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第33話 ダストレア大樹海調査初日の夜

 日も暮れかけてきた頃、ダストレア大樹海調査初の野営をすることになりました。

 魔物の接近に気付けるように、視界の良いなるべく開けた場所を探し、テントを張る。

 と言っても、僕が結界を張っているから、魔物が近づくことはないけどね。

 場所を決めたら、40人はテントの設営と食事の支度に入り、ガロウデットを含めた残りの10人と僕はケルベロスの住処まで行く。

 野営の準備を始める前に、ガロウデットから、


「このような危険な場所で野営する場合は、何人か斥候を出して安全確認をするものです。特にこの近くにはケルベロスがいるのですよね?万が一に備えて、ケルベロスの住処の場所を知っておきたいので、案内していもらえませんか?」


 という、安全を確認したいのに、態々危険な魔物の住処に近づく意味が分からない提案をされた。

 もちろんそれが、僕を眠らせた後にケルベロスの近くに放置する為の下見だと分かっているから、案内してあげることにした。

 いや、だってさ?こんな足手まといにしかならない連中となんか、とっとと分かれて単独行動したいでしょ?

 絶対にそっちの方が効率良いし!

 なので僕は、少しでも早く1人になりたいが為に彼らに協力を惜しまずにしている、という訳です。


「あそこです。あそこの大きな洞窟が見えますか?あの奥にケルベロスがいます」


 野営地を離れて1時間近く経った頃、目的地であるケルベロスが住処にしている洞窟の近くに到着した。

 その洞窟は巨大で、入り口が15m以上ある。

 それもそのはずで、ケルベロスとは3つの首を持つ10mを超える巨大な魔物だからだ。

 ハウンドの最上位種で、ヘルハウンドの上が2つの首を持つオルトロスで、その上がケルベロスとなっている。

 そのランクは超級のAランクに分類され、遭遇しただけで命を諦めるレベルでもある。

 そんな危険な魔物の住処まで、残り100m程度の距離まで接近している。

 同行した騎士3名となんちゃって騎士7名は、全員緊張している。

 なにせ、いつその怪物が洞窟から出てくるか分からないからだ。


「さあ、場所も確認したことですし、帰りましょうか?こんな危険な場所にいつまでもい続けるのは、ただの愚か者がすることですよ」

「あ、ああ、そ、そうですね。団長の言う通りだ。すぐに撤収しよう」


 ガロウデットが同意してくれたので、全員すぐに元来た道を戻っていく。

 あのやかましいユーゴスも、静かに付いてきている。

 野営地まで残り半分く位になった頃、そいつが視界に入った。


「みなさん、止まってください・・・!」


 押し殺した声で全員に呼びかける。


「体勢を低くして、決して動かないでください・・・!」

「どうしたのですか、団長?」

「ケルベロスです・・・!」

「「「「!?」」」」


 全員が息をのみ、即座に体勢を低くする。

 辺りが静寂に包まれ、騎士達の息遣いだけが聞こえるようになってしばらくすると、遠くから何か巨大な生き物が移動している、どすん、どすん、という音が聞こえてきた。

 そして、全員が見てしまった。

 体長10メートルはあろうかという、3つの首を持った巨大な漆黒の犬、ケルベロスと、それに追随して歩く、体長7mほどの2つの首を持つ少し黄色の混じった黒い犬、オルトロスが3匹歩いている姿を。

 もしここで見つかっては命は無い。

 出会ってしまっただけで死が確定する魔物。

 そんなのがここから50m先を歩いて通り過ぎていく。

 全員息を殺し、願い続けた。


「どうかこのまま通り過ぎてください!」


 と。

 願いは通じたのか、ケルベロス達はそのまま住処の洞窟の方に向かって行ってしまった。

 その後、僕が立ち上がるまで全員身動き1つしなで、ずっと気配を殺し続けていた。

 それからは魔物と遭遇することなく、無事に野営地に到着することができ、同行していた全員が緊張から解放され、その場に座り込んでしまった。


 野営地に戻ると、野営の準備はすでに完了していた。

 テントが張られ、イスとテーブルが並べられ、夕食がもう少しで出来上がりそうだった。

 って、イスとテーブル?何で?

 空間収納が付与されたバックにでも入れてきたのだろうけど、他にもっと持って来るべき物があったんじゃないの?

 と、ツッコみそうになったけど、我慢した。

 これはおそらくアレだ、僕を始末したらすぐに帰る予定なので、そんなにたくさんの物資は必要ないから、空いていたスペースに入れて来たんだろう。

 もしくは、騎士の中には貴族がいるから、イスとテーブルが欲しいとゴネたんだろう。

 もうどうでもいいや。

 一応僕がこの調査団の団長と言うこともあり、上座に案内され、席に着く。

 少しすると完成した夕食が運ばれてきた。

 う~ん・・・ここは危険度SSSのダストレア大樹海で、今僕達は、その危険な所で野営しているんだよね?

 なんでそんな危険な場所にいるのに、シチューなんて手の込んだ料理が出てくるわけ?

 料理担当のなんちゃって騎士は、


「2時間かけて料理した自信作です!どうぞ召し上がってください!」


 なんて満面の笑顔で言ってきた。

 アホですかこの人達は?

 僕が結界を張っておいたから無事で済んでいるけど、もし結界が無かったら、料理の匂いに釣られた魔物達に襲われていたんだよ?

 まあ、折角作ってくれたんだから、いただきますか。

 僕専用に作られた、この猛毒と睡眠薬が大量に入ったシチューを。

 全員に料理が行き渡り、各々で食事を始める。

 僕の周りにはガロウデットやユーゴスといった、豚、もといザカート侯爵の騎士が全員いる。

 彼らは食事もろくに食べずに、チラチラとこちらを見ている。

 もう何と言えばいいのだろうか、とにかく挙動が怪しい。

 あの豚侯爵、人選間違えたんじゃないの?

 こんなのじゃ、何か仕掛けてあります、と言っているようなもので、普通の人なら疑って食事なんかしませんよ?


「レオナルド団長、どうしたのですか?折角の料理が冷めてしますよ?」


 と、中々食事(毒と睡眠薬入り)を食べない僕に、ガロウデットが声をかけてきた。

 いやいや、そんなに「早く食べろ」と期待を込めた目で見られてもね、食べる気になんかなりませんよ。

 ちょっと意地悪ついでに、少し話しをしてみようかな?


「いえ、実は僕、そんなにお腹が空いていないんですよ。歩いている途中で木の実を食べたりしていたので」


 これは事実です。

 歩きながら食べられる木の実を探し、見つけたら食べたり同行者達にあげたりしていました。

 冒険者が変装しているだけの、なんちゃって騎士達は喜んで食べていたけど、今目の前にいるクズ騎士達は一切口にしていない。

 そんな物が食えるか!とか言っていたね。

 おっと、気付いたらどんどん豚の狗達の呼び方が酷くなっていた。

 気を付けよう。


「そうですか。ですが、料理当番だった者が自信作と言ってたシチューです。是非とも食べて頂きたいですね」


 ガロウデットの目が如実に語っている。

 いいから早く食え!と。


「そうですね。では頂ましょうか」


 全員あからさまにホッとしたのは見逃さないよ?

 そんなことされると、裏切りたくなっちゃうじゃないか。

 もちろん、これは相手がこのクズの中のクズ達だからこそだけどね。


「あ、そういえば、僕は良く知らないのですが、このダストレア大樹海に挑んだ人で有名な人っていますか?」

「え?ああ、えっと、そうですね・・・」


 シチューを食べると思っていたゴミ達が、一斉に落胆する。

 あ、ユーゴスだけは 睨んできた。

 面倒だから無視だ無視!


「有名な人と言えば、勇者ドラグルですね」


 一番最初に復帰したガロウデットが答えてくれる。

 何だかんだで、結構コイツはしっかりしているみたいだ。

 騎士として有能かどうかはしらないけど。


「勇者ドラグルと言えば、300年前に魔王デリオスを討伐した、あの?」

「そうです。その勇者ドラグルです」


 約300年前、レシタクルス大陸の西にあるもう1つの大陸、バルケスラ大陸で魔王が現れた。

 このバルケスラ大陸は、もともと魔族が多い大陸で、遥か昔からレシタクルス大陸と争っていた。

 と言うより、一方的に魔族達がレシタクルス大陸に攻め込んで来ることが多々あった。

 で、そこに魔王が現れたものだから、魔族の皆さんがヒートアップし、レシタクルス大陸に全面戦争を吹っかけてきた。

 圧倒的な力を持つ魔王デリオスに対し、レシタクルス側からは、当時最強と呼ばれていたドラグルという若い男を勇者として、魔王討伐をさせた。

 余りにも長いドラマがあるので割愛するけど、最終的にドラグルは魔王デリオスを倒すことに成功し、凱旋。

 その時のレベルは、何と253だったそうで、有史以来最高のレベルと認定されています。

 その後のことはいろいろと憶測が飛び交っていて、真実はどうなのか分からないが、いつの間にかいなくなっていたそうだ。

 一説によると、アステリア王国で貴族としての爵位を貰い、生涯を送ったとも言われている。


「勇者ドラグルもこのダストレア大樹海に挑んだそうですが、帰ってこなかったそうです」

「そうなんですか?確か勇者ドラグルが魔王デリオスを討伐した時のレベルって253でしたよね?」

「そう言われていいますね。そんな人類の限界を超えたかのような勇者でさえ、戻ってくることが出来なかった」

「そうなんですか。そう言えば、勇者ドラグルがアステリア王国の貴族だったという噂がありますが、あれって本当なんですか?」

「ええ、本当ですよ。そのドラグルの子孫と言われているのが、かのノーマン伯爵家です」

「そうなんですか!?」


 まさかの勇者が、本当にアステリア王国の貴族だった。

 それ以上にあのノーマン伯爵家が勇者の子孫、という方がビックリしましたよ!


「ああ、でもいノーマン伯爵家が子孫だというのは、あくまで噂なんですよ。何せ、勇者の子孫のくせに、そこまで強い者が今まで出ませんでしたからね。それにノーマン伯爵家は、一言も自分たちが勇者の子孫だなどとは言っていません」

「でも、今はどうですか?長男のダラス殿も次男のオーグ殿も、中々のステータスですよ?」

「ええ、確かに。彼らは子供なのに、もう普通の騎士よりも強いそうですね。ですが、それを言ったら団長の方が凄いですよ?」

「え?僕ですか?」

「はい。黄牙騎士団を壊滅させた話は有名ですからね。もしかしたらスティード伯爵家こそが勇者の子孫では?と言われているくらいですよ」

「そうなんですか?知らなかったですね・・・」


 もし、今の話が本当なら、ダラスとオーグのステータスが高かったことの説明が付く。

 まあこれは、今確認のしようがないからね。

 覚えていたら、アステリア王国に戻った時にでも調べてみようかな。


 その後も少し話しをして、いい加減こいつらも焦らせたことだし、そろそろシチューを食べようかな。


「お話をしていたらお腹が空いてきましたね。ではそろそろいただきましょうか」


 そう言ってシチューを食べる。

 当然冷めてしまっているが、1口食べたら眠るので気にしない。


「うっ!?」


 そう呻いて、僕はその場で意識を失ったフリをした。

 そう、フリです。

 僕にはスキル『状態異常無効』があるからです・。

 効果は、全ての状態異常に対する完全耐性というもの。

 毒や麻痺、石化や薬による睡眠など、状態異常を全て無効にすることがでるスキルだ。

 だから、僕にはこの最低の生ゴミ達がしかけた毒なんか効いていない、ということです。

 だから意識を失ったフリしました。


「よし、やっと食べたな」

「まったく、面倒なガキだったな」

「おい、とっとと殺しちまおうぜ」

「いや、このガキはVITが高い。我々の攻撃では時間がかかるかもしれない。毒も効いていると思うが、ここは万全を期して、ケルベロスの住処の前まで運ぶぞ」

「チッ!しょうがねえ!おいてめーら!とっととこいつを運べ!」


 さっきからユーゴスがうるさい。

 そしてここでも命令するだけで何もしていない。

 こいつ本当に大丈夫か?仕事とかちゃんと出来るの?

 とか考えていたら、布に包まれて運ばれ始めた。

 支配圏を展開して見ていると、偶に道を間違えながらだけど、何とかケルベロスの住処である洞窟に到着した。


「よし、洞窟の入り口にこのガキを捨ててこい!」

「え?我々がですか・・・?」

「あ?何だてめぇ、俺様の言うことが聞けないってのか?」

「いえ、そうではなく、あそこまで行くのは危険で・・・」

「いいから行って来い!今行かねえなら俺がお前をここで殺す!」

「は、はい分かりました!すぐに行きます!」


 ユーゴスに脅されて、可愛そうな冒険者が扮するなんちゃって騎士4人が、僕を洞窟の入り口まで運ぶ。

 ちょっとユーゴスにムカついてきました。

 僕を運んでいた4人が、もう少しで洞窟の入り口に到着しそうになった時、洞窟から2つの首が顔を出した。

 オルトロスだ。


「「「「うわああああああああああ!!」」」」


 僕を運んでいたなんちゃって騎士が絶叫する。

 そして僕を放り投げて逃げ出す。

 ユーゴス達がいる方に向かって。


「うわっ、バカ野郎、こっちに来るんじゃねえ!」


 そう言って慌てて逃げだすユーゴスとその他。

 その後を追いかけるオルトロス。

 そして醜い逃走劇が始まった。

 冷静に見れば、オルトロスがいつまでたっても追い付かないスピードで追ってきているのが分かるのだが、逃げているコイツ等にはそんな余裕がない。

 しばらく逃げた後、あろうことかユーゴスは、近くにいたなんちゃって騎士2人を斬った。

 オルトロスの餌にして、自分が逃げる時間を稼ぐためだ。

 しかし、オルトロスは斬られた2人を無視してユーゴスに迫る。


「このバカ犬!なんでこっちに来るんだよ!?もっと近く餌が2つ転がってんじゃねえか!そっちに行けよ!?」


 必死に逃げるユーゴスにオルトロスが遂に追い付き、腕を振るう。

 狙いが甘かったのか、その爪はユーゴスの体に掠っただけだった。

 だが、それだけでユーゴスは吹き飛ばされ、地面を転がった。


「いてぇ、いてぇじゃねえかよぉ~」


 体中に走る痛みに涙を流し、情けない声を出しながらも、何とか立ち上がったゲス野郎。

 しかしその目の前には、オルトロスが涎を垂らして立っている。


「ひいっ」


 ゆっくりと顔を近づけ、口を大きく開けるオルトロス。

 立ち上がったユーゴスは恐怖で失禁し、足が震えて動けないでいる。


「は、は、は、イヤだ、イヤだ、イヤだ・・・・」


 動くことが出来ず、首を振っているだけのユーゴスに、オルトロスの口がさらに近づく。

 ユーゴスまで残り1mとなった所で、失禁騎士は気絶した。

 それを見届け、オルトロスは何もせずに踵を返し、住処の洞窟へと戻っていった。

 その場にはいい歳してお漏らししたクソ野郎だけが残された。

 おっと、さっきからザカート侯爵の騎士に対する呼び方がまたしても汚くなっていたようです。

 気を付けます。


 ユーゴスに斬られた騎士は何とかポーションを使って傷を癒し、2人で支え合いながら野営地へと戻っていった。

 傷は塞がっても、流した血は戻らないので、その足取りはゆっくりだった。

 ユーゴスはまだ気絶したままだ。

 よし、放置しよう。

 運が良ければ野営地まで自力で戻れるかもね?

 その失禁してビショビショになったズボンを穿いたまま、というおまけ付きで。

 え、僕?

 とっくに包まれていた布から抜け出して、すぐ近くから気配を消して見ていましたよ。

誤字、脱字など、お気付きの点が御座いましたらご指摘をお願いいたします。

もし、この作品を読んで面白い、と思って頂けたら幸いです。

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