第115話 ダリム
俺はダリム。
ここ、アステリア王国の首都であるエスカフィールの下級街に住んでいる、まあ言ってしまえば最下層の人間だ。
今まで様々な所で仕事に就いたが、理不尽や不正に我慢できず、すぐに上司とケンカしてクビになっていた。
俺が多少我慢すればいいんだろうが、曲がったことは許せねぇ性質で、ついつい口と一緒に手が出ちまう。
腕っぷしには自信があるが、どうにもこの不器用な性格が災いして、うまく社会に馴染むことが出来なかった。
冒険者って道もあったが、あんなので成功するのは一握りの才能があるヤツだけで、俺みたいなのはすぐに死んじまうのがオチだから、ヤめた。
そして各地を転々とし、流れ着いたのがここってわけだ。
だがここでも、腐ったヤツは掃いて捨てるほどいやがった。
それでも俺は、もうここ以外に行く所も無かったから、この底辺で生きて来た。
だが、金がねぇ。
正義感を振りかざすわけじゃねぇが、人の道に外れた仕事はしたくねぇ。
そんなことを言って仕事を選んでいたら、このザマだ。
そんな俺は今、とても割のいい仕事に向かっている。
悪どい手口で金のない貧困層のヤツから更に金をむしり取り、私腹を肥やしている商人の家族を誘拐する、って仕事だ。
最初は誘拐と聞き、そんな仕事は受けれねぇ、つって拒否したんだが、話しを聞いて気が変わった。
まず、その商人の野郎がとんだ悪党だったからだ。
金の為なら何でもやるって男で、そいつの被害に遭って、自殺した家族が軽く100はいるって話しだ。
それに、この国では禁止されている奴隷売買にも手を染めていて、誘拐を平然とやっているそうだ。
しかも有力貴族と繋がっているらしく、そいつを摘発することができないらしい。
それならば、そいつの妻と娘を誘拐し、家族を奪われた被害者の気持ちを少しでも思い知らせてやろう、ってのがこの依頼の目的らしい。
もう1つ、その誘拐は一時的なもので、その商人が反省するまで預かり、時期を見て返す、という事だった。
その間、誘拐したそいつの家族には不自由をかけるが、手荒な真似は一切しないとのことだった。
そして、報酬が破格だった。
参加するだけで銀貨5枚。
誘拐に成功すれば、さらに銀貨5枚貰える。
ああ、参加報酬の銀貨5枚は先払いだった。
さらに、誘拐に一番貢献した奴には金貨10枚だと。
その額にちょっと怪しさを感じたが、この依頼は悪徳商人をどうにかしたいとずっと追い続けていた、とある侯爵様が出したもので、その為、報酬が破格なのだそうだ。
そういうことなら、俺が断る理由がねぇ。
ってことで、若干の怪しさはあったが、この依頼を受けることにした。
で、集合場所である倉庫に行ってみると、そこには100人を超える男達が集まっていた。
見覚えがあるヤツも多くいる。
俺が住む下級街で、腕っぷしに定評がある奴等ばかりだ。
ついでに、黒い噂が絶えない奴も多い。
どういうことだ?
人のことは言えねぇが、侯爵様が雇ったって割には真っ当なヤツがいねぇ・・・
こいつ等に任せたら、絶対に誘拐されるヤツは無事では済まないぞ?
本当にこの依頼、大丈夫なのか?
そう考えていたら、1人の大男が近付いて来た。
「よう、ダリムじゃねぇか。何だ?普段硬派を気取っているお前も、あの報酬に釣られて来たのか」
「おう、イロンか。最近ちょっと金が無くってな。報酬が良かったのと、依頼主の心意気が気に入ったんで、受けることにした」
コイツはイロン。
腕っぷしは強ぇが、ハッキリ言ってバカだ。
何でも腕力で解決しようとする、危険人物だ。
コイツとトラブルになり、数日後には死体で発見されたヤツは20人以上と言われている。
コイツだと、誘拐した相手に何するか分かんねぇぞ?
「ひゃははは、やっぱり報酬か!?この仕事が終わった後が楽しみだからな。それに、誘拐する女はとんでもねぇ美人らしいぜ?もう、今から楽しみでしょうがねぇ!」
「あん?それが何か関係あんのか?」
「あ?おめぇもしかして、ちゃんと説明聞いてねぇのか?」
それまで楽しそうにしていたイロンが、急に怪訝な顔をし始めた。
説明?何の事だ?
「俺が聞いているのは、成功すれば報酬が倍になるのと、一番貢献した奴には金貨10枚ってことだ。それと、誘拐した女には手荒な真似はしねぇで、しばらくしたら家に帰すってことだが?」
「はあ!?お前、それマジで言ってんのか!?ぶひゃひゃひゃひゃ!コイツはいい!とんだ間抜け野郎がいたもんだ!」
イロンが爆笑しやがった。
何がそんなに楽しいのか、俺をバカにした目で見て笑ってやがる。
コイツ、ケンカ売ってんのか?
腰に差してある剣の柄に、無意識に手が添えられる。
「おい、イロン。何がおかしい?」
「あ?何もかもだよ、勘違い野郎!おめぇ、騙されてるぜ?」
「何?どういう事だ、説明しろ!」
「やだね。まあ、黙って待ってな。多分、もうじき分かるぜ?じゃあな」
「おい、待て!」
イロンの野郎は、そう言って俺の前から立ち去った。
クソッ、何なんだ?
俺が騙されてるって、どういうことだよ?
ふと周りを見ると、俺とイロンの会話を聞いていた奴らが、俺を見て笑ってやがった。
が、誰も教えるつもりはないらしい。
チッ、まあいい。
イロンの言う通りなら、もうじき説明があるはずだ。
そしてしばらく待っていると、仮面をつけた1人の男が台の上に立った。
「待たせたな!いいか、お前ら!何度も言うが、馬車から出てくる男は無視しろ!メイド以外の女だけを狙え!誘拐に成功すれば報酬は倍!さらに、一番貢献した者には金貨10枚だ!」
「「「「「うおおおおおおっ!!」」」」」
周りの奴らが、その男の声で盛り上がった。
うるせぇな・・・
「そして約束通り!誘拐した女はお前達の好きにして構わない!余裕があれば、メイドも攫ってもいい!お前達が何をしようが、私達は一切関知しない!もちろん!そのことでお前達に何らかの罰が及ぶことも無い!それは我らの主人が守ってくださる!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおっ!!」」」」」
何!?こいつ今、何て言った!?
誘拐した女は好きにしていい、だと!?
「ちょっと待て!話が違うぞ!?誘拐した女には手を出さないんじゃねぇのか!?」
だが、俺の抗議の声は周りから発せられる大きな雄叫びに消され、台の上に立つ仮面の男には届いていなかった。
ふざけんな!
なら俺は、この依頼降りるぜ!
そう決めて男に背を向け、ここから出ようとする。
更に仮面の男の声が続く
「よし!それではお前ら!行って・・・・」
「行かせませんよ」
ことは無かった。
この興奮と熱気に包まれた空間に、とても静かな声が響いた。
その声は決して大きいわけでは無く、しかし、その場にいた全員の耳に届き、全員が沈黙し、そして声が発せられた方に視線を向けさせた。
その視線の先には、銀髪でまあまあ良い服を着た、10歳くらいのガキがいた。
「まったく、そのまま大人しくしていれば見逃してあげたのに、ここまでやれれてしまっては、壊滅させるしかないじゃないですか」
そのガキは、ゆっくりとこちらに近付きながら、いや、台の上に立つ仮面の男に近付きながら、物騒なことを言い出した。
これだけの数の大人を前にして、何の気負いもなく、当然のことのように壊滅させる、と言っていやがる。
このガキは誰だ?
いつの間にか現れ、そして俺達を、いや、俺は抜ける気だったが、コイツ等を止めようとしている。
何でだ?
「なんだこのガキは!ブっ殺すぞ!」
「オウ、コラ、クソガキ!舐めた事言ってくれてんじゃねえか!?やれるもんならやってみろよ!」
「ガキが1人で吠えてんじゃねぇぞ!テメェなんざ、すぐにしゃべれなくしてやんぞ!」
ガキの登場に呆気に取られていた連中が、何を言われたのか理解した途端、罵詈雑言のコンサートが始まった。
だが、誰一人として前に出ようとはしない。
様子を見ているのか、相手が子供1人だから言葉だけで威圧しようとしているのか、それは分からないが。
突然現れたこのガキを、多少なりとも警戒しているのだろう。
「はあ、うるさいなあ。僕はそこの連中に用があるだけで、貴方達には興味が無いんですよ。無いんですけど、もしこれ以上騒ぐようだったら、僕の家族に危害を加えようとしていたことは間違いないので・・・・・やっぱり潰しましょうか?」
ガキの正体が少し分かったな。
コイツは、例の商人の息子らしい。
なるほど、このガキは事前にこの誘拐計画を察知し、ここに乗り込んで来たんだろうな。
それもたった1人で。
家族が誘拐されると知ったら怒って当然だろうが、無茶過ぎねぇか!?
こっちは150人以上いるんだぞ!?
あ、いや、俺はもう抜ける気でいるから、向こうは、と言うべきか?
だが、いくらなんでも、それは無謀すぎる。
あ、ホラ見ろ。
ガキの潰す宣言に、血の気の多い奴らが反応しちまったよ。
はぁ~・・・しょうがねぇか。
騙されちまったとは言え、不本意な依頼を受けちまったことへの罪滅ぼしに、ガキに加勢するか。
あ~、俺の人生、ここで詰んだな・・・・
そうして俺は、全員の前に出て、ガキとの間に立ち塞がった。
「おう、ガキ。多勢に無勢じゃ話になんねぇだろ?加勢するぜ」
「それは構いませんが、いいんですか?」
ガキが俺の横まで移動して来た。
で、当然の質問をして来る。
そりゃそうだよな?
こんな絶望的な状況で、俺1人が加勢したくらいで戦況がひっくり返る訳ねぇしな?
だが、俺はもう決めたんだよ。
「まあな。俺はアイツらに騙されてこの依頼を受けちまったんだ。その罪滅ぼしって訳じゃねぇが、お前に加勢して、アイツ等を1人でも多くブッ飛ばしてやりてぇんだよ」
「そうでしたか。けど、相手は150人以上いますよ?普通なら確実に負けてしまいますし、死ぬかもしれませんよ?」
「はっ!構わねぇよ!あんなクソみたいな依頼をするくらいなら、ここで戦って死んだ方がマシだってな!」
「ふふ、そうですか。貴方はここで死なすには惜しいですね」
あ?何言ってんだ、コイツ?
つーか、何でコイツはこんなに余裕があるんだよ?
お前も死ぬんだぞ?
「オイオイ、ダリムよ?テメェはバカか?いや、バカだったな。こっちにいりゃ、金も女も手に入ったのに、そっちに付くなんてよ。死ぬぜ?」
おっと、イロンのヤツが先頭に立って話しかけて来た。
あの顔は、心底俺をバカにしているな。
ま、俺も俺がバカだと思っているから間違っちゃいないな。
「ああ、そうだな。どうだイロン、お前もこっちに付かねぇか?」
「付くかよバーカ。おめぇは俺が殺してやるよ」
「こっちのセリフだ。クソ野郎」
そして、俺達の会話を皮切りに、150対2の絶望的な、そして一方的な闘いが始まり、そして、一瞬で決着がついた。
「は?」
俺の目の前で、150人の男達が一斉に気絶した。
何が起きた!?
どれくらい時間が経っただろうか?
突然起きた異常事態に固まっていると、いつの間に移動したのか、あのガキが奥の方から戻って来た。
「さて、これで片が付きましたね。さ、撤収しましょうか?」
「お、おう・・・・」
何が起きたのか理解できないまま、俺はガキと一緒に倉庫を出た。
俺は夢でも見ていたのか?
その後、俺は何となくこのガキと一緒に歩いている。
向かっているのは、先程俺達が襲撃する予定だった公園みたいだな。
けど、何で俺も一緒にそこに向かっているんだ?
何か、そうするのが当たり前な空気になっていたんだが、俺も良く分からねぇ。
「さて、ダリムさん。貴方はこれからどうしますか?」
「どうって?」
もう少しで公園に到着しそうになった時、この得体の知れねぇガキが話しかけて来た。
得体は知れねぇが、不思議と嫌な感じはしねぇし、それどころか安心できる。
何でだ?
「いえ、遠回しな言い方は止めましょう。ダリムさん、ウチに来ませんか?」
「は?どういうことだ?」
「僕の家は、常に戦力を求めているんです。けど、ただ強いだけの者は要りません。欲しいのは、どんな敵を前にしても引かない強い心を持った戦士です。そしてダリムさんは、150人の敵を前にして1歩も引かない勇気を見せました。まさしく、我が騎士団が求めている人材なのですよ」
まさかのスカウトだった。
だが、俺は悪徳商人に雇われるつもりはね・・・・ん?今このガキ、騎士団って言ったか?
騎士団ってのは、王族と貴族しか持つことが出来ないはずだよな?
どういう事だ?
いや、そもそも、
「お前分かってんのか?俺は元々、お前達を襲う側、つまり敵だったんだぜ?」
「もちろん知っていますよ?そして、ダリムさんが騙されていたことも、騙されたと分かった途端、この襲撃計画から抜けようとしていたことも。だから、貴方は僕の敵ではないですよ」
何で知ってんだよ!?
ツッコみたい気持ちを抑えて、もう1つ気になっていたことを聞いてみる。
「騎士団だと?たかが商人が騎士団なんて持てる訳ねぇよな?お前、商人の息子じゃないのか?」
「ああ、そう言えば、連中にそう言われていたんでしたっけ?もちろん違いますよ」
「じゃあ、何なんだよ?」
「僕は貴族で、お父様は伯爵です」
やっぱり貴族だった!?
しかも伯爵だと!?
「どこの貴族なんだよ?いや、ですか」
「あ、別に話し方は変えなくていいですよ?と、公園に着きましたね。まずはダリムさんをお祖父様に紹介しますから、少し待っていてください」
「あ、おい!?」
そう言ってガキは、公園に停まっていた馬車に向かう。
その馬車の前には、50代前半の男が立っている。
あれがあのガキの祖父か?
ん?あの爺さん、どっかで見たことがあるような・・・・
少しガキが爺さんと話した後、その爺さんがこっちに向かって来た。
「話はレオから聞いた。お前が150人を前にして、1歩も引かなかった男か?ふむ、いい面構えだな。よろしい!お前にその気があるのなら、私とレオの連名で、グレンに騎士団入団を推薦してやるが、どうする?」
「あ、えっと」
「おお、すまんすまん、まだ名乗っていなかったな。私はジルベスト=シオン=スティード。スティード伯爵家の前当主だ」
「スティード!?」
スティード伯爵家って言ったら、『王都黒龍事変』において、3万の騎士、魔導士、冒険者が束になっても手も足も出なかった黒龍を、僅か500程度の騎士団員だけで圧倒したのは有名な話しだ。
しかも、戦っていたのは当主のグレン、先代のジルベスト、嫡男のメルティウムの3人で、残りの騎士団員達はサポートに徹していたとか。
そして、今俺の目の前にいるのが、王国最強の騎士と呼ばれているジルベスト=シオン=スティード!?
こんなのがいたら、仮に襲撃をしていたとしても、全滅は免れなかったよな!?
あっぶねぇ・・・・
そんで、俺みたいな底辺のヤツが、そんなとんでもない人がいるスティード騎士団に入団できる、だと!?
「そうだ。なんだ、レオ。お前、名乗っていなかったのか?」
「あ、そう言えば・・・・すみません忘れていました。僕はスティード家次男、レオナルド=シオン=スティードです。それでダリムさん、どうでしょうか?」
「なあ、俺みたいな奴が、本当に入っても大丈夫なのか?」
そう、俺の心配事は、その1点に限る。
何せ、今までこの王都の下級街でクソみたいに生きて来たんだ。
そんな俺が、かの有名なスティード騎士団に入れるのか?
「ああ、問題ない。我が騎士団は、出自や経歴など気にせんわ。まあ、凶悪犯だった場合は話が別だが、お前は大丈夫なんだろ?」
「ああ、それだけは大丈夫だ、です。人様に顔向けできないようなことは、絶対にやって来ていない、です」
「ならば、良し!で、どうする?」
俺は少し考えた。
いや、考えるフリをしただけだな。
気持ちはもう決まっている。
「よろしくお願いします!」
そうして俺は、アステリア王国最強と謳われるスティード騎士団に入団することが決まった。
普通は試験とかがあるらしいんだが、ジルベスト様とガキ、改め、レオナルド様の推薦により、あっさり入団できた。
人生、何が起きるか分かんねぇな。
誤字、脱字など、お気付きの点が御座いましたらご指摘をお願いいたします。
もし、この作品を読んで面白い、と思って頂けたら幸いです。
気が向いたらで構いませんので、評価もお願いいたします。




