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第53話 黒龍襲来

 アステリア王国の首都エスカフィールでは、新国王エドワードの戴冠式が執り行われて4日が経過していたが、まだまだいつも以上の人で溢れ返っていた。

 王都のそこかしこで新国王の事が話題に上がり、皆がアステリア王国の更なる発展を願い、大いに盛り上がっていた。

 このようなことは、新国王が即位したら殆どの王都で見られる光景であり、戦争中といった国家の危機でない限り、世界中で見られる光景だったりする。

 それだけ新国王の即位とは、国民にとって大きな希望であり、誰もがより良き時代の到来を予感すると同時に、それを口実としたバカ騒ぎすることができる、一大イベントだったりもする。

 それに最初に気付いたのは、エスカフィールを囲む城壁に建てられた、いくつもある物見塔の1つ、西側の監視を担当していたサキレスという名の兵士だった。

 このサキレスはまだ18歳と若く、王都で行われているバカ騒ぎに早く混ざりたいと思いつつも、しっかり任務を果たさねばと、周りの同僚達がヤル気の無い顔をしている中、たった1人で周辺の監視をしていた。

 サキレスが物見塔から顔を上げて空を見ると、小さな黒い生き物が飛んでいるのが見えた。

 最初は鳥だろうと思っていたが、サキレスは何故か気になってしまい、その小さな黒い鳥を見ていた。

 そして、その鳥が少しずつ大きくなっていることに気付き、それがただの鳥ではないことが分かった。

 恐らく魔物だ。

 この段階で、サキレスはまだこの魔物の正体は分かっていなかった。

 だが、魔物を見つけた場合は上長、ここではこの監視をしている班の班長に報告し、判断を仰がなければならなかった。


「班長!西の空に魔物を確認しました!」

「空に魔物だと?どこだ!」

「あそこです!あそこの黒い鳥のように見えるのがそうです!さっきからこちらに向かって一直線に飛んできています!」

「何だと?・・・確かにそうだな。よし、お前はそのまま監視を続けろ!俺は対空迎撃を要請しに、警備兵の所へ行ってくる!」


 そう言って班長は、空から魔物が襲来していることを伝えに、城壁内部に駐留している警備兵の詰め所に向かい、対空迎撃の準備をしてもらいに行った。

 相手は空を飛ぶ魔物とは言え1匹のみ。

 ならばと魔法が使える魔導士を3人と、弓を持った兵士10人が準備を整え、敵の姿を確認するために班長と一緒に監視塔に戻って来た。


「待たせたなサキレス。対空装備を持った兵士達が来てくれたぞ!あの魔物はどうなった!?」


 班長は、魔物の監視を命じておいたサキレスに現状報告を求めた。

 どうせ大した魔物ではないだろうとタカを括っていた班長と、同行して来た兵士と魔導士は、場所を確認次第、すぐに討伐するつもりでいた。

 だが、


「班長、あれ、ただの魔物じゃないです。デカい・・・とにかくデカい魔物ですよ!」


 震える声で報告するサキレスに、慌てて全員が空を確認する。

 そこには、空にいる故多少の遠近感が狂ってっはいるが、まだ遠くであるというにも関わらず、どんどん大きくなってくる魔物の姿が見えた。

 魔導士の1人が、遠見の魔法である『望遠(テレスコープ)』は発動させて、その魔物を確認した。

 その魔導士が見たのは、物語でしか聞いたことがない、魔神の眷属の中でも特に凶悪な存在で、最低でも超級に分類される魔物だった。


「あ、あれは、まさか、ドラゴン!?」

「「「何!?」」」


 全員が目を凝らすが、『望遠(テレスコープ)』が使えない者には判別が出来ない。


「本当にドラゴンなのか!?見間違いじゃないのか!?」

「いや、間違いない!書物で読んだのと同じ特徴を持っている!すぐに緊急警鐘をならし、国王陛下に報告するんだ!」


 そこからの対応は早かった。

 監視塔に詰めていた兵士が手分けして、緊急警鐘を鳴らし、城壁の上を馬を走らせて他の監視塔に報告し、魔法を使って信号弾を上げ、王城に緊急報告に走らせた。

この時、西城壁の現場責任者が自身で判断し、城壁の外にテントを張っていた、王都に宿が取れなかった人々を王都の中に避難させていた。

 本来なら、王都の中に入るには検問を受けなければならないのだが、責任は自分が取ると言った現場責任者の独断により、一切の検問もなく、外にいた人々は速やかに王都の中に避難できた。


カンカンカンカンカンッ!

カンカンカンカンカンッ!

カンカンカンカンカンッ!


 新国王即位から6日経った今でも盛り上がっていた王都エスカフィールに、風魔法で音が増幅された短い鐘の音が5回連続で響いた。

 この音は、大きな脅威が訪れた時に鳴らされる緊急警鐘だ。

 このエスカフィールに住む人々にとって、兵士達の訓練などで聞いたことはあるが、逆に言えば訓練以外では聞いたことが無い、いや、聞きたくない音だった。

 王都で騒いでいた人々は、最初はまた兵士たちが訓練を始めたのだろうと思っていたが、いつまで経っても鳴りやまない警鐘の音と、城壁から放たれた光魔法による信号弾、外を慌ただしく走り回る兵士達の姿を見て、次第にこれが訓練ではないと気付き始める。



 王都中が少しずつ、先程までとは違う騒ぎに包まれる中、王城への報告の任を請け負った、ドラゴン第一発見者のサキレスは馬を飛ばし、西の大通りを一直線に進んでいた。

 自らの背には、緊急連絡を示す赤い旗と城壁西監視塔の所属を示す旗を背負い、王城まで3つある城門を素通りし、王城の城門まで辿り着いた。

 緊急事態だったため、馬を常に全力で走らせ続け、何度も通行人を撥ねそうになりながらも、10分程度で到着することが出来た。

 そして、王城の門番にドラゴン襲来のことを伝え、国王に報告することになった。

 本来ならここから城内に入り、国王のいる場所まで行って報告するのだが、今回はこの場、王城の城門で報告することとなった。

 なぜなら、王城に居て緊急警鐘の音が聞こえ、西の城壁から大型の魔物襲来の信号弾が上がったのを確認したエドワードが、少しでも早く情報を得る為に、急いで王城西の城門まで来ていたからだ。


「どうした!いったい何が来たのだ!?」

「陛下!西の空よりドラゴンがこのエスカフィールに向かって来ています!」

「ドラゴンだと!?数は!?」

「確認できたのは1匹だけです!」

「分かった!今すぐ王都にいる全戦力を王都西に集めよ!ドラゴンを迎撃するぞ!・・・・いや待て!確か城壁の外側には、多くの者がテントで休んでいなかったか!?すぐに彼らを王都に避難させるのだ!」

「おそれながら陛下!城壁の外にいた人々は、すでに王都内へ避難させています!緊急事態に付き、現場責任者が判断し、実行しております!」

「そうか、よくやってくれた!では、急ぎ全戦力を王都西側に集めよ!宮廷魔導士団も全員集めるのだ!対空装備もありったけ用意せよ!急げ!」


 国王エドワードの言葉により、各所がドラゴン迎撃に動き出す。

 王都内には風魔法を使った広域放送が流れ、戦える者は王都西側へ集め、戦えない者は王都西側から避難するように指示した。

 ドラゴン襲来のことも伝えてあるため、王都中はパニックに陥っていた。

 古の神話の時代、ドラゴンは魔神の眷属として生み出された強力な魔物で、女神の眷属と壮絶な戦いを繰り広げた相手でもある。

 女神セレスが魔神ヴァッシュに勝利し、眷属であるドラゴンもその多くが滅んでいたが、世界中には、と言うより、ダストレア大樹海にはまだまだ生息している。

 生息してはいるが、そのダストレア大樹海には神獣や、女神の眷属であり、龍王ミコト=シューティングスターの配下もあるドラゴン達が、魔神の眷属のドラゴンを見つけ次第狩っていた為、滅多に樹海の外にドラゴンが出ることは無かった。

 300年前、魔王デリオスが現れた時、ダストレア大樹海から現れたドラゴンが魔物を狩っていた、神龍が現れ、魔王に滅ぼされたグレオゴル王国に蔓延っていた魔物を全て駆除した、などの記述もあったが、そんな都合の良い話しがある訳ないとされ、現在ではそれらは全て作り話とされている。

 ドラゴンとは、ただただ恐ろしいだけの、強大な力を持った魔物、という認識でしかないのだ。

 間違っても、どっかの転生者のように、ドラゴンを見て感動するような人間など決していないのである。

 そして王都中にドラゴン襲来の放送が流れた10分後、遂にそのドラゴンが王都に到達し、襲い掛かって来た。

 大きさは15m程度と、ドラゴンにしてはまだ小さい方だ。

 だが、初めてドラゴンを見る人々にとっては、そんなのは何の慰めにもならない。

 そもそも、王国内には5m以上の魔物自体が殆どいないのだ。

 そんな見上げるほどの巨体を持つ敵と、戦った経験のある者などアステリア王国広しと言えど、スティード騎士団くらいではないだろうか?

 だが、そんなことを嘆いてもいられない。

 対魔物のスペシャリストであるスティード騎士団は、2日前に領地へ帰ってしまっているのだ。

 ここに、アステリア王国対ドラゴンの壮絶な戦いが始まった。



 時を遡り今から8ヶ月前、ミコトに紹介された古代龍(エンシェントドラゴン)とレオナルドが戦い終わった後、ダストレア大樹海から一斉に魔神の眷属のドラゴンが飛び立つという事があった。

 これに対し、女神の眷属であるドラゴン達が討伐に向かい、数匹逃してしまったが圧勝した。

 この時に逃してしまったドラゴン達の中の1体、まだ若い黒龍が重傷を負いながらも何とか身を隠し、傷を癒していた。

 この黒龍の強さはSランクの超級に分類されていて、なるべく強力な厄災級のドラゴンから倒されていったため、何とか逃げることに成功していた。

 そして、逃げられたドラゴン達も、そのエリアを守護している神獣達に見つかり、狩られてしまっていた。

 だがこの黒龍は西側に逃げていて、担当しているフェンリルが運良く北側に移動していた為、見つかることが無かった。

 さらに黒龍は傷が癒えるまで洞窟の中に隠れて動かず、食事もその洞窟に入って来てしまった魔物や魔獣だけにしていたのも手伝い、ドラゴンがいた形跡が全く無かったため、西側に戻って来たフェンリルも見つけることが出来なかった。

 しかし満足に食事が出来ないまま傷を癒すには時間が掛かり、まともに動けるようになるまでに、実に8ヵ月もの時間を費やしてしまった。

 何とか飛べる程度まで回復した黒龍は、餌を求めて飛び立った。

 このダストレア大樹海には餌となる魔物や魔獣が多数生息していて、食うには困らない環境ではあるが、女神のドラゴンとの戦闘の恐怖がある黒龍は、またいつ襲われるか気が気でない状態だった。

 もちろん神獣に見つかったら殺されてしまうことは簡単に想像でき、そんな危険が満載のダストレア大樹海から黒龍が逃げ出したのは、当然の結果と言えるだろう。

 ちなみのこの黒龍は、生まれてからまだ百数十年の若いドラゴンである。

 ドラゴンは歳を重ねるごとに強くなり、知能も付く。

 そして、長命なドラゴンに自我が生まれるのは大体300歳くらいからだ。

 つまりこの黒龍は、ちゃんとした考えがあっての行動ではなく、ただの本能によって、これまで行動してきたのである。

 ダストレア大樹海から逃げ出すために、黒龍は空高く舞い上がり、雲に隠れて北上した。

 運良く女神の眷属に見つかることなく脱出に成功した黒龍は、餌を求めていた。

 途中で森を見つけ、そこにいた動物や魔物を喰らい腹は一応膨れたが、このずっと纏わりついている不快感は無くならない。

 それは、女神のドラゴン達に負けた屈辱が原因であり、つまりこの黒龍はムシャクシャしているだけなのだ。

 3日ほどこの森で休み、ここにいた目ぼしい生き物は全て腹の中に収めた黒龍は、いつまで経っても無くならないこの不快感を消すため、森を飛び立った。

 空高く舞い上がり、ホバリングしながら空から眺めると、近くに街があるのが見えた。

 その街を襲撃しようと近付いた時、黒龍の視界に入ってしまった。

 遠くにある、大きな大きな街を。

 その街はいくつもの壁があり、中心には特に大きな建物があった。

 黒龍はそれを見て、あれを壊したら楽しそうだ、と思った。

 直前まで襲撃しようとしていた街は素通りし、一直線にその大きな街、アステリア王国王都、エスカフィールに向けて羽ばたいた。

 黒龍の翼なら、30分程度で行けてしまえそうな距離だったが、あえてゆっくり飛んで行き、倍の1時間をかけて到着した。

 これは、人間の恐怖を煽るとかそんな理由ではなく、何となくの行動だった。

 もしかしたら、楽しみはなるべく最後まで取っておく、的な理由だったのかもしれない。

 なぜなら、この黒龍にはまだ自我芽生えておらず、本能のままに行動しているに過ぎないからだ。

 そして、多くの兵が待ち構えるエスカフィールに到着した黒龍は、城壁や城外に並んでいる人間達を見つけた。

 その全てが自分を見ていて、殺気を向けているのを感じていたが、それ以上に怯えているのが気配で分かってしまった。

 そして、女神のドラゴン達が纏っていた強者の空気も感じない。

 つまりここにいる人間は、黒龍にとっての敵ではなく、遊び相手程度だと認識されてしまった。

 そう、ここは黒龍にとっての戦場ではなく、ただの狩場となっていたのだ。

 そして、黒龍による蹂躙が始まった。

誤字、脱字など、お気付きの点が御座いましたらご指摘をお願いいたします。

もし、この作品を読んで面白い、と思って頂けたら幸いです。

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