第35話 超級対厄災級
ダストレア大樹海調査団が崩壊してから、3ヵ月が経過した。
僕は1人になったので、自由気ままに樹海の中を進んでいる。
僕が今まで入ったことのある範囲は、1人になって3週間もしない内に通り過ぎているので、今いる場所は未知の領域だったりします。
自由気ままにとは言っても、ちゃんとやることはやっていますよ?
僕の本当の目的は、女神の使徒としてこの樹海の中心にあるという、ノイシュヴァン山脈のどこかにいる龍王に会うこと。
そのついでに、ザカートというアステリア王国の豚侯爵から頼まれた、ダストレア大樹海の調査を、目下実行中であります。
調査内容は、樹海の中がどうなっているのか?どんな魔物がいるのか?反対側に抜けるにはどのくらいの時間がかかるのか?の3つです。
最初の2つはともかく、最後のは人によって、また遭遇する魔物によって変わってくると思うけど、とりあえず僕基準の報告をする予定です。
具体的には、行きは樹海の中と生息している魔物を調査をしながらゆっくり進み、反対側に抜けたら折り返し、帰りはアステリア王国に戻ることだけに集中する。
そして、帰りにかかった日数を報告するつもりです。
なので、今やっているのは樹海の中を歩き回り、見つけた魔物を調査しています。
調査方法は、
①新しい魔物を見つける
②『描写』や『写生』のスキルを駆使し、本物そっくりの絵をフルカラーで描く
③支配圏を使って生態を正確に把握して、記録する
④相対し、攻撃方法や弱点を見極める
だいたいこんな感じで、魔物1種毎に報告書を作成していきます。
『魔導具作成(極)』に付随していたスキルと『空間支配』を使えば、たいした苦労もなく次々に出来上がっていきます。
この3ヵ月で、約100種の魔物の調査が終わりました。
次々と作成されるこの報告書は、すでに魔物図鑑と言っていいほどの厚みになっています。
ダストレア樹海を調査して分かったことは、噂で言われていた通り、空間が歪んでいたことでした。
どう歪んでいたかというと、これも噂通り、面積がおかしい。
地図通りの面積であるなら、もうとっくに樹海を抜けていてもおかしくはないのだけど、まだ中心にあるとされるノイシュヴァン山脈すら見えない。
他にも、さっきまで夏のような暑さの中を歩いていたはずなのに、ある場所を境に、見渡す限りの雪景色が広がっている場所もあれば、デカい湖があると思ったら、実は海でした、なんてこともあった。
ほんとどうなってんのココ?
僕は周りの自然環境がどんなに変わろうと、『空間支配』による空間干渉で何事もなく行動できるけど、普通の人ならあっという間に死んでしまうよ。
まあ、だからこその危険度SSSなんだろうけどさ。
日が暮れてきたので、本日の調査を切り上げ、野営の準備を始めました。
まずは適当な場所に、土魔法を使って簡単な家を建てます。
家と言ってもそんなに立派な物ではなく、四角い立方体に入り口と窓があり、中にはキッチンとベッドとイスとテーブルがあるだけのささやかな物で、小屋と言った方が良いですかね。
ベッドとイスとテーブルは、1人で行動を始めた初日に木を加工して作って以来、ずっと異空間収納の中に入れて持ち運んでいます。
ついでに、布団も異空間収納に入れて持ち運んでいます。
今のお気に入りは、フレースヴェルグというAランクの巨大な鷲の魔物から僅かしか取れない、翼の根元の柔らかい羽毛を使った掛け布団です。
敷布団は『疲労回復』『快適睡眠』の効果を付与した魔導具なので、毎日気持ちよく眠れています。
布団も僅か10分程度で作れるとはいえ、毎日作るのはさすがに面倒だったからね。
キッチンはそんなに大したものではなく、土魔法で石を加工し、食材を洗う、切る、焼くが出来る程度のスペースを、自分が使いやすい高さで作っただけの簡単な物です。
調査を始めた頃は、適当に魔物の肉を焼いてた食べていたんだけど、あっという間に飽きました。
そもそも、肉ばかりだと栄養が偏ってしまう。
なので、調査の道中で食べられる植物や香辛料になりそうな実を見つけては回収し、それらを使って料理をすることにしました。
料理をしていたらいつの間にか『料理』のスキルを習得していたので、味に関してはなかなかの物が作れるようになったので、充実した食生活を送っています。
以上が、毎日野営をする時に建てている小屋です。
いつもなら完成した小屋の中で料理を作り、食事をして、その後はイスに座って今日調査した分の報告書を作成する。
え?そんなの野営じゃないって?
気のせいです。
気にしたら負けです!
そういうことにしてください!
でも、今日は料理はしませでした。
なぜなら、スティード家に設置してある異空間ポストに手紙と一緒に料理が入れられていたからです。
僕の食生活を心配したお母様が、3日に1回は料理を送ってくれて、今日がその日でした。
作ったのはもちろん、ウチの料理人ですけどね。
しっかり栄養バランスを考えられて作られた食事を摂り終わり、一緒に送られてきた手紙を読む。
その内容は、先日行われた僕の異母妹、アナスタシア=スティード、アンのお披露目会のことでした。
ステータスに関しては特に問題は無かったのだけど、それ以外のことで事件が起きたそうです。
何と、アンに言い寄って来た貴族の子供が現れた。
その子供とは、一緒にお披露目会に参加したセグラド子爵家の嫡男、コールデル=ジンネ=ゼグラド君。
で、そのコールデル君がアンに言い寄ってしばらくすると、それを目ざとく見つけたお父様、お祖父様、ついでにアイゼン侯爵がコールデル君を取り囲んでしまった。
アステリア王国最強クラスの2人の騎士と、貴族として数々の修羅場を潜りぬけてきたであろう侯爵に、だ。
哀れコールデル君は、そんな3人に威圧されながらOHANASHIをすることとなり、1分もしない内に泣き出してしまったそうだ。
それを見ていたコールデル君の父親であるゼグラド子爵が、それはそれは見事な土下座を決めて、誠心誠意謝罪したらしい。
何でも、スティード家とお近付きになりたいが為に、コールデル君にアンに声をかけさせたのだが、何とコールデル君がアンに一目惚れしたそうで、暴走してしまったらしい。
その話を聞いた3人は、ゼグラド子爵を連れて会場を離れ、30分後には4人で談笑しながら戻ってきそうだ。
アンとコールデル君がお付き合いするかどうかは別問題として、ゼグラド子爵家がスティード伯爵家と協力関係になったそうです。
また1人、いや1家族が仲間になったみたいですね。
しかしコールデル君か・・・・
アステリア王国に帰ったら、1度じっくりとお話ししなければならないようだね?
僕はコールデル=ジンネ=ゼグラドと言う名前を、心に深く刻み込んだ。
さて、今日やることも終わったので、明日に備えて眠ることにしますか。
当然ですけど、結界を張ってあるので魔物に襲われる心配はありません。
ただ、念のために眠っている時でも周りの状況を把握できるように、支配圏を展開したままにしてあります。
寝ていると、何かが引っ掛かった。
何か巨大な魔物が数匹、ここから1㎞ほど離れた場所で暴れているらしい。
支配圏を展開しているのに、なぜ不明瞭な説明になっているかというと、内部を完全に把握できる支配圏を展開しているのが半径300mだけで、それより外は半径1㎞の範囲を大雑把なことしか分からないMAPで対応しているからです。
だって、範囲を広げすぎると、情報の処理だけで凄い苦労するんですよ?
まあ、苦労するだけで決して出来なわけではないですけど。
いつもなら無視して眠り続けるんだけど、今日は何故だか気になってしまい、支配圏を1㎞先まで広げて見た。
そこで行われていることを確認した瞬間、僕はベッドから飛び出し、すぐに現場へと急行し、3秒で到着した。
その現場を支配圏で感知するのではなく、この目で直接見たいと思ったからだ。
そして今、目的地に到着した僕の目の前には、Sランクの超級に分類される魔物がいる。
全身に炎を纏った巨大な真っ赤な獅子のような魔物、ガデッサインフェルノ。
4本のハサミと3本の尻尾を持った巨大な真黒なサソリの魔物、デポネロラ。
13本の首を持つ巨大な蛇の魔物、テスデアヒュドラ。
6本の腕を生やした4つ目の巨人の魔物、グルンアトラタス。
背中から2対の蝙蝠のような翼を生やし、強力な魔法を行使する単眼の巨大なサルの魔物、ギガントマギニエス。
このどれもが、もし1体でもどこかの国に現れたのなら、その国が全戦力を上げ、国家存亡をかけた戦いをしなければならない程の魔物達である。
そんな超級の魔物が5体。
それと相対しているのは、たった1体の巨大な狼。
純白の毛に覆われた30m近くの巨大な体と強大な力を有する狼、フェンリル。
かつて冒険者、バルバレシア=オークウェルが遭遇した、厄災級の獣。
そのランクはSSSと、最高レベルだったりする。
この戦いは、5体の超級の魔物が結託してフェンリルを襲ったのか、フェンリルがこの魔物達を餌にする為に襲ったのかは分からないけど、今の状態を見る限りではフェンリルが圧倒的に有利みたいだ。
5体の超級の魔物達は体中に傷を負っていて、特にダメージが大きそうなのは、13本ある首が今では残り3本となっている蛇の魔物であるテスデアヒュドラだ。
僕のMAPの範囲内に入る前から戦闘をしていたようで、もしかしたらMAPの外側には別の超級の魔物の死骸があるかもしれない。
対するフェンリルは無傷。
5体の魔物達に対して、悠然と構えている。
そんな普通の人間なら、すぐに全速力で逃げ出したくなるような光景を前に、僕は必死に目の前にいる6体の絵を描き続け、かつ、動き方を目に焼き付けるべくガン見している。
スキルのおかげか、手元を見なくても絵が書けたりするから出来る芸当です。
だって、Sランク越えの魔物なんて、そうそうお目にかかれないからね。
Aランクまでは結構見かけるんだけど、Sランク以上になると、殆どいないんだよね。
さらに厄災級なんて、ベヘモス以来の邂逅だったりします。
そしてこの目の前にいる6体は全て、初めて出会った。
だからこそ、すぐにベッドから飛び起きて、ここまで全速力で来たわけです。
何で初めて見た魔物の名前やランクが分かったり、道中で採取した食べられる植物や香辛料が分かるのかと言うと、簡単に言うと空間支配のおかげです。
以前に習得して『鑑定』スキルは、いろいろとリスクがあるから死蔵していたけど、ここでは引っ張り出そうかなあ、どうしようかなあ、と悩みました。
何とかステータス以外だけ見れるようにならないか、と思ってじっと植物や魔物を観察していたら、視界に映った物の名称が表示され始めました。
いろいろと調べた結果、これは支配圏の内側だけに適応されている現象で、『空間支配』の干渉によって見えるようになったようだ。
詳細を見たいと念じるだけで、見たい情報が更に詳しく見ることが出来る。
ステータスだけじゃなく、スキルや称号までも。
これ、『鑑定』よりも凄いんですけど?
でもそんなに見えてもしょうがないので、今は調整してこうなっています。
名前:なし
年齢:187歳
種族:ガデッサインフェルノ(魔獣)
階級:S
レベル:183
こんな感じです。
あ、説明している間にテスデアヒュドラがやられた。
フェンリルが爪を振るうと、2本の首が斬り落とされ、最後の1本もすぐに爪に引き裂かれてしまった。
最後に残った胴体も紙切れのように切り裂かれ、地面に沈んだ。
あの爪、高圧縮された風魔法を纏っているね。
ただでさえ強力な爪による攻撃を、さらに風魔法で強化して振るっているので、その余波だけで地面に深々と爪の跡が残されている。
フェンリルが次の獲物に選んだのは、上空から魔法を放って攻撃をしているギガントマギニエスのようだ。
上空から強力な魔法が降り注いでいるのだが、フェンリルにはたいしたダメージになっていない。
ならば無視してもいいのだろうけど、余りにしつこいと言うか、鬱陶しかったので、先に潰すことにしたのだろう。
フェンリルが上空のギガントマギニエスに顔を向けると、突如、フェンリルの前方に巨大な氷の塊が複数出現した。
その氷塊は一瞬で圧縮され、巨大な氷の槍となり、半分が物凄いスピードでギガントマギニエスに襲い掛かった。
とっさに氷魔法で相殺しようとしたのか。ギガントマギニエスの前方にも氷塊が出現したが、一瞬で砕けてしまい、そのまま体を氷の槍に貫かれて絶命した。
残りの半分は、死角から回り込んで来たデポネロラに向けて放たれていた。
こちらも防御をしようと4本のハサミを交差させていたが、簡単に貫通して頭を刺し貫かれていいた。
しばらく痙攣していたが、すぐに動きが止まり、2度と動かなくなっていた。
氷による攻撃が止んだ瞬間を狙い、グルンアトラタスが襲い掛かって来た。
それを見たフェンリルが無造作に前足で地面を1度たたくと、突如地面が盛り上がり、一瞬にしてグルンアトラタスを飲み込んでしまった。
グルンアトラタスを中心に、四方から土の壁が迫り、押し潰したのだ。
グチャっという嫌な音が聞こえたので、さすがに生きてはいないだろう。
最後に残ったガデッサインフェルノは、体に纏った炎を更に猛らせ、自身を巨大な火の玉にしてフェンリルに突っ込んでいった。
対するフェンリルは、飛んでくる巨大な火の玉に向かって走り出す。
そのスピードは、ガデッサインフェルノの倍以上あり、一瞬にしてすれ違った。
フェンリルはその先で止まり、振り返る。
ガデッサインフェルノは、そのままの勢いで地面にヘッドスライディングを決めていた。
何が起きたのかと言うと、すれ違いざまにフェンリルがガデッサインフェルノの首を噛み千切った。
その攻撃でガデッサインフェルノは絶命し、勢いが止まらないまま地面に突っ込んでいった、という訳です。
ここまでの戦闘所要時間は、僅かに1分。
圧倒的でしたよ。
もしあの5体の超級の魔物達がどこかの国に現れていたら、その国は壊滅していたかもしれない。
そんな超級を相手に、瞬殺して見せたフェンリル。
さすがは最高ランクSSSで厄災級と呼ばれているだけのことはあるね。
超級の魔物なら、お父様とお祖父様に渡した例の装備を使えば勝てるだろうけど、もしフェンリルが相手になったら、うん、無理だね。
対厄災用の装備とか言って作ったけど、対超級用の装備と呼んだ方が適切だったかも。
それはさておき、少ない時間だったけど、何とか魔物の絵も描き終わり、戦闘で得られた情報をまとめることが出来そうだ。
それにしてもフェンリルは強い。
もしかしなくても、以前出会ったベヘモスよりも強い。
なんて思って見ていたら、そのフェンリルがこっちにやって来た。
まあ、そんな気がしていたからね、僕はその場から動かずにフェンリルを待つことにした。
だって、一切の敵意を感じないからね。
《これは珍しい。人間がこんな所まで入り込んでくるとはな?》
口から発せられた言葉ではなく、脳に直接言葉が聞こえてきた。
誤字、脱字など、お気付きの点が御座いましたらご指摘をお願いいたします。
もし、この作品を読んで面白い、と思って頂けたら幸いです。




