第22話 国王陛下との謁見
王都に到着してから3日。僕は今、お父様と一緒に王宮の中を歩いている。
昼食を摂り、身支度を整えてから屋敷を出て、馬車に乗って王城へと向かった。大した距離でもないので、歩いていける距離なのだけど、そこは貴族の体裁というか、マナーというか、招かれたのなら普通は馬車に乗って行くらしい。
あっという間に王城へは到着したのだけど、中に入るまに時間がかかった。城門には多くの貴族の馬車が順番待ちをしていて、兵士たちが、誰の馬車なのか?城に来た目的は何なのか?招待状、令状はあるのか?などを1台1台確認していたからだ。王都に入る時は貴族用の入り口を使い、本人確認ができればすぐに入れたが、さすがに王城は警備が厳重だった。お父様が言うには、それでも今日は貴族が多いらしい。なので時間を喰っている。予定より、かなり早めに出発しておいて良かった。
僕たちの馬車の番になり、勅命の書かれた礼状を見せると、すぐに馬車が案内され、僕とお父様は案内係の文官に連れられ、今は城内を歩いている。
さすがに荘厳で、凄い作りだった。ただの通路にも綺麗な装飾が施され、調度品が並んでいる。初めての王城をキョロキョロ見たい衝動を抑え、案内の文官に着いてまっすぐ歩いていく。支配圏を展開しているから、結構見えていたりするんだけどね。
分かったことは、今歩いている通路は、おそらく来客用の通路で、その為見栄え良くなるようにしているのだろう。少し離れた所を見ると、結構普通な、いや一般的に見ればそれでも豪華な設備なんだろうけど、この通路と比較すると、だいぶグレードが落ちている。確かに、城内全部がこの通路のような状態だったら、どんだけお金がかかることやら。
初めて見た王城は、ちょっと意外だった。
しばらく歩くと、来賓用の部屋に通された。豪華な調度品はないが、センスの良さが伺える部屋となっている。ここで、謁見が始まるまで待つように言われ、案内してくれた文官が離れていった。
「謁見までは、どの位かかるのでしょうか?」
「さあな。予定より早く到着しているから、それなりに待つことになるかもしれんな」
なら、今の内に重要なことを聞いておこう。
「お父様、質問してもよろしいでしょうか?」
「何だ?」
「謁見って、どうやるんですか?」
「え?・・・・もしかして、謁見の作法とか何も知らないのか?」
「はい。何せ初めてのことなので・・・」
そう、今の今まですっかり忘れていたのだけど、謁見で僕はどうすればいいのか?を全く考えていなかった。取り合えず行けばいいかな?程度にしか考えていなかったんだけど、この後の流れを考えようとして、真っ先にそこにぶつかった。
「すまん。お前は頭がいいから、その程度のことはすでに知っていると思い、確認していなかった」
「すみません。聞くのを忘れていました」
「わかった。じゃあ説明するぞ。まず、この後係りの者が部屋に呼びに来る。その者に付いていき、謁見の間に向かう。謁見の間の入り口に着いたら、扉の前で待機する。その後、入室の許可が下りると扉が開くから、私と一緒にまっすぐ歩き、玉座の手前で止まる。この止まる場所は、玉座へと続く階段の手前に、カーペットに金糸で線が刺繍されている。その手前で必ず止まるのだ。それより先に許可かなく進んだ場合は、陛下に敵対の意志ありと見なされ、近衛兵に捕まるか、最悪その場で処刑されるから気を付けろよ?」
「分かりました。金糸の線までですね」
仮にそれ以上進んでしまっても、近衛兵程度では僕をどうこう出来ないと思うけど、そこは素直に頷いておく。
「そうだ。そこで右手を心臓の上に持ってきて、片膝をついて頭を垂れる。ここで口上を言うのだが、それは私がやるから、お前は何も言わなくていい。その後は、陛下か宰相から指示があるまでその姿勢を崩さず、指示された通りにすれば良い。おそらくお前にも質問が行くと思うが、そこはお前の思うように答えろ。ただし、国家反逆に問われるような過激な発言だけは控えてくれよ?」
「それはさすがに、大丈夫だと思いますよ。でも、気を付けますね」
「ああ、頼む。謁見中は周りに他の貴族達も並んでいて、場合によっては野次が飛んだりすることもあるだろう。特に今回は、お前の異常なステータスの件で呼ばれているからな。間違いなくいろいろ言われると思うが、我慢してくれよ?」
我慢って、そんなに野次が酷いのかな?出来る限り落ち着いて対応しよう。
「ああ、それと謁見の間には見知った顔もあると思うが、そちらは一切関与するな。お前はあくまで、陛下に呼ばれた客だからな?間違っても、顔見知りに挨拶とかするなよ?」
「分かりました」
よく分からないけど、禁止事項になっているのかな?
しばらくお父様と話しをして、謁見に関してはお父様のマネをして行けば問題なさそうなのと、余計なことは言うな、と釘を刺されたところで謁見の準備が整ったと、案内係りの先ほどの文官さんが来た。
その文官さんに付いてしばらく歩くと、高さ4mはあるかと言う扉の前についた。どうやらここが謁見の間のようで、扉の横には兵士が3人ずつ、計6名が立っていた。
「グレン=シオン=スティード様、レオナルド=シオン=スティード様、ご到着です」
文官さんが伝えると、中から
「入れ!」
との声が聞こえ、扉が開かれた。
謁見の間は、とにかく広かった。奥行80m、横幅30mほどだろうか?中央に金の刺繍で縁取られたレッドカーペットが敷かれ、その両脇に貴族の当主、文官、武官、近衛兵が並んでいる。その数、ざっと見た限りでは400名以上。こんなにいるの?
そんな中、お父様はそのまま最奥の玉座の方に、何のためらいもなく歩き始めたので、僕もそれに並んで歩く。物凄い視線の集中を感じる。友好的な視線と好奇の視線が多数を占める中、明らかに敵意を持った視線もいくつか感じた。
それらをすべて無視し、玉座へと続く階段の手前、金糸の線の手前で止まり、教えられた通りの所作で頭を下げる。
「スティード伯爵家当主、グレン=シオン=スティードと、その次男、レオナルド=シオン=スティード、参上いたしました」
お父様が国王陛下に向かって挨拶をする。
「よく来たな、2人とも。顔を上げよ」
言われた通り顔を上げて階段の上を見上げると、そこには40代くらいの、金髪でを肩まで伸ばし、その先がカールしている、何というか、これぞ王様ヘアーとでも言えるような髪型をしている男性が玉座に座っていた。その顔は、国の長にふさわしい威厳があり、堂々としている。ただ、日々激務に追われているのか、その表情は若干やつれている。国王だからね。きっと仕事量はとんでもないのだろう。だが、その目は未だに精力的に輝いている。
「余がアステリア王国国王、ウィリアム=ヴィルヘルム=アステリアだ」
低いが良く通る声で、国王ウィリアム陛下が名乗った。
だけど、僕の目は陛下ではなく、その横に立つ人物を向いていた。良く知っている顔が、そこにあったからだ。その人物が、陛下に続いて名乗ってくれた。
「私はアステリア王国第一王子、エドワード=ヴィルヘルム=アステリアだ。初めまして、我が国最優の騎士、グレンの息子のレオナルド君」
えーと?つまりあのエドおじさんが、実はこの国の第一王子で?王族だから、家名を隠してウチに遊びに来ていたの?っていうかエドおじさん、初めましてなの?今まで何度もあっているけど?いや、きっとこれには理由があるんだ。お父様も、見知った顔があっても、一切関与するな、と言っていたしね。
しかし、エドおじさんが王子とは。親戚の叔父さんみたいな人だと思っていたら、まさかの王族って言われても、ねえ?
混乱して、口が半開きの呆けた顔をしていた僕を見て、エドワード王子の顔が、ほんの一瞬だけニヤけた。まるで、イタズラが成功した子供のような表情だった。隣を見ると、お父様の頬がピクピクと痙攣している。湧き上がる笑いたい衝動を、必死になって押さえつけているようだ。
親と王子に向かって、今僕の心の中では「やってくれたなこの野郎!」と、叫んでいます。
「さて、貴公らを呼んだのは、そこのレオナルドのステータスについてだ。アイゼン侯爵からは報告を受けている。が、にわかに信じられぬのだ。そこで、こちらでも鑑定石を用意した故、今一度、鑑定してステータスを見せてもらいたいのだ」
国王陛下の左前方に立っていたおじさんが、今回僕を呼んだ目的を話してくれる。おそらくこの方が宰相のカルナバル=ブラン=グリーグ公爵だろう。40代半ばで眼鏡が似合う、若い頃はさぞモテたのだろうと思える顔立ちをしている。文官ゆえか線は細く、仕事のできるエリートといった感がある。見た目は清潔感があるが、その眉間に寄った皺の跡や、ほとんど白髪の髪を見る限り、かなり苦労しているのが見て取れる。宰相って、かなりハードらしいね。
そう宰相が言うと、近衛兵によって、僕の前に鑑定石が運ばれてくる。拒否権は当然ない。もし、ここであえて拒否したらどうなるんだろう?とは一瞬考えたけど、実行はしない。絶対しない。したら面倒ごとになるのが分かり切っているからしない。
「は、宰相閣下、分かりました。レオ、鑑定石でステータスを見せなさい」
お父様に促され、立ち上がって鑑定石の前に行き
「鑑定」
そのまま鑑定石を起動させる。本当は、何かしらの段取りがあったのかもしれないんだけど、エドおじさんのサプライズのせいで余裕がなくなっていたようで、すぐに鑑定してしまった。その結果は
名前:レオナルド=シオン=スティード
年齢:5歳
種族:人間
職業:スティード伯爵家次男
レベル:70
HP:887,231/887,231
MP:1,094、773/1,094,773
STR:890,463
ⅤIT:864,542
INT:964,002
MND:954,923
AGL:792,834
DEX:896,441
あ、レベルが2上がってる。魔導具を作り続けたから上がったのかな?それともベヘモスの火球を吹き飛ばしたからかな?よく分からないけど、DEXが急上昇したのは、間違いなく魔導具を相当数作ったからだね。
さて、謁見の間にいる皆さんの反応は・・・
「「「「「「「!!!!!!!!!!!」」」」」」」
何言ってるか分からないレベルで大騒ぎです。取りあえず聞こえたのをピックアップすると
「何だこれは!?」「ふざけるな!?」「もう人間じゃない!」「不正だ!不正に決まっている!!」「爵位を剥奪しろ!」「こんな危険な奴は殺せ!」「脳筋のスティードでも限度があるだろ!?」「いや、INTの数値が一番高いから脳筋じゃないだと!?」「是非、娘の婿に!」
おい、誰だ最後の?絶対に近寄らないから名乗れ!
まあ、おおよそは想定内の反応だね。言いたい放題ですよ。殺せとは言ってるのもいるし。取りあえずここはおとなしくして、国王陛下の言葉を待とう。
おもむろに国王陛下が片手を上げる。それを見た宰相が
「皆、静まれ!国王陛下からお言葉がある!」
多少のざわめきを残してではあるが、謁見の間が静かになる。それを見計らってから
「レオナルドよ。素晴らしいステータスであった。これは確認だが・・・」
スッと、横の宰相に目配せをする。宰相が頷いたのを確認してから
「このステータスは本物か?スキルを使った不正はしていないだろうな?」
「はい、もちろんでございます。このステータスには嘘偽りはございません」
「カルナ宰相、どうだ?」
「はい、陛下。レオナルドの言葉には、嘘偽りはございません」
陛下の問いに、グリーグ宰相は手に持った箱を見ながら応える。今気づいたけど、多分アレってウソ発見器みたいな魔導具じゃない?だとしたら、下手にステータスを誤魔化そうとしなくて良かった。
「うむ。というわけだ皆の者。まだこれでも、レオナルドのステータスに不審を持つ者はいるか?」
なるほど。国王陛下はこの魔導具を使うことで、僕のステータスが本当であることを証明してくれたようだ。この魔導具は相当信頼されているようで、悔しそうな表情をする者はいても、これに異を唱える貴族はいなかった。そう貴族は。
「陛下、発言をよろしいでしょうか?」
玉座の横に立っていた近衛兵の1人が手を挙げた。
「何だ?ディアレス騎士団長。発言を許可する」
「は、ありがとうございます。レオナルド殿のこのステータスが、本当であることは分かりました。それを承知したうえで、1人の騎士として、彼と模擬戦をしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「ふむ。だがなディアレスよ。いくらステータスが高くとも、相手はまだ5歳の子供だぞ?」
まあ、普通はそうでしょうね。近衛騎士団長と子供の、例えそれが模擬戦でも、普通は止めようとするでしょうね。
「陛下、お待ちください」
と、そこでエドおじさんが口を挟んできた。
「このレオナルドは、元王国最強の騎士、ジルベスタ殿の孫であり、現王国最優の騎士と呼ばれているグレン伯爵の息子です。そんなこの子の今の力、見てみたいと思いませんか?」
「ふむ、そうだな。確かに私もその実力の程を見てみたいとは思っていた。ううむ・・・」
陛下はしばらく悩んだ後、
「どうだろうレオナルド。近衛騎士団長のディアレスと、模擬戦をしてみないか?」
何と言うか、白々しい。だって、エドおじさんは先日我が家に来た時、お父様から僕のステータスについて聞いていたんだから。お祖父様と二人がかりで闘って、手も足も出なかったのも知っているはずだ。恐らくこれは、ここに並ぶ貴族に対するデモンストレーションだろう。
この話しが上がった時、さっき悔しそうな顔をしていた貴族達が、一様にニヤけていたのを僕は見逃さなかった。それはそれは、とても悪い顔で。もう何か企んでますよ、とでも言わんばかりに。それらを黙らせる、という意味もあるのだろう。
だから僕の答えは
「分かりました。その模擬戦、是非受けさせていただきます」
この後、王城にある近衛騎士団の訓練場で模擬戦が行われることになった。
誤字、脱字など、お気付きの点が御座いましたらご指摘をお願いいたします。
もし、この作品を読んで面白い、と思って頂けたら幸いです。




