第54話 王都防衛戦
黒龍が王都に到着した時、5000を超える兵士、騎士、魔導士、冒険者が王都西城門に集まっていた。
この世界において騎士とは、国や領主に正式に雇われ、騎士爵を与えられた者を指す。
当然、採用されるには厳しい試験があり、それに合格した者だけが名乗れる称号である。
一応貴族という扱いになっているが、最下級の一代限りの爵位であり、領地を与えられることは無い。
兵士とは、国や領主によって雇われているわけではないが、民間で何かしらの役目を持った組織を作り、国や領主に申請し、許可を貰って活動している武装集団だ。
兵士の仕事は、騎士では賄い切れない仕事を国や領主から委託され、それをこなしている。
騎士の仕事が、敵との戦闘関係に偏っているのに対し、兵士の仕事は多岐に渡っている。
もちろん兵士の身であっても、評価されるに値する勲功を立てれば、騎士に任命されることもある。
大抵は、騎士になる為の試験に落ちた者や、これから騎士になる為の試験を受ける前に、勉強の一環として所属している者が多い。
若干ニュアンスは異なるかもしれないが、例えるなら騎士が国家もしくは地方公務員で、兵士はその下請けのような関係だと思ってもらいたい。
冒険者は言わずもがな、騎士、兵士ではこなせないような様々な依頼を、報酬を得てこなしていく、簡単に言うと何でも屋だ。
何でも屋の冒険者の仕事は兵士以上に多岐に渡り、犯罪行為でなければ、何でもやる。
街の清掃や引っ越しの手伝いから、危険なダンジョンの探索や強力な魔物の討伐まで。
故に、冒険者の中には騎士よりも実力が高い者がゴロゴロいたりする。
仕事に見合うだけの報酬を貰えるが、当然危険が多く、命を落とす者が後を絶たない職業でもあるが。
あと、ガラの悪い連中や、集団行動に向いていない自分勝手な者が多い。
さて、話しを戻して、魔導士や弓兵など、遠距離攻撃が出来る者が優先的に高さが80mはある城壁の上で対空攻撃を行う準備をし、さらに投石器や大型の矢を発射できるバリスタなども集め、待ち構えていた。
地上では対空攻撃手段を持たない者たちが集まり、ドラゴンが対空攻撃で地に落ちてきた所を集団で攻撃するために待機していた。
そして遂に、黒龍迎撃が始まった。
黒龍は空から飛来して来たため、最初は城壁の上にいる遠距離攻撃部隊が攻撃をする。
黒龍めがけて矢、石、魔法などを放ち、ダメージを与えて地面に叩き落そうという作戦だ。
城壁の上には1000人以上が待ち構え、遠距離攻撃の出来る武器や兵器、魔法を一斉に放ち、それらが黒龍に向かって飛んで行く。
これほどの攻撃を受ければ、例え上級の魔物であっても大ダメージを負うことは間違いないだろう。
しかし、相手は超級に分類されるドラゴンだ。
飛んで来た攻撃に対し、黒龍は一切怯むことなく突っ込み、全ての攻撃を受けながら城壁の上に着地した。
残念ながら、ダメージは殆ど無しで、僅かに鱗に傷を付けただけだった。
黒龍が着地した場所にいた者は、不幸にもその足に踏みつぶされ、原形を留めていない。
そして、黒龍は周りに群がっている人間に対し、前足や尻尾を振るい薙ぎ払う。
それだけで黒龍の周りにいた魔導士や騎士達は吹き飛ばされ、その多くが城壁から落下した。
80mの高さを誇る城壁からの落下だ。
いくらステータスが存在し、高いVITやHPがあっても、それだけの高さから落下して受けるダメージは甚大で、命が助かる者は少数だろう。
城壁から落下した中にいた、風魔法が得意な魔導士が魔法を発動させ風を操り、何とか着地に成功した。
その魔導士はすぐに魔法で強力な上昇気流を生み、次々と城壁から落ちてくる仲間の落下スピードを殺し、何人かの命は救えたが、それでも多くの命が失われてしまった。
城壁の上では、未だに黒龍による蹂躙が続いている。
放たれる攻撃を物ともせず、城壁にいる兵たちを爪で切り裂き、尾で打ち、牙で噛み砕いて行く。
そこはまさにこの世の地獄と化していた。
城壁の上は幅が10mもなく、黒龍の15mの巨体から放たれる攻撃を避けることすら難しい。
さらに、城壁の上には遠距離攻撃が出来る兵が集まっていて、逃げ場すら無い程密集していた。
それでも兵たちは諦めず、己の命が尽きるその時まで黒龍に攻撃を続けていく。
その甲斐あってか、僅かだが黒龍に傷を負わせることが出来たが、それは本当にカスリ傷でしかなく、黒龍の動きを止めることには繋がらなかった。
転機が訪れたのは、黒龍が城壁の上での蹂躙を始めて10分が経過した頃だった。
この間にも王都中から騎士、兵士、魔導士、冒険者が集まり続けて来て、遂にその数が15,000人を超えていた。
そして、その中には王国が誇る戦闘集団、宮廷魔導士団と、8つの国家騎士団が到着していた。
国家騎士団とは、王国が正式に国家の戦力として採用している騎士団である。
その目的が故に、求められているのは強い事であり、日々過酷な訓練を重ねている精鋭部隊である。
以前レオナルドにケンカを売った結果、団長と300名の騎士が永久追放された黄牙騎士団や、戦闘狂として有名な蒼哭騎士団は、この国家騎士団の1つだったりする。
黄牙騎士団の例を見れば分かる通り、国家騎士団の中にも品行方正な騎士団もあれば、素行不良な騎士団も当然あったりする。
そして今、明確な国家の敵である黒龍に対し、全ての王都にいた騎士団が集結した。
普段は任務で王都を離れている騎士団がいくつかあるのだが、今は新国王の戴冠式の為、全騎士団が王都に戻って来ていたのだ。
赤雷騎士団、蒼哭騎士団、黄牙騎士団、緑爪騎士団、紫天騎士団、黒曜騎士団、白獣騎士団、そして精鋭の近衛騎士団である金鹿騎士団の、以上全8騎士団が勢ぞろいした。
彼らは2つに別れ、半分は王都の外へ、もう半分は王都の中に残った。
そして、王宮魔導士団も騎士団と同様に2つに別れた。
彼らはここで、1つの非情な決断をすることとなった。
その決断とは、まだ城壁の上で闘っている仲間を巻き込んで黒龍に魔法を撃ちこむことだ。
目的は黒龍の足場を崩して地面に落とそうというもので、成功すれば地上にいる大勢の騎士、兵士、冒険者達が一斉に攻撃を仕掛けることが出来る。
黒龍が目の前の敵に集中している状態でないと、気付かれて避けられてしまい、成功する確率が落ちてしまう為、やむを得ずこの決断をした。
そして、宮廷魔導士が黒龍の足元に向けて魔法を放つ直前に
「魔法を撃つぞーっ!離れろーっ!」
と、何とか避けてくれと願いを込めて、せめてもの警告をして、多数の魔法を放った。
放たれた魔法は黒龍の足場を崩すのが目的であったため、破壊力に秀でた物ばかりだった。
圧縮した炎が目標に着弾すると当時に爆発する『火炎爆裂』や、岩の塊を飛ばし、こちらも目標に着弾すると内側から岩が破裂する『炸岩砲』といった衝撃を発生させる魔法や、闇の塊を飛ばし、対象を腐食して脆くさせる『浸食』などが使われた。
当然そんな魔法を撃ちこまれたら、いくら直撃しないように注意して狙っていたとは言え、王国最強の魔導士集団が一斉に放てば、当然のことながら無事で済む人間がいるはずはない。
黒龍を囲んでいた約50名が巻き込まれ、命を落とした。
だが、犠牲を払ってでも実行したこの作戦は、見事成功した。
もともと巨体の黒龍が動き回っていた為、脆くなっていた城壁の上部が崩れ、黒龍が落下していった。
落下した黒龍はすぐに体制を立て直して空に飛ぼうとしたが、突然の落下と80mという15mの巨体には低すぎる高さだったため、あっという間に地面に叩きつけられてしまった。
落ちたのは城壁の外側で、下で待機していた4つの騎士団を先頭に、次々を近接武器を持った戦士たちが黒龍に群がった。
黒龍にとって、足場が崩れたのは完全に想定外だった。
城壁の上での蹂躙が楽しく、目の前の人間を潰していくのに夢中になりすぎて、周りが見えていなかったからだ。
落下していることに気付き、慌てて空を飛ぼうと翼を動かしたが、体が浮く前に地面に激突してしまった。
この落下によるダメージは、今まで人間から受けたダメージよりも遥かに大きい。
そして、このダメージの原因が人間であることに、黒龍は怒り狂いそうになった。
だが、顔を上げてみると、そこにはさっきよりも多くの人間がいるではないか!
しかもコイツ等は、自分達から勝手にこちらに向かって来てくれているのだ。
すでに10人以上が自分に攻撃してきているが、たいしたダメージではないから、気にもしない。
今は、落下の衝撃ですぐに動くことが出来ず、反撃出来ないのがもどかしい。
この鬱憤はコイツ等を蹂躙して晴らそうと決め、動けるようになり次第、自分に纏わりついてくる人間を片っ端から殺すことにした。
「黒龍が落ちたぞ!今こそ我ら紫天騎士団の力を見せつけるのだ!」
「緑爪騎士団、遅れるな!この黒龍は我らが討つ!」
「手柄など考えるなよ、黒曜騎士団!我らは目の前の敵を倒すことだけ考えよ!」
「黄牙騎士団よ!前団長により失墜した信頼を、この戦いで取り戻すぞ!命を惜しむな!」
城壁の外に待機していた紫天、緑爪、黒曜、黄牙の4つの騎士団が、騎士団長を先頭に黒龍の側面に向かって一直線に、近接戦闘を仕掛けに行く。
各騎士団長の団長は、それぞれが王国でも上位の実力を持つ騎士である。
彼らは先頭に立ち、自らが黒龍に傷を与えることで、後ろに続く騎士や兵士、冒険者達に勢いを付けさせるという目的があった。
もちろん、この初撃で黒龍に致命傷を与えられるかも、という淡い期待もあった。
だが現実は、黒龍の鱗があまりにも固く、王国が誇る最強の戦闘集団である騎士団のトップの攻撃でも、僅かに鱗を傷つける程度で、まともにダメージを与えることができなかった。
騎士団長達の当初の目論見は外れてしまったが、それで戦意を喪失するような軟弱者はここにはいない。
後に続いていた騎士、兵士、冒険者が果敢に攻め、例え僅かであってもダメージを与えていく。
1撃を入れたらその場から離れ、後続に託す。
これだけの大人数で、1体のドラゴンに対し、ヒット&アウェイを繰り返していく。
これは、近衛騎士団である金鹿騎士団団長、ディアレスが考案した作戦だ。
ドラゴンはその高い攻撃力も脅威であるが、体中を固い鱗に覆われている為、防御力もケタ外れに高いと言い伝えられている。
そもそも、ドラゴン自体が最低でも超級に分類されてている、非常に危険な魔物だ。
中途半端に連続で攻撃するよりも、1撃に全力を込めた方がダメージを与えやすいと考え、採用された戦法だ。
欠点としては、1撃を入れた後の退避が間に合わず、次の攻撃に巻き込まれてしまう者が出てしまうことだ。
何せ、次から次へと武器を持った騎士、兵士、冒険者が後ろから殺到してくるのだ。
横に抜けるのに失敗し、いつまでもドラゴンの近くに居たら、後続に押し潰されてしまうのは当然だろう。
皆、この強大過ぎる敵に少しでもダメージを与えるのに必死で、巻き込まれてしまった仲間を気に掛ける余裕などないからだ。
この攻撃はしばらく続いているが、ここ数年で急激にステータスを上昇させ、STRだけなら全騎士団の中でもトップの黄牙騎士団でさえ、殆ど攻撃が通っていない。
1人では無理でも2人なら。
2人でも無理なら3人で、と、どんどん人数を増やしていくが、成果はほとんど出ていない。
そして3分後、遂に、黒龍が落下からのダメージが回復したのか、動き始めた。
城壁の上でやったのと同じうように、爪と牙、そして尻尾を振り回し、群がる人間を仕留めていく。
さらに、黒龍の攻撃でダメージを負い、動きが鈍くなった者には近付き、その足で踏み潰していった。
潰された者は原形を留めていない、凄惨な死に方だったが、それでも攻撃の手を緩める訳にはいかない。
ここで黒龍に空に上がられたら打つ手が無くなってしまうと、更に魔導士による魔法も交え、地面に押さえつけようと無駄な努力をする。
無駄だと言ったのは、これだの人数で押さえつけても黒龍が飛び上がるのを止めることは出来ない、と言う意味もあるが、それ以前に、黒龍には空を飛ぶ気は微塵も無い、ということだ。
黒龍は今、人間を潰して回るのを楽しんでいる。
だから、空に飛んでしまうと直接潰すことが出来なくなってしまう為、そんな勿体ないことをする気は無いのだ。
そんなことを知る由もない騎士団員と、周りにいる兵士、魔導士、冒険者達は、必死になって黒龍を攻撃していた。
黒龍が城壁から落ち、1時間が経過していた。
あれから黒龍は、周りに群がる騎士や兵士達を潰しながら移動し、いつの間にか城壁から遠ざかるように誘導され、今では城壁から1km離れた場所にまで移動していた。
王都内にいた人々の非難はまだ継続中ではあるが、必要最低限の戦力だけを残し、それ以外の全戦力が黒龍を囲っている。
黒龍も多少はダメージを受け始め、所々から血が流れていた。
対してこちらの被害は甚大だ。
王都西城壁から黒龍のいる1km先まで、大地に赤い点がいくつも出来ている。
赤いのはもちろん、勇敢に黒龍に挑み、そして屠られた戦士たちの血だ。
すでに戦死者は2000人を超え、重傷・軽傷者は1万を超えている。
それだけの被害をたった1体で出した黒龍を、新国王エドワード=ヴィルヘルム=アステリアは家族と共に、王都西城壁の上から苦々しい表情で見ていた。
厄災級の攻撃すら防ぐ防御結界が張られた、レオナルド特性オープンカーに乗って。
誤字、脱字など、お気付きの点が御座いましたらご指摘をお願いいたします。
もし、この作品を読んで面白い、と思って頂けたら幸いです。




