第112話 王都でお買い物
フィルを交えた朝食が終わると、お父様は今日から数日は王城へ行かなければならないと、支度を整えてすぐに出て行ってしまった。
普段はそんなに王城に用が無いはずなのに、何でだろう?
もしかして、昨日の僕の報告関連かな?
ガロウデットに殺された冒険者の遺族たちへの補償に関して、ザカート侯爵と話しをしたりするのかもしれない。
お父様に聞いてみたら、
「お前は気にするな。皆と楽しんで来い」
と言われてしまった
間違いなく僕が関係している案件みたいだけど、それは全てこちらに任せろ!と言っているかのような頼もしさを感じたので、素直に甘えることにしました。
お父様を乗せた馬車を見送り、僕達も支度を始める。
この後はシャルとアンが楽しみしていた、エスカフィールの街へのお出かけです。
これにはお父様を除いたスティード家全員と、客人であるフィル、それと数名の使用人たちが一緒に行くことになりました。
もちろん、護衛の騎士もいます。
いますけど、ハッキリ言ってしまうと、僕1人でも十分なんですよね。
例え、突如街中で100人の暗殺者に襲われたとしても、厄災級の魔物が現れたとしても、家族とフィルを守り抜く自信がありますからね。
でも、貴族が護衛も連れないで出歩くと、いらないトラブルを招いてしまう可能性があるそうなので、取りあえず付いて来てもらうことにしました。
ああ、それと、完全武装をしてもらっています。
なぜなら、今この時点で、すでに28名の怪しい奴らにこの家が監視されているからです。
良からぬことを企まれても面倒なので、抑止力として武装してもらっています。
してもらってはいますが、中にはバカなことを考える輩がいるかもしれないので、油断は出来ません。
まあ、この程度の連中なら、スティードの騎士が4人もいれば余裕で撃退できるんですけどね。
そもそも、ただ監視をしているだけならば見逃してあげるけど、もし何か行動を起こそうとしたら、僕が即座に叩き潰しに行く予定だから、騎士の皆の出番は残念ながらありません。
この怪しい連中に監視されている事は、皆には秘密にしておきます。
さすがにお祖父様は気付いているようだけど、人数までは分からないでしょうね。
さあ、準備が出来たみたいなので、馬車に乗り込みましょうか!
「な、なんだこの馬車は!?馬車の中が家になっている!?え、どうなってるの!?」
馬車に乗り込んだフィルの第一声がコレです。
フィルに驚いてもらいたかったので、馬車の事は一切話していなかったんですよ。
昨日城に帰って来た姉であるクラリス王女からは、スティード家の馬車は凄い、とだけ教えられていたようで、どう凄いかの説明は全くされなかったのだとか。
乗ってからのお楽しみ、と言われていたようで、フィルはこの馬車に乗るのを楽しみしていたようだ。
なので、詳細はずっと伏せておきました。
で、乗った瞬間、目の前に広がったのは、とても馬車の中とは思えない景色だった。
「これはレオお兄様の馬車です!」
「え!?レオの馬車なの!?」
「正確に言うなら、僕が作った馬車、だね。この馬車はスティード家の所有物だから、所有権は当主であるお父様にあるからね」
驚いているフィルに、シャルが自慢気に教えてあげていた。
けど、それだと言葉足らずだったので、僕が補足。
「まあ、それなら、納得できる、かな?」
僕が作ったと聞き、無理矢理納得しようとしている親友。
父親であるエドおじさんから、僕が今まで作った規格外の魔導具の話しを聞いているだろうからこそ、納得できるのだろう。
ただ、この見た目の面積と中身の面積に大きな、いや、大きすぎる違いがあるからこそ、戸惑っているのだろうね。
「ああ、フィルよ。レオのやることにいちいち驚いていては、身が持たんぞ?この子が成したことなら何でも受け入れる、と言う気持ちでいれば、気が楽になるぞ」
お祖父様がフィルにアドバイスをしてくれている、のだけど、それって要約すると、驚くだけ無駄だから諦めろ、ってことだよね?
間違っていないから、否定できないのが悲しいけど。
「はあ・・・・あの、ジルベスト殿もやはり最初は?」
「それはそうだ。レオが作った魔導具には驚かされたわ。いや、未だに驚かされ続けているがな?だが、この境地に達したら、気がかなり軽くなった。試してみなさい」
「はい、レオに近しいジルベスト殿がそう言うなら、そうしましょう」
「うむ。すまないな、我が孫が・・・・」
「いえ、レオがこれほどの才能を持っているならばこそ、この国の未来が楽しみでもありますから」
お祖父様のおかげで、どうやらフィルも落ち着いたようだね。
その原因を作った当人としては、とても複雑なんですけどね・・・
「うむ、それでは皆が馬車に乗り込んだようだし、行くとするか」
そうして僕達は、馬車という名の家に乗って、エスカフィールの街に向けて出発した。
貴族街を出て上級街へ行き、そこで買い物とかをするのだろうと思っていたら、更に先に進んで中級街まで進んでしまった。
あ~そう言えばエスカフィールに到着した日に、女性陣が行きたいと言っていた場所の中に中級街も含まれていたね。
別に中級街が嫌な訳ではないですよ?
ただですね、上級街や貴族街に比べて人が多く、治安も悪いんですよ。
そうすると、トラブルに巻き込まれる確率が上がってしまうんですよね。
もう少し具体的に言うならば、僕達を監視する人数がドンドン増えているんですよ。
え?今の人数はどれくらいかって?
181名です。
僕が『支配圏』を広げて確認しているので、間違いありません。
僕らが乗っているのは馬車だけど、街中ではスピードが出せない、と言うか、出したら馬車が人を轢いてしまうかもしれないので、ゆっくり進まなければならないのです。
そのスピードは、少し早歩きしている程度。
なので、監視がやりやすいんですよ。
この181名は全員、ザカート侯爵及びその傘下の貴族が放った連中です。
僕らが中級街に出た途端、仲間を大勢呼んで、この人数になりました。
ついでに言うと、殺気を飛ばしてくるヤツもいます。
つまり、チャンスがあれば殺る気がある、ってことですね。
当然襲ってきたら返り討ちにしてやりますけど。
なんてことを考えていたら、最初の目的地に到着したようです。
そこはどこかと言うと、服屋です。
中級街にある店なので、貴族御用達の店とは格が違うのですが、中々センスの良いお店のようです。
店構えが落ち着いており、しかし所々に凝った装飾がされている。
無駄に豪華な成金趣味の店ではなく、ちょっと高級感のある、まさに老舗、という雰囲気を漂わせている、そんなお店です。
けど、あくまでそこは庶民向けのお店。
そんなお店に貴族、それも伯爵家が、完全武装した護衛を付けて馬車で乗り付けて家族で来店したらどうなるか?
「あ、その!ようこそいらっしゃいました、貴族様!その家紋は、えっと、伯爵家でよろしかったでしょうか!?あ、今店主が参りますので、今暫くお待ちください!あ!店にいる他の客は今すぐに外に出させますので、馬車でお待ちいただけないでしょうか!?」
と、店主ではないだろうけど、それなりに職位の高いであろう中年の男性が、盛大に汗を掻き、緊張しながら対応してくれた。
まあ、そうなってしまうよね?
こんな庶民向けの服屋に、まさか伯爵家が来るなんて思わないですよね?
だからこの人が、僕達が伯爵家だとは分かっても、スティード家だと分からないのも仕方がないでしょう。
だって、貴族なんて普通は中級街の服屋なんかに来ないから、家紋なんて知らないのが当然ですからね。
ここがもし上級街だったなら、もっと落ち着いた、丁寧な対応をしてもらえたはずですし、家名もすぐに分かったでしょう。
けど、他のお客さんを全員追い出すって、やりすぎじゃないですかね?
それとも、貴族相手だとそれが普通なのかな?
なんて考えていたら、
「ああ、そんな畏まらなくてもいい。私達のことは他の客と同じ対応で構わんぞ?だから他の客を追い出してあげるな。可愛そうではないか。な?」
「ええ、そうです。私達の事は気になさらないでください。私達はこのお店の外観が気になって立ち寄っただけです。決して他の方々に迷惑をかけたいわけではありませんので、どうかそのようにお願いします」
お祖父様とジェシー母様が、慌てて対応してくれた中年の男性店員さんに、優しく声をかける。
ああ良かった。
2人共、僕と同じように考えてくれていたんだね。
「え?しかし、よろしいのですか?今まで当店にお越しいただいた貴族様方には、このように対応させていただいていたのですが・・・」
「ああ、構わん構わん!他のボンクラ貴族共はどうか知らんが、私達にはそのような気遣いは無用だ」
「ボンクラってお義父様・・・まあ、その通りではありますが・・・ああ、そうそう。小さい娘がいるので、少し騒がしくしてしまうかもしれないけど、一緒に入っても大丈夫かしら?」
「あ、はい!大丈夫です!どうぞお入りください!」
我が家の貴族らしからぬ対応に、中年の男性は戸惑いながらも、少しホッとしていた。
今まで貴族が来店した時、色々とトラブルがあったのかな?
例えば、店内にいる客を全員追い出せ、とか、追い出された他のお客さんから、貴族が帰った後にクレームを言われたり、とか。
まあ何にせよ、入店の許可がおりたので中に入りましょうか。
その前に、
「いいかい、シャル?今からお店に入るけど、中には他のお客さんもいるから、騒いだり走ったりしたらダメだよ?」
「はい、分かったです。お店の中ではシ~です。走らないです」
「よしよし、シャルはお利口さんだね」
いつもなら元気よく返事をするシャルが、静かに返事をしてくれた。
僕の言う事を、守ってくれるみたいだね。
そんなシャルの頭を撫でてあげると、嬉しそうに笑ってくれましたよ。
と、横を見ると、アンが羨ましそうにコッチを、と言うかシャルを見ている。
アンはシャルのお姉さんだから、色々と我慢しているんだろうね。
よし、
「アンも、お店の中では静かに出来るかな?」
「はい、もちろんです」
「よしよし、アンもお利口さんだね」
そうして、空いていた左手でアンの頭を撫でてあげると、アンも嬉しそうにしてくれましたよ。
そんな2人を見て、僕も自然と笑顔になってしまいます。
しばらく3人でニコニコしていると、
「何をしているのですか、貴方達は?ほら、行きますよ」
いつまでもその場から動かない僕達に、ジェシー母様が呆れながら声をかけてくれました。
それを見ていたフィルから、
「レオって、妹には凄く優しいんだね?」
とか言われてしまいましたよ。
悪いか?
「まあ、3年間も離れていたからね。その埋め合わせとして、妹達は甘やかそうと決めているんだよ」
「それは、うん、分かるよ。僕にも1人妹がいるからね。やっぱり妹には、好きなことを好きなだけやらせてあげたいからね」
「お?フィル、話が分かるね?」
「いやいや、レオこそ」
ガシッ!
僕らはお互いに通じる物を感じ、固い握手を交わした。
「あらあら、貴方達、いつまでやっているのかしら?もう皆外にいますよ?」
「「あ・・・・」」
いつの間にか全員馬車から降りていて、僕達2人だけが取り残されていました。
そんな僕らをお母様が呼びに戻って来たようです。
お母様、すみませんでした・・・
店に入ると、店内は服だらけでした。
服屋だから当たり前なんですけどね。
子供服から女性用、男性用の服がズラリ。
女性用の方が多く、全体の6割ほどを占めている。
残りの4割が子供服と男性用で半々となっています。
そのせいか店内は女性客の方が多く、男の僕らはちょっと居心地が悪い。
我が家の女性陣は、使用人と一緒に色々服を見て回り、気に入った物を試着している。
そしてその感想を僕、フィル、お祖父様に求めてくるので、面倒くさい、もとい、大変だ。
ふと周りを見ると、同じように連れの女性に感想を言わされている、もとい、求められている男性がチラホラと目に付きました。
そんな男性の方々に、お祖父様が
「キミらも大変だな・・・・」
と、声をかけると
「いやいや、俺なんか1人だからいいけど、そっちは4人じゃないか。そっちの方が大変だろ?」
「ありゃ娘と孫か?爺さんも大変だな?」
「ん?じゃあ、あの美人さん達の旦那はどこだ?まさか逃げたか?」
と、返って来た。
そうは言っていたけど、その男性達は目が死んでいましたよ。
相当疲れているんですね。
何せ、貴族然とした格好のお祖父様に、普通にタメ口聞いているんだからね。
「ああ、息子は仕事だとよ。だから私が一緒に来たんだが・・・・早まったか?」
「そっちの坊ちゃんたちも疲れただろう?大丈夫か?」
「母親と妹の付き添いか?お前らも大変だな・・・」
こっちにまでタメ口で来ましたよ?
僕は一切気にしないけど、こっちにいるフィルは王族だよ?王子様だよ?大丈夫か?
「ははは、まさか女性の買い物がこれほどとは、甘く見ていましたよ。いい教訓になります」
「こんな若いのに悟ったのか?お前、将来大物になるんじゃね?」
「そうですか?そうなれるよう、日々努力していきますよ」
「はは、真面目な奴だな、お前さん」
「ありがとうございます」
当のアステリア王国第1王位継承権を持つ王子様は、笑顔で会話を楽しんでいるようです。
本人が楽しんでいるなら、別にいいよね?
それから1時間後
服を選び終わって、かなりの量を買い込んだ女性陣が、荷物を使用人に持たせながら笑顔でこっちに来た。
「お待たせしました。さ、次に行きましょう」
「ふふ、次のお店も楽しみですね?」
「「え゛?」」
やっと終わったかと思ったら、まだ次がある、と言い出したお母様ズ。
僕とフィルは、その場に膝を付きそうになるのを堪え、店の出口へと体を向けました・・・・
1人お祖父様だけは、諦めの表情で、ただ無言で僕らの前を歩き出している。
こうなることは分かりきっていたのでしょうね。
ん?もしかしてお父様、こうなることを知っていて城に逃げたんじゃないだろうな!?
帰ったら追及してやろう・・・・
誤字、脱字など、お気付きの点が御座いましたらご指摘をお願いいたします。
もし、この作品を読んで面白い、と思って頂けたら幸いです。
気が向いたらで構いませんので、評価もお願いいたします。




