第120話 ご所望の品です
更新が遅れてしまい、申し訳ありません。
応接室を出て、再び近衛騎士団の訓練場に戻ると、そこでは今までのやり取りを知らないエドおじさんとお父様とフィル、そして近衛騎士団長のディアレスさんを含めた近衛騎士団の皆さんが、バイクとバギーを楽しそうに運転していました。
それを見たウィリアム先王とカルナ宰相は、これでもかと恨めし気な表情で見つめて、いや、睨みつけていますね。
今度、お二人にも何かプレゼントしますから、落ち着いてくださいね?
その後、僕とお父様を乗せた馬車を、実に嬉しそうな国王、第1王子、第1王妃、第2王妃、たくさんの近衛騎士団員と、疲れ切った先王と宰相という豪華すぎる面子に見送られて、僕達は王城を後にした。
エドおじさんとフィル、近衛騎士団の皆さんからは感謝され、2人の王妃様からは、できるだけ急ぐようにと催促をされ、ウィリアム先王とカルナ宰相からは、無言で、しかし僕に何かを懇願するような目を向けられました。
あの目は、何だったのだろう?
そして翌日、王都を後にし、スティード領へと向かう僕達の馬車に、王城から手紙が届けられた。
宛先は僕で、差出人はカルナ宰相から。
召集の手紙ではないそうなので、馬車に乗っている間に読んでみると、昨日のウィリアム先王とカルナ宰相から向けられた目が、何が言いたかったのかが分かりました。
色々と長ったらしく書いてありましたが、要約するとこんな感じ。
『2人の王妃が言ったように、王妃が美しくある事は国の内外に対して重要な意味を持っている。しかし、王妃たちの美容や化粧に使われる金額が、年々多くなっている。それはもう、財務大臣が頭を抱えるくらいに。けど、国にとって重要な案件であるため、節約をして欲しいとは言う事が出来ない。だからレオナルド、お前の作る魔導具が、この国の財政の負担を減らすことになることを、切に願う』
え~っと・・・・
よし、頑張ろう。
そのまま、お母様達へ美容について質問した結果、スティード領に帰るまでの行程7日間の内、6日間を美容の知識を詰め込む(詰め込まされる)のと、試作品の作成に費やすことになってしまった。
ちょっと、いや、かなり後悔・・・
最初は王妃様達からの依頼だという事を隠して質問をしたのだけど、僕が急にこんな話をするのはおかしいと、お母様達に尋問され、あっさりバラしました。
だって、僕にとっては専門外なので、詳しい人から協力を得るためには、正直に話すのが一番だと思いませんか?
その結果が、お母様達による美容講座になってしまったのは、不幸な事故です。
そう思う事にしました。
それと、完成したらお母様達にも渡すことになりました。
もともとそのつもりでしたが、その時のお母様達の有無を言わせない迫力には、思わず頷いて了承していました。
それと、勢い込んで来たジェシー母様よりも、あの笑顔のまま力強く僕の両肩を掴み、
「レオ、作ってくれますよね?」
と、顔を近づけて来たお母様の方が怖か、もとい、熱意を感じました。
了承した後、喜んだお母様はそのまま僕を抱きしめ、僕はお母様の豊満な胸に顔を埋めることになったのだけど、その直前に感じた恐怖により、何も覚えていません。
たぶんお母様は、このレシタクルス大陸において、僕が勝つことが出来ない唯一の人間じゃないかな?
母は強し、という事?
まあ、僕がお母様と敵対することなんて無いけどね。
・・・・無いよね?
さて、話しを戻し、僕のこの6日間の成果だけど、お母様達の意見を聞き続けた結果辿り着いたのは、若返り、でした。
まず、お母様達に今やっている美容法の目的を聞き、その目的に合った効果のある魔導具が作れるか検証。
その後、馬車という名の屋敷にある部屋に籠り、魔導具を作成。
試作品が出来たら、お母様達に効果を検証、つまりモニターになってもらった。
試作品の魔導具な為、お母様達を使った人体実験みたいで嫌だったけど、当人たちがモニターをしたいと強く希望したため、協力してもらいました。
当然、お母様達に危険が無いように、細心の注意を払って作りましたとも。
そうやって、魔導具を作っては試してもらい、その都度改善点や要求を聞き続けた途中で、転生前の日本でアンチエイジング、という言葉を聞いたことがあったのを思い出しました。
詳しくは知らないけど、老化を遅らせる、もしくは防ぎ、さらに今ある皺やシミを取り除くこと、だったかな?
そのアンチエイジングを提案してみたら、
「「それよ!」」
と、お母様達が興奮気味に同時に叫んだのには驚きました。
じゃあ、そのような効果のある魔導具を作ろう、と思い、考えをまとめている時に気付きました。
それならいっそ、若返りが出来た方が良いのでは?と。
それを提案したら、
「若返ることが出来たのなら最高だけど、そんなの神話やおとぎ話でしか聞いたことが無いわ」
「そうねぇ~。若返ることが出来るのなら、これ以上は無いのだけど、そんなのは無理よねぇ・・・・」
「え、無理なんですか?若返り?」
「「出来るの!?」」
その結果、僕は今、部屋に閉じこもって若返りが出来ないか調べています。
あーでもない、こーでもないと、考え続け、それっぽい魔方陣が組み上がったら、取りあえず魔導具を作ってみる、と言うのを繰り返していました。
この間、僕はずっとお母様達と話しているか、部屋に引きこもって作業しているかで、道中で行われた魔獣&悪党討伐には一切参加しませんでした。
どうも一度集中してしまうと、周りが見えなくなってしまうのは、僕の悪いクセですね。
え?ノイシュヴァン山脈で魔神の封印補助魔導具『天岩戸』を作っていた時は、ミコトさんと遊んでいたじゃないかって?
気にしたらダメです!
決して、お母様達からの圧力に屈して、作業に集中せざるを得なかった訳では無いですよ!
王妃様達の顔が脳内にチラチラ浮かんでいたからではないですからね!
その証拠に、アンとシャルの2人とは、結構一緒にいて遊んであげていましたからね。
ああ、妹達の相手は、魔導具の作成よりも優先順位が高いのですよ。
そもそも、本格的な魔導具の研究は、スティード邸にある僕の工房で、と決まっていますからね。
やれることが限られている魔導具作成より、妹達とコミュニケーションを取る方が大事なのですよ。
え?さっきから文章がおかしいって?
だから、気にしたらダメですってば!
どうしても気になるのなら、こう訂正しましょう。
僕は遊びにも集中するんです!
でもここは移動中の馬車の中なので、部屋に引きこもって妹達と遊んでいたんです。
これでどうですか?
はい、この話はお終い!
そして、やっとノーティスの街が見えてきた頃、僕は展望室で妹達と一緒に景色を見ていた。
「やっと家に帰ってきたです!」
「アンとシャルは初めての長旅だったけど、疲れてないかい?」
「大丈夫です!」
「レオお兄様、私もです。普通の馬車だったら多少の疲れはあったかもしれませんが、この馬車のおかげで快適な旅となりましたので」
「そうかい?そう言ってもらえると、作った甲斐があったよ」
その後も、妹達と何気ない会話をしていた時、シャルの言葉で、僕は盛大にやらかしたことを自覚した。
それは、
「レオお兄様!今度はお空を飛んでみたいです!」
「空を?それなら、家に帰ったら早速飛んでみようか?」
「レオお兄様は飛べるですか!?凄いです!」
「はは、ありがとう」
「空を飛べるなら、もっと早く移動できるです!シャルにも教えてほしいです」
「う~ん・・・・ちょっとシャルには難しいかな?もっと大きくなって、たくさん勉強したら・・・・あれ、ちょっと待てよ?」
「どうしたですか?」
「レオお兄様、どうしたのですか?」
僕はふと、今のシャルとの会話で何かが引っ掛かった。
シャルは空を飛びたい?あ、口には出していなかったけど、アンもだね?
アンも一緒に行こうか?
いやいや、それじゃない。
空を飛べば、もっと早く移動が出来る?
そう、それだ。
僕は、いや、僕の家族は、早くノーティスのスティード邸に帰りたかったんだ。
でも、馬車での移動だと時間がかかってしまうのは仕方がない。
そう思っていたのだけど、空を飛んで行けば、すぐに帰れたじゃないか!?
それよりも『空間転移』を使えば、それこそ一瞬で帰れた。
やらかした~~~~~~~!
時間を無駄にした~~~~~~~!
頭を抱え、その場で蹲ってしまった僕を、2人の妹は訳が分からず見守っていた。
それこそ、スティード邸に着くまで。
家に帰り、その事をお父様に伝えたら、
「馬鹿者。貴族は移動しながら道中の町や村に寄り、金を落とさなければならないのだ。宿に泊まったり、物を買ったりしてな。そうやって、立ち寄った場所の経済に貢献するのがマナーなのだ。お前の『空間転移』で移動してしまったら、それが出来なくなるだろう?だから、これでいいんだ。前に話さなかったか?」
そう言えばそうでした。
3年間も家から離れていて忘れていた、ということで、1つお願いします。
だからお父様?
今から貴族としての常識を叩きこもうとしないでください。
部屋の外に、お母様とジェシー母様が待ち構えているのが分かるでしょう?
そんなことを今やったら、確実にお父様はあの2人から怒られますよ?
それから一週間、2人のお母様に監禁、もとい、見守られながら魔導具の研究を続け、遂に3種類の魔導具が出来上がりました。
1つ目は、常に装備し続けることで、少しずつ少しずつ見た目が若くなる、『若返り』の魔導具。
その若返りのスピードは、10日で1日若返る程度。
ちょっと分かりにくいので、年単位で言い直すと10年で1年若返ります。
おっと、これだと10年後には9年分しか老け、ゴホン、体が成長していない、と取られてしまいますね。
補足しますと、この魔導具を使用した時点から成長することは無く、若返りが始まります。
これは、体が成長するスピードより若返るスピードの方が僅かに速いので、そのような結果になるだけです。
例えば、30歳の人がこの魔導具を10年間使用した場合、実年齢は40歳だけど、見た目は29歳となっている、ということです。
ただし、これはあくまで肉体の見た目を若返らせる物であり、寿命を延ばす物ではありません。
この魔導具を使ってどれだけ若返ったとしても、寿命は普通にやってきます。
この世界の平均寿命は約50年。
先程の30歳で魔導具を装備した人の寿命が平均値の50年だったとしたら、実年齢が50歳を迎えた時、見た目は28歳だけど、死んでしまうという事です。
この魔導具を使ったところで、寿命は延びません。
ちなみにですが、最初に作った試作1号機は、若返るスピード<成長するスピードでしたので、改良を重ね、現在のレベルにしました。
2つ目、次に出来たのが、『不老』の魔導具です。
これは、現状で満足している人用に作った魔導具で、言葉通り、これ以上老いることはありま、ゴホン、体が成長することはありません。
こちらも不死ではないので、寿命が来たら当然、その姿のまま死にます。
では、この不老の魔導具と、先程の若返りの魔導具を同時に使ったらどうなるか?
これ以上体が成長しないのだから、若返りのスピードが上がるのでは?
正解は、変化なしです。
これは、不老の効果の方が若返りよりも強いためです。
だって不老って、現状を固定することですよね?
成長と言う変化を止めるほどの力は、若返りと言う、こちらも体を変化させる力を止めてしまうのは当然でしょう。
と、ここまでが比較的常識の範囲内の魔導具ですね。
人体の成長のメカニズムに干渉することは、決して常識の範囲ではない?
仰る通りです。
その通りなのですが、もっととんでもない物を作ってしまった為、コレと比べたら常識的だよね?と思ってしまったんです。
では、その3つ目とは何か?
それは、『不老不死』の魔導具です。
はい、やってしまいました。
と、言うより、出来てしまいました・・・・
先述の2つの魔導具を作った時、寿命の壁に行き着きました。
最初は無視していたんですけど、納得のできる成果を持った魔導具が出来たことで、ちょっと気が緩んでいたんですね。
気分転換に、ちょっとだけ気になったテーマを見つけたから、ちょっとだけ研究してみたんですよ。
ええ、五日ほど使って。
各魔導具の作成に掛かった時間は、『若返り』の魔導具と『不老』の魔導具が1日ずつ、そして『不老不死』の魔導具に5日間。
ほら、これで一週間です。
すみません。
完全に趣味に走りました。
けど、この魔導具、どうしよう?
この『不老不死』は、ほぼ言葉通りです。
ほぼと言うのは、不死に関しての制限と言えばいいのでしょうか?
寿命は無くなるのですが、殺すことは出来るんです。
殺されることはもちろん、自殺も可、と言う、ちょっと中途半端な内容です。
所詮は人の手によって作られた道具では、そこまで万能では無い、という事ですね。
けど、それでもこの魔導具は規格外だという事は、誰の目から見ても明らかです。
もしこれが権力者の耳に入ったら、とんでもない金額で売ってくれ、と言われるのは間違いないですね。
やったね、大金持ちだ!
だなんて、バカなことは考えませんよ。
仮にそれを売ったとして、今度はその魔導具を巡って戦争が起きるかも知れない。
地球でもそうだったけど、昔の権力者は不老不死を求めていた、なんて話はよく聞いたからね。
だから、これは僕の『空間収納』の中にしまっておきましょう。
壊さないのかって?
だって、もしかしたら役に立つ日が来るかもしれないでしょ?
有事に備え、保管はしておこうかと・・・・
ああ、そうそう。
僕が転生する前に提示された特典の中にあった『不老不死』は、言葉通り完全な『不老不死』のことです。
成長しないし、決して死なない。
これはユニークスキルだったから、魔導具では再現できないのでしょうね。
でも、『不老』は出来たから、もしかして『不死』だけなら出来るのかな?
・・・・・・よし、考えるのを止めようか!
この話しはお終い!
それでは、お母様達に出来上がった魔導具を持って行きましょうか。
もちろん、『若返り』と『不老』の魔導具だけです。
「お母様、ジェシー母様、ご所望の魔導具が出来ましたので、確認をお願いします」
「あらあら、もう出来たの?早かったわね~。じゃあ、見せて・・・・」
「早く見せなさい!どう使うのですか!?」
相変わらずおっとりしているお母様の言葉を遮り、ジェシー母様が凄い剣幕で迫って来た!?
く、どんな敵が相手でも1歩も退かない自信があるのに、ジェシー母様に対し、1歩退いてしまった。
いや、最近のことを考えれば、ジェシー母様、お母様、アメリア様、エリザベス様の4人には押されっ放しだった・・・・
僕、女性には弱い、と言うか、逆らえない体質なのかな?
それはさておき、ジェシー母様に魔導具の説明をしないと。
「まず、こちらの指輪が『不老』効果を付与した魔導具で、こちらの腕輪が『若返り』効果を付与した魔導具です。それぞれの詳しい効果と使い方は・・・」
2人にそれぞれの魔導具の効果を説明し、意見を聞く。
普通なら、これだけの効果のある魔導具を見せられれば、驚くなり褒めるなりしてくれてもいいと思いますよね?
だって、こんなの僕以外では決して作れないですよ?
この魔導具が凄いという事は、1万人の人が知れば、1万人が評価してくれることでしょう。
けど、このスティード家の人々は、感覚が麻痺してしまったみたいですね。
これだけの魔導具を作ったと言うのに、発せられた言葉は以下の通り。
「この『不老』の魔導具は要りませんね。以前話したでしょう?女はもっと、若く美しくなりたいのです。それなのに現状維持なんて、嫌がらせですか?少なくとも私には必要のない物ですから、下げなさい」
「ねえ、レオ?この『若返り』の効果だけど、もっと若返らせることは出来ないの?できれば、20歳くらいまで若返れないかしら?」
「そうですね。この程度の効果だと、私はもっと長生きしないと20代に戻ることが出来ないという事でしょう?何とかしなさい」
でした。
いや、もっとさ、労ってくれてもいいんじゃないかな?
だってこれ、結構な偉業だと思いませんか?
まあ、お母様達の反応がこうなのは、100%僕のせいなんですけどね?
僕が自重しないで、トンデモ魔導具を作りだし続けてしまった結果、大抵の事では驚かなくなってしまったみたいだし。
王都に行くときに乗った空間拡張した馬車も、最初は驚いてくれていたみたいだけど、すぐに順応していたしね。
そこは諦めて、今はお母様達の希望を叶えましょう。
「時間を頂ければ何とか出来ると思いますが、僕は明日から、2年後に向けての準備に入るので、結果が出るのはしばらく先になりますが、いいですか?」
「そうだったわね。それなら、仕方がありません。今はこれで満足しましょう」
「そうですね。でも、なるべく早く作ってね、レオ」
「はい。それと、王妃様達に贈るのは、こちらの『若返り』の魔導具だけでよろしいでしょうか?」
「ええ、それだけで大丈夫です。『不老』の魔導具は、きっと使われることは無いでしょうから」
そういう事になりました。
『不老不死』の魔導具なんか作らなければ、もっと性能の良い『若返り』の魔導具が作れたんじゃないかって?
ええ、その通りです。
その通りですが、それは内緒の方向で行きます。
それと、さっきの会話にあった通り、僕は明日から勉強を始めます。
2年後の、ザカート侯爵の持っている土地を使って、領主として領地を経営していくための勉強です。
基本的には、スティード領領主であるお父様の補佐官となり、領主としてのイロハを学びます。
お父様からだけでなく、実質的にこのスティード領を管理していると言っても過言ではない2人のお母様からも、色々と教わります。
さらに、ザカート侯爵が僕に領地経営をさせるのは、確実に僕を嵌める為の策だという事は分かっているので、その対策も考えなければなりません。
どんな策で来ても、真正面から叩き潰す自信があるけど、相手は貴族社会での権力争いに長けた人外の豚だ。
慢心していると、逆にと言うか、向こうの思惑通りに潰されてしまうかもしれないので、しっかり備えるとします。
他にも、僕の腹心となってくれそうな人材の発掘と育成もあるし、ちょっと作ってみたい大規模な魔導具もあるんですよね。
これからの2年間、気合を入れて、領主になる為の準備に取り掛かりますよ!
プライベートが忙しくなってきたので、できる限り頑張りますが、しばらく更新が遅れてしまうかもしれません。




