第46話 冒険者ドラグル
番外編2話目です。もうしばらく続きます。
「よう、無事か?」
軽い運動をした俺は、信じられないような目でこっちを見てくる騎士団に近付いて行った。
「あんたは一体、何者だ?あれだけのゴブリンとオークの群れを、いとも簡単に殲滅するとは・・・」
「俺か?俺はドラグル。しがない旅の戦士だ。ちょっとそこの森から出てきたら、お前らが襲われているのが見えたからな。加勢しただけだ」
「襲われているって・・・いや、我々はあの魔物達を殲滅するために迎撃したいたのだが・・・」
「あれでか?どう見てもお前らに、勝ち目なんて無かっじゃねえか?」
「う・・・まあ、そうなんだがな・・・しかし、我々が負けると、この先に住んでいる民が魔物に蹂躙されてしまうのだ。だから我々ナイザット辺境伯軍が、決死の覚悟で戦っていたのだ!」
「決死って、まあいいや。じゃあ、俺は行くから・・・・」
「貴様か!?あのオークとゴブリンを殲滅したのは!?」
早く旅に行きたかったからこの場を離れようとしたら、やけに偉そうなヤツが馬に乗って来やがった。
ん?こいつは確か、後ろで無能を晒していた指揮官じゃねえか。
面倒事のニオイがしてきやがった。
「ああ、そうだ。何だ、礼か?それなら要らねえぜ?」
「貴様は何を言っているのだ?それよりも貴様!そこそこの強さではないか?私の軍に入れ!いいな!?」
「あ?何でだ?」
「黙れ平民!私はこの領地を治める、ナイザット辺境伯家の次男、テオスターク=レグト=ナイザットだぞ!?貴様は黙って私の言う事を聞いていれば良いのだ!」
「話になんねえな。俺はな、テメーみたいなクズの下になんざ、死んでもつかねえぞ?これ以上俺に話しかけるな。いいな?」
軽く殺気を飛ばして威嚇してやる。
あ、このクズ、漏らしやがった。
あ~、アイツを乗せてやっている馬が哀れだなあ。
「ヒっ!?何をしているお前たち!?この無礼者を捕まえろ!」
おいおい、無茶言うなって。
こいつらはお前と違って、魔物とずっと闘ってたんだぞ?
後ろにいただけのお前と違って、疲れてんだぞ?
「無理ですよテオスターク様。この方は我々が苦戦していた魔物の群れを、1人で殲滅出来る実力者ですよ?敵対したら、こちらが全滅してしまいますよ」
「黙れ!いいから捕まえろ!」
「やれやれ・・・」
クズの言葉に律儀に返したのは、さっき話した騎士隊長だった。
さすがにコイツは、俺の実力が分かっているようだけど、上からの命令だからな。
渋々こちらに向かって来た。
「なあ、ドラグル殿?聞いての通り、うちの坊ちゃんがあんたを捕まえろってうるさいんだよ。悪いんだけどさ、逃げてくんねえか?」
「いいのか?」
「ああ、逃がしちまったら、それはそれでしょうがねえだろ?」
「だな。うし、じゃあ逃げるわ。じゃあな!」
そして俺は、この場から走り去った。
ついでに倒したオークキングとジェネラルを異空間収納に回収もしていった。
だってオークって、食うと美味いんだぜ?
せっかく倒したんだから、食わない手はないよな?
そして、あっという間にこの場から離れた。
そのスピードは、一応追ったんだけど逃げられました、という報告をするために、追跡の準備をしていたナイザット辺境伯の軍が、準備が完了する前に視界から完全に消えるほどだった。
それから数ヶ月、俺はレシタクルス大陸の北部を旅した。
いつも旅をしている時と同じく、冒険者組合に登録し、最下級のG級からスタートした。
最初は薬草の採取とか、街の便利屋みたいな仕事ばかりをやってランクを上げるのが普通なのだが、俺は受けた依頼とは関係なく、魔物や魔獣を狩りまくっていた。
狩りまくっていた理由?
しょぼい依頼をちまちまこなすより、狩った魔物の素材を売った方が金になるからだ。
で、俺が余りにも大量の魔物の素材を持ち込むもんで、不正をしていると推察した組合のマスターが俺を呼び、詰問をしてきた。
正直に話しても信用されず、なら腕試しをさせろと言ったら、なんとギルドマスターが直々に相手をすることになった。
このギルドマスターは、筋骨隆々の偉丈夫で、元A級の冒険者だった実力者らしい。
こいつが俺を認めれば、今回の疑惑が晴れ、かつ等級も上げてくれるとのことだ。
いざ勝負、ってなった時、このギルドマスターが
「まずは全力で打ち込んでこい!」
なんて言うもんだから、打ち込んでみた。
もちろん手加減はしたぜ?
結果は、
「お前本当に人間か!?元A級の俺でも動きが見えなかったぞ!?合格だ!いや、それだけじゃない!俺の権限で、お前をA級・・・・はさずがに無理だから、B級にしてやる!」
となった。
おかげですぐにB級になれた俺は、魔物や魔獣討伐の依頼を受けまくり、あっという間に認められ、A級になった。
ダストレア大樹海を出てから半年程度の出来事で、このスピード出世で、俺は将来有望の冒険者として名が知れ渡っていた。
名前が広まれば、バカな連中が増えてくる。
腕に覚えのあるやつが一旗揚げようと、俺の都合を無視して挑んで来たり、ぽっと出の俺が気にいらねえとか言って、ケンカを売ってくる奴もいた。
ああ、俺を召し抱えてやるから来いとか抜かした貴族もいたな。
そんな連中を、延々と数ヶ月かけて全て返り討ちにしてやったら、いつの間にか俺にケンカを売ってくるバカはいなくなった。
ああ、返り討ちにしたって言っても、殺していないからな?
まあ、バカな連中、主に貴族様には、ちょ~っと痛い目に会ってもらったけどな?
具体的には、そいつの領地を離れてからしばらくしたら、夜の内に超スピードで戻って来て夜襲をかけ、そいつの家を半壊させてやった。
もちろん、誰も殺してねえからな?
そして樹海を出て1年した頃には、俺はS級にランクアップし、最強の冒険者と呼ばれるようになっていた。
まあ、ステータスが1/10になっているとはいえ、正体が神龍だからな。
それにしても、魔物や魔獣の討伐依頼が多すぎるな?
なんでか調べてみたら、何と西のバルケスラ大陸に魔王が現れ、魔族がこのレシタクルス大陸に攻め込んできているらしい。
魔王の名前はデリオスで、ケタ違いの力を持っているらしい。
それに呼応するかのように、各地の魔物や魔獣が活性化し、人を襲っているそうだ。
魔族自体は、まだ少数しか上陸していないようで、レシタクルス西部の国が全力で応戦しているため、そこまで深く侵入されていないらしい。
おそらく、海を守護している神獣達が奮戦しているからだろう。
だが、ダストレア大樹海はかなりマズイらしい。
4体いるはずの神獣が、ベヘモスがやらかしたせいで今は3体になっている。
そして残りの3体の神獣は、活動が活性化した自分の担当の魔物を狩るので手いっぱいで、ベヘモスが担当していた北側まで、ほとんどカバーできていないらしい。
その結果、ダストレア大樹海の北部に隣接しているアステリア王国が、甚大な魔物被害に遭っているらしい。
それを聞いた俺はため息を吐きつつ、アステリア王国に向かうことにした。
セレスが言っていた大変なことって、この事かよ。
アステリア王国に到着した俺は、まずは王国の南部、要はダストレア大樹海北部に隣接している場所に向かった。
道中を見た限り、王都周辺は被害が無く、東西北の各地も被害がないらしい。
だが、南部に近付くにつれ、魔物や魔獣の数が増え、壊滅した村をいくつも見た。
道中、目に付いた魔物達は片っ端から始末したが、その数は軽く千を超えている。
そして俺が樹海を出た地、ナイザット辺境伯領に到着して見たのは、魔物に蹂躙されて荒れ果てた領地だった。
そこいらじゅうに魔物や魔獣が跋扈し、人間は誰もいない。
村や町は破壊され、領主が治めていたであろう街も壊滅していた。
この近辺にいるのは魔物や魔獣ばかりで、人間は誰もいない。
なので俺は一度神龍の姿になり、ダストレア大樹海に戻った。
そして、一直線にノイシュヴァン山脈を目指し、俺の眷属のドラゴン達をダストレア大樹海の北部及び、アステリア王国南部の人がいない場所へ向かわせ、溢れている魔物達を狩らせることにした。
本気で俺が飛ばせば、往復で4日程度で戻って来れたが、眷属達は俺のステータスに遥かに劣る為、俺より3日遅れて到着した。
その間、これ以上の被害が出ないように俺は魔物を狩り続け、残りは眷属達に引き継いで移動した。
取りあえず冒険者組合には、アステリア王国ナイザット辺境伯領の南部、ダストレア大樹海の近くで、ドラゴンが魔物達と争っていたから近づくな、と報告だけすることにした。
冒険者組合のある街を求めて、いくつかの領地を巡ったが、アステリア王国南部の地からは殆どの人が離れていて、それに合わせて冒険者組合も離れているようだった。
そしてやっと冒険者組合を見つけたのが、ノーマン伯爵が治める街、イサエラだった。
このノーマン領は、領主が騎士団を率いて魔物を迎撃しており、今まで通って来た南部の中では、1番人が多く残っていた。
早速冒険者組合に行き、説明をする。
最初受付は『何言ってんだこいつ?』と相手にしなかったが、S級冒険者の証である真黒な冒険者カードを見せたら、急に態度を変え、丁寧に対応してくれた。
この真黒なカードはアダマンタイト製で、A級が金、B級が銀で作られている。
最初の対応にはイラッと来たが、普通に考えると、魔物が大量にいる場所にただの冒険者が1人で行って、中の様子を見て来た、って言っても信じられるはずがないからな。
俺が始めからS級冒険者だと名乗らなかったのが原因だから、ここは我慢してやろう。
その後、ギルドマスターがやって来て、応接間に通され、詳しい話しを聞かれた。
ナイザット辺境伯領の現状はどうなのか?魔物はどの程度まで進行してきているのか?生存者はいたか?そして、現れたドラゴン達はどの程度の規模なのか?
俺はそれに対し、辺境伯領内は魔物で溢れかえっていて、生存者はいなかったこと。
魔物はすでにナイザット領から離れ、他の領地にも侵攻していたこと。
そして、ドラゴンの数は20体程度だが、おそらくダストレア大樹海の浅い所にはまだまだ沢山いるであろうこと。
ドラゴンと魔物達は争っているようで、おかげでこれ以上ダストレア大樹海から魔物が出てくることは無いだろうということと、今の所人間を襲うことはなさそうだという事を伝えた。
ただし、相手はドラゴンなので、下手に刺激したらどうなるか保証は出来ないから、決してこちらから近づかないように、と釘を差しておく。
眷属達には、基本的に人間は攻撃しないように言い含めてあるが、ケンカを売られたら遠慮なく買え!と言ってあるからな。
まあ、この世界のドラゴンは、神話の時代に魔神ヴァッシュの配下として暴れていたから、人間たちにとっては恐怖の対象でしかない。
だから、そうそう手を出そうなんていうバカはいないだろう。
たぶん。
一通りの報告が終わり、冒険者組合から出ようとしたら、ギルドマスターにこの街にいてもらえないか、と懇願された。
何でも、最近この街も魔物による襲撃が増え、戦力が少しでも多く必要なのだそうだ。
領主のノーマン伯爵も懸命に戦ってくれているようだが、魔物による被害が日に日に増えているそうだ。
話しを聞いた限り、そのノーマン伯爵は民想いの領主で、今まで見て来たクズのような貴族とは違うように思える。
街の様子を見る限り、とても魔物の脅威に晒されているとは思えない程活気があり、善政を敷いているのが見て取れる。
そんな領主の治める街ならば、守ってやってもいいだろう。
少し悩んで、俺はギルドマスターの話しを受けることにした。
それを聞いたギルドマスターは涙を流して喜び、このことを冒険者組合にいた全員に伝えた。
S級である俺の参戦を聞いた全員から、大きな歓声が上がった。
何でも、実力のある冒険者達はすでに安全な所に逃げてしまい、今ここに残っている冒険者は、このノーマン領出身の者が殆どだそうだ。
今では最高ランクの冒険者がB級で、それも2人しかいなく、残りはC級が20人と、D級以下が120人しか残っていなかった。
これだけの規模の街なら、最低でも500人以上の冒険者がいるはずだが、そのほとんどが逃げたか戦死してしまったとのことだった。
イサエラの街に到着したその日の内に、俺は依頼を受け、ノーマン領の巡回及び徘徊している魔物の殲滅に向かった。
オークとハイオークの群れと遭遇し、あっさり殲滅完了。
大量のオークの肉を異空間収納にしまい、イサエラの街に戻ってきた頃には夕方となっていた。
街に入ると、少し様子がおかしいことに気付いた。
街の中央広場に人が集まっていて、何やら騒いでいる。
近くに冒険者っぽいのがいたから、捕まえて話しを聞いてみた。
「おい、何かあったのか?」
「ああ、難民がこの街に逃げて来てよ。そいつらが言うには、オーガの群れに襲われたらしくてな。たぶん、ここにも来るんじゃねえかって話だ」
「ああ、だからコイツ等は騒いでんのか」
オーガは、オークやゴブリンとは比べ物にならないほど強力な魔物だ。
それが群れでとなると、この街の戦力でなら何とか勝てるかもしれない。
だが、もし上位個体が混ざっていれば、恐らく負けるだろう。
そして、難民の話しを聞いている限りでは、少なくとも3体のハイオーガと1体のオーガジェネラルがいるらしい。
確認できただけでも、12体のオーガと3体のハイオーガ、そして1体のオーガジェネラル。
この街の戦力では絶望的だろう。
俺がいなければな!
「どうした!これは何の騒ぎだ!?」
あ、なんか偉そうなのが出て来た。
「おお、領主様!実は・・・」
ふ~ん、あれがここの領主、ノルン=クシャナ=ノーマン伯爵か。
しっかり鍛えているようだし、噂通りなら民想いの良い領主らしいな。
だが、この危機的状況でどう動く?
他のクズ貴族と同じようなら、俺はここを離れようかと思っている。
「そうか、オーガの群れがここに向かっているのか・・・・」
「そうです!どうしましょうか!?」
「それは後で考えるとしよう。それより、早くこの者たちを休ませてやれ。必死に逃げて来て、腹も減っているだろう?食事も用意させよ」
「領主様!?よろしいのですか!?」
「この者たちは、オーガから命からがらこの街に逃げていたのだろう?ならば私は領主として、この者たちに手を差し伸べねばならぬ。反論は聞かん!すぐに用意せよ!」
「は、はい!直ちに手配します!」
ノルン伯爵は部下にそう指示を出し、難民の所に行った。
「お前たち、今までさぞ辛かっただろう?安心しろ。オーガなど私達が追い返してやる。だから今は、安心して休むが良い」
そう声をかけ、見ず知らずの難民を手厚く保護した。
うん。
コイツは立派な貴族、立派な領主だな。
俺はこれを見て、このノルン=クシャナ=ノーマンを好きになっていた。




