第5話 空間支配
ヒルデの話で、5歳になったらステータスを公表しなければならない、ということを知った。
どうしよう。いや、焦るのはまだ早い!もしかしたら貴族のステータスはこのくらいが普通かもしれない。何せ、貴族とは人の上に立ち、民を守る存在だ。ステータスが高くなければ務まるはずもない!そうだ、そうに決まっている!
自分に都合のいい解釈で心を落ち着かせていると、父であるグレンが部屋に入ってきた
「お、ヒルデは今日もレオに本を読んでくれているのか。今日は何を読んでいるんだ?」
「はい旦那様。本日はステータスについての本を」
「おお、そうかそうか。レオ、お前も5歳になったらお披露目会で、皆の前で鑑定してもらうからな?しっかりとステータスを上げておくんだぞ?」
父は頭を優しく撫でながら話してくる。
「ま、私の子どもだからな!別に心配はしておらんぞ!何せ我がスティード家は代々、ステータスが高い者が排出されているからな!」
良かった。ステータスが高いのは血筋だったんだ。なら一安し・・
「ちなみに、私のレベルは58だ!今は理由があって、ステータスの平均は550くらいになってしまっている。それでも一般的な兵士よりかは断然強いがな!おまえも私のような、強い男になれるように頑張るんだぞ!」
安心できなかったー!なんだよ平均550って!もうすでに抜いちゃってるよ!確かに平均よりも高いと言っていたヒルデの4倍以上だから、かなり凄いんだろうけど、それで国内有数の騎士なんでしょ!?マズイ!マズすぎる!何とか隠さなきゃ!でもどうやって?
内心の焦りを隠しつつ、赤ちゃんらしく笑ってごまかした。
「よし、レオの笑顔を見れたことだし、そろそろ行くとするか!」
父はそう言って、部屋から出ていこうとする。ステータスに気を取られて気付かなかったが、鎧を着こんでいるじゃないか。
「旦那様、これからどちらに行かれるのですか?」
「ああ。南の森へ討伐に行ってくる」
討伐?
「早朝に南の森で、魔物が出たと報告があってな。怯えている民たちの為に、今から討伐してくる。私がいない間、レオのことを頼んだぞ」
「はい、お任せください。ただ、旦那様は今はそのような状態なのですから、どうか無理をなさらないようにしてください。」
ヒルデは綺麗なお辞儀をして、父を見送った。
さっきから、少しだけ会話に違和感を感じているんだけど、何だろう?まあ、いいや。
それにしても、そうか、魔物や魔族がいる世界だって神様は言っていたっけ。魔物から領民を守るのも、領主の仕事なんだな。じゃあ、やっぱり強くならないと。ステータスに関しては、後で考えよう。お披露目まではまだ、4年もあるんだから。
それにしてもレベル58で、ステータス平均が550か。どうしよう・・・
赤ちゃんらしく、しばらくヒルデの話しを聞いている内にウトウトとし、寝たふりをする。僕が寝たと思ったヒルデは、少しの間待機した後、静かに部屋から出ていった。
さて、せっかくステータスを見れたんだから、今日は筋トレ以外をやろうかな。
試したいのはもちろん、ユニークスキルの空間支配。説明をざっとまとめると、INTが高ければ高いほど範囲が広がり、MPが多ければ多いほど、いろいろできる、ってことらしい。僕のINTは1284もあるから、どこまで支配できるのかな?
「空間支配」
念じるだけでも良いと思うんだけど、初めての魔法だからね、あえて声に出してみる。ん?いつしゃべれるようになったかって?転生して2日目です。ただ、赤ちゃんが普通に話すのは不自然、というか不気味でしょ?せめて2歳になるまでは、しゃべらないようにしようと思っています。
それはさておき、僕を中心に球体が広がっていき、球体の内部の情報が一瞬にして頭の中に流れ込んでくる。
「うわっ!?」
そのあまりの情報量に激しい頭痛がして、つい声を上げてしまった。幸い、近くに誰もいないから、声を聴かれることは無かった。何で、誰も近くにいないか分かったかと言うと、広がった球体の中、同じ高さに、誰もいなかったからだ。範囲は半径10メートルくらい。おそらく範囲はINT×1㎝ってところかな?その内側の情報が全て僕の中に流れ込んできた。そう全てだ。
空間支配で得た情報は、どこに何があるのか、誰がいるのかといった、視覚で得られるものはもちろん、家具の下や壁の中のこと、空気の流れた温度といった、普通は見えない事や計器類を使って測定しなければ分からないことまで情報として入ってくる。室内のハウスダストや、地面の中の微生物の情報までもあった。
はっきり言って、人の脳が処理できる許容量を遥かに超えています。無理!頭痛い!いらない情報多すぎ!脳がパンクして、逆に何も分からない!視覚で得られる程度の情報で充分だよ!
と、頭痛で悶えながら訴えていると、いきなり情報量が激減した。今の状態を簡潔に説明するなら、超高性能な監視カメラ、といったところかな。範囲内なら、どこでも好きな所を見ることが出来る、だけ。おお、頭痛が消えた!
この球体は、僕の意識内でのみ認識しているようで、他の人には見えていないようだ。僕はこの球体の範囲を支配圏と呼ぶことにした。
この支配圏の内側を観察する。誰がどこで何をしている、とか、何がどこにある、まで、細かく分かり、そのことを俯瞰して見ることができる。調子に乗って支配圏内を観察していると、トイレの情報が入った、途端、僕は支配圏を解除した。これはマズイ。プライバシーの侵害以外の何物でもない。いや、もっと端的に言ってしまえば、ただの覗きである。変質者じゃないか!いや、犯罪者だよ!
しばらくして気持ちを落ち着けて、また空間支配を発動する。トイレを意識して見ないようにすると、そこだけ情報が全く入ってこなくなった。やっぱり、得られる情報の取捨選択が出来るようだね。そこからいろいろ実験し、わかったことは、全ての情報が入ってくるのはINT×1㎝の支配圏内だけだが、情報量を減らしていけば範囲は広がり、ゲームでい言うところのMAP機能だけなら、最大で約10倍の範囲を見ることが出来る。そのMAPも、人を点で示すだけなら、少し範囲を狭めるだけで使用することが出来る。
なぜ支配圏とMAPと使い分けているかと言うと、この2つには明確な差があるからだ。
支配圏を使って試行錯誤しているとき、コレットが脚立から落ちる、という事件が起こった。コレットとはメイドの1人で、14歳。茶髪の小柄な少女で、ヒルデの補佐として、たまに僕の世話をしてくれている。そのコレットが、脚立に乗って掃除をしているとき、天井からクモが落ちてきて、それに驚いてバランスを崩してしまった。
近くにいたヒルデが気付いて駆け出した時には、コレットは頭から床に向かって落ちていた。間に合わない!
何とかしなくちゃ、と思ったら、コレットが空中で止まり、向きを変え、足から着地した。
え?僕だけじゃなく、見ていたヒルデも、当事者のコレットも驚いている。コレットと一緒に倒れたはずの脚立も、元の位置に戻っている。これって・・・
突然の出来事に驚き、パニックになっている2人を置いて、僕は1つの可能性が頭をよぎっていた。
空間支配、支配可能領域内の空間なら、あらゆる干渉ができる。つまり、今、僕が空間に干渉して、コレットを助けて、脚立を元に戻した、と考えられるのではないだろうか?
仮説を立て、それを証明するための実験を開始する!すいません。ちょっとカッコつけたかっただけです。でも勢いって大事だと思いません?
早速、部屋の中にある物に干渉してみよう。飾ってある壺とか絵画は、壊すとまずいので、まずはカーテンの開け閉めをしてみよう。でも、どうやって干渉するんだろう?さっきはとっさにコレットを助けようと思って、こうなれば良いな、と思ったらそうなったんだよな。じゃあ、とりあえず、カーテンを閉めて、開ける、という動作をイメージしてみた。すると、カーテンが閉まり、その後、元の位置に戻った。
「あ、できちゃった」
あまりにも簡単に成功したため、つい声に出してしまった。まあ、近くに誰もいないのは把握できているから、大丈夫なんだけどね。
そこからは早かった。物を動かすことが出来るなら、自分の体を持ち上げ、ベットから出られるのではないだろうか?もちろん成功した。
と、言うわけで、狭いベットから解放された僕は、広い室内を動き回り、運動をすると同時に、空間支配を使って物を動かし続けた。当然、2足歩行です。
実験の結果、干渉できるのはINT×1㎝の支配圏内だけで、それより外の空間では何もできない、というのが分かった。その為、空間支配が適応される範囲を支配圏、それ以外をMAPと呼ぶようにした。
1時間ほど運動と実験を繰り返し、そろそろ疲労してきたのでベットに戻った。しかし、やけに疲れたな。だが、他の事も調べてみたい。そう思いステータスを開くと
名前:レオナルド=シオン=スティード
年齢:1歳
種族:人間
職業:スティード伯爵家次男
レベル:17
HP:946/946→946/2364
MP:533/533→ 4/2763
STR:959 →2496
ⅤIT:833 →2255
INT:1284→3218
MND:538 →2575
AGL:461 →1144
DEX:675 →1283
スキル
言語理解
空間支配
魔導具作成(極)(ユニーク)
成長補正(極)(ユニーク)
称号
守リシ者
空間ヲ支配スル者
となっていた。
はい?この1時間でレベルが9も上がっている?そしてステータスがヤバい!もう人外なのでは?と不安になってくる。でもなんで?どうして?
混乱する頭では、必死に考えても分かるはずもなく、ずっとステータスを開けたままフリーズしていたら、徐々にMPが減っていき、ついに0になった。
そこで僕の意識は途切れた。
誤字、脱字や何かお気づきの点など御座いましたら、ご指摘いただけると幸いです。