第36話 神獣との会話
《これは珍しい。人間がこんな所まで入り込んでくるとはな?》
脳に直接フェンリルの言葉が聞こえてきた。
念話みたいなものかな?
「こんばんは。僕はアステリア王国からこのダストレア大樹海の調査に来た、レオナルド=シオン=スティードです」
《ほう、私はフェンリルだ。レオナルドよ、お前は私が怖くないのか?以前出会った人間の男は、私を見るなり恐怖で震えだし、動けなくなってしまったのだがな?》
「え、だって、あなたは僕に危害を加えるつもりなんて初めからないですよね?」
《ふはははははっ!何と肝の据わった人間か!?長い年月を生きて、今まで何人もの人間に出会いはしたが、お前のように無警戒に私に話しかけてきた者は初めてだぞ!》
そんなに愉快だったのだろうか?
フェンリルは楽しそうに笑っている。
だってさあ?
初めてフェンリルを見た時に表示されたのが
名前:なし
年齢:7492歳
種族:フェンリル(神獣)
階級:SSS
レベル:754
何、神獣って?
と思っていたら、説明文が出てきた。
神獣:女神セレスによって生み出された獣。その役割は、魔神の眷属から女神の眷属を守ること。世界の守護者。
どんだけ便利なんだ、この能力?
補足すると、女神の眷属とはこのレシタクルス大陸に住んでいる人達、人間、エルフ、ドワーフ、獣人といった種族で、魔神の眷属とは、隣のバルケスラ大陸に住んでいる魔族や魔物、魔獣のことを指します。
遥か昔の神話の時代、レシタクルス大陸を女神セレスが、バルケスラ大陸を魔神ヴァッシュがそれぞれ創造し、生命を生み出して統治していた。
その時に作られた命が、それぞれの眷属です。
原因は不明だけど、その2柱の神が戦い、女神セレスが見事勝利を収めた。
敗れた魔神ヴァッシュは力を失い、消滅したともどこかに封印されているとも言われています。
以上、神話の雑な説明でした。
フェンリルが敵対していた魔物を見ると、全てが魔物が魔獣だった。
つまりこのフェンリルは、たった1体で魔神の眷属である魔物や魔獣と戦い続けてきたのだろう。
そんな僕らを守ることが役割の神獣に対して、感謝こそすれ、怯える必要なんてないでしょう?
しばらくフェンリルが笑ったあと、僕と会話をすることになった。
《レオナルドだったか?なぜお前は、このダストレア大樹海に足を踏み込んだのだ?》
「それはさっきも言ったけど、この樹海の調査です。まあ、こっちはついでみたいなものですけどね。本当の目的は、龍王に会うことです」
《龍王だと?なぜ人間が、かの龍族の王に会いに行くのだ?そもそも、どこにいるのか知っているのか?》
「場所は、ダストレア大樹海の中心にあるノイシュヴァン山脈のどこかにいる、としか知りませんね」
《ほう?そこまで分かっているのなら充分だ。しかし、この樹海が出来てから、女神の眷属がノイシュヴァン山脈に辿り着いたことは無いはずだ。なぜその名を知っている?いや、待て。お前はアステリア王国から来たと言ったな?ヤツが何か残していたのか?》
フェンリルが黙って考え始めてしまった。
ヤツって誰?
よく分からないけど、アステリア王国に何かあるのかな?
まあ、隠してもしょうがないから、ここは本当のことを伝えよう。
なんたって、相手は女神様が生んだ神獣だからね。
「あのですね、よろしいですか?」
《うん?ああ、すまない。考え込んでしまっていたか。で、何だ?》
「僕が龍王のいる場所を知っていたのはですね、女神セレス様から聞いたからです」
《我が母からだと?お前は神託を受けたのか?》
「あれって信託、かなあ?女神セレス様に直接会って言われたんですよ。僕は女神の使徒なので」
《ほう、本当か!?》
「はい。2年前に初めて教会で祈りを捧げた時に女神様に会って、女神の使徒になりました」
《そうか!ならばお前も私と同じ女神の子だな!私にとっては新しい弟というわけだ。うむうむ!》
何でも、女神セレス様によって生み出された神獣は、すべて女神様の子であり、女神様に選ばれた女神の使徒とは、兄弟みたいなものらしい。
それを言ったら、女神が生み出した眷属である人もそうだと思うんだけど、指摘すると面倒になりそうなのでスルーしました。
それからまたいろいろと話した。
僕が龍王に会いに来たのは良いけど、その理由も目的も聞いていない事。
僕がアステリア王国の貴族の子供で、この年にして人外クラスのステータスであること。
そうなっている理由が、ユニークスキルによる恩恵であること。
そして、僕が転生者であること。
《転生者だと?》
「はい、僕は前世で神楽星夜と言う名前でした。幼馴染と買い物中に事故に遭い、死んだはずなのですが、気付いたら目の前に神様がいて、この世界に転生することになったんです」
《なるほどな。そこでそのユニークスキルを貰ったのか?》
「ええ、そうです。転生する時にポイントがあって、そのポイントに応じて特典を選ぶことが出来たんですが、幸運にも僕のポイントがたくさんあったので、良いスキルを貰うことが出来たんですよ」
《そのスキルのおかげで女神セレス様の目に留まり、女神の使徒に選ばれたのだな?》
「たぶんそうですね。おかげでレベルがすぐに上がってしまい、ステータスがとんでもないことになっていましたよ。僕のいたアステリア王国でも最強と呼ばれていた祖父のステータスを、あっという間に抜いていましたからね」
《ふむ、そうか。ところでお前には何か目的は無いのか?セレス様からの依頼とは別に、と言う意味だが》
「ありますよ」
《聞いても良いか?》
「ええ構いません。それは、僕と一緒にこの世界に転生している幼馴染の高原雪乃を探し、守ることです」
《その者には危険でも迫っておるのか?》
「分かりません。もしかしたら僕の助けは必要ないかもしれませんが、もし困っているようであれば助けてあげたいんですよ。前世では守り切ることが出来ずに、お互い命を落としてしまいましたからね」
《と、言うことは、その娘がどこにいるかはまだ分からないのか?》
「そうなんですよ。ただ女神様からは、今は安全だということだけ教えてもらいました。今はまだ会うことが出来ないみたいですが、時期を見て、会えるようになったら教えてくれるそうです」
《ほう、セレス様がそう言ったのか。ならば良かろう!その娘に何かあった時は、私も力になろうではないか》
「良いんですか?」
《ああ、何と言ってもお前は私の弟みたいなものだからな。兄として、それくらいのことはしてやろうではないか》
勝手にフェンリルが僕の兄になっているけど、まあ、協力してくれるならそれでもいいか?
利はあっても害はたぶん無いだろうしね。
「それでは、その時はよろしくお願いします」
《うむ、任せろ》
その後もしばらく前世の世界についての話しをし、盛り上がった。
特にこの世界にない科学の話に興味を持ったようで、しつこく聞かれた。
主に兵器に関してだけど。
「なるほど。ではそのミサイルとやらは、何でも破壊するのだな?」
「何でもは無理ですよ。けど、ボタン1つで発射可能な兵器で、ICBMと言う大陸間弾道ミサイル呼ばれる、とんでもない長射程のミサイルもありますよ」
《ほう、長射程か。どの位の射程なのだ?100㎞くらいか?》
「正確な距離は分かりませんが、確か5,000㎞くらいは飛ばせたと思いますよ」
《5,000㎞だと!?》
「ええ、しかもその距離を、わずか30分程度で到達してしまうらしいですよ」
《なんと!お前のいた世界はそんなことが出来るのか!?》
「そうなんですよ。だから、今の世界が一斉に戦争を始めると、世界が滅ぶとまで言われていましたね。それだけ危険な兵器なんですよ」
《そうか、出来ればいつかお前のいた地球とやらに行って、戦ってみたいものだな?》
「やめてください。地球がとんでもないことになってしまいますよ」
《他に何か面白い物はないのか?》
と言った感じで、地球の文明の話しをしてあげました。
代わりにフェンリルから聞いた話は、このダストレア大樹海についてだった。
まずこの樹海は、中心のノイシュヴァン山脈から魔素が溢れていること。
なぜ魔素が溢れているかは知っているようだったけど、それは龍王に会ったら聞けと言われてしまいました。
それで、この樹海は魔素が非常に濃いため、自然と魔物が生み出されてしまい、すぐに強力な上位種へ進化してしまうらしい。
何と魔物や魔獣は、魔素が集まると勝手に生まれてしまうらしい。
どれだけ騎士や冒険者達が駆除しても、いなくならない訳だね。
この樹海で生まれた魔物や魔獣が、ただの上位種になるだけなら問題はないのだけど、さっき相対していたような超級や厄災級クラスに進化してしまい、もし樹海の外に出てしまった場合、外で暮らしている女神の眷属が大打撃を受けてしまうことになる。
世界の守護者として、そんなことは起こさせたくないので、こうやって樹海の中で見つけた超級の魔物を狩っているそうだ。
今回フェンリルが倒した超級の魔物と魔獣は、全部で30体ほどいたらしく、やはり僕のMAPの範囲に入る前から戦闘をしていたそうだ。
今回は、さらに上級の群れも一緒に行動していたらしく、その総数は200を超えていたそうだ。
その群れが移動しているのを見つけたフェンリルが襲い掛かり、闘いながら移動している内に、僕の近くまで来たらしい。
この樹海の魔素は、中心に行けば行くほど濃くなり、ノイシュヴァン山脈周辺となると、Bランク以上の魔物や魔獣ばかりらしいが、龍王とその配下の龍達が魔物を狩ってくれているそうです。
さっき倒した超級の魔獣や魔物は、ノイシュヴァン山脈の方から来たらしい。
この樹海にはフェンリル以外にも神獣が3体いて、それぞれが東西南北の地域を担当して、同じようにしている。
ただ、北担当の神獣が昔やらかしたそうで、女神によって罰を与えられ、ほとんど動けないらしい。
なので今は、3体の神獣でこのダストレア大樹海を巡回しているそうだ。
北担当の神獣が何をやらかしたのかと聞いたら、
《今から数百年前、レシタクルス大陸の北の海に、超級や厄災級の魔物や魔獣が大量に出現したことがあってな、海を担当している神獣から救援要請があったのだ。その要請に応えるべく、こちらから1体送ることになり、位置が一番近いという理由で、北を担当してアイツが行くことになったのだ》
「全員で行かなかったのですか?」
《当然だ。我らがいなくなったスキに、ここの魔物達が樹海から出てしまうかもしれんだろう?だから1体だけしか行けなかったのだ》
「なるほど」
《行きは女神セレス様の力で転移したから良かったのだがな、超級と厄災級を殲滅した後、あの馬鹿は海から勝手に出てしまい、自力でダストレア大樹海まで歩いて戻ってしまったのだ。おかげで進路上にあった人の国を荒らしてしまい、神獣のくせにとてつもない被害を眷属達に出してしまったのだ》
うん?その話はどっかで聞いたぞ?
《その後、アイツはセレス様にこっぴどく叱られてな。罰として1000年間ステータスを1/10にされてしまい、さらに殆ど動けないようにされてしまったのだ》
「あの、その神獣って今、どこにいるんですかね?」
《普段はダストレア大樹海の北側、つまりお前の国、アステリア王国の近くの浅い所で地面に潜っているぞ》
う~ん、地面に潜っている神獣っぽいのにも心当たりがあるぞ?
「あの、その神獣の名前って何ですか?」
《ああ、言っていなかったか?ヤツの名はベヘモスだ。まったく、あいつがバカなことしてくれたおかげで、我々がどれだけ迷惑しているか・・・・》
やっぱりそうだったー!?
僕はお父様とお祖父様に、神獣にケンカを吹っかけさせようとしていたのか!?
それどころか、僕は攻撃しようとしちゃったよ?
反省します。
せっかくなので他の神獣のことも聞いてみました。
北の担当が巨象ベヘモス、南の担当が火の鳥フェニックス、東の担当が龍王の眷属とは別の龍ファフニール、西の担当が目の前にいる巨狼フェンリルだった。
そして、中央には龍王がいる。
龍王は、四体の神獣が束になってかかっても勝てない程の強さを誇り、このダストレア大樹海において、ヒエラルキーの頂点に君臨しているそうだ。
まるで玄武、朱雀、青龍、白虎、黄龍といった五行説に由来したような配置だね。
きっと偶然の一致だよね。
そう思おう。
もしこの神獣達が魔物や魔獣を狩ってくれていなかったら、いつかは超級や厄災級の魔物や魔獣が樹海を抜けて、周りの国を壊滅させていたかもしれない、と言うことだった。
お互いの情報を知り、そろそろ小屋に戻って寝ようかな?と考え始めた頃、
《よしレオナルドよ。そろそろやろうか?》
と言って突然、目の前で臨戦態勢に入るフェンリルであった。
なんでだよ!?
誤字、脱字など、お気付きの点が御座いましたらご指摘をお願いいたします。
もし、この作品を読んで面白い、と思って頂けたら幸いです。




