第41話 この山脈の成り立ち
「さて、と。現実逃避していてもしょうがねーよな?」
「そうですね」
「どうすっか?」
「どうしましょうか?」
徹夜で闘った僕とミコトさんは、食事をしてから一眠りして、今さっき起きたばかりだ。
太陽の位置を見ると、今は大体昼を少し過ぎたくらいだろうか?
闘いの爪痕を見て、二人とも寝る前に大量にヤケ食いした為、ちょっと胃もたれしています。
なので昼食は、野菜をたっぷり煮込んだスープだけにしました。
で、僕達は小屋の外に出て、現状を確認して途方に暮れている。
辺り一帯の山が、殆ど消し飛んでいる、という現実に。
「そういやレオ、お前は全属性の魔法を極めているんだったよな?」
「ええ、そうですよ」
「じゃあ、無属性魔法も使えるのか?」
「使えます。こっちも極まで行っていますよ」
「ならよ、その無属性魔法を使って山を修復できねえか?」
「え?」
「いや、え?じゃなくてよ?確か無属性魔法って、MPが続く限り何でも出来るんじゃなかったっけ?」
「そう言えばそうでしたね。ほとんど使っていなかったから忘れていましたよ」
「何でだ?すっげー便利な魔法だろ?」
「そうなんですけど、範囲が半径15mと狭いんですよ。それに・・・」
「15mだけか?じゃあ、山の修復は厳しいか?」
「無属性魔法だとそうですね」
「はぁ~、じゃあどうすっか・・・・」
「いや、あのですね?」
「ん?」
「僕が無属性魔法を使わない理由がもう1つありまして」
「何だよ?」
「僕のユニークスキル『空間支配』が、完全に無属性魔法の上位互換なんですよ」
「はあ?どういうことだ?」
「僕の『空間支配』の有効範囲は、INT×1cmなんですよ。それに、使用するMP効率も段違いに良いんです」
「つーことは?」
「山の修復が出来るってことですね」
「よっしゃー!」
と、言うわけで、僕らが破壊してしまった大自然を戻す目途が立ちました。
早速支配圏を広げ、吹き飛ばしてしまった範囲を覆う。
「あ、ミコトさん、確認したいことがあるんですが」
「ん?何だ?」
「消えてしまった命までは戻せないのですが、もしかして仲間が巻き込まれたりしていないですよね?」
そう、『空間支配』による修復は、あくまで形を元に戻すだけなので、消えてしまった命を戻すことはできないのです。
消えてしまった体だけなら修復できるんだけど、それはただの肉塊と同じで、命は入っていないのです。
地球と同じくこの世界にも、死者の蘇生なんかはできません。
例外として、植物だけは復活できます。
詳細は分からないけど、たぶん魂というか意識の有無とかの問題なのかもしれません。
で、ここはミコトさんの住んでいる場所で、ここには他にもドラゴンがいるって聞いていたので、もしかしたらと思い、確認してみます。
「ああ、それなら大丈夫だ。俺の仲間には、今はここから遠くに離れているように言ってあるからな。全員、今はこの山脈から離れているはずだぜ?」
「あ~良かった。じゃあ、問題ないですね」
「そう言うこった」
「じゃあ、そろそろ始めます」
そう言って僕は、広げた支配圏に意識を集中させ、吹き飛んだ山を復元するように念じる。
すると、昨日の夜、僕とミコトさんが戦う前に山があった場所に、どんどん土が生まれ、盛り上がっていく。
おそらく、僕達の戦いの余波で吹き飛んだ土が戻って来ているのだろう。
そして10分後には、山が元通りに戻り、昨日見た景色と同じになっていた。
「ははっ、やっぱスゲェーなお前!とんでもねえスピードで山が出来上がっちまったぞ!」
「ええ、僕も驚いていますよ。こんな大規模な干渉をしたのは初めてでしたからね」
「もしかしてかなり疲れたか?」
「いえ、全然。これだけのことをしたのに、MPが1000万くらいしか減っていないんですよ」
「1000万しかって、そういやお前のステータスってどうなってんだ?」
「ああ、そう言えば言っていませんでしたね?大体8億以上ですね。HPは9億5千万でMPに関しては12億あります」
「はあ!?マジか!?」
「ええ、まあ」
「ちなみにレベルは?」
「672です」
「・・・・・・・」
あれ?ミコトさんが絶句している?
ミコトさんもそのくらいじゃないのかな?
「レオ、お前な?」
「はい?」
「何で4000年生きている俺よりもステータスが高いんだよ!?」
「え?ミコトさんも同じくらいじゃないんですか?」
「俺のステータスは約5億で、レベルは594だ!」
「え?でも、僕と互角だったじゃないですか?」
「あれはスキルを使って、ステータスを底上げしていたんだよ!龍族だけが使えるスキル『龍気』、その中でも龍王である俺にしか使えない『龍王気』を使って、お前と互角くらいになるようにステータスを調整していたんだよ!」
「そうだったんですね・・・」
「てっきり俺は、お前もステータスアップのスキルを複数使ってんだと思っていたんだよ。それが、蓋を開けて見りゃ素のステータスって、なんだそりゃ?」
「それに関しては、僕のユニークスキル『成長補正(極)』のせいですね」
「何だソレ?」
ミコトさんに、『成長補正(極)』の異常さを説明する。
「完全にチートスキルじゃねえかよ!」
「ええ、ユニークスキルですからね」
「お前、どんだけチート持ってんだ?」
「『空間支配』『成長補正(極)』『魔導具作成(極)』の3つです」
「チートが3つだあ!?レオ、お前のポイントってどんだけあったんだ?」
「150ありました」
「俺の3倍じゃねえか!?どんだけだよ!」
そこで、僕が転生する前の話しをして、愛を語る神様のことも話した。
「何だそりゃ?まあ、そんだけポイントがあれば、そりゃそうなるわな?」
「ええ、おかげでこのステータスだと日常生活に支障が出過ぎるので、魔導具を作って抑えているんですよ」
「そう言えば、レオは本気を出す時に装備を外していたな。あれはどんくらい抑えられてたんだ?」
「STRとVITとAGLを1/10,000にしていました」
「お前、そんなんでステータスが1/10になっていた俺と互角に闘ったのかよ!?」
「ええ、そこは残しておいた8億のINTから繰り出された魔法を上手く補助に使って、でしたけどね」
「は~、たいした度胸だな?」
「ありがとうございます!」
「ははは、けど、それだけのステータスがあれば十分だな」
「何がですか?」
「レオがここに来た理由って、何だったか覚えているか?」
「女神セレス様からの依頼ですよ。何をするのかは教えてもらえなかったですけど」
「ああ、アイツには俺に会えば分かるって言われてるんだろ?」
「そうですね。僕は何をすればいいんでしょうか?」
「簡単だ。俺がやっていることを手伝ってもらうだけだからよ?」
「手伝い?何を手伝えばいいんですか?」
そこでミコトさんはニヤリと笑う。
何だろう、嫌な予感がするぞ?
「魔神の封印の維持だ」
「魔神って、魔神ヴァッシュのことですか!?」
「それ以外に魔神なんているか?」
「たしかに聞いたことはありませんけど・・・」
「まあなんだ。その魔神ヴァッシュがな、この地に封印されているんだよ」
えーと?
遥か昔の神話の時代に、女神セレス様と闘い、敗れた魔神ヴァッシュがここに封印されている?
で、その封印をミコトさんが維持していて、僕はその手伝いをする?
なんか、想像以上に面倒そうな内容なんですけど?
「えっと、その封印はミコトさんが1人で維持しているんですか?」
「そうなんだよ。おかげでこの山脈から、ほとんど動けねえんだわ」
「で、僕がその手伝いをすると?」
「そう言うこった。いや~ホント助かるよ!今まで1人でやって来たから大変でよ~。これからはかなり楽になるな!」
「具体的に、何をすればいいんですか?それってすぐに終わりますか?」
説明が無いままの安請負は危ない、と以前女神様に言われたから、その教訓を活かして質問をしてみる。
気軽に引き受けた結果、一生ここに拘束され続ける、みたいなのは嫌だからね。
「具体的な説明は、魔神が封印されている所で教えてやるよ。たぶん、現場を見ないと、説明しても分かんねえだろうからな。すぐ終わるかどうかに関しては、お前次第だな」
「う~ん、気軽に引き受けたくない内容ですねえ。何か、ブラック企業のニオイがプンプンしますよ」
「はっはっはっはっはっ!ブラック企業か!?良い例えだぞ、それ!」
「そんなのを褒められても嬉しくないですよ!」
「悪い悪い。ま、説明する為にも、封印の場所まで行くか?」
「そうですね。ここでいつまでも話しているだけじゃ、時間の無駄になりそうですね。行きましょう」
「よし、じゃあ案内するから付いて来い」
そう言ってミコトさんは走り出してしまった。
僕は急いで小屋の中の家具を異空間収納に回収して、後を追って走った。
僕達のスピードで5分くらい走った頃、周りと明らかに空気の違う洞窟が見えた。
「ここが、魔神が封印されている場所への入り口だ。さらにこの中は迷宮みたいになっていてな、絶対にはぐれるんじゃねえぞ?」
そう言ってミコトさんが歩いていく。
まずは、普通の洞窟といしか言いようのない、岩肌がむき出しになっている中を歩いていく。
そして突き当りに辿り着いたと思ったら、
「こっちだ」
急に右に曲がった。
当然そこは壁なんだけど、ミコトさんの体が壁の中に入っていく。
「こいつは幻術だ。気にしないで付いて来い」
かなり高度な幻術が掛けられているようで、その壁は普通に触れることもできるようだ。
いや、その触感すらも幻術で、脳に誤認させているようだ。
そのまま壁に向かっていくと、一瞬だけ何かにぶつかるかのような抵抗があったけど、それだけだった。
壁を抜けた先は、明らかに人工物と言える、真っすぐな壁が伸びた通路になっていた。
「ここにはステータスの低い奴は入れなくなっているんだよ。今の壁な、弱い奴だったら抜けることができないで、ぶつかって終わりなんだよ」
「じゃあ、僕は合格なんですね?」
「そりゃそうだろ?お前が不合格だったら、誰もこの先には入れねえよ」
「まあ、そうですね」
「だろ?じゃ、行くぜ?こっから先が迷路になっているからな。マジではぐれんなよ?」
「はい、分かりました」
そしてミコトさんが走り出した。
僕は付いて行き、いくつもの分岐を進んで、階段を下り、数々のトラップをかわしながら先に行く。
更に階段を下り、落とし穴を飛び越え、通路を曲がり、転がって来た鉄球を粉砕し、階段を下り、飛んで来た無数の槍を全て防ぎ、階段を下りる。
「あの、ミコトさん?」
「何だ?」
「やけにトラップに引っ掛かっていませんか?」
「ああ。だって俺、トラップの場所なんか覚えてねーもん」
「え?」
「だって、このトラップって、俺達には何の障害にもなっていないだろう?なら、無理に覚える必要ないだろ?」
「そうかもしれませんが、邪魔じゃないですか?」
「いや、全然?」
「なら、いいです・・・」
実際、この程度のトラップなら、僕達に傷を付けることすらできない。
でも、ここってステータスが高い者しか入れないんだよね?
そんなのを相手に、この程度のトラップでは効果が無いのでは?
「ミコトさん、聞いてもいいですか?」
「何だ?」
「このトラップって、意味あるんですかね?」
「あるぞ」
「え?だってここって、ステータスが高い者しか入れないんですよね?」
「ああ、説明していなかったな。この迷宮な、各階それぞれが、世界中に点在している他の迷宮と繋がっているんだよ。階段を下りるたびに空間を飛び越えていてな、その都度別の場所に移動しているんだよ」
「え?それじゃあ、他の場所からも魔神ヴァッシュが封印されている場所に行けちゃうってことですか?」
「そう言うことだ。まあ、他の場所もある程度高いステータスが要求されるけどな。で、そんな場所から迷い込んじまったヤツを仕留めるために、このトラップがあるって訳だ」
「なるほど。だからさっきから階段を下りるたびに、通路の質が変わっていたんですね。それなら納得できました」
そう、階段を下りるたび、通路の大きさが変わったり、壁の材質が変わったりしていたのだ。
そんなやり取りをしながら、階段を10回下りた時、目の前の景色が一変した。
今までとは変わって、広い空間に出た。
そこは直径が1㎞以上ある空間で、蒼い光に照らされていた。
いや、蒼いのは、中央にある巨大な岩が蒼く光っているからだ。
その石からは、禍々しい何かが溢れていることを感じる。
「どうしたレオ?何か感じたのか?」
「ええ、うまく表現できないのですが、この石から禍々しい気配?とでも言いますか、何か良くないモノが溢れているのを感じますね。これ、何ですか?」
「やっぱお前を連れて来て正解だったな。今お前が感じているのはな、濃厚な魔素だ」
「魔素って言うと、魔物や魔獣を生み出しているっていう、あの魔素ですか?」
「そう、その魔素だ。で、この石の中に、セレスに封印された、魔神ヴァッシュがいるんだよ」
「そうですか、これが魔素。そして、ここに魔神が封印されているんですね・・・」
改めて魔神ヴァッシュが封印されている石を見る。
普通に見るならば、これほど幻想的な物はないだろう、と言える美しさなのだが、溢れ出ている魔素のせいで、台無しになっている。
そして、この空間も改めて観察する。
さっきまでの人工物然とした迷宮の通路と違い、最初の洞窟のように岩がむき出しになっている。
そして気付く。
こちら側と反対側だと、岩の色が違うことに。
なんだろう?
「どうした?何か気付いたか?」
「ええ、こっちと向こう側の岩の色、違くないですか?」
「ああ、あれな。簡単な話でよ、お前、ヒマラヤ山脈は知ってるよな?」
「もちろんですよ」
「じゃあ、あの山脈がどうやって出来たかも知ってるか?」
「プレートテクトニクスによる、2つのプレートの衝突によって、ですよね?」
「そうだな。で、このノイシュヴァン山脈もな、似たようなことが起こって作られたんだよ」
「あ~なるほど。つまりここは、2つのプレートがぶつかっている場所だから、こっちと向こうでは岩の組成が違うんですね。あ、もしかしてここって、ノイシュヴァン山脈で1番高い山の地下ですか?」
「どっちも正解だ。ヒマラヤとの違いをあげるなら、このプレートを動かしているのはそこに封印されている魔神ヴァッシュだ」
「え?」
「つまりな、セレスとヴァッシュが戦い、ヴァッシュが負けて封印された後、セレスも力を殆ど使っちまったから、眠って休んでいたんだよ。で、セレスがウン万年も寝ている間に、封印されていたヴァッシュが頑張ったみたいでな。自分が封印されていた、ここより南にあった大陸を移動させ、こっちの大陸にぶつけたんだよ。それが、今から100万年くらい前だったか?」
「魔神、やばいですね」
「だろ?で、寝てたせいで気付くのが遅れたセレスは、慌てて大陸の移動を止めたんだとよ。本当なら、このまま大陸を分断させ、元に戻したかったらしいんだけどな、ヴァッシュの力で完全に大陸同士がくっついちまって、下手すると両方の大陸に甚大な自然災害が発生しちまうかもしれない、って状態だったんだとさ」
「手の施しようがなかったと?」
「らしいな。それで苦肉の策として、この場所に改めてヴァッシュを封印し、これ以上動けない状態にしているんだとよ」
「なんでそれをミコトさんが維持しているんですか?」
「それな、また間抜けな話なんだが、この封印で大丈夫と思ったセレスは、そっからまたここを放置しちまったんだよ」
「あ、読めて来た」
「まあ、聞けよ。で、放置した結果、ここはヴァッシュから溢れた魔素によって生まれた魔物や魔獣が跋扈し、さらに人を寄せ付けない広大な樹海になっちまったんだよ。セレスがそれに気付いたのが2万年前だ。そこからまたセレスは慌てて、この樹海に神獣を放ち、魔物や魔獣が増え過ぎないようにしたんだとさ。過去にはここの魔物達が、人の国に何度も襲いかかっていたらしいぜ?」
「だから世界中に厄災級の魔物の情報が残っていたんですね」
「だな。それからセレス自身が魔物の駆除に当たってな、魔物や魔獣のほとんどを樹海に押し戻したんだよ。それからここの封印も強化して、神獣達に管理させているんだよ。セレス本には、その時にまた大量の力を使ったせいで、またしばらく休まなきゃならなくなったんだとさ」
「あれ?でもミコトさんは神獣じゃないですよね?」
「そうだな。まあ、俺はセレスに頼まれて女神の使徒になったからな。神龍には寿命なんて殆どないようなもんだから、ここの管理を引き受けたって訳だ。まあ、たまにサボって樹海から抜け出すこともあるけどな」
「この樹海の成り立ちは分かりました。それで、この封印の維持ってどうやるんですか?」
「ああ、それは簡単な話で、この場所、封印の間にいるだけでいいんだ」
「そうなんですか?」
「この場所自体が良く出来ていてな、強大なステータスを持っている女神の眷属がここにいれば、そのステータスで封印をし続けて、ヴァッシュの動きを抑えているんだとさ」
「えーと、もしかして、ずっとここにいなくちゃいけないんですか?」
「そうでもないぞ?ついこの間まで俺が100年くらいここで寝ていたから、しばらくは大丈夫だろう?あ、言い忘れてたけどよ、神獣程度ならずっとここにいなけりゃならないんだが、俺達みたいに億越えのステータスなら、余剰のエネルギーをストックしてくれるらしいぜ?たぶんだが、これから30年くらいは大丈夫なんじゃねえ?」
ああ、だから女神様は僕にここへ行く時期を指定していたんだ。
僕が到着しても、肝心のミコトさんが寝ていたらどうしようもないしね。
ん、待てよ?
30年は封印が維持されるってことは・・・
「え?それじゃあ、僕は今はいらないんじゃあ?」
「そうでもねえさ。レオは『魔導具作成(極)』のスキルを持っているんだよな?」
「はい、持ってますよ」
「そのスキルを使って、俺がここにいなくても封印が維持できるような魔導具とか作れねえか?」
誤字、脱字など、お気付きの点が御座いましたらご指摘をお願いいたします。
もし、この作品を読んで面白い、と思って頂けたら幸いです。




