第26話 お前はこの世界をどうしたいの?
「ねえレオ、ちょっといいかい?」
「私からも聞きたいことがある」
それまで黙って聞いていたエドおじさんと、カルナバル宰相が声をかけてきた。
「何でしょうか?」
「先に宰相からどうぞ」
「すみません殿下。それではお言葉に甘えさせていただきます」
まずは宰相からの質問のようだ。
「お前は、もしこの権利を得たとして、積極的にその力を行使するつもりか?」
「いいえ、僕は自分に害がなければこちらから手を出すつもりはありません。ただ、もし誰かが非道な行いをしているのを知ってしまったら、阻止するために動くとは思います」
「では、お前が適当な罪をでっち上げ、無理やり誰かを攻撃することはしないな?」
「当然です!そんなことをしたら、僕は僕が最も嫌う種類の人間に成り下がってしまうではないですか!そんなことするくらいなら、僕はこんな権利は望みませんよ!」
これにはカチンと来たので、ついつい語気を強めてしまった。
だけど、そう思われるのもしょうがない。
なぜなら、この権利と僕のステータスがあれば、この国で自由に好き放題出来てしまうのだから。
「うむ。それが確認できて良かった。私からは以上だ」
宰相が手元を見ながら、満足したような顔をした。
多分、手元に謁見の時に持っていたウソ発見器があるのだろう。
支配圏?そんな無粋なことはしませんよ?
「では、次は私だね」
宰相は僕の答えに満足してくれたようで、エドおじさんと代わった。
「レオ。もしこの権利を手に入れたとして、君は今、攻撃するというかやり返そうと思っている者はどれくらいいるんだい?」
「そうですね、今はいません」
あからさまにほっとするエドおじさん。
でも残念ですが、あくまで今です。
「ただ、今後僕にちょっかいをかけて来そうなのは、大体20くらいでしょうか?やられる前にやるつもりはありませんが、やられたらやり返しますよ」
「20も!?・・・・それは誰か聞いてもいいかい?」
「あ~、それは余り言わない方がいいでしょうね。ただ言えることは、ほとんどが先日の謁見時に居合わせた貴族ですね。残りはその貴族に雇われた連中です」
「宰相、どうだ。・・・そうか、分かった。これ以上は追及しなことにしよう」
エドおじさんが何かを諦めた顔をしている。
恐らく僕が、そんな権利が有っても無くても関係なく、本気でやられたらやり返すつもりだということを理解してしまったからだろう。
もう前科があるしね。
「なあ・・・」
僕の提案を聞き、それから考えながら話しを聞いていた陛下から、やっと声がかかった。
だけど、なんか疲れた声色ですよ?どうしたんだろう?
「お前はまだまだ強くなるのか?」
「そうですね。まだ5歳ですし、これからも体が成長するに合わせて、更に強くなりますよ、きっと」
僕には強くなる目的があるからね。いつか転生した雪乃を見つけて、あらゆるものから守る、という目的が。もちろん、その目的を聞かれても答えるつもりはないけど。それに、女神セレス様の依頼で、ダストレア大樹海に行って、龍王に会わなければならないから、イヤでもその道中でさらに強くなってしまうだろう。
「なあレオナルドよ?」
「はい、何でしょうか?」
「お前はどこまで強くなろうとしているのだ?」
「そうですねえ。いつか僕が本気で守りたいものと出会った時、必ず守り切れるくらいの強さがほしいですね。例え敵対するのが国であっても勝てるくらいの」
「それは・・・世界最強になりたい、と言うことか?」
「別にそういう訳ではありませんが・・・」
いや待てよ?
よくよく考えてみれば、それって世界最強になるってことなのかな?
仮に世界が相手でも勝てなくちゃいけないし。
うんそうだ。
「いえ、やっぱり世界最強になりたいですね。例え世界中が敵になっても勝てるくらいにはなりたいですから」
「「「・・・・・・」」」
会話を聞いていた一同が沈黙しています。
普通ならここは、子供の他愛のない夢程度に思われるのだろうけど、ここにいるのは現時点で王国最強の5歳児だったりする。
決して子供の夢だと笑い飛ばすことができない。
「なあレオナルドよ・・・」
長い沈黙の後、陛下が重い口を開いた。
「お前はこの世界をどうしたいの!?」
陛下の口調が変わった。
「悪質な貴族の排除!?そんなの俺だってやりたいよ!?いったいこの国に、王家に不満を持ち、国家転覆を計ってるであろう連中がどれだけいると思っている!?だがな!そんなやつらを全部罰していたら、この国が回らなくなるんだよ!お前はその先のことまで考えているのか!?ええっ!?それに世界が敵になっても勝てる力が欲しいだと!?そんなのはもう人間じゃないぞ!?それより、お前は世界を敵に回す予定でもあるのか!?どうなんだ!?」
陛下・・・・凄い鬱憤が溜まっていたんですね。もう威厳なんて何にもない。ただの40代のおじさんが喚いているようにしか見えないよ。
それにしても良かった。
陛下も貴族に対しては思うところがあって、どうにかしようと考えてくれているみたいだ。
これで何も考えていなかったら、いつか僕が何かしらの行動に出ていたかもしれないね。
それよりも、その先の考えか。
たしかに国の手足とも言える貴族が、僕にちょっかいをかけたせいで壊滅してしまっては国が回らなくなる。そ
れに対する案も無くはないけど、とりあえず提案だけしてみようかな?
「世界を敵に回す気はありませんよ?さっきのは仮の話です。貴族を罰した後に関しては、考えはありますよ。聞いてくださいますか?」
「どんなのだ!言ってみろ!」
陛下の顔には、どうせ子供の言うことだからと、微塵も期待していないのが顔で分かってしまう。
でも、聞いてくれるみたいなので提案してみよう。
「国営の学校をもっと作るのです。それも、授業料は無料にして」
「何故だ?」
「貴族が減ると国が回らなくなるのは、その貴族の代わりになる者がいないからですよね?」
「そうだな」
「それは何故すか?」
「領地の管理や政治など、貴族以外には出来ないかだ」
「何故出来ないのですか?」
「他の者には、知識も経験もないからだ。そんな者にやらせても、失敗するに決まっている。お前はさっきから何が言いたいのだ?」
陛下にはまだピンと来ていないようだ。
エドおじさんとお父様も。
一人だけ、カルナバル宰相は僕が言いたいことを少しだけ理解して来たようだ。
「まさか・・・」とか呟いている。
「何故貴族には知識も経験もあるのか?それは、彼らがそのような教育を受けているからです。ならば、その教育を平民達にも受けさせてみたらどうでしょうか?」
「バカを言うな。平民と貴族では、そもそもが違うのだ。教育を施した所で、何が変わるというのだ?」
「何も違いませんよ?彼らも同じ人です。いや、もしかしたらその立場に胡坐をかいているだけの貴族より、常に生きることに一生懸命な平民の方にこそ、優秀な者がいるかもしれません」
「その根拠は?」
「陛下は今まで、ボンクラ貴族は見たことが無いのですか?全ての貴族が、優秀だと思っているのですか?陛下は平民を見たことが無いのですか?学が無くても知恵を巡らし、自分に出来る精一杯を出し尽して生きている彼らの姿に、可能性を感じませんか?」
「むう・・・」
陛下が考え込んでしまった。
僕の言いたいことを理解してくれたらしい。
エドおじさんもお父様も同じだ。
カルナバル宰相は早く僕の話の続きを聞きたいらしく、期待に満ちた目で僕を見ている。
「確かに、そうかもしれんな」
「では!」
「いや待て。まだまだ問題がある。例えば、いきなりそんな学校を作っても、その資金はどこから持ってくるのだ?しかも無料だと?採算が取れないのではないか?」
「資金に関しては後で説明します。まず採算に関してですが、これは将来を見据えていただきます。最初の成果が出るまでは10年近くかかると思いますが、一度成果が出始めたら、そこからずっと成果が出続けます。それこそ、その教育を止めるまで」
「どのような成果が期待できるのだ?」
「平民たちが教育を受け、知識が上がることにより技術が向上し、産業も発展するでしょう。産業が発展すれば経済も発展して国が潤い、豊かになります。さらに、騎士を育成する機関も増やし、平民でも入れるようにすれば国力も上がります」
「・・・・・・」
陛下がまた考え込んでしまった。
だが、その表情はさっきまでとは違い、笑っている。
僕の言いたいことを理解し、それを実施した場合の将来を想像してくれているのだろう。
簡単な話だ。
国民全員が、貴族並みの知識を持っていたらどうなるか?
簡単に国が発展していく事が想像できるだろう。
もちろんデメリットもある。
平民に知識を付けさせるということに、今まで悪知恵を働かせて平民から搾り取っていた貴族達の反発が容易に想像できる。
だって、そんなことをされたら、今まで騙してきたのが平民たちにバレてしまう。
うまい汁を吸えなくなるばかりか、反乱を起こされる可能性すらある。
さらに、知恵を付けた平民が悪いことを考えるようになり、犯罪率も上がってしまうかもしれない。
だが、それを踏まえても、それ以上のメリットがあるのだ。
現代日本で生きた僕でなくとも、目も前にいるアステリア王国のトップ達にもそれが分かって来たのだろう。
「素晴らしい」
しばらく黙考していた陛下が、声を上げた。
「素晴らしい考えだ、レオナルド!」
「ありがとうございます」
「だが、まだまだ足りない。私達はともかく、他の貴族が納得すまい。何か成功例がなければ、奴等も首を縦には振るまいよ」
「それでしたら、我がスティード領で試験的に実施させてもらってもよろしいでしょうか?」
「ほう、スティード領でか」
「待てレオ。勝手に話しを進めるな」
お父様が待ったをかけた。
「そもそも資金はどうするのだ?学校を作るにしても、その維持と管理にも金が要る。そもそも教員となる者を集める所からやらなければならない。さらに、平民の多くは子供でも働いている家が多い。貴重な労働力を手放すとは思えんぞ?」
「資金に関しては、僕が狩った魔物の素材を売ったり、作った魔導具を売って調達しましょう」
「そうか、その手が・・・」
「待て!」
突然陛下が大声で割り込んできた。
何だろう?
「狩ってきた魔物?魔導具?何のことだ?」
あ、しまった。
「実はレオは、ダストレア大樹海で修行していて、そこで魔物を大量に狩ってるんだよ。その中には貴重な魔物の素材もあって、売れば相当な値が付くだろう。それと、こいつは魔導具を1人で作れる。エドも知っているだろう?ウチの応接間にあった空調装置。あれは全部レオが1人で作ったんだよ」
「「「はあっ!?」」」
あ~あ、言っちゃった。
まあ、原因は僕が口を滑らせたせいなんだけどね。
「レオナルドよ、詳しく話せ!」
「はい、実はですね・・・」
僕がダストレア大樹海で修行というか、いろいろ練習しに行っていたこと。
魔導具作成のユニークスキルがあり、いろいろな魔導具を作ったことを全て話した。
魔導具に関しては、異空間収納の中に予備がたくさんあったので、とりあえず空調装置を出して、実際に使ってみた。
「レオナルドよ。これは今、いくつある?すべて買い取るから、すぐに設置してくれ!」
「あの、陛下?商品化していないので、そんなに数はありませんよ?」
「いくつあるのだ!?」
「まあ、これは今5台ありますから・・・」
「分かった。1つ金貨20枚出そう。これならどうだ!?」
「え!?」
何とビックリ、30分程度で作れる代物が、1台約2000万円で売れました!
5台で約1億円です!
って、ちょっと!?
「陛下!いくら何でもその金額は・・・」
「足らぬか!?なら倍は出すぞ!」
「いえ、そうではなくて!貰いすぎです!もっと安くて良いですよ!」
「バカか貴様!これほどの魔導具にはそれだけの価値があるのだ!」
怒られてしまった・・・いや、でもなあ・・・そうだ!
「でしたら陛下、この5つは無料で差し上げますので、代わりに、学校を作る許可を頂けますか?」
「何?そんなので良いのか?よし許可しよう!」
「ちょっと陛下!?」
あっさり許可を出した陛下に、慌てまくる王子と宰相。
脳筋伯爵は考えるのを放棄した模様です。
「ええい黙れ!これは国王として私が決めたことだ!異論は認めん!」
「いいえ陛下!異論があります!」
「何だと?カルナよ言ってみろ!」
「その魔導具を1つ、私にも頂きたい!」
「そうですよ陛下!たとえ我が父と言えど、独り占めは許しません!」
魔導具を巡って、アステリア王国のトップによる言い争いが始まってしまった。
しょうがない。
「あの、よろしいでしょうか?」
「「「何だ!」」」
「この魔導具は1日頂ければ、20台くらい作れますよ?」
「「「はあ!?」」」
と、いう訳で、明日までに空調装置20台の発注を頂きました。
報酬は、スティード領での学校建設における費用全てとなりました。
良いのか、これで?
魔導具によって話がかなり脱線してしまったけど、元は僕の功績における報酬の話だったんだよね。
やっと、結論が出ました。
「それではレオナルドよ。お前がこの国で自由に動ける権利については、スティード領での学校教育による成果が出て、国にとって多大な利益が産まれたら認める、ということで良いか?」
「はい陛下。それで大丈夫です。ありがとうございます」
「うむ。それでは早速、空調装置の設置を頼む」
「はい」
と言う訳で、僕は今から持っている空調装置を、国王陛下の執務室と寝室、エドおじさんの執務室と寝室、カルナバル宰相の執務室の5か所に設置することになった。
設置し終わってから気付いたんだけど、王族の寝室に入っても大丈夫だったんだろうか?
まあ、陛下と王子立ち合いだったから良いのかな?
深く考えるのは止めよう。
屋敷に戻ってしばらくすると、王城からの使者が来て、魔導具の材料となる金属と木材を持ってきてくれた。
さすがに今から材料を用意するのは大変だ、というのを伝えたら、カルナバル宰相がすぐに手配してくれた。
それはもう、他の溜まっている政務を放り出し、直属の部下の大多数を動員してまで。
おかげで、すぐに作業に取り掛かれます。
いつも通り、まずは核となる魔方陣を組みます。
で、その魔方陣をスキル『転写』を使って、どんどん量産していきます。
この『転写』は、描いたものを別の物に言葉通り転写することが出来、同じ物を量産するのに向いています。
このことに気付いたのは、騎士用の魔導装備を作っている時で、これのおかげで作業スピードが大幅に上昇しました。
アッという間に核を20個作製し、そこから外装と操作パネルも作成。
おかげで夕食前には15台が完成し、寝る前には注文された20台が全て完成しまた。
ついでにサービスで、国王陛下、エドおじさん、カルナバル宰相用に、疲労回復効果のある指輪を作った。
もちろん回復するのは疲労だけでなく、HPとMPも回復する仕様です。
翌日の昼過ぎにまた王城へと行き、いつも通り城門で順番待ちしていると、衛兵隊長らしき人がまっすぐ僕らの馬車に向かってきた。
「失礼いたします。こちらはスティード伯爵の馬車で間違いないでしょうか?」
「ああ、そうだ」
「宰相閣下から話は伺っております。そのままお通り下さい」
そう言って、衛兵隊長は僕らの馬車をそのまま通してくれた。
「なあレオ」
「はい何でしょうか?」
「これってやっぱり、陛下の指示だよな?」
「きっとそうですね。それだけ楽しみだったのでしょう」
「そんなにか?そんなに楽しみだったのか?」
「お父様も新しい装備を僕が作っているときは、そんな感じでしたよ?」
「っ・・・・」
お父様、身に覚えがありすぎて、顔が真っ赤です。
誤字、脱字など、お気付きの点が御座いましたらご指摘をお願いいたします。
もし、この作品を読んで面白い、と思って頂けたら幸いです。




