第103話 危機を逃れた後のスティード邸にて
「それでは、レオナルドの偉業達成と生還を祝い、そして!スティード領の安寧を願い!乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」
その後、食堂ではレオナルドの帰還を祝ってのささやかなパーティーが執り行われた。
グレンの掛け声は、主役であるはずのレオナルドの事より、スティード領の、の方がやけに力が、そして気持ちが込められていたが、誰一人としてツッコミを入れることは無かった。
グレン、ジルベスト、メルティウムの3人が、命を掛けてどんな説得をしたのかは謎だが、シャルロットはレオナルドの隣でニコニコとしている。
いや、あれはむしろ、ベタベタしている。
ずっとレオナルドに抱き着いていて、とても楽しそうにしているのだ。
そんな妹を見て、さっきまで家族ごと領地を消し炭にしようとしていた男は、そんな過去はもう忘れたと言わんばかりに、自分になついてくれている妹にデレデレしている。
それを見た全員が確信した。
スティード領消滅の危機は完全に去った、と。
そして全員が誓った。
絶対にレオナルドを怒らせるな、と。
危機が去り、和やかな雰囲気で始まったパーティーには、スティード家だけでなく、屋敷に仕える使用人や衛兵も参加していた。
しかし、この中でただ一人、まだ危機が去っていない者がいた。
その者の名はジラン。
1年前にこのスティード家の衛兵として配属された、まだ17歳の若者で、今の業務はスティード家の門番である。
そう、帰って来たレオナルドを不審者扱いしてしまった、あの門番だ。
ジランは先輩の衛兵から、自分が不審者扱いした少年が本物のスティード家次男、レオナルド=シオン=スティード様であることを知らされ、さらに、アステリア王国最強と謳われている3人を相手にし、余裕であしらっていたのを目の当たりにしてしまった。
それだけではない。
その後、その3人がレオナルド様の逆鱗に触れ、危うくこのスティード領が火の海になるかも知れない、という状況になっていたことも知らされた。
もちろん、それが冗談でなかったことは、その場にいた全員が本能で理解している。
極めつけは、このパーティーがそのレオナルド様が3年間も費やして、あのダストレア大樹海を踏破どころか往復し、無事帰還したことの祝いで開かれているという事。
そんなレオナルド様に、あろうことか自分はとんでもない無礼を働いてしまったのだ。
スティード家の人々の人柄はこの1年で良く理解したけれど、レオナルド様とは初めてお会いしたため、全く分からない。
いや、躊躇なくスティード領を火の海にしようとしていたことを考えると、酷く短気で、激しい気性なのかもしれない。
何せ、スティード家の現当主、前当主、次期当主の3人が、全く逆らうことが出来ないほどなのだ。
先輩たちは大丈夫だと言ってくれているけど、自分は微塵も安心できていない。
その先輩たちの計らいにより、このパーティーに最初に参加させてもらっているが、そんな気遣いはいらなかった。
今はただ、早く次の番の人との交代の時間にならないかと切に願うだけだ。
だが、そんなジランの願いは、パーティー開始から僅か5分後に打ち砕かれてしまう。
何と、自分の所にそのレオナルド様が、シャルロット様を連れて来てしまったのだ。
何で!?もっとご家族と話しをしてきてくださいよ!?3年振りなんでしょ!?
と、心の中で叫んでいると、
「えっと、ジランさん、で良いんですよね?改めまして、長らく家を留守にしていましたスティード家の次男、レオナルド=シオン=スティードです。僕は貴方に、どうしても言いたいことがあったんですよ」
嗚呼、自分はここで殺されるのか・・・・
遺書を書く時間すらなかった・・・・
そうジランが人生を諦めていると、
「貴方は素晴らしい門番です!貴方のような方が我が家の門を守ってくれているなら、安心できますよ!」
「・・・・・え?」
殺される前の口上を聞かされると思っていたら、まさかの称賛でした!?
「ん?どうしたんですか?」
「え、あの、私は殺されるんじゃないんですか?」
「・・・・・・はい?」
レオナルド様が、呆気に取られたような、自分が何を言われたのか理解できていないような、無礼を承知で言うなら間の抜けた表情をしていた。
いや、私も今さっき、そんな顔をしていたのかもしれない。
「だって、私は知らなかったとはいえ、貴方様に無礼を働いてしまったんですよ?普通は処刑されるか、良くても解雇ですよね?」
「貴方はどこの腐った貴族の事を言っているのですか?」
心底呆れたような顔で言われてしまった。
「違うのですか?」
「違いますし、そもそも貴方のような立派な門番さんを、なぜ解雇したり殺したりしなくちゃならないんですか?意味が分かりません」
「いや、あの、何で私が立派な門番なのかが分からないのですが?」
「ああ、そのことですか?そうですね・・・・まず、ジランさんは僕の顔を知らなかったのですよね?」
「はい。お名前は伺っていましたが、私が赴任した時にはもうレオナルド様はいらっしゃらなかったので、お顔は存じませんでした」
「なら、ジランさんがあの時に取った行動は、全て最適な選択だったと僕は評価していますよ」
「え?」
「まず、見知らぬ不審者が門に近付き、あまつさえ素通りしようとしたんですよ?なら、その不審者であった僕を衛兵の詰め所に連れて行こうとするのは正しい行為ですよ」
「はあ」
「そして何より、シャルが門に近付いた時の貴方の迅速な行動です。貴方は幼いシャルに危険が及ばないよう、例え子供であっても油断せず、不審者だと思った僕に槍を突き付け、さらに声を上げて仲間に応援を求めました。たまたまその相手が僕だっただけで、もし本当に不審者だったとしたら、貴方の行動のどこを非難すればいいのですか?ああ、すぐにシャルに逃げるように言ったのも素晴らしい判断でした!」
「えっと、つまり?」
「つまり、この調子でこれからもスティード家を守ってくださいね。ジランさんが門を守ってくれていれば、僕も安心できます、という事です。これからも宜しくお願いしますね!」
「お願いしますね!」
レオナルド様と、一緒にいたシャルロット様はそう言ってくださり、さらにレオナルド様は手を差し出し、握手を求めて来た。
その握手に応じ、今まで自分がレオナルド様について思い違いをしていたことに気付いた。
何の事は無い。
この人もまた、スティード家の人間なのだ、と。
今まで見て来た、己の利益や気分で動くような貴族ではなく、ちゃんと人のことを見てくれる貴族なのだ。
ジランはより一層、スティード家に忠を尽くすことを、心に誓っていた。
「そう言えば、レオ。お前の婚約の件だが、詳しく教えてくれないか?」
「「「「!?」」」」」
パーティーが始まって1時間が経過し、各々で話しをしていた時、ふと思い出したように放たれたお父様からの言葉に、その場にいた殆どの人が一斉にこちらを向いた。
実はレオナルドが婚約したことを知っているのは、スティードの家族と王家だけで、使用人や衛兵、騎士団員にはまだ知らされていなかったのだ。
なので、この場にいたスティード一家とクラリス王女以外は初耳だったりする。
さらに言ってしまえば、レオナルドの婚約者が誰なのかを知っているのは、父親であるグレンと母親であるクリスティーヌ、それと国王であるエドワードとその父であり先王のウィリアム、それと宰相のカルナバル公爵の5人だけ。
婚約者の発表は、レオナルドが戻って来てからとなっていた。
もちろん、そんなことをレオは知る由もなく、とっくに全員知っていると思っていた。
皆が一斉にこちらを見たのは、単に興味があっただけだと思い、何の気負いもなく話し始めた。
「ああ、セシリアの事ですか?」
「そうだ。できれば馴れ初めから話してくれないか?それと、セシリア嬢がどんな人物なのかも詳しく、な」
「そうですねぇ・・・まず、僕らが初めて会ったのは、ダストレア大樹海の最南部でですね」
それを聞いた全員が、レオナルドの婚約者は年上の冒険者か女騎士なのだろうと想像していた。
超危険地帯であるダストレア大樹海の中に行く者など、依頼を受けた冒険者か、国や領主の命を受けた騎士位だと思ってしまったのは仕方がない事だろう。
当然、レオナルドと同い年の子供だと言う可能性は、すぐに吹き飛んでいた。
「ほう?どうしてセシリア嬢はそんな所にいたのだ?」
「追手に追われていたからですね。護衛の聖騎士達が自分を逃がすために命を捨てて時間を稼いでくれている間に、女神セレス様の神託に従い、どんどん北上して行った結果です」
ん?追手?護衛の聖騎士?女神セレス様の神託?
レオナルドの婚約者、セレスの正体を知らない全員が、どうやら自分達が考えていたような職業ではなさそうだと気付いた。
それなりに身分の高い、貴族の子女かな?
でも、神託って?
「追手?なぜセシリア嬢に追手がかかっていたのだ?」
「偽物の女神の使徒に、首都セレスハートが占拠されてしまったんですよ。そいつがセレスハートを占拠した目的が、セシリアを手に入れることだったんです。その事を神託で事前に知ったセシリアが、父親であるフォルセシウス教皇猊下に相談した結果、数人の聖騎士を護衛を付けて神託に従って北に真っすぐ逃げたんです。フォルセシウス教皇猊下を始め、多くの聖騎士達がセシリアが逃げる時間を稼ぐために偽の女神の使徒と戦い、そして敗れました。だけど、セシリアがいないことに気付いた女神の使徒の偽物が、莫大な賞金を懸けてセシリアを探し始めたんです」
女神教のトップであるフォルセシウス教皇猊下が父親?
それってまさか・・・
話しを聞いていた全員が、少しずつレオナルドの婚約者の正体に気付き始めた。
「ほう、それで追手に追われ続け、ダストレア大樹海に入ってしまったと?だが、なぜ神託で北に行くように言われていたのだ?」
「ああ、それは、そのまま北に行けば僕がいたからです。いや~危なかったんですよ?僕が到着するのがもう少し遅かったら、どうなっていたことやら。なにせ僕が到着した時、大勢の追手と言うか野盗崩れに囲まれて、護衛はチェスカさんと言う騎士見習いの女性1人だけでしたからね。2人共疲労困憊で、さらにチェスカさんは満身創痍で、本当に危ない所でしたよ。けど、いくら時間が無かったとはいえ、教皇の娘で聖女であるセシリアの護衛が6人って、少なすぎでしょ?」
「「「「「聖女!?」」」」」
「え?ええ、そうですよ?あれ、お父様、皆には教えていなかったんですか?」
皆の反応を見て、初めて殆どの人が知らなかったという事実に気付きました。
で、お父様の反応はと言うと、
「まあな?だってその方が面白いだろ?」
でした。
相変わらずですね、この人は。
周りの反応が狙い通りだったようで、お父様はニヤニヤしながら全員の驚いた顔を見ている。
「はぁ~・・・では、改めて説明しますね。僕の婚約者はセレストメディエル聖教国教皇、フォルセシウス=ライバッハ=ストラテラの娘で、聖女のセシリア=ストラテラです」
「「「「「・・・・・!!」」」」」
その後、僕が偽物の女神の使徒を倒し、セレスハートを開放するまでの話しを簡潔に説明し、僕とセシリアの馴れ初め話は終了しました。
馴れ初めと言っても、殆どが戦いの話しだったような・・・・
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