第45話 神龍の過去話
今日からしばらく番外編を投稿します。
封印の魔導具の作成を始めて3ヵ月が経過していた。
今僕はミコトさんの屋敷にある、人間サイズ用の食堂でミコトさんと夕食を食べている。
最初の内は封印の間で寝泊まりしていたんだけど、ずっとこんな場所に引きこもっているのはどうかと思い、封印の間に繋がる迷宮から出て、外にいつもの小屋を作った。
それを見たミコトさんから、
「それならウチに来るか?無駄に部屋が多いし、人間用の部屋もあるしよ。ほとんど使ってねえけど、キッチンもあるぜ」
というお誘いを頂いたので、この屋敷に住まわせてもらっています。
食事が終わり、一息ついたところで、以前から聞こうと思っていた質問をすることにしました。
「そういえばミコトさんって、魔王デリオスと闘ったことがあるんですよね?」
「ああ、あるぞ?もう300年くらい前だったか?今まで戦った中では、レオの次に強かったな」
「という事は、勇者ドラグルも知っているんですよね?」
「知ってると言うか、良く知りすぎているというか・・・」
「どんな人物だったんですか?勇者ドラグルって?」
魔王デリオスと勇者ドラグルに関しては、昔話としては聞いたことがあるけど、目も前にその当時を知り、かつ両名とも面識がる人がいるんだから、聞かない手はないね。
「どんなって聞かれてもなあ?こんな奴だぞ?」
と、自身を指差しているミコトさん。
「え?どういう事ですか?」
「まあぶっちゃけるとだな、勇者ドラグルってのは、俺のことなんだよ」
「え?」
どういう事?
ミコトさんが勇者ドラクル?
「ああ、丁度な、俺が人間の姿で世界を旅していた時に、魔族がレシタクルス大陸にが攻めて来たんで、返り討ちにしてやったんだよ」
「それがどうしたら、ミコトさんが勇者ドラグルになるんですか?」
「旅していた時に、俺が使っていた偽名がドラグルなんだよ。それまでは何回も、この名前で旅をしていたんだぜ?」
「勇者になったのは?」
「魔族を片っ端から狩っていたら、いつの間にかそう呼ばれていた」
「そうなんですね・・・」
確かに、人間の姿のミコトさんは、本来の1/10のステータスとは言え、人間よりも遥かい強い。
いくら魔族が人間よりも強くても、こんな規格外の人間、しかもその正体は神龍だし、を相手にして、勝てる訳などない。
「興味があるなら、少し当時のことを話してやろうか?」
「良いんですか?是非お願いします!」
「よし、それじゃあ、そうだなあ・・・俺がこの樹海を出る少し前から話してやるよ」
『ふあぁぁ・・・、よく寝た。どの位寝てたんだ、俺?』
魔神ヴァッシュが封印されている封印の間で、長期間の眠りについていた俺は、目を覚ました。
取りあえず100年以上は寝ていたと思う。
よし、セレスに聞きに行くか!
早速俺は人間に姿になり、封印の間を離れた。
迷宮を出口に向かって進み、無数に襲い掛かってくる罠を無視しながら、20分程度で外に出る。
途中、何人か冒険者っぽい連中を見かけたが、おそらく迷宮と繋がっている別のダンジョンを攻略中なんだろ。
関わるのが面倒だから、無視だ無視!
そのまま屋敷に向かい、女神像を設置してある部屋に入る。
この屋敷には、常に掃除がされる魔法が掛かっていて、軽く100年以上は誰も住んでもいなければ、管理もされていないのに、ホコリ一つ落ちていない。
女神像の前に到着すると、すぐに祈りを捧げる。
ポーズだけだがな!
心の中では
『セレスの依頼もこれで終わったから、また樹海を出て旅でもしてくるかな?』
とか考えていた。
視界が光りに覆われ、気がついたら真っ白な空間にいた。
で、目の前には女神セレスが俺を待っていた。
「やあ、ミコト。ヴァッシュの封印の維持、ご苦労様」
「おう。今回の俺は、どれだけあそこに居たんだ?」
「253年だよ」
.「そんなに寝てたのかよ!?」
100年程度のつもりが、いつの間にか大幅にオーバーしていた。
まあ、前世の頃から寝坊癖はたしかにあったな。
「それで、ミコトのおかげで、向こう70年位なら封印を放置できる程度には、ステータスが貯まったみたいだね」
「お、そうか。それが聞きたかったんだよな!じゃ、もう用はねえから帰るな?」
「ちょ、ちょっと!?もう帰っちゃうの!?」
「おう。この後、久しぶりに樹海から出て、旅をしに行く予定だからな!」
「もう決定事項なんだね・・・分かったよ。で、今回はどの方向に行くんだい?」
「前が東だろ?その前が南で、さらに前が西だから、よし、今回は北に行くわ」
「北だね。そうするとアステリア王国かな?どうする?すぐに行くなら転送してあげるよ?」
「あ~、配下のドラゴン達にも挨拶くらいしときたいから、3日後でも良いか?」
「3日後だね?いいよ。じゃあ、3日後の準備が出来たら、またここに来てよ」
「おう、頼むわ」
このドラゴン達は、俺がこの世界に転生した時はいなかった。
なぜならドラゴンとは、魔神ヴァッシュが生んだ眷属であり、もともとは女神セレスとは敵対していた種族だったからだ。
だが、仲間が欲しかった俺が、女神の使徒として依頼をこなし、その報酬でドラゴンの仲間を作ってくれ、と頼んだら、俺の眷属としてセレスが生んでくれた。
おかげで、今の俺には仲間、というか、家族とも呼べるドラゴン達がたくさんできた。
そいつらに、俺が起きたって教えて、苦労を労ってやらないとな。
何せ、俺が封印の間で寝ている間は、こいつらが神獣と協力して、樹海内に発生している魔物や魔獣を狩ってくれているからな。
それと、セレスから俺が眠っている間に世界で起こっていたことを聞いた。
中でも面白かったのが、今から150年ほど前に北の海に魔物が大量発生し、応援としてダストレア大樹海の北側を担当している神獣、ベヘモスが向かったそうだ。
ベヘモスは巨大な象のような姿で、神獣としてはまだ若く、1500歳程度だった。
実は俺よりも若かったりする。
先代の北側を担当していた神獣クジャタが倒れ、代わりの神獣としてベヘモスをセレスが生み出したそうだ。
クジャタとは巨大な牛のような神獣で、最高齢の神獣でもあった。
1万年以上を生き、死期を悟ったクジャタは、最期に強者と闘うことを望み、俺に挑んできた。
俺も神龍の姿になり、クジャタに失礼の無いよう本気で闘い、そして倒した。
この戦闘で重傷を負い、かつ寿命が尽きかかっていたクジャタは、満足そうにこの世を去った。
で、その後釜となったベヘモスだが、コイツがやらかしたらしい。
大量発生した魔物達を殲滅したのは良いが、帰りに人間の国にも大打撃を与えてしまったらしい。
どういうことか詳しく聞くと、まず、行きはセレスに転移で送ってもらった。
で、帰りもセレスが転移で送り返すはずだったのが、なぜかあのバカは、自力でこのダストレア大樹海に戻って来たのだ。
当然ベヘモスは飛べないから、歩きでだ。
ベヘモスは、慣れない海での戦闘に順応する為、海限定で自身のステータスが大幅に上昇する、『海神の祝福』と言う特殊魔法を北の海担当の神獣、リヴァイアサンにかけてもらっていた。
コイツのデメリットは、海から上がると1年間、ステータスが1/3になってしまうというものだ。
ベヘモスのステータスは1200万程度で、陸に上がった時は1/3の400万程度に低下していた。
しかし、人間にとっては400万でも十分すぎる脅威であり、厄災級の魔物と同じ、恐怖の対象でしかなかった。
そしてこのベヘモスは、進路上にある国や町、村を踏みつぶしながら進み、ダストレア大樹海に帰った来た。
慣れない海で闘い、『海神の祝福』による急激なステータスの上昇と、陸に上がった時の急激のステータスの下落で、一種の状態異常になってしまったのではないだろうか、と、俺は考える。
真相はともかく、女神の眷属の守護者たる神獣が、眷属を守るどころかとんでもない災害を引き起こしてしまった。
それを知ったセレスが怒り、罰としてさらにステータスを500年間1/10にして、神獣として活動できないようにしたそうだ。
だから、今のベヘモスのステータスは400万の1/10だから、40万程度ということになる。
その程度だと、厄災級の魔物や魔獣に大勢で囲まれたら負けてしまうかもしれない。
なのでベヘモスは今、強い魔物が少ない樹海の入り口近くの地面の中に潜って、500年経つのを待っているそうだ。
その間、樹海は3体の神獣で管理と言うか、魔物狩りをすることになった。
「な?ベヘモスってバカだよな~!」
「だからあの時、神獣のくせにステータスが85万程度だった僕から逃げたのか・・・・」
「ん?何だって?」
「いえ、一度ベヘモスと会いまして、戦闘になりかけたんですけど、向こうが逃げちゃったんですよ。その時の僕のステータスって85万程度だったんで、どうしてだろう?と思っていたんですけど、ステータスが40万程度まで下がっていたのなら、納得ですね」
「ベヘモスが逃げたって、お前何したの?」
「なんか、巨大な火炎球を放って来たんで、僕も後ろにいた家族を守るためにファイアーボールを撃ったんですけど、相殺するどころか飲み込んでしまい、さらに樹海を一部焼失させてしまいました」
「あ~それを見て勝てないと悟って、アイツは逃げたんだな」
「たぶんそうですね」
「ま、どーでもいいか。続きを話すぜ?」
「はい、お願いします」
セレスに会ってから3日後、俺は旅に出る準備を終え、セレスに会いに行っていた。
「じゃあ、ちゃっちゃと送ってくれよ」
「キミは相変わらず・・・・いや、止そう。じゃあ、ダストレア大樹海の北側の端っこに送るよ?」
「おう、頼むわ」
「あ、そうそう。ダストレア大樹海の外は今、結構大変なことになっているから、悪いんだけど助けてあげてよ」
「大変って、どうなってんだよ?」
「それは見てからのお楽しみってことで。じゃ、送るよ」
そして、意識が元に戻ると、樹海の北の端にいた。
目の前はもう樹海の終わりで、草原になっている。
俺はそのまま樹海を出て、真っすぐ進むと、人間が魔物と闘っていた。
人間の数は500くらいか?
全員揃いの鎧を着ているので、この国、というか、この地を治める領主に騎士団だろう。
対する魔物は、オークとゴブリンの群れが250程度。
数の上では人間が有利だけど、オークキングやゴブリンロードがいる魔物の方が、質で遥かに勝っているようだ。
現に、人間の騎士団は陣形を維持できなくなってきている。
「うおおおおおっ!怯むなあああああっ!」
「魔物ごときに、我らナイザット辺境伯軍が負けるものかああああっ!」
「ええい!何をしておる!さっさと魔物を殺さぬか、この無能共め!この私がケガでもしたら、貴様ら全員クビにするぞ!」
う~ん・・・・指揮官が無能だな。
具体的な指示を出さずに、とにかく勝て、としか言わないタイプと見た。
しかも戦いに来ているのに、ケガをしたくないって、どんだけバカなんだよ。
そんなクソのような指揮官よりも、闘っている騎士達は立派だな。
末端の騎士はもちろん、隊長クラスの騎士が味方を鼓舞し、全員が死力を尽くして戦っている。
だが悲しいかな、魔物達の方が圧倒的に強く、全滅は時間の問題になっている。
しょうがねえ、助けてやるか。
俺は異空間収納から大剣を取り出し、魔物の群れに突っ込んでいった。
「オラァッ!」
ザンっ!
魔物の後ろから奇襲をかけ、目の前にいたオークに横薙ぎで斬りかかり、まとめて5体を切り捨てる。
あ、全部ハイオークも1体混ざってた。
「BUHO!?BUGAAAA!」
俺の参戦にいち早く気づいたオークキングが、配下のオークを瞬殺した俺の実力を感じ取ったようだ。
温存していたであろうオークジェネラル2体と、残りのオークとハイオーク40体を俺に向かわせてきた。
敵戦力の大半が騎士団の方に向いているので、これでオークキングを守っているのは、オークジェネラル1体だけとなった。
ゴブリンロードは、配下のゴブリンを全て引き連れ、騎士団と闘っている。
つまりさっきまで、オークキングは戦力を残して高みの見物をしていたようだ。
ゴブリンロード、オーガキングに捨て駒扱いされてないか?
それとも、信頼でもされていたのか?
どっちでもいいか。
どうせこの後すぐに全滅させるしな。
持っていた大剣を片手で振るい、向かって来たオーク共に斬りかかる。
特に特筆すべき点も無かったから省略するが、結果として、オークはあっという間に全滅し、そのまま進んだ俺に、オークキングと護衛のオークジェネラルは1撃で屠られた。
騎士団の相手をしていたゴブリンロードが、仲間のオークキングが死んだことに気付いたのは、その巨大の体が倒れたことで聞こえた音がした時だろう。
そして、ゴブリンロードが振り返った時、すでに俺が目の前にいた。
そして無造作に降られた大剣が、ゴブリンロードを両断する。
俺はそのまま進み、騎士団の近くまで来た。
その時になってやっと、ゴブリンとオークの群れと闘っていた騎士団が、俺の存在に気付いたようだ。
「よう、お前ら!助太刀するぜ!」
これでも一応女神の使徒だからな。
出来る限り、セレスの眷属である人間を守ってやらないとな。
「すまない、助かる!」
「無理はしないでくれ!まだ奥にゴブリンロードとオークキングがいるぞ!」
どうやら隊長連中は、俺の参戦を歓迎してくれているようだ。
だが、目の前に集中しすぎていて、すでにオークキングだけでなく、ゴブリンロードもいないことに気付いていないらしい。
「ああ、安心しな。オークキングも、ついでにゴブリンロードもさっき斬り捨てたからよ!」
「「「え!?」」」
そこで初めて視線を奥に向ける騎士達。
さの視線の先に、先ほどまでいた巨大なオークキングと、取り巻きのオークジェネラル、それにさっきまで近くにいたゴブリンロードまでが見えなくなっていることに気付いた。
「残りも俺が始末すっから、お前らは防御に専念しとけ!」
「わ、分かった。よろしくお願いします?」
状況に理解が追い付かず、間抜けな返事が返って来た。
そして5分後には、あれだけいたゴブリンとオークの群れは全滅していた。
残ったのは、信じられない物を見た、と言った感じで呆けている騎士団と、軽い運動を終えた、大剣を持ったヴィジュアル系の格好をした青年だけだった。




