第32話 ダストレア大樹海調査初日
キリのいい所まで行ったので、章で分けることにしました。
レシタクルス大陸中央に広がる広大な樹海、ダストレア大樹海。
その面積はレシタクルス大陸の1/5を占めるほどで、その中は危険な魔物が大量に生息している。
有史以来、多くの国が、騎士、冒険者を何度も何度も送り込むも、すぐに大きな被害を受けて逃げ帰って来るか、全滅して二度と戻って来れないという結果しか出ていない。
500年前に、片腕を失ってもこのダストレア大樹海で2週間生き延びたS級冒険者、バルバレシア=オークウェルはこう語ったとされている。
「あの場所は、決して人が入り込んで良い場所ではない。中に入れば、そこはもう異世界だ。上級の魔物がそこかしこにいて、超級の魔物すら何度も見た。そして私は見た。見てしまったのだ。超級の魔物ですらエサにしている厄災級の魔物、巨大な純白の狼、フェンリルを。100人いた私の仲間達はことごとく魔物に食べられてしまった。あそこには決して人は踏み込んではならない。私はもう2度と近づきたくもない」
この話しを聞いた世界の各国は、この樹海を危険度SSSと認定した。
それまでの世界中で認定されていた最高危険度はSだったが、それを遥かに超える危険度が作られ、この樹海が認定された。
その後も何度も多くの冒険者が挑み、多くの騎士団が調査に行ったが、バルバレシアよりも長く樹海にいられた者はいない。
そんな危険な樹海に、今、51人の人が列をなして歩いている。
先頭にいるのは、銀髪碧眼の、まだ10歳にも満たないような子供だ。
その小さな体は、動きやすそうな皮の軽装備で身を包み、その身長に合わせたサイズの小ぶりの剣を腰にさしている。
彼の名はレオナルド=シオン=スティード。
アステリア王国の伯爵、スティード家の次男で、年齢はまだ7歳だ。
しかし彼には立派な肩書がある。
ダストレア大樹海調査団団長。
そう、この51人は、アステリア王国からこの樹海の調査を命じられた調査団であり、彼はその長なのだ。
このレオナルド以外の50人は、全員が鎧に身を包んだアステリア王国の騎士で、もちろん全員大人だ。
そんな彼らは、今日初めてダストレア大樹海に入ったばかりで、調査を開始して3時間が経過していた。
今先頭を歩いているのは僕、レオナルドです。
最初は同伴している騎士の隊長である、ガロウデット=アイフ=デニウムが先頭を歩くと言って進んでいたけど、2時間も歩いた頃、僕と交代することになった。
表向きの理由は、子供の歩幅で大人についてくるのは大変だろう、ということで、全員が僕のペースに合わせるから先頭を歩くように、とのことだった。
だったと過去形なのは、今は違う理由になっているからです。
時は遡り、僕が先頭になった頃の出来事です
先頭に立った僕が、余りにも無警戒にどんどん進んでいくのを見たガロウデットが声をかけてきた。
「レオナルド団長。いくら何でも早く進みすぎではないですか?」
なぜ僕が団長なのか?
それは、この調査隊の名前が『ダストレア大樹海調査団』という、何の捻りもない名前であり、その長が僕だから、調査団の団長、ということになっているのだとか。
それはともかく、そんなに早いかな?
大人の普通の速さ程度で、歩いているつもりなんだけどな?
「そうですか?これでも皆さんのペースを考えて、かなりゆっくり進んでいるつもりですよ?もっとスピードを落としますか?」
「いや、我々のペース云々ではなく、ここは危険度SSSのダストレア大樹海ですよ?」
「ええ、それが何か?」
「何か、ではない!もっと周りに気を張って慎重に進むべきだと、ガロウデット隊長は言っているのだ!」
ガロウデットの横にいた騎士が声を張り上げる。
名前は確か、ユーゴス。
体格が良く、見た目からして威圧感のある顔をした20代の男だ。
平民の出なので家名は無いが、騎士になっていることを考えると、もしかした優秀なのかもしれない。
だけど僕の目には、どこにでもいる、大きな体で大きな声を出せば、誰もが言うことを聞くと思っているタイプのクズにしか見えない。
実際に、森に入って1時間後に遭遇したオーク4体との戦闘では、後ろで偉そうに命令しているだけで何もしていなかったしね。
面倒だけど、放っておいてもこの手の連中はうるさいから、説明をしてあげることにした。
「気を張るも何も、この辺りは僕にとっては庭みたいなものですからね。どこが危険でどこが安全かなんて分かりきっているんですよ。そんな所を警戒して、ゆっくり進む意味なんてないでしょう?」
「「「「は?」」」」
この言葉に、このやり取りを聞いていた全員が呆気に取られていた。
「いや、は?じゃなくて、だから安全な場所を通っているんですから、どんどん行きますよ?」
「いや、待ってくれ!」
「何です、ガロウデット隊長?」
「今のあなたの口ぶりからすると、あなたはここには何度も来ているようなのですが・・・」
「ええ、そうですよ。皆さん、僕のステータスは知っているんですよね?僕はこの樹海で修行していたので、この程度の浅い場所なら知り尽くしているんですよ」
僕からのまさかの発言に、呆気に取られていた全員が言葉を失っている。
誰が想像出来ただろうか?
外部の侵入を拒む超危険地帯ダストレア大樹海に、わずか7歳の子供が何度も出入りして生き残っていることを。
実際はもっと前から入り浸っていたんですけどね。
「そ、そうなのですか・・・それでは、この先も安全な場所を通って行ける、ということなのですね?」
「そうですね。ただ、安全が保障できるのは途中までですよ?今まで行ったことのない場所に関しては、安全を保障できませんけどね」
「分かりました・・・」
「それではどんどん進みますよ?あ、いくら安全とは言っても、魔物との遭遇は避けられないので、その場合は覚悟をしてくださいね?」
その1時間後、今度は犬型の魔物、ハウンドの群れ18頭と遭遇した。
普通のハウンドは体長が1.5m程度で、体を覆う毛の色は灰色、鋭い爪と牙を使って攻撃してくる。
普通の騎士なら1対1でも勝てる相手で、下級のFランクの魔物に分類されるが、群れとなると連携して襲ってくるため危険度が上がり、中級のEかDランク相当になる。
そのハウンドが14頭。
残りの4頭の内の3頭は、濃い青色の毛に覆われた、体長3mほどの上位種であるディープハウンド。
ハウンドよりも大きく、知能も高く、当然強い。
その大きく伸びた爪の一撃は、まともに喰らうと致命傷となり、もしその鋭く大きな牙に捕まったら、あとは死を待つことしかできないほどの相手。
こちらは普通の騎士が10対1でかかって、何とか勝てる中級のDランクの魔物だ。
最後の1頭は、漆黒の毛に覆われて、体中から黒い炎が噴き出している4mの巨体をもつヘルハウンド。
大きさもさることながら、体から黒い炎を出していることから分かるように、コイツは強力な火魔法を使う。
ただでさえ、ディープハウンドよりも強力なのに、さらに魔法まで使って攻撃してくるのだ。
当然、知能は凄く高い。
普通の騎士が50対1でも勝てるかどうか分からない、上級のCランクの魔物だ。
対する我がダストレア大樹海調査団の戦力は、たかがオーク4体に苦戦する騎士50名と、ランクで言えば厄災級のベヘモスが逃げ出すほどの力を持つ僕。
うん、余裕で勝てるね。
僕の後方では
「おい、あれへルハウンドだろ!?やばいって!」
「あんなのに勝てるのか!?」
「ここは誰かが犠牲になって、他は逃げるべきだ!」
などと、パニック状態です。
よし、こいつらは無視して殲滅しよう。
「この程度なら僕一人で充分なので、皆さんはそこで見ていてください」
とだけ言って、剣を持ってハウンドの方へ向かっていく。
まずはハウンドの半分の7頭が一斉に襲い掛かって来たので、全てを斬り捨てる。
それを見たへルハウンドが指示でも出したのか、一声鳴くと、残りのハウンドとディープハウンド3頭が僕を囲うように動いて来た。
囲まれるのを待ってあげる必要もないので、こちらも動いて1頭ずつ斬り捨てていく。
ディープハウンド?普通のハウンドと同じく、一撃でしたよ。
最後に1匹だけ残ったへルハウンドが、黒い炎をまき散らしながら突進してきた。
こちらもヘルハウンドに向かって走り、すれ違いざまに剣を一閃。
ドスン!と音を立てて、ヘルハウンドの巨大な頭が地面に落ちた。
「さ、終わりましたよ。先に進みましょう・・・あれ?」
振り返ると、全員が元の位置より後ろに移動していた。
今の戦闘はだいたい20秒くらいだったかな?
きっと20秒走ったらこのくらいの距離は移動出るんじゃない?という距離だ。
要はこいつら全員、僕が戦い始めた途端に逃げ出したのだろうね。
で、ヘルハウンドの首が落ちた音で振り返ったら、全滅していたから固まってしまった、と言ったところかな?
「どうしました?」
「いや、あの・・・ハウンドの群れは?」
「殲滅しましたよ?」
「え・・・でも・・・」
「さ、どんどん進みますよ」
逃げていたのを指摘しても時間の無駄なので、先に進むことにしました。
「ま、待ってください、団長!」
「何ですか?」
「せっかく魔物を倒したのに、素材や魔石は回収しないのですか?」
「そんなもの、この先いくらでも手に入りますから、別に今はいらないでしょう?」
「そんな、こんな大物ですよ?回収しましょう」
「はあ~、分かりました。好きにしてください」
「ありがとうございます。よし皆!団長の許可が下りたから、この魔物の素材と魔石を回収しよう!」
ガロウデットの提案で、皆で魔物の解体が始まりました。
大体30分くらいで解体は完了し、使えない部分に関しては穴を掘り、まとめて埋めてしまいました。
あ、ユーゴスは今回も何もしないで、偉そうに指示だけしていました。
回収した素材は、数名の騎士が持っていた空間収納機能の付いた鞄に入れ、全ての素材の回収が終わったのを確認し、さらに樹海の奥を目指して出発しました。
僕の異常な強さを見てからは、あのうるさかったユーゴスも黙ってくれるようになったので、気分が良いです。
僕にビビったとも言える。
それから今に至るという訳です。
話しを戻して裏の理由は、ガロウデットは後方に移動して、仲間の騎士と相談をしたかったからだ。
あと、この樹海にビビッていて、いつまでも危険な先頭に居たくない、っていうのもあったみたい。
僕と先頭を代わってから、少しずつ少しずつ後ろにずれて行き、今では完全に最後尾にいる。
彼はデニウム伯爵家の次男なので、家を継ぐことが出来ない為、騎士となるために努力した人でもある。
30代前半のベテラン騎士的な風貌であり、おそらくこの調査団の中では1番強いだろう。
その高い武力で数々の武勲を立て、騎士爵を授与されたらしい。
その過程でザカート侯爵に取り入り、今では侯爵が信用する騎士の1人となっている。
騎士になりたての頃はどうか知らないけど、今では志など無い立派なザカート侯爵の狗へと成長しました。
出会ってまだ数時間だけど、頭の回転が速く、指揮能力の高さも伺える優秀な隊長なのだろう。
つまりは、僕を暗殺するために送り込まれた刺客だったりします。
今、そのガロウデットと一緒に後ろで固まっているのはユーゴスを含めた5人で、全員がザカート侯爵配下の正式な騎士達だ。
他はどうかというと、僕の横と後ろにいる2人も騎士なんだけど、それ以外の43人は全員が騎士の格好をした冒険者だったりする。
役割分担としては、僕の近くにいる2人が情報収集係で、後ろの5人が暗殺の計画を立てる立案係。
それ以外のなんちゃって騎士達は周辺警戒と、僕の意識が最後尾の連中に向かないようにする為の壁役。
情報収集係の2人は、僕にあれこれと質問してくる。
最初は他愛のない質問ばかりだった。
家族はどうだ、ノーティスの街はどうだ、王都はどうだったなどなど。
それが今では
「今までこの森で危険だと感じた魔物はいますか?」
「そうですねえ、まだかなり先ですが、この川を下った先にある湖にいた水龍はヤバかったですね」
「水龍ですか!?」
「ええ、体長は30mを超えていたと思いますが、とても強大な力を感じましたね」
「あれほどの強さを誇る団長でも危険だと感じたのですか?」
「そうですね。もしこの調査団が水龍と出会ってしまったら、壊滅してしまうでしょうね」
「他にはどうですか?」
「他は、あそこに山が見えますよね?あの近くにはケルベロスがいます。これも出会ってしまったら、かなり危険ですね」
と、この樹海での危険な魔物の情報を集めている。
この集めた情報はどうなるかというと、全て最後尾のガロウデットに伝えられている。
この危険な魔物の情報を使って、僕を殺そうとしているようだ。
先程、僕の力を見せつけたので、自分達では勝てないことが分かったのだろう。
と、いう訳で、僕は彼らが食いつきそうな餌を蒔いています。
「では、なるべく近づかないようにしましょう」
「いえ、そうも行かないんですよ」
「と言うと?」
「今僕達が通っている安全なルートは、そのケルベロスのいる山に向かっているんですよ」
「何故ですか?」
「ケルベロスというAランクの魔物がいるので、他の魔物が恐れて近づいて来ないんですよ。つまり、ケルベロスにさえ近づかなければ安全を確保できるんですよ」
「けど、ケルベロスに遭ってしまう可能性もありますよね?」
「その時は諦めましょう。なに、大丈夫ですよ。だって、ケルベロスの住処は知っていますから」
「では、後でその場所を教えてもらってもいいですか?危険を回避するためにも把握はしておきたいので」
「ええ、構いませんよ。多分、今日はケルベロスの住処の近くで野営することになりそうですしね。その時に教えますよ」
「はい、お願いしますね」
そう言って、僕に質問ばかりしてきた騎士、名前をジャルムという、は、ガロウデットに野営の件を伝えてくると言い、もう一人の騎士と一緒に離れてしまった。
そして、ガロウデットにケルベロスの話しをしたら、ばっちり喰いつきましたよ。
野営中の食事に睡眠薬と毒を混ぜ、僕が完全に寝入ったらケルベロスの住処の近くに放置する、という作戦を練っていました。
あ、支配圏は樹海に入ってからずっと展開しているので、情報はダダ漏れです。
ついでに、魔物もこちらに近づかないようにしてあります。
え?じゃあオークとハウンドは何だったのかって?
もちろん、この連中がどの程度の強さなのか見るためにけしかけました。
その結果分かったのは、こいつらはかなり弱い。
騎士達はそれなりの強さだけど、スティードの騎士と比べると、下から数えた方が遥かに早い実力でした。
なんちゃって騎士達は、冒険者としても下っ端なのかな?もっと弱いです。
オーク1匹に10人以上でかかって、何とか勝てるレベルって・・・
これがスティードの騎士なら、1対1でも倒せるんだけどねえ。
誤字、脱字など、お気付きの点が御座いましたらご指摘をお願いいたします。
もし、この作品を読んで面白い、と思って頂けたら幸いです。




