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第113話  スティード家のお買い物

 買い物を終えて店を出ようとすると、


「あ、お待ちください!」


 後ろから、つまり店の方から女性に呼び止められてしまった。

 何だろう?


「本日は、我がホルス商店へご来店いただきまして、誠にありがとうございました。私、店長のイアスと申します」


 何と店長さんが直々に声をかけてくれましたよ。

 って、考えてみたら、こっちは貴族でした。

 多分、社交辞令としての挨拶かな?


「イアスさん、ですね?貴女のお店は、良い品が多いですね。気に入りましたので、また王都に来た時は是非、寄らさせて頂きますね」


 え、また行くの!?

 あ、お祖父様も同じことを考えていたようで、驚愕の表情をしている。

 フィルは・・・・あ、コイツ!

 もう自分は関係ない、って顔してやがる!

 確かに、フィルが今ここにいるのは特例中の特例だから、仕方がないか?


「そんな、ありがとうございます!貴方様方のような貴族様は初めてでした。また是非、お越しくださいませ!」


 そう言って店長のイアスさんが、深々と頭を下げた。

 他の貴族は知らないけど、別に僕らにそこまで頭を下げなくてもいいんですよ?


「それで、実にお恥ずかしい話しなのですが、わたくし共は、貴女様のご家名とお名前が分からないのです。失礼でなければ、お教えいただけないでしょうか?」


 あ、そう言えば名乗っていないんだっけ?

 それに、スティード家は滅多に王都に来ないから、家紋を知らなくてもしょうがないか?


「すみません、名乗っていませんでしたね。私達はスティード伯爵家の者です。私は第1夫人のジェシカ、こちらが第2夫人のクリスティーナです」

「スティード伯爵家!?」

「「「「「ええっ!?」」」」」


 イアスさんの絶叫するかのような声に、この店にいた全員が大声を上げた。

 え、何?どうしたの!?


「では、まさか、そちらにいらっしゃるのは、ジルベスト様、ですか?」

「うん?そうだが、それがどうかしたか?」


 そこから大混乱が始まった。

 さっきまで普通に話していた男性の皆さんが、急に緊張し出し、そしてお祖父様に握手を求めて来た。

 女性たちは、自分の彼氏さん達をそっちのけで、キャーキャー言い始める。

 おっと、お祖父様?モッテモテですね?

 そう言えば、お祖父様って現役時代はアステリア最強の騎士と呼ばれていて、さらに『王都黒龍事変』では黒龍を倒した英雄だったっけ。

 そりゃあ人気があって当然ですね。

 あ、僕とフィルは、お祖父様に皆が集中している間に、お母様達の所まで避難しています。

 お祖父様はしばらくは皆の相手をして、隙を見てこちらに逃げてきました。

 あれはそのままにしていたら、いつまでもお祖父様を囲み続けていたでしょうね。


「すまないな。今日は孫たちにこの街を見せる約束でな?ここいらで失礼させてもらう。ほら、行くぞお前達」

「あ、あの!せめてお孫様達のお名前をお聞かせいただけませんか!?」


 イアスさんがしつこく食い下がろうとしている、訳ではなく、お祖父様の件で脱線してしまったけど、この会話は僕らの名前を聞き、覚えるのが本来の目的のようだからね。


「おお、そうであったな。さあ、お前達、名前を教えてあげなさい」

「はい。私はスティード家長女、アナスタシアと申します」

「シャルロットです!」


 アンは貴族の子女らしくスカートを摘まんで優雅に一礼し、シャルは手を上げて元気良く名前を名乗った。

 妹2人が自己紹介したのだから、僕も続かないとね。


「僕はスティード家の次男、レオナルド=シオン=スティードと申します。以後、お見知りおきください」


 そう言って、優雅に礼をする。

 少しは貴族っぽく見えたかな?

 何せ、ここ3年間はダストレア大樹海に籠っていたので、貴族としての礼儀作法を使う機会なんて殆ど無かったんですよ。

 一応、セレストメディエル聖教国に滞在していた時に、枢機卿や大司教の皆さんに見てもらったから大丈夫だと思うけど、あの人たち、女神の使徒である僕に対しては、過剰なまでのイエスマンだから不安だったんですよね。

 イアスさんの反応を見る限りだと、大丈夫そうかな?

 お母様達が何も言わないから、きっと大丈夫なんでしょう。

 そう思う事にします!


「ちなみにこのレオナルドはな、この先きっと名を馳せることになるから、いや、とんでもないことをやらかすかもしれんから、覚えておいて損は無いぞ?」


 と、お祖父様がニヤリとしながら余計な事を言う。

 まあ、今確定しているだけで、ダストレア大樹海の踏破、2年後に領主になる、聖女との結婚、女神の使徒ってのがあるからね。

 うん、話題に困ることは無さそうだね?

 自重?なにそれ、おいしいの?

 スティード家の自己紹介が終わり、今度こそ店を出ようとしたら、またしてもイアスさんから質問が飛んで来た。


「え、あの?そちらのレオナルド様と同い年くらいのお子様のお名前は、教えて頂けないのですか?」

「え、僕?」


 そう言えば、フィルは名乗っていなかったね。

 だってスティード家じゃないし。


「残念だけど、僕はスティード家の者ではないんだよ。レオの友人として、今日は一緒に行動させてもらっているんだ」

「そうなんですか?それでも、もしよろしかったら、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 さすがにここでフィルが名乗ることはマズいでしょう?

 そう思ってお祖父様を見ると、ニヤニヤしている。

 あ、あの顔!

 お父様が悪だくみしている時と同じ顔だ!

 流石は親子、そっくりですよ。

 ってことはつまり・・・


「フィルよ。お前さえ良ければ、名乗ってあげなさい」

「そうですね。僕はフィリップ=ヴィルヘルム=アステリアです。よろしく」

「「「「「・・・・・・・・」」」」」

「よし!今の内に行くぞ!」


 フィルの自己紹介に、ホルス商店全体が凍り付く。

 全員、頭では理解していても、いや、理解してしまったからこそ動けない。

 スティード伯爵家と一緒にいるから、きっと貴族の子供だろう、と思っていたら、まさかの王族でした!

 そんな、全員が固まってしまった状況を見て満足したお祖父様は、この隙に全員を馬車に乗り込ませ、出発させてしまった。

 その後、やっと動き出したホルス商店にいた人々が、パニックになったの言うまでもない。

 特にフィルに対してタメ口を聞いていた、いや、相手が子供だったため、上から接してしまった男達は、揃って大絶叫していた。

 中には気絶してしまった人も。

 大丈夫ですよ~、フィルはそんなこと気にするような、器のちっちゃい男ではないですからね~?

 え?何で立ち去った後のホルス商店の状況が分かるのかって?

 そんなの、『支配圏』を広げていたからに決まっているでしょう?

 もっと言ってしまえば、この王都全体を把握できるように『支配圏』を展開させています。

 何かあったら対応できるように、用心しているんですよ。

 現に、僕らを監視していた奴らの一部が、僕等が買い物中のホルス商店に入って来そうだったので、近付けないように色々とやっていました。

 見えない所でも『空間支配』は大活躍しているんです!



 その後も中級街での買い物は続いたけど、ホルス商店の時のような混乱は起きませんでした。

 理由は2つあり、1つは全員がホルス商店で買った服に着替えたからです。

 言ってしまえば、貴族が着る高級な服ではなく、一般庶民が着る服に着替えただけです。

 それと、馬車の家紋を隠しました。

 ついでに外観も変えてあります。

 馬車に関しては、『空間支配』を使って見た目を変えただけです。

 それだけで、僕らは貴族の御一行ではなく、裕福な家族へとランクダウンしたのです。

 2人のお母様とフィルからは、それでも隠せない気品が溢れ出ていましたが、一緒にいるお祖父様、僕、幼い2人の妹からはそんなものは大して出ていなかったようで、そのおかげか、所作の丁寧な夫人とお坊ちゃん、と言う評価になっていたようです。

 十歳児に気品とか求めないでくださいね?

 確かにスティードの家では、貴族としての振る舞い方とかは習いましたけど、それは7歳までの話しです。

 そこから3年間、殆ど人と接することのないダストレア大樹海で過ごしていたんですよ?

 セレスハートではお客さん扱いだったからそんなこと言われなかったし、というか、女神の使徒だと知られていたので、ただいるだけで崇拝されていたからなぁ・・・・

 まだ幼い2人の妹も然り。

 アンも頑張って所作を習っているけど、まだまだなのは仕方がないです。

 シャルはまだ6歳だから、それも仕方がない。

 で、問題なのはお祖父様。

 アンタ、元伯爵家当主でしょ!?

 職業が冒険者だからかもしれないけど、それはどうなんですか!?

 ここでツッコんでも意味が無いので、黙ることにしましたよ・・・

 話は戻して、服装を変えたことで貴族として騒がれることは無くなったけど、今度は別の問題が発生しました。

 2人のお母様なんですが、貴族の娘として生まれ、貴族の妻として生活している為か、一般的な女性と比べると美人で目立つんです。

 子供を2人も生んだとは思えないほど、2人共美しいです。

 別に身内だから持ち上げているわけでは無いですからね?

 すれ違う男達が、ついつい2度見しているんですよ。

 2人共、30歳を過ぎているのにね?

 おっと、この事をお母様達に言うと、無言で怒りのオーラが出るんですよ。

 僕がダストレア大樹海から帰った後、僕の年齢の話しになり、ふと、お父様がお母様達に


「そういえば、ジェシーが今33歳だから、クリスは30だったな。私もだけど」


 なんて言ってしまい、一瞬にしてその場の空気が凍り付いたのは記憶に新しい。

 体感で、5度は部屋の温度が下がったね。

 その後、お父様はジェシー母様に引きずられて部屋を出て行き、それにお母様も一緒に付いて行った。

 ジェシー母様の無表情で怒りのオーラを出していたのも怖かったけど、それ以上に、いつもニコニコしているお母様が無表情になっていたのが怖かった・・・・

 30分後、いつも通りの表情で戻ってきたお母様達と、ひどく憔悴した顔で戻って来たお父様が印象的でした。

 その30分の間に何があったのかは、知りません。

 『支配圏』を広げて見る勇気が、僕にはありませんでした。

 その後に開かれた、スティード家緊急家族会議(男限定)において、お母様達に年齢の事を言うのは禁句と、満場一致で可決されました。

 それはさておき、その2人のお母様は20代前半といっても通用しそうなほど、見た目が若く、美人。

 そうなると、お母様達に声をかけてくる男が出てくるわけですよ。

 2人共適当にあしらってはいるものの、たまにしつこいのがいて、お祖父様が何度か出動しています。

 体中から殺気を漲らせ、


「私の娘たちに、何か用か?」


 と、ついでに持っていた剣に手を添えて、ナンパして来た男どもに近付く。

 これにはナンパ目的で近付いた男達はビビり、逃げ出す者や、中には失禁してしまうのもいた。

 で、さすがにこの対応が面倒になって来たので、『空間支配』を使って、お母様達が男から必要以上に意識されないように、軽度の認識阻害の結界を展開しました。

 これが2つ目の理由。

 この結界は、相手の、この場合はお母様達の顔が正しく認識されなくなると言う代物です。

 簡単に言えば、顔を見ても印象に残りにくい、といった効果があります。

 おかげで、それ以降はトラブルもなく、平和に買い物が進みました。

 始めからそうしておけ?

 仰る通りです。

 始めからそうしていれば、着替える必要すらなかったんですよね。

 そして日が暮れて、ようやくスティード家のお買い物、主に女性のですが、が終わったので、貴族街にあるスティード邸に向かっています。

 うん、疲れた・・・・

 そう思ったのは僕だけでなく、フィルとお祖父様も、顔に疲労が出ていましたよ。

 あっちこっちに移動して、気に入った物を買っていく。

 何でも好きなだけ買えるわけでは無いので、どれにしようか悩みながら、時には一度行ったお店に戻ったりもしていた。

 当然のことながら、僕とフィルも付いて行く。

 お祖父様は冒険者ギルドの近くを通りかかった時、これ幸いとギルドに顔を出さなければならない、とか言って逃げようとしたのですが、僕とフィルが全力で阻止しました。

 この場での最年長者を、逃がすわけないでしょう?

 フィルの説得と、僕に腕を掴まれてしまったお祖父様は、観念してくれましたよ。

 ちょーっとばかり力加減を間違えたようで、お祖父様の腕には僕が掴んだ跡がしっかり残っていました。

 そうして日が暮れるまで、女性たちの買い物に付き合わされた僕達は、精神的に疲れてしまっている、とういわけです。

 けど、これでもう終わりなんだ。

 明日はフィルとどこかに行ってみようかな?

 僕がいれば、滅多に出ることが無い王都の外にも連れて行くことが出来るし、後で希望を聞いてみよう。

 と、明日の計画を練ろうとしていると、一緒にソファーで休んでいたお母様達から、衝撃の発言が飛び出しました。


「今日は中級街を堪能させてもらったわね。初めて行ったけど、中々良い街ね。流石は王都!」

「そうでしたね~。今日はお義父様とレオがいてくれたから、行きたい所に行けて、楽しかったですね~」

「そうね。それで、クリス?明日はどうするの?」

「もちろん、明日は上級街に行きましょう♪」

「上級街なら、今まで何度か行ったことがあるでしょう?」

「でも、アンとシャルは初めてだから、連れて行ってあげたいのよ。ダメかしら?」

「そういう事なら行きましょう。じゃあ、お義父様にレオ?明日も護衛お願いね?」

「「え?」」


 その言葉に、固まってしまった僕とお祖父様だった。

 その横では、また付き合うことになるフィルが、遠い目をしていた。

誤字、脱字など、お気付きの点が御座いましたらご指摘をお願いいたします。

もし、この作品を読んで面白い、と思って頂けたら幸いです。

気が向いたらで構いませんので、評価もお願いいたします。


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