第23話 騎士団との模擬戦
どうしてこうなった?今、僕の目の前には黄牙騎士団300人が、完全武装で並んでいる。おかしい。確か、僕は近衛騎士団のディアレス団長と模擬戦をするはずだった。1対1で。だけど、これから行われるのは、僕1人対、黄牙騎士団の精鋭300人との模擬戦へと変わっていた。ちょっと皆さん?僕はまだ5歳ですよ?児童虐待じゃないですか?
なぜこうなったのか?それは少し前に遡る。
国王陛下と一緒に、謁見の間にいたほぼ全員が、近衛騎士団の訓練場へと移動していた時の事。国王陛下が何気なくお父様に聞いた言葉が発端だった。
「スティード伯爵。息子のレオナルドとは何度か戦ったりしたのか?」
「はい、1度だけですが先日手合わせをしまして、完膚なきまでに敗北を喫しました」
「なに?王国でもトップクラスの使い手である貴公が負けたのか?」
んん?国王陛下、この話は息子のエドおじさんから聞いていないのかな?何で今ここでそんなこと話しているの?
「はい。それも私だけでなく、我が父、ジルベストと2対1で挑んだのですが、2人揃って手も足も出ませんでした」
「本当か!?貴公だけでなく、王国最強騎士として名高いジルベストでも勝てないと!?」
態々大きな声で話している。嫌な予感がしてきた。
「なるほど。あれだけINTが高いのだ。剣と魔法を高度に組み合わせた戦術に翻弄されたのか」
「いえ、私達は純粋に剣のみの勝負で負けました。その勝負でレオナルドは魔法を一切使っていません」
「と言うことは、剣の技術のみ突出しており、INTは高いが魔法は使えないと?」
「そんなことは御座いません。レオナルドは魔法に関しても超一流です。おそらく、宮廷魔術師団でも勝てる者はいないでしょう」
「そうかそうか。それでは我が騎士団と魔術師団は、レオナルド1人に負けてしまう訳だな?はっはっはっはっ!それは末恐ろしい子供だな!」
わざわざ知っているであろうことを、さも今初めて聞いたかのように、それも周りに聞こえるような大きな声で話している。何だろう?あちこちから殺気が膨れ上がってきているけど、きっと気のせいだよね?ね?
訓練場に到着し、僕は訓練用の剣を借りて中央に立ち、模擬戦の開始を待つばかりとなった。しかし、相手のディアレス騎士団長が中々来ない。どうしたのかと思っていると、陛下の方へと近付く騎士の姿が見えた。支配圏を展開して見ていると
「国王陛下、1つ提案をしても宜しいでしょうか?」
「申してみよ」
「はっ、先ほどのスティード卿の話が本当であるのなら、近衛騎士団に任せるのはいかがなものかと。もし、近衛騎士団長が大けがをしてしまっては、陛下に万一があった場合、対処できなくなってしまうかもしれません。なので、ここは我が黄牙騎士団に任せていただけないでしょうか?」
模擬戦相手の変更かな?別に構わないけどね。
「そうか。ディアレスは何と言っている?」
「はっ、ディアレス殿も納得してくれております」
「そうか、そういうことなら構わないぞ」
「ありがとうございます。それと、私一人だけでは何も出来ぬ内に終わってしまうでしょう。なので、我が騎士団の精鋭をぶつけてみたいのですが、いかがでしょう?」
国王陛下は少し悩むフリをした。そして
「分かった。許可しよう。スティード伯爵もそれで良いか?」
「構いません。ただ、けが人が増えるかもしれませんが、よろしいでしょうか?」
「ポリアスよ、スティード伯爵はこう言っているがどうする?」
「構いません、覚悟はできています。それよりもスティード卿。ご子息にこちらがケガをさせてしまうかもしれませんが、本当によろしいのですか?」
「ああ構わん。痛い目を見させてくれ。できるならな」
「よし、それでは急ぎ用意せよ」
「はっ、陛下、スティード卿、ありがとうございます」
そう言って、黄牙騎士団のポリアス騎士団長でいいのかな?は騎士団の所へ行き、周りから見えない所でその口元がつり上がり、ニヤけながら準備を始める。戦う僕の意見は無視して。無視と言うか、預かり知れぬところで決定されたんだけどね。
お父様と国王陛下とエドおじさんが、3人揃って悪い顔をしている。ああ、やっぱりこれは予定されていたことなんだな。
きっと、先ほど陛下が大げさに反応したことで、有力貴族が危機感を覚えたのだろう。ただでさえ、僕のステータスが異常に高く、嫉妬していたのに。それなら早めに潰してしまおう、とでも思ったようで、きっと予定通り黄牙騎士団をぶつけてきたんだろう。
そして準備が整い、今に至る、という訳です。この間に、僕への説明は一切なし。まあ、予定通りなんだろうけど、大人の都合で子供が引っ掻き回されています。ちょっとイラッとしています。
「待たせたな、レオナルド殿。さあ、やろうか!」
殺気立った黄牙騎士団300人を引き連れたポリアス騎士団長が、にこやかに話しかけてくる。
「あの、相手をするのはディアレス騎士団長だけだったのでは?僕は何も聞いていませんよ?」
何も知らないふりをして、聞いてみる。
「ああ、国王陛下からのお達しでな。先ほど変更されたのだ。ディアレス殿に代わり、この私、ポリアスと、我が黄牙騎士団の精鋭300人と模擬戦をするように、とな」
ウソつけ、こっちは全部聞こえていたから知っているんだぞ?自分から提案しに行ったのを。
「それでは仕方がありませんね・・・。分かりました、これでやりましょう」
なので、少し怯えたような演技をしてみた。
「ああ、すまないね。お互い全力でやろう」
よし、言質は取った。全力で、と。
「それでは準備は整ったか?ルールは簡単だ。先に戦闘不能になった方の負けだ。ただし、戦闘放棄は許さない。これは騎士としてあるまじき行為だからな。双方よろしいか?」
国王陛下がルールを伝えてくれる。けど、この内容って明らかに黄牙騎士団に向けて言っているよね?だって、僕はまだ騎士じゃないし。
「はい、大丈夫です」
「我々もそれで大丈夫です」
「うむ、それでは模擬戦、開始!」
陛下の開始の合図と共に、黄牙騎士団から10人が飛び出し、剣で斬りかかって来た。残りは僕を囲むように移動を開始している。
僕はというと、まだ動かない。そして、先頭の騎士が僕に斬りかかり、刃が届く直前になって、動いた。軽く剣と剣をぶつけた、防御とも言えない行為だけど、今の僕は手加減のスキルをカットしている状態。100%のSTRとなっている。つまり、たったそれだけで、斬りかかった騎士は3mくらい吹き飛んでしまった。
それにも恐れず、次の騎士が斬りかかってくる。今度は剣を受けず、腕を打って剣を奪うことにする。この模擬戦で使う武器は全て、刃を潰した訓練用の武器となっている。だから腕を打たれた騎士は、腕を切り落とされることなく、ただの粉砕骨折で済んでいる。折れた腕から落ちた剣を拾ってよく見る。
「あれ?ポリマス騎士団長?これ真剣ですよね?どういうことですか?」
そう、黄牙騎士団の騎士達が使っているのは全て刃が潰れていない武器だったりする。明らかなルール違反だ。さあ、騎士団長、どうする?
「そうか、それはすまなかった。この者には後で厳しく言っておこう。何、安心したまえ。私を含めて、他の者は全員訓練用の武器だ。斬られることはない。そうだな、お前たち?他にも真剣を持っている者はいるか?」
誰も反応せず。あ、そうですか。そう来ますか。ならこちらが手加減することはないね。
「分かりました。それでは続けましょう」
「ああ、正々堂々と戦おうではないか!」
どの口が言うかな?今の会話中も、包囲を続けていたし。あ、包囲が完成したらしい。
「総員、突撃!逃げ場を作らず密集せよ!」
ポリマスの合図で、黄牙騎士団の槍隊が突っ込んでくる。ああ、ポリマスはダメ人間認定をしたので、敬称は抜きます。ついでにこの後の予定として、しばらく騎士団に復帰できなくなるので、わざわざ騎士団長なんて呼びませんよ。
で、例のごとく普通の槍で一斉に突いてくる。それに対して、僕はギリギリまで引き付けてからその場でしゃがみ、姿勢を低くした状態から前方に向けで飛び出す。子供の小さい体を利用して、槍兵の後ろに周り込み、槍を突き出してきた全員をSTR89万の力で後ろから押す。すると、槍で囲みながら同士討ちにならないように距離を調整していた兵達は、後ろから僕に押されたことにより超加速し、向かいの仲間に突っ込んでいく。訓練用ではない、本物の槍を持ったまま。その結果、
「うわああ!」「止めろ!味方だぞ!?」「抜いてくれ!俺の腹に槍が・・・!」
とまあ、同士討ちになる訳です。あ~あ、これが訓練用の槍だったら、そんな大ケガにならずに済んだのにね。
槍を避けてから、全員の背中を押すのにかかった時間は、約1秒。槍で突かれた当人はもちろん、周りにいた騎士達にも、何が起きたか理解できる者はいない。彼らの目からは急に僕が消えて、槍兵が必要以上に踏み込んだために起きた同士討ちに見えただろう。
今のでざっと20人が脱落。この20人の内、運の悪い1名が致命傷を負い、残り19名は重傷を負っている。僕としても、人を殺したいわけではないからね。なるべくだけど。
今僕は、そんな同士討ちの輪から外れた所にいる。相変わらず包囲されていることに変わりはないので、適当な所に斬り込んで、包囲の外に脱出する。斬りこんだと言っても、目の前の1人を訓練用の剣で吹き飛ばし、その騎士の周りにいた他の騎士も巻き込まれて吹っ飛んでいく。それを3回もやれば、あっという間に脱出口が完成する。吹き飛んだ騎士?ざっと40人くらいかな?あ、巻き込まれた味方の武器に貫かれているのもいる。だから訓練用の武器に以下略。
包囲を抜けると、丁度正面にお父様と国王陛下とエドおじさんがいた。ちょっとやりすぎたかな?と思って目を向けると、3人はそれはもう爽やかな笑顔で、サムズアップしてくれている。そして口元が動く。
「「「もっとやれ」」」と。
つまり、これは予定されていたことなのだ。で、今のやり方で問題ない、と。じゃあ、残りの250人くらいも、サクッとやっちゃいますか!
─5分後
その場に立っているのは、余裕の表情の僕と、恐怖で死にそうな顔の黄牙騎士団の残り20名ほど。僕は斬りかかって来た騎士の武器を持っている訓練用の剣で受け流し、近くの騎士に当たるように調整した。さすがは『受け流し』のスキル。全ての攻撃が、僕の横をすり抜けているかのように、武器の軌道を変えてくれた。
補足するけど、他の280名は全員死んだわけではないよ?何人かは仲間の武器に体を貫かれているけど、ほとんどは重傷者や、気絶しているだけだったりする。残念ながら、運悪く絶命してしまった騎士も数人いる。くどいくらい言うけど、始めから訓練用の武器を正直に使っていれば、この惨劇は起きなかったのにね。
「何なんだ!お前は何なんだよ!?俺達に恨みでもあるのかよ!?」
立っている騎士の1人が恐怖に耐えられなくなったのか、叫びだした。僕が、は?何言ってんのコイツ?という顔をすると、
「ふざけるなよ!?これだけたくさんの仲間を殺しやがって!俺達が何したって言うんだよ!?」
「そうだ!これは訓練だぞ!?模擬戦だぞ!?何を考えているんだ!」
何か喚き始めた。自分達のことを棚に上げてよく言うよ。ついでに、ほとんど生きていますよ?ほとんどが重傷者だけど。
「分かっているのか貴様!?これはれっきとした殺人だ!訓練中の事故ではないぞ!?貴様はこの後、軍法会議にかけられるのだぞ!?」
あ、ポリマスいたんだ?ずっと隠れていたんだね。全然気にしていなかった。
「あれ?ポリマス騎士団長、いたんですか?そういえば、模擬戦を開始してから一度も見かけませんでしたが、どこに隠れていたんですか?」
とりあえず挑発することにした。
「か、隠れてなどいない!私は指揮官だから、全体の状況を把握して、指示を出していたのだ!先頭に立つ指揮官などいるものか!」
え?と思い、お父様の方を向く。戦場で常に先頭にいる、スティード騎士団団長の方を。お父様の反応は、アイツ何言ってんの?だった。そりゃそうですよね。
「では、全体を見ていたなら分かると思いますが、そこで動けなくなっている騎士達は、全員、仲間の武器によって負傷していますよ?いや~凄いですね黄牙騎士団って!何せ、訓練用の刃を潰した武器でも、人を斬ったり貫けるのですから!」
大きな声で、これを見ている全員に聞こえるように言う。
「何をバカなことを!そんな言い訳・・・」
「あれ?だって最初に確認してくれたじゃないですか?全員訓練用の武器しか使っていないって。まさか、あれは嘘だったんですか?え?ということは、もしかして始めから僕を殺すつもりだったんですか?だからウソを吐いてまで本物の武器を使ったんですね?」
ここぞとばかりにまくし立ててみた。ポリマスは面白いくらいに狼狽え始める。
「いや、そんなことはない!偶々だ!偶々武器を間違えてしまったのだ!私達ですら気が付かなかったのだ!」
「では、僕も気が付かなくて当然ですよね?準備して使っている張本人が分からないんですから?そんな自分のミスで仲間が死んだからって、僕のせいにしないでもらいたいですね。僕はこれでも気を使って、なるべくケガをしないように配慮して動いたんですよ?訓練用の武器なら、僕が振るうよりも味方のに当たった方がケガしないだろうって」
「ふざけるな!貴様がやると我々がケガするだと!?バカにしているのか!?」
いやあんた、最初に包囲を破った時に見せたでしょうが。おたくの騎士達が簡単に吹っ飛んでいくのを。まあいいや。
「じゃあ、試してみましょう。僕が本気でやったらどうなるか?それを今立っている残りの騎士を相手にして見せてあげますよ」
どんどん、面白いくらいに嵌まっていくポリアスを、さらに追い詰めていく。しかも大声で叫んでくれているものだから、この場にいる全員に聞こえている。
「やれるものならやってみろ!貴様!それがウソだったときは分かっているだろうな!?」
はい、言質取りました!じゃあ、遠慮なくやりますか!それにしても、最初の内から僕の無駄に高い攻撃力を見せていたはずなんだけど、学習能力ないのかな?このおっさん?
「ではさっそく・・・」
僕は人の目に映る程度のスピードに落として、構えている騎士達に襲い掛かる。手加減?ああは言ったけど、一応しますよ?本気でやったら、一瞬で死んでしまいそうだったので。
5秒後、残っていた20名の騎士は全員例外なく、訓練場の壁際まで飛んでいきました。もちろん生きています。残っているのはポリマスだけ。
「どうですか、おっs、じゃなくてポリマス団長?理解できましたか?これでもまだかなり抑えているんですよ?」
座り込んで、失禁しているおっさんに声をかけてみる。あ~ダメだこれ。完全に心が折れてるよ。
「あ、あ、あ、わ、私が悪かった。この通りだ。もうやめてくれ・・・」
泣いて懇願してきた。けどなあ
「いやいや、国王陛下から、戦闘放棄は許さない、騎士としてあるまじき行為だ、って最初に言われているから、最後まで戦わないと、王命を無視したことになって、罰せられてしまうんですよね」
陛下を見ると、つられてポリマスも視線を送る。さっきまでの爽やかな笑顔はどこに行ったのか、まじめな、厳しい表情で頷く。
「ああ、やっぱり。陛下も戦闘放棄は認めないそうですよ?ではやりましょう」
「待て、いや待ってください。ならせめて、手加減をしてください。まだ死にたくないです・・・」
「いやいや、僕を殺す気で襲い掛かってきたくせに、自分は殺さないでって、都合よすぎません?騎士団の長なんですから、しっかり責任取らなきゃ。さあ立ってください。でないと、そのまま剣で叩き潰しちゃいますよ?座っているよりも、立っていた方がきっと生存率は上がりますよ?」
それを聞いたポリマスは、もう無事では済まないことを察したのか、顔を涙でグチャグチャにしながら立ち上がって、へっぴり腰で剣を構える。
それを確認したら、ゆっくり間合いを詰めて、ゆっくり剣を振りかぶって、下ろす。
手加減して、コツン、と頭に剣が当たっただけが、ポリマスはすでに恐怖で失神していた。
「そうそう、言い忘れていましたが、軍法会議は軍に所属している者に対しては行使できますけど、僕は軍に所属すらしていないので、関係ないですよ?むしろ僕よりも、あなたの方が軍法会議にかけられるので、覚悟しておいてくださいね?」
聞こえていないとは知っていても、一応は伝えておこう。しかし、こんなことも知らないヤツが、よく騎士団長になれたな?大丈夫か?この国の騎士団?
ここに、レオナルド=シオン=スティード対黄牙騎士団300人による模擬戦は終了した。この模擬戦において、僕は何1つ罰せられることは無かったが、生き残ったポリマスと黄牙騎士団は軍法会議にかけられて、騎士の恥さらしだとされ、騎士の身分を永久に剥奪された。
この一件で、レオナルド=シオン=スティードにはケンカを売るな、というのが、貴族の間で広まった。
誤字、脱字など、お気付きの点が御座いましたらご指摘をお願いいたします。
もし、この作品を読んで面白い、と思って頂けたら幸いです。




