第106話 ウソのようなホントの報告
気絶したガロウデットが近衛騎士に連行され、僕の調査報告が再開された。
「最後に、ダストレア大樹海の内部は空間が歪んでいて、実際の面積はその10倍以上と想定されます。空間の歪みの先は様々で、環境の変化が激しいものもあります。例を上げますと、マグマが吹き上がる火山地帯であったり、吹雪が吹き荒れる極寒の地であったり、見渡す限りの海であったりです。これらはどこにあるか分からない空間の歪みを通過した瞬間、いきなり変化します。そして、先にご報告したようにダストレア大樹海の中には、厄災級を含めた様々な魔物が生息しており、僕以外が通り抜けることは不可能だと結論付けられました。ここでの報告はある程度省略した物となりましたが、詳細に関しましては調査報告書が御座いますので、そちらをご覧になってください。以上です」
「「「「「・・・・・・・・・」」」」」
僕の調査報告の説明が終わると、謁見の間は静寂に包まれた。
報告した内容は、どのような魔物が生息していたのかを僕作の魔物図鑑を使っての説明。
植生や、どんな鉱石が採れたのか。
ダストレア大樹海の中心にはノイシュヴァン山脈があり、そこには龍王を頂点とした女神セレス様の眷属のドラゴンが住んでいて、3体の神獣と共に、強力な魔物が溢れ出ないように狩ってくれていること。
あ、説明が面倒だったので、ベヘモスについては伏せておきました。
そして、ダストレア大樹海の規模と、僕以外の人類が踏破することは可能か否か。
それらを大雑把ではありますが、説明させてもらいました。
報告を始めた最初の頃は、まあそれなりに参列した貴族達がざわざわしたり、野次が飛んできたりしたものだけど、気付いたらその全てが収まっていた。
その理由は簡単で、余りにも現実味のない話しだったため、この場にいる殆どの人が子供の嘘だと思い込み、呆れていたり暖かい目で見守っていたりする。
「そうか、報告ご苦労だったな、レオナルド」
この場において、僕の言っていることが全て真実だと受け止めてくれている数少ない人物の1人であるエドおじさんが、労いの言葉をくれましたよ。
「その報告書は後でこちらに渡してくれ。それと、その魔物図鑑もな。後日になってしまうが、必ず目を通しておこう。まだまだ聞きたいことはたくさんあるが、それはまた別の機会とさせてもらおう。それでは、お前には約束していた報酬を渡さなければならないな?良いな、ザカート侯爵?」
そして遂に、オークもどき侯爵から報酬を貰う話に移行しようとしたのだけど、
「畏れながら陛下!私はこのレオナルドが話したことが真実だとは、とうてい思えません!」
と、クソ豚侯爵が異議を唱えてきましたよ。
まあ、予想できていましたけどね?
だって、わずか10歳の子供がダストレア大樹海を踏破したなど、普通なら誰も信じないでしょう。
それとこのオークヘッド侯爵、3年前は僕をレオナルド君って呼んでいたけど、余裕がないのか呼び捨てになっていますね。
まあ、コイツにそう呼ばれるのは鳥肌が立つくらい気持ち悪かったから、ちょうど良いですけどね。
あ、今気付いたけど、3年前同様、またザカート侯爵をちゃんと呼んでいませんでしたね。
気を付けます。
で、そのザカート侯爵に続いて同じ派閥の貴族達も
「私も今も報告は虚偽だと思います!」
「貴様!陛下に適当なことを言うとは!厳罰物だぞ!」
「10歳の子供がダストレア大樹海から生きて帰れるはずがあるか!」
などと同調を始める。
コイツ等は、僕がどんな報告をした所で、初めからこうすることが決まっていたんだろうね。
だってコイツ等全員、楽しい楽しいダストレア大樹海探検ツアーの参加者だから。
もしこれを認めてしまったら、ダストレア大樹海に行かなければならない為、全力を挙げて僕を否定しているのだ。
「ザカート侯爵よ。お前がレオナルドを疑う根拠は何だ?」
「根拠も何も、そんな現実味の無い報告、とてもではないですが信じられません!これが本当であるかの証拠を示して頂かなければ、納得できません!そもそも、レオナルドよ!お前は本当にダストレア大樹海の反対側に行ったのか!?」
ザカート侯爵は国王陛下の質問に答えていたはずなのに、いつの間にか僕に質問をしている。
これっていいのかな?
そう思ってエドおじさんを見ると、黙って頷いてくれた。
つまり、ザカート侯爵の質問に答えてもいい、と。
それならば、
「証拠と言われましても、何を提示すれば納得してもらえるのですか?僕としては、だからこそダストレア大樹海の内部をあなた方に案内して差し上げようとしているのですが?それと、僕がダストレア大樹海の反対側に行ったことは本当ですよ?ヴェージガーブ王国を抜け、その先にあるセレストメディエル聖教国の首都セレスハートに、僕は1ヵ月ほど滞在しましたからね」
「セレスハートに滞在しただと?それも1ヵ月も?その証拠はあるのか?」
おっと?ダストレア大樹海の中に行きたくないからか、ダストレア大樹海踏破の証拠よりもセレスハートにいた証拠を見せろと言ってきましたよ。
ここで下手なことを言って、じゃあ僕と一緒にダストレア大樹海に行って来い、って国王陛下に言われでもしたら大事ですからね?
それで、僕がセレスハートにいた証拠だけど、もちろんありますよ?
それも、とっておきのが。
「もちろんです。本当なら、この謁見が終わった後に国王陛下にお渡しする予定だったのですが、ここにセレストメディエル聖教国教皇、フォルセシウス=ライバッハ=ストラテラ様からの親書を預かってきております」
「何だと!?」
一国の長が別の国の長に宛てた親書を託す、という事は、僕がフォルセシウス教皇からそれなりに信頼されていることの証明であり、間違いなく僕がセレストメディエル聖教国にいた証拠でもある。
僕はカモフラージュ用の鞄から出したと見せかけて、空間収納から取り出した手紙を、僕の前まで降りて来たカルナ宰相に差し出しました。
普通こういった手紙や進物の類は、玉座の下に控えている担当官に渡し、危険物ではないことを確認した後に宰相が受け取り、その後に国王陛下へと渡されるのですが、僕がそんなことをするはずがないと信用されているようですね。
受け取ろうとした担当官の動きを制し、カルナ宰相が僕から直接受け取ってくれた。
それを見た居並ぶ貴族達からざわめきが起こる。
それはそうでしょう。
偉業を成しえたとは言え、いや、それはまだ半信半疑どころか疑われている状態ではありますが、たかが10歳の貴族の次男坊に対して宰相と国王が信頼している、と公言したようなものですからね。
僕が今までやって来たことをほぼ正確に把握している国のトップと違い、僕の事をステータスが異常に高い、という事以外ほとんど知らない貴族達は、きっと親の七光り、要はスティード家が今まで多大な功績を上げて来たからこそ、そのおこぼれでそうなっているだけだと無理矢理自分を納得させているのでしょう。
フォルセシウスさんからの親書を読んだエドおじさんは、一瞬口元をニヤつかせながらも、すぐに元に表情に戻った。
何が書いてあったんだろう?
いくら僕でも、勝手に親書を読んだりしないので、その内容は分かりませんからね?
「うむ。間違いなくこれは、セレストメディエル聖教国のフォルセシウス教皇からの親書だ。内容は簡単に言うと、セレストメディエル聖教国はそこのレオナルドに多大な恩義があり、それに報いるための1つとてして、レオナルドの故郷である我がアステリア王国と友好を結びたい、と言うものだ。それだけで、このレオナルドがセレストメディエル聖教国に滞在していた証拠となろう」
「な、バカな・・・・」
この親書は間違いなく、僕がセレストメディエル聖教国、つまり、ダストレア大樹海の反対側まで行っていた証拠になりますね。
オロオロしていたザカート侯爵だけど、何か閃いたのかニヤリとして、落ち着きを取り戻しちゃいました。
もっと慌てても良かったのに・・・・
「陛下、畏れながら、その親書はいつ教皇猊下が書かれた物でしょうか?」
「約2ヶ月前だな。それがどうした?」
「はっ、2ヶ月もあればダストレア大樹海を迂回し、海路を利用して急げば、セレストメディエル聖教国からアステリア王国まで戻ってくることは十分に可能です。ですので、その親書があるからと言って、ダストレア大樹海を抜けた証拠にはなりませぬ」
この豚は何を言い始めたんだろうか?
ダストレア大樹海はレシタクルス大陸の1/5を占めているけど、空間の歪みがあるおかげで実際の面積は10倍以上ある、って言ったはずなんだけどね?
なのにこのオークの出来損ないが言っているのは、ダストレア大樹海を迂回した時間より早くないと、ダストレア大樹海を通って来たとは認めない、という事だ。
馬鹿か、コイツ?
そう思ったのは僕だけではないようで、
「先程レオナルドの報告だと、ダストレア大樹海は我々が把握しているより10倍以上も広いとのことだったが、それだと当然、時間がかかってしまうだろう?お前はいったいどうすれば納得するのだ?」
と、エドおじさんが呆れてしまっている。
まあ、納得は絶対にしないよね?
だって、納得しちゃうと、侯爵の地位を僕に譲り、更にダストレア大樹海に行かなければならないのだから。
つまり、人生が詰んでしまう訳です。
だけど、国のトップである国王陛下が僕の事を信頼していて、さらにこの調査報告が事実であると受け取ってしまっている。
更に、本来なら若王の間違いを指摘するはずの宰相や先王陛下までが、レオナルドの報告に対する国王の対応に何も言わない。
ザカート侯爵は知らないが、この2人もレオナルドが言っていることが事実だと知っているからだ。
何せ、ダストレア大樹海でしか手に入らない伝説の極上食材、ミノタウロスゼファロスの肉がレオナルドから贈られたのだから。
余談だが、ここ400年、世界中どこを探しても、ミノタウロスゼファロスが現れたという報告は無い。
そもそも超級の魔物であるミノタウロスゼファロスが、そうそう人前に現れることはないのだ。
だけどダストレア大樹海の中は別で、そこには、決して数は多くは無いけど確実にミノタウロスゼファロスは存在する。
毎年、この極上肉を探す為だけに、無謀にもダストレア大樹海に挑む者が多くいるほどだ。
成果は・・・・・推して知るべし。
その極上の肉を食べた王家と宰相は、それはもう、天にも昇るほど感動したという。
何せ数百年に1度、市場に出回るかどうかと言うレベルの代物だ。
しかも、売られた地域の王族や大貴族、豪商やらがあっという間に買い尽してしまう為、それを食べられるのはごく一部の地域の、その中でもさらに限られた、運と金のある人だけになってしまう。
つまり、一生どころか一族が滅亡するまで口にすることが出来ないであろう、超々希少食材なのだ。
そんな超絶レアな肉をレオナルドとミコトは、何の遠慮も無く大量に食べている。
たまにはちょっと美味いモンでも食うか?くらいな感覚で。
自分が狩った獲物なのだから別に悪い訳では無いが、もっと、こう、ねぇ?
余談終了。
「ですから、もっと私達が納得できる証拠を提示して頂きたいのです!皆もそう思うだろう!?」
オークの着ぐるみを着た侯爵が周りの貴族、特に自分の派閥の貴族に同意を求める。
普通、国王にここまで意見することは稀ではあるが、何せ自分の爵位と財産がかかっているのだ。
そしてこの見た目が豚の魔物の侯爵は、自身を頂点とした派閥を持っている。
なので、
「その通りです、陛下!これだけでは納得できません!」
「先程の魔物に関する報告も、その子供の妄言ではないのですか!?」
「そうです!本当にそんな魔物がいるのですか!?」
と、傘下の貴族達が国王であるエドおじさんに抗議をする。
彼らも必死なのだ。
なぜなら先述の通り、コイツ等全員、僕と行くダストレア大樹海探検ツアーの参加者に名を連ねているからです。
まあ、そうなりますよね~・・・
「そうか、お前たちの言いたいことは良く分かった」
と、今までずっと黙っていたウィリアム先王陛下が立ち上がり、一歩前に出た。
誤字、脱字など、お気付きの点が御座いましたらご指摘をお願いいたします。
もし、この作品を読んで面白い、と思って頂けたら幸いです。
気が向いたらで構いませんので、評価もお願いいたします。




