第57話 スティード騎士団対黒龍
スティード騎士団が簡単に黒龍の防御を突破したことに、驚きの声が上がる。
それはそうだろう。
約2時間30分もの長時間に渡り黒龍に攻撃を続けたにも関わらず、宮廷魔導士団の全力の魔法以外では大したダメージを与えられなかった。
その黒龍に、たかが地方の騎士団のただの騎士1人1人が、あっさりとダメージを与え、かつ初めて黒龍が叫んだのだ。
驚くのも無理はないだろう。
ダメージを与えられた理由は単純で、全騎士団中STRがトップの黄牙騎士団でも、その平均STRは3500程度。
黒龍に剣を突き刺した金鹿騎士団のディアレス団長でさえ、4500だ。
それに対し、スティード騎士団のSTRは3500と、黄牙騎士団と同じだが、彼らには技術と、なによりSTRが+9000されている魔導装備がある。
合計すると12500のSTRで、黄牙騎士団の3倍近くもあるのだ。
それに続き、メルト、ジルベスト、グレンも攻撃する。
他の騎士達よりも高いSTRの3人の攻撃も、当然黒龍の肉を切り裂いた。
切り裂いたが、それは15mの巨体を持つ黒龍からしたら、まだまだ浅い傷だ。
決して致命傷ではない。
人間に例えるなら、画鋲でチクチクされているようなものだ。
痛いけど、別に死ぬほどではない、そんな攻撃だ。
そもそもこの黒龍のステータスは、HPが12万で、VITが13万もあるのだ。
ついでにMNDは12万もある。
とにかく固いし、体力がありすぎるのだ。
スティード騎士団500人が放った斬撃全てを合わせても、3000程度のダメージにもなっていない。
ついでに、2時間30分の戦闘で国家騎士団、宮廷魔導士団、兵士、冒険者達が与えたダメージは4000程度だったりする。
つまり、黒龍のHPはまだまだ11万近く残っているわけだ。
それでも、この短時間にここまでのダメージを負わせたスティード騎士団を、さっきまでのお遊びとは異なり、黒龍は明確な敵として認識した。
つまりスティード騎士団は、全力で叩き潰す相手だと。
ここから黒龍の動きが激しくなった。
魔法を使い、空を飛び、ブレスを吐く。
その攻撃の威力は凄まじく、一撃で地形を変えるほどだった。
だが、流石は対魔物戦闘のスペシャリスト集団のスティード騎士団だ。
黒龍からの攻撃の悉くを躱し、隙を見て反撃を入れる。
だが、このままではいつか騎士団に犠牲が出ると考え、グレンは騎士団員に距離を取らせ、弓による援護射撃に専念させるように指示を出した。
そして接近戦は、スティード家の現当主グレン、前当主ジルベスト、次期当主メルティウムの3人で担当することになった。
スティード騎士団だけで攻撃を始め、10分が経過した。
この間少しずつ移動し、今は城門まで600mくらいまで近づいてしまっていた。
相変わらず黒龍の攻撃は激しいが、大振りの攻撃やモーションが丸分かりの物ばかりな為、まだ誰も脱落していない。
そして誰も仕留めることが出来ず、黒龍がムキになっているのか、スティード騎士団以外、つまり城壁まで避難した者達には一切攻撃していない。
騎士団が遠距離から弓で攻撃し、グレン、ジルベスト、メルトの3人が隙をついて斬りかかる。
メルトに至っては、時折魔法を混ぜて攻撃している。
その威力は、宮廷魔導士団に匹敵している。
「メルト!無理はするなよ!?焦らなくていい!少しずつダメージを与えていくのだ!」
「はい、父上!しかし、アレはまだまだ元気なようですね?少し大きな魔法を撃ちましょうか?」
「ほう、メルトはまだMPに余裕があるか!?どうだグレン?ここは1つ、メルトに魔法を撃たせ、その後の隙に乗じて1撃入れてみるか!?」
「そうですね!ではそれで行きましょう!いいか、メルト?」
「任せてください!次、黒龍が魔法を放ったら、その直後に爆炎をぶつけてやります!」
「任せるぞ!」
そして、その瞬間が来た。
黒龍が風魔法で竜巻を起こし、それを全員が余裕を持って躱した。
その直後、黒龍の後ろに回り込んだメルトが、残りMPの半分を使って、火魔法を放った。
『極大火炎爆発!』
大爆発が黒龍を中心に起こり、辺り一面が爆炎に包まれた。
そして爆炎が消える瞬間を狙い、グレンとジルベストが黒龍の翼に斬りかかった。
だが、その斬撃が翼を切り裂くことは無かった。
体ごと旋回させ、2つの斬撃を翼で弾いたのだ。
さらにそのまま腕を振るい、メルトに横薙ぎの攻撃を放った。
「うわあああぁぁぁぁ・・・・・・っ!」
黒龍の動きに気付き、後ろに飛んで避けようとしたが間に合わず、宙に浮いた状態で、振られた黒龍の腕に弾き飛ばされてしまった。
「メルトォっ!」
「貴様、よくも私の孫をっ!」
グレンはすぐにメルトまで駆け寄りたかったが、目の前の黒龍がそれを許さなかった。
黒龍がこちらを向いていたからだ。
少しでも油断したら、その瞬間やられる。
そう思えるほど、黒龍からは怒りの感情が読み取れた。
このまま戦えば、もっと大きな被害が出てしまうかもしれない。
グレンは1つの決断をした。
「父上、相談があるのですが」
「ほう、奇遇だな。私もだ」
「アレ、使いましょう」
「そうだな。でないと、もっと大きな被害が出るかもしれぬな」
「レオは許してくれるでしょうか?」
「それは大丈夫だろう。これは、あの子が想定した事態でもあるはずだからな」
「そうですね」
そして2人は、とっておきの秘策を使うことを選んだ。
黒龍に弾き飛ばされたメルトは、空を飛んでいた。
後ろに飛んでいた為、黒龍の腕が空中にいるとに当たり、そのまま空に飛ばされてしまったのだ。
何とか風魔法を駆使し、体制を整えようとしていたら、不意に足が地面に着いた。
あれ?ここって空中じゃなかったっけ?と思い周りを見ると、そこは城壁の上だった。
もっと言うなら、アステリア王家が乗っているオープンカーという名の、完全防御型魔導具のすぐ横だった。
メルトは、たまたま城壁の方に向けて飛ばされていた。
「メルト、大丈夫かい!?」
すぐ横に着地したメルトに、国王エドワードが声をかけた。
国王となった今、基本的に臣下の前では毅然とした話し方をするように心がけているが、赤子の頃から知っているメルトの前では、まだ地が出てしまっている。
「エドおじさん、じゃなかった。国王陛下。大丈夫です!」
メルトもいつものクセでそう呼んでしまったが、慌てて訂正をした。
「良いよメルト、無理に国王と呼ばなくても。いつも通りにしてくれたら嬉しいな。それにしても、メルトはすごく強くなったね?」
「うん。毎日父上や騎士団の皆と訓練をしているからね」
国王本人の許可が下りたため、いつも通りの接し方に戻した。
「ねえ、メルト。黒龍と向かい合って、怖くないのかい?」
「そりゃあ、怖いよ?ちょっとでも油断したら、すぐに殺されてしまいそうだし。でも、怖いからって逃げていたら、レオに笑われちゃうからね!僕はあのレオナルド=シオン=スティードの兄だから、その肩書に恥ずかしくない行いをするんだ!」
「ふふ、そうか。だからそんなに強くなったんだね?それにしても、メルトはすでに国家騎士団の誰よりも強いんじゃないかい?それに魔法も見事だ。宮廷魔導士団並みの魔法だったよ」
「ああ、そうだな。特に今さっき放った爆発の魔法など、見事としか言いようが無かったぞ?まさかジルベストの孫が、剣だけでなく魔法までトップクラスとはな。恐れ入ったぞ」
「あ、その、あ、ありがとうございます」
現国王と、その横にいた先代国王に褒められ、照れまくっているメルト。
いくら強くても、今年で12歳になったばかりの子供だ。
それは仕方のない事だろう。
「それはそうとメルト。グレンとジルベスト殿を以ってしても、あの黒龍を倒すのは難しそうかい?」
口調は今までと同じだが、雰囲気が真剣そのものになったのをメルトは感じた。
「う~ん、今のままだと厳しいかな」
「そうか、厳しいか・・・」
「だから、そろそろ父上とお祖父様が奥の手を使うと思うよ?」
「奥の手?まだ何かあるのかい?」
「うん、2人だけが持つ、対厄災級の魔物を想定した特別な物がね」
「対厄災級?それなら勝てるのかい?」
「たぶん、だけど・・・」
「そうか・・・・」
もし予想通りなら、装備を変える時間を稼がなければならず、それが出来るのはこの場では自分しかいないことを察したメルトは、戦場にすぐに戻る決意をした。
「じゃあ、エドおじさん。僕はそろそろ戻るね?」
「ああ、気を付けるんだよ?」
「うん!行ってきます!」
そう言ってメルトは城壁の上から飛び降り、黒龍に向かって行った。
「父上。彼がレオの兄上なのですね?」
「ああ、そうだよフィリップ。彼はメルティウム=シオン=スティード。私の親友である、あそこで黒龍と戦っているグレン=シオン=スティードの長男で、次期伯爵だよ」
「そして私の親友、ジルベスト=シオン=スティードの孫でもあるな!」
「ふふ、3代に渡って王家と友人関係を築きながら、権力に全く興味がない一族ですか。あなたもお義父様も、とても素晴らしい友人を持たれたのですね?」
「本当に。さらにこれだけの力を持ちながら、民の為だけに力を振るえるなんて。こんな貴族、世界中探してもそうそういないのではなくて?」
第1王妃のアメリアと第2王妃のエリザベスも、スティード家に好印象を持ってくれているようだ。
「あのメルト君も、なかなか誠実そうな子ね?クラリスと同じ12歳なのよね?この子の婚約者にどうかしら?」
「アメリア、それはちょっと急すぎないかい?それに私は、娘には好きな男性と結ばれてほしいと思っているんだよ?」
「それもそうよね。ごめんなさいね、クラリス?・・・・・・クラリス?どうしたの?」
母親であるアメリアの呼びかけにも答えず、第1王女クラリスは、メルトが立ち去った方向を見て、ぼぉ~っとしていた。
「クラリス?どうしたのクラリス!?」
「え?・・・あ!?すみません、お母様!何でしょうか!?」
意識が戻ったのか、クラリスが慌てて返事をして来る。
しかしその頬は朱に染まり、チラチラと視線は黒龍の方、いや、メルトの方に向けられている。
「ねえ、アメリア。これはもしかして・・・」
「ええ、あなた。これはもしかしなくても・・・」
この瞬間、黒龍討伐が終わったら、メルトが王城に呼ばれることが決定した。
そして黒龍の所では、変化が生じていた。
先程まで最前線で黒龍と戦っていたグレンとジルベストが離れ、今は戻って来たメルトが1人で黒龍と戦っている。
スティード騎士団は先ほどより距離を詰め、包囲を縮めて矢を射かけている。
スティード騎士団が持っていた矢はとっくに尽き、今は城壁内に保管してあった矢を受け取り、射っている。
メルトに黒龍が集中しすぎないように、スティード騎士団全員が協力をして注意を引いているようだ。
その間、グレンとジルベストの2人は・・・
少し話は戻り、メルトが黒龍に城壁まで吹き飛ばされた後、グレンとジルベストの相談は続いていた。
「やはりあの装備を出すには、少し、っと!時間が要りますね。はぁっ!」
「そうだな。何回か着て、おっと!みたが、早くても3分程度、はっ!かかるな」
「この状況では、ちょっと、危なっ!?厳しいですね」
「ふむ、そうだ、なっ!っと。1人ずつ交代で装備の換装をするか?」
「もしくは、メルトがっ!っと、よっ!このっ!戻ってきたら、少し黒龍を任せてみますか?」
「ふっ!何のっ!そうだな、やらせてみるか?」
この2人、さっきから黒龍の攻撃を避け、更に反撃をしながら相談をしている。
アステリア王国、いや、レシタクルス大陸広しと言えど、こんな非常識な真似ができる親子は、そうそういないだろう。
2人はメルトの安否確認はしていないが、生きていると確信している。
さらに、ここに戻って来て、黒龍にまた挑むであろうことも。
その根拠?
そんなの、メルトがスティードの男だという理由だけで充分だ!
現に、無事に城壁の上に着地し、今はエドワードと会話をしているし。
しばらく会話をしながら黒龍と戦い続け、メルトが戻ったらこの場を任せ、グレンとジルベストは対厄災級装備に換装することにした。
流石にメルト1人では黒龍の相手は荷が重すぎる為、周りにいるスティード騎士団の騎士にも手伝ってもらうつもりだ。
その事を闘いながら騎士達に伝えている内に、メルトが戻って来た。
予想通りメルトは無事で、大したケガもしてなかった。
黒龍の相手をジルベストに任せ、グレンはメルトに作戦の事を伝える。
「どうだメルト?危険な作戦だが、やってみないか?」
「はい!やらせてください!」
即答だった。
「早いな?もっと考えてもいいんだぞ?」
「ええ、多分こうなるんじゃないかと思い、ここに戻ってくるまでに充分考えました。だから大丈夫です!」
「そうか、そこまで先を読んでいたか!ならば私から言うことはただ1つだ。任せたぞ!」
「はい、父上!」
「よし、それでは皆!これより例の作戦に移る!全員、メルトをフォローしてやってくれ!」
「了解しました!」「若!フォローは任せてください!」「メルト様なら大丈夫でさあ!全力でやっちゃってください!」
何とも頼もしい声が騎士団から上がる。
それだけで、まだ子供のメルトが騎士団に信頼さえているのが分かる。
「任せたぞ!さあ父上!我らは準備をしましょう!」
「応!皆の者、メルトの事、くれぐれも頼んだぞ!」
そう言って2人は黒龍から離れ、装備の換装を始めた。
その間、メルトが黒龍を相手に奮戦する。
15mの巨大なドラゴンを相手に、僅か12歳の子供が1人で相対しているのだ。
周りにはスティードの騎士達がいるが、直接メルトを助けることは出来ない。
自分たちの力では、今の黒龍の前に出れば死ぬことくらいは分かり切っているからだ。
だからメルトは、たった1人で黒龍の前に立っている。
例えレオ特性の防具、『オーディン』を付けていても、黒龍からまともに攻撃を喰らえばひとたまりもないだろう。
今はギリギリで避け、かろうじて踏ん張っている状態だ。
そんなメルトの姿を、城壁まで退避した騎士、魔導士、兵士、冒険者は、歯を食いしばって見ている。
そう、見ている事しかできないのだ。
遊んでいる状態だった黒龍にさえ、まともに戦うことすらできなかったのだ。
それが、本気で敵を殺すことに切り替えた黒龍に、どうして立ち向かうことができるだろうか?
それなのに、彼らスティードの騎士達は、未だに1人の脱落者を出すことなく、本気の黒龍を相手に戦い続けている。
レベルが違い過ぎるのだ。
日々ダストレア大樹海から溢れる魔物から、この国を守るために戦って来た彼らスティード騎士と、安全な王国内部で、たまに弱い魔物を狩り、無法者を相手にして来ただけの自分達とは、練度も覚悟も何もかもが違い過ぎるのだ。
今まで地方の田舎騎士団だとバカにしていたが、何てことはない、バカだったのは自分達だったのだ、と。
実際は、スティード騎士団の異常な強さの秘密は、レオナルドが作った魔導装備のおかげなんだけど、それを抜きにしても、スティード騎士団は国家騎士団と正面からぶつかっても勝てるだけの力がある。
ついでにスティードの騎士全員は、大なり小なりケガはしているのだが、魔導装備に付与された『HP回復』と『MP回復』により、ケガが回復していたりする。
そんな事を知る由もない彼らは、スティード騎士団の戦いを、ただ黙って見ているしかなかった。
誤字、脱字など、お気付きの点が御座いましたらご指摘をお願いいたします。
もし、この作品を読んで面白い、と思って頂けたら幸いです。




