとしたので、
「すみません、お母様。下ろしてもらってもよろしいでしょうか?」
貴族としてなるべく丁寧に言葉を選び、お願いする。と、下ろされるどころか、より強くお母様に抱きしめられた。
「ああ、ついに私を母と呼んでくれましたね。レオ!」
お母様と呼ばれたことが、よほど嬉しかったようだ。目から涙がこぼれている。
「お、オイ、レオ!」
グレンも凄い期待を込めた目で、声を掛けてくる。
「はい、お父様」
「お、お、おおおおおおっっ!!」
絶叫してしまった。しかも泣いているよこの人。
あ、よく見るとジェシーもジョンソンも泣いている。そんなに感動することだったのか!?
部屋の外からバタバタと複数の足音が聞こえてきて、
「旦那様!?どうされたのですか!?」
他の使用人たちが広間に駆けつけてきた。まあ、この家の当主が叫んだら、何事かと思って駆けつけてしまうのはしょうがないよね。
「レオが・・・」
「レオナルド様がどうされたのですか!?」
「レオが・・・私をお父様と呼んでくれたのだ・・・」
余りにも感動したのか、お父様、泣きながら話しています。
きっと集まってくれた使用人の皆は、ドン引きしているだろう、と思っていると
「何ですとー!?」
「レオナルド様がついに!?」
「今日はなんておめでたい日なの!?」
使用人一同大盛り上がりですよ!何で?それよりも
「あの、お母様、そろそろ下ろしてもらってもよろしいでしょうか?」
「ああ、そうだったわね、ごめんなさい」
そのやり取りを聞いていた、来たばかりの使用人たちは
「本当にじゃべられたぞ!?」
「しかもハッキリとした話し方だったわ!?」
更に盛り上がってしまった。
そんな中、お母様に床に下ろされた僕は、そのまま立ち上がり、歩いてお父様のところまで向かうと・・・
「立った・・・いや、歩いただと!?」
「ウソ!?まだつかまり立ちすらできないと思っていたのに!?」
更なる驚愕が広間を、いや、スティード邸を包んだ。もうそれは、2回目の絶叫として。
広間からの更なる絶叫のおかげで、邸内にいた全員がこの広間に集まってしまった。その中にはもちろん、異母兄のメルトや、僕の専属メイドのヒルデもいた。
「レオ!?あるけるの!?」
「レオナルド様いつの間に!?私は専属メイドとして、とても、とても、うわぁ~ん!」
なんだこれは?メルトは驚いているだけだが、ヒルデは声を上げて泣き出してしまった。もう収拾がつかないくらいの混沌が生まれてしまったようだ。
パンっ!パンっ!
この混乱を救ったのは、スティード家の姉御、もとい、もう1人の母、ジェシーだった。
「ほらみんな!落ち着いてっ!グレン!レオに話があるんでしょ!?あなたがしっかりしないでどうするの!?」
「ハッ!?そうだった。あまりの嬉しさについ、我を忘れてしまった」
やっぱりお父様は子煩悩のようだ。息子でこれだから、娘が生まれたらどうするんだろう?実は、ジェシーのお腹の中には新しい命が宿っている。性別は分からないが、もし女の子だったら・・・。
まあ、それは今は横に置いといて、
「ジェシー母様、場をお治めてくれてありがとうございます」
感謝の言葉を伝えると、ものすごく頬を緩めたジェシー母様がそこにいた。それも一瞬のことで、理性を総動員して表情を元に戻し
「ほらグレン!」
お父様に話を促した。その後、また頬を緩めたのを見逃さなかった。やっぱりいい人だなジェシー母様。
いつの間にか涙が引っ込んでいたお父様を向かい合う。
「よし、レオ。いくつか質問するぞ。いいな?」
「はい」
あ、僕は皆が盛り上がっている間に、お父様の向かいのソファーに乗っている。いや、1歳児には大人用のソファーはデカすぎるんですよ。
「まず、いつから話せるようになっていたのだ?」
「僕が高熱から目を覚まして、少し経った頃です」
「では、いつから歩けるようになっていたのだ?」
「それは高熱から目を覚ましてから、1カ月くらい経った頃です」
「つまり、半年前からだったのか?なぜ、今まで隠していた?私たちは、あまりにも成長の遅いお前を、常に心配していたのだぞ?」
やっぱりそうだったのか。もっと早く行動していれば良かった。
「申し訳ありません。まだ1歳の僕が、歩き回ったり、話し始めるのは早すぎて、お父様たちが気味悪がってしまうと思い、様子を見ておりました。まさか、逆に遅すぎて心配させてしまっているとは思いませんでした。」
いやだって、一般的な赤ちゃんの成長速度なんて知らないし。前世で父親になっていれば話しは違ったかもしれないけど、高校生だった僕が、そんなの知っているわけないじゃないか。保健の授業で習った気がしたけど、あの辺はあんま役に立ちそうになかったら、かなり適当にやっていたし。
「そうか、お前なりに考えていたわけだな。それにしても、お前、本当に1歳児か?会話の受け応えができ、しっかりした考えを持っているとはな?」
ヤバい!何とか誤魔化さなければ!
「それはヒルデがずっと話しをしてくれたり、本をたくさん読んでくれたので、知識が増え、知力が上がったからだと思います」
「ふむ、そうか。まだ赤子の時から本を読み聞かせ続ければ、このようなことも起こるものなのだな・・・」
どうやら納得してもらえたらしい。
「で、今のお前のステータスはどうなっているのだ?ステータスについては、すでに知っているのだろう?それだけ流暢に話せるのなら、さぞINTが高いのではないか?どうなのだ?」
あ、マズイ!何も対策していなかった!どうする?
「えっと・・・」
「あらあらグレン?それはお披露目会までの楽しみでしょう?確かに私も気になるけど、それはマナー違反ではないかしら?」
「うむ、だがな・・・」
お母様からの援護射撃!お父様が揺らいでいる!誰かもうひと押し!
「そうよグレン。ただでさえ、嫡男のメルトのお披露目がまだなのに、先に次男のステータス知ってしまうのは、父親としてどうなの?」
「むう、確かに、な。すまんレオ。この話は無かったことにしてくれ」
ジェシー母様ありがとうございます!さすがは頼れるお姉さん!助かりました!
「よし、今日はめでたい!だが夜も遅いしな。今日はこのまま解散しよう。だが!明日は盛大に祝うぞ!いいな!?」
「「「「おおーっ!!」」」」
今ここに、スティード家一同の心は1つになった!
ブックマーク登録してくださった方、評価をしてくださった方、ありがとうございます。
誰かに読んでもらえている、というのは、とても嬉しいことですね。
素人なので、まだまだ稚拙な文章ではありますが、これからも投稿を続けていきますので、
よろしくお願いいたします。