第117話 王子様、無許可で王都から離れる
お父様との話し合いが終わり、フィルが待っている部屋へと戻った。
「お帰り、レオ。じゃあ、さっきの続きだけど、明日からどうしようか?」
普通に考えたら、何の説明もなく部屋で待たされたら、何をして来たのか聞かれそうなのに、この王子様は何も聞いて来なかった。
何度も言うけど、それでいいのか王族!?
臣下が王子である自分を放置して、秘密の話し合いをして来たんですよ?
いや、それほど秘密と言う内容ではないけどさ。
ちょっとは気にならないの?
もしくは、その状況に怒らないの?
なので、聞いてみました。
「いや、あのさ、フィル?僕が今、お父様と何を話して来たかとか、気にならないの?」
「え、何で?」
「何でって・・・だって、王子であるフィルを、臣下である僕達が待たせて話していたんだよ?」
「ああ、そういう事?」
僕の質問の意図が理解できていなかったフィルは、ようやく合点がいったようだ。
そして、
「僕は今、王城にいる訳じゃないんだよ?今は友達の家に遊びに来ているだけなんだから、そんな所で王族とか臣下とか、いらないだろ?家族同士の話し合いに、僕が首を突っ込むのは無粋だよ。それに、もし王家に関する重要な話しだったのなら、きっと僕も呼ばれていたはずだしね」
「フィルを部屋に置いてっちゃった僕が言うのも変かもしれないけど、それでいいの?」
「いいのいいの!だって、僕はスティード家を、と言うより、レオの事を家族並みに信頼しているからね!」
ちょっと、どころではない。
かなり、凄く嬉しいね。
フィルが王族だとかは関係ない。
3年も会っていなかったのに、僕の事を家族と同じくらい信頼している、と言われたことが、たまらなく嬉しい。
その信頼に応えるべく、僕はフィルを絶対に裏切らない!
いや、元々誰かを裏切る予定なんてないですけどね。
本当ですよ?
「それで、明日は何する?」
その後、夜遅くまで僕らの話し合いは続いた。
翌日、僕らは王都エスカフィールから出て、開放感溢れる丘陵地帯にいた。
え?王子を王都の外に連れ出しても良いのかって?
もちろんダメですよ。
だから、無許可です。
だって王子であるフィルは、王都から離れるのには関係各所の許可が必要で、その許可を得るには1ヵ月以上前から申請しないといけないそうです。
例として貴族街、上級街、中級街と、各街を隔てる門を通過する度に許可証を提出し、護衛の人数や名前、身分証まで確認するそうです。
理由は、まだフィルが成人していないからと、この国に王子が1人しかいないから。
この世界では、15歳から成人として認められています。
成人になれば結婚も出来るし、当然、親の庇護から外れて1人立ちすることもできるし、お酒も飲めるようになります。
けど、ただでさえ制約の多い王族は、成人するまで厳重に保護されている。
外出するだけでも、多数の護衛がいなければ、例えそれが王都にある学校に行くためであっても、1人で移動することが許されていない。
ちなみにメルト兄様の婚約者であるクラリス王女殿下は、毎日学校の行きと帰りは馬車に乗って移動している。
で、その馬車には、黒龍との戦いで活躍したため、最強の学生と呼ばれているメルト兄様が同乗している。
実際、同年代でメルト兄様に勝てるのはいないでしょうね。
将来的には、ダラス殿が追い付くか、もしくは追い越す可能性もありますが、現時点ではメルト兄様の方が上です。
要は、成人前の王族は、大量の護衛がいないと外を出歩くことすら出来ないのです。
ついでに、成人しても護衛が常にいることは変わりません。
成人前に比べ、行動の自由が多少増えるだけですね。
あ、エドおじさんが王子の時によくスティード領に遊びに来ていたけど、あれはノーティスの街までは護衛と一緒に来て、スティード邸に到着したら護衛と別れていただけです。
で、帰る時はまた護衛と合流して、王都まで戻っていました。
次に、この国には王子がフィルしかいないこと。
フィルに兄弟がいれば、万が一が起きても次期国王になれる王族がいるけど、残念ながらフィルには姉と妹しかいないんですよ。
だから、万が一が起きてしまったら、この国の後継者問題がややこしいことになってしまうんです。
王女の伴侶が王になるか、それとも王家の血を継いでいる公爵家の男が王になるか、まさかの先王の隠し子を名乗るのも出て来てしまうかもしれません。
いや、エドおじさんに隠し子なんている訳無いけど、権力に目が眩んだバカな貴族が、それっぽい人を用意して、そんなことをほざくかもしれません。
そうなると、王国内で王位継承をめぐって血みどろの戦いが始まる可能性があるんです。
そんなくだらない事を起こさせない為にも、王子であるフィルには、無事に成人を迎えて妻を娶り、世継ぎを育てる、と言う大事なお役目があるんですよ。
だからこそ、フィルには少しでも危険なことがないように、王女以上の護衛と、厳しい審査が必要になってしまうんです。
王族って面倒なんですねぇ・・・・
昨日と一昨日のエスカフィールお買い物ツアーでは、そんな面倒なことしていなかっただろうって?
はい、そうですよ。
だって、フィルが僕らの馬車に乗っていたのは秘密でしたから。
まあ、僕らを監視していたザカート侯爵の配下は知っていただろうけど、それを知られたところで、だから何?程度です。
仮に告発してきても、ではどうしてお前達はその事を知っていたのに、報告もせずに何もしなかったのか?
と、ツッコむことも出来ますからね。
国王であるエドおじさんがこちら側である以上、別に犯罪や法を犯したわけでは無いので、何とでも言い逃れも出来ますしね。
そうそう、あれから監視がどうなったかと言うと、何も変わっていません。
取りあえず、ガロウデットを含めたあの10人がいなくなっただけで、それ以外の171名による監視は変わらず続いています。
あの場にいなかったガロウデットの協力者26名は、そのまま放置したので、今もスティード邸を監視している事でしょう。
ただ、ずっと僕の家が監視されているのって、気分が悪いですよね?
なので、今監視している171名に『空間支配』で干渉し、スティード邸を見ても誰も見えない、と言う状態にしてあります。
我が家を覗き見した所で、コイツ等の監視対象が見えないので、せいぜい混乱してもらいましょう。
『空間支配』は、何でもアリです。
さて、話しを戻しましょうか。
そんなフィルをどうやって外に連れ出したかと言うと、単純に『空間転移』です。
『空間転移』を使えば、態々人目につく門や街を通らずに外へ出て戻ってくることが出来ます。
それも一瞬で。
あと、無許可とは言いましたが、それはフィルが外出するのに関わる関係各所に対してであって、父親であり国王であるエドおじさんの許可は貰ってあります。
一昨日、王城に向かうお父様にお願いして、エドおじさんにフィルを外に連れ出してもいいか、と、話しを通してもらっておいたのですよ。
エドおじさんからは、条件付きで許可が貰えて、その条件とは、必ず僕が一緒にいることと、何があってもフィルを絶対に守り切る事、でした。
そんなの言われるまでもなく、元よりそのつもりだったので、その事をお父様に伝え、昨日、もう一度エドおじさんに伝言をお願いしました。
で、昨日の夜、王城から帰って来たお父様から、フィルの事をよろしくお願いする、という旨のエドおじさんからの手紙を受け、ならば早速、ということで『空間転移』して移動した、と言う訳です。
移動した先は、スティード領と王都の中間地点にある、広大な土地です。
街道からはかなり離れていて、さらに丘陵による起伏もあり、普通に移動をしている人達からは見えにくい場所です。
さらに、周りには殆ど何も無いため、開放感抜群の、普段から自由に動くことが出来ないフィルにとって、思いっきり動き回ることができる環境です。
「さあ、フィル!ここでなら何でも出来るよ!・・・・・フィル?」
ここにはフィルの、周りに何も無い所で思いっきり走り回りたい、と言う願いを受けて僕がチョイスし、連れて来た。
そして到着し、フィルに声をかけたら、口を大きく開いて固まっていた。
コラコラ、王子様がそんなだらしない顔をしたらダメだよ?
まあ、ここには僕しかいないし、誰に見られる訳でもないからいいんだけどさ。
きっとフィルは、この光景に感動しているのだろうと思ったら、
「ねえ、レオ?今、何をしたの?僕達は、さっきまでレオの家にいたんだよね?」
「・・・・・あ」
そう言えば、フィルに『空間転移』のこと話していなかった・・・
あれ、伝説の魔法なんだよね・・・・
その後、10分程の時間を使い、僕が『空間転移』出来ることを伝え、そのことは内緒にしてもらうようにお願いした。
この2つだけなら、1分程度で事足りたんだけど、フィルからの質問攻めに会い、これだけの時間がかかってしまった。
ちょっと迂闊だったね。
さて、気を取り直して、
「さあ、フィル!何をしたい?」
ここに来た目的を果たすとしようか。
「そうだね・・・・まずは思いっきり走り回りたいかな」
結果、30分後には、全力疾走をして全身から汗が噴き出て、倒れ込んでいる我が国の王子が目の前にいた。
そりゃあ、ここってなだらかとは言え丘陵地だから、勾配があるんですよ。
そんな所を全力で走ったら、体力が尽きるでしょうね・・・・
フィル、大丈夫かな?
「は、はははっ、あはははははっ!」
心配してフィルを覗き込んだら、急に笑い出した!?
酸欠になって脳に酸素が送られなくなって、脳に障害でも出たか!?
とか一瞬心配したけど、杞憂でした。
「こんなに広い所を全力で走ったの、生まれて初めてだよ!あはははははっ!たっっっのしいなーーーーー!」
喜んでもらえたようで何より!
ずっと大声で笑い続けているよ。
あ、笑いすぎて酸欠になった・・・・・
まあ、大丈夫でしょう。
「それにしても、レオは全然疲れていないんだね?僕と一緒に走っていたのに、呼吸が全く乱れていないね?」
「まあね。この程度で疲れているようなら、ダストレア大樹海では生きていけなかったからね。ああ、あれだ。鍛え方が違うのだよ、フィリップ君」
「何だいソレ?でも、そうかぁ・・・鍛え方が違うのかぁ・・・・」
あ、きっとフィルの中では今、体を鍛えようと決めたな?
王としての仕事は結構体力を使うらしいから、体を鍛えるのはいいんじゃないかな?
それを決めるのは僕ではなく、フィルと、フィルの教育に関わっている人だろうけど、僕は賛成だね。
「よし!もう一回走って来ても良いかな?」
「それはいいけど、僕はちょっと用意する物があるから、1人で走っておいでよ。1人で自由に走り回るのも、気持ちがいいよ?」
「分かった、行ってくるよ!」
「この近辺には危険は無いから、思いっきりどうぞ」
そうしてフィルは、今度は1人で走り始めた。
うん、本当に楽しそうで何よりだよ。
さて、僕はフィルが走っている間に、色々と準備しないとね。
自分の足で走るのも良いけど、折角だから、もっと風を感じてもらおうか!
そして僕は、『空間収納』の中から目当ての物を取り出した。
誤字、脱字など、お気付きの点が御座いましたらご指摘をお願いいたします。
もし、この作品を読んで面白い、と思って頂けたら幸いです。
気が向いたらで構いませんので、評価もお願いいたします。




