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第102話  スティード領危機一髪

「ハアアアアアアッ!」


 気合のこもった掛け声と共に、お父様が全長5mの大槍で突きを放つ。

 避けてもいいんだけど、僕の約10m後方には衛兵の皆さんがいる。

 うん、避けたら後ろにいる人に被害が出る、と言うか死ぬね。

 と、言う訳で、僕はその突きを受け止めることにしました。

 ちなみに、今の僕は丸腰です。

 武器防具はダストレア大樹海を抜けた時に全て外し、今はステータス抑制効果のある装飾品だけを付けています。

 なので、僕はその巨大な槍を素手で受け止めました。

 ええ、右手で槍の穂先を掴んでです。

 それを見た、僕の後方にいる衛兵の皆さんが騒めいています。

 そりゃあ、僕がいくら強いとは言え、黒龍を倒したお父様の全力の突きを、まさか素手で受け止めるとは思っていなかったのでしょう。


「やはり通じないか・・・なら!」


 通じないと言いながらも、槍を押す力を緩めないお父様。

 その間にお父様の対角線上、つまり僕の後ろに回り込んだお祖父様が、同じく大槍を用いて横薙ぎの一撃を放つ。

 うん、これも避けたら、きっとお父様に当たって大ケガをしてしまうかもしれない。

 だから、空いている左手でお祖父様の槍の穂先を掴みました。

 そしてこれにも、衛兵さん達が騒めく。

 まさかアステリア王国最強の2人の攻撃が、こうもあっさり止められるとは、信じられなかったのでしょう。


「ぬう!?これでもダメか!?だが!」


 僕の両手が塞がった状態で、最後にメルト兄様が僕の死角、背中から斬りかかって来ましたよ。

 今の僕は、右手でお父様を、左手でお祖父様の攻撃を止めて膠着している状態なので、背中が完全に無防備になっている。

 だから、メルト兄様の攻撃を避けることも防ぐことも出来ない。

 普通ならね。

 メルト兄様の斬撃が僕に当たる直前、ほんの一瞬だけ両手を離して後ろを向き、メルト兄様の斬撃を受け止め、反対側に優しく投げげ飛ばした。

 そしてすぐに、お父様とお祖父様の槍を掴み直す。

 この間、わずか0コンマ1秒以下。

 僕を攻撃していた3人以外には、僕に斬りかかったメルト兄様が反対側に飛んで行ったようにしか見えなかったことでしょう。

 と、メルト兄様の攻撃が失敗したのを確認した瞬間、お父様とお祖父様が同時に槍を手放して距離を取り、3mの大剣に持ち替えて斬りかかって来た。

 それに対し、僕は両手に残った槍を捨て、2人を斬撃を素手でいなしていく。

 そこに体勢を立て直したメルト兄様も加わり、3人による猛攻が始まった。


 10分後

 そこには、呼吸を忘れるほどの攻撃を繰り出し続け、酸欠状態になって地面に寝っ転がって荒い呼吸をしている3人と、その猛攻を余裕でしのぎ切った僕が立っていた。

 魔導装備によって疲労回復がされても、さすがに酸欠の回復までは出来ないので、スティードが、いや、アステリア王国が誇る最強騎士の3人は動けなくなっていた。

 この戦いの結果に、レオナルドを止めた若い門番と、スティード家の屋敷の前にいた13歳くらいの少女は絶句していた。

 王国が誇る騎士団たちですら歯が立たなかった黒龍を討伐した3人が、僅か10歳程度の子供に手も足も出なかったのだから、それは仕方がない事でしょう。

 しかし、レオナルドの事を知っている人達は、ああやっぱりか、と、普通に納得していた。


「はあ、はあ、はあ、クソっ!やっぱりレオには勝てないか!はあ、はあ」

「お父様、無理に話さないでください。とにかく今はたくさん呼吸して、体を落ち着かせてください」

「ああ、悪いな、はあ、はあ、はあ」


 更に10分後、ようやく落ち着いたのか、お父様、お祖父様、メルト兄様が立ち上がった。

 うん、呼吸も元に戻っていますね。

 さて、3人が動けなくなっている間に起きたことを説明しましょうか。

 まず、屋敷の入り口で見ていた女性陣は、全員この場に来ました。

 2人のお母様と妹のアンとは抱擁をして、3年ぶりの再会を喜び合いましたね。

 13歳くらいの知らない女性は、メルト兄様の婚約者のクラリス第1王女殿下でした。

 エドおじさんの長女で、フィルのお姉さんであり、将来の義理の姉になる人だね。

 そんなクラリス王女殿下は簡単に挨拶だけすませると、すぐにメルト兄様の元に駆け寄り、起き上がれるようになるまで寄り添っていましたよ。

 2人の仲は良好のようですね。

 あ、ちなみにですが、クラリス王女にはメルト兄様との婚約が決まった後、僕がまだ生きていることを知らされていたみたいです。

 そんな献身的なクラリス王女と比べ、我がスティード家の女性は、夫と義理の父親が動けなくなっているにも関わらず、黙って見守っているだけです。

 大丈夫だと分かっていて放置しているのだろうけど、何と言いましょうか、メルト兄様との待遇の差が・・・・

 2人がメルト兄様の方を少し羨ましそうに見ているのは、見なかったことにしましょう。

 さて、この間、シャルはどうしているのかと言うと、お母様の後ろに隠れてしまい、僕と話しをしてもくれません。

 ハッキリ言って、ショックです。

 帰って早々、いきなりお父様とお祖父様とメルト兄様に攻撃されたことよりもショックです!


「どうしたの、シャル?お兄様ですよ?」

「・・・・・・」


 お母様が声をかけてくれているんだけど、それでもシャルはお母様の後ろから出てきませんね。

 恥ずかしいのかな?


「久しぶりだね、シャル。大きくなったね。お兄ちゃんのレオナルドだよ?覚えているかな?」

「・・・・・・・」


 笑顔で僕は話しかけているんだけど、目を合わせてもくれませんよ。

 最後に会ったのは2歳の頃だったから、覚えていないのかな?

 どうしようかと考えていると、


「イヤです・・・」

「え?」


 やっと話してくれたと思ったら、いきなり拒否された!?

 何で!?


「お父様をお祖父様とメルトお兄様をイジメる人は、キライです!」

「・・・・・・・え?」


 シャルはそう叫ぶと、家の中に走って逃げてしまった・・・・

 そこに残されたのは、どうしていいか分からないスティード家の女性と、完全に固まってしまった僕だけでした・・・

 で、僕がシャルに嫌われてしまった元凶の3人が立ち上がったのが、この直後だったりします。


「おい、レオ!久しぶりなんだから、少しは手加減して1撃喰らっとけよ!」


 復活早々、お父様がとんでもないことを言い出す。


「全くだ!私達もあれからかなり強くなったのだぞ?せめて、かすり傷くらいは付けたかったわ!」


 お祖父様までこんなことを言い出した。


「いや、あの、父上?長いお勤めから帰って来たレオに、もっと言うべき言葉があるのではないですか?ごめんね、レオ」


 メルト兄様だけがまともだった・・・

 まあ、お父様とお祖父様は基本脳筋だから、仕方ないと言えば仕方ないんですけどね?

 けど、今はそんなことはどうでもいい。

 もっと重要な案件が、たった今生まれたのですから。


「はっはっはっ!何を言うかメルト!真にアステリア最強の、いや、世界でも最強の男が帰って来たのだぞ?ならば、まずは剣を交わすのは当然ではないか!」

「うむ!スティードの男たる者ならば当然であろう!」

「それが3年ぶりに帰って来た息子と孫に言う事ですか!?本当にごめんね、レオ」


 さっきの僕とシャルのやり取りを全く聞いていなかった3人は、フリーズしている僕のことなどお構いなく、イイ笑顔で好き勝手に話しかけてくる。

 主に脳筋2人組が。


「ねえ、お父様、お祖父様、メルト兄様?」


 やっと動き出せた僕は、右手を天に掲げ、そこに超高圧縮された炎を生みだす。

 最初は50cm程度だったその炎は、だんだん大きさを増していき、遂に直径で20mほどになった。

 このノーティスの街程度なら、壊滅させられるだけの威力があります。

 アステリア王国でも最強と謳われる3人は、一瞬でその炎の危険性を察知し、血の気が引いた。


「今すぐシャルの誤解を解くのと、この場で街ごと消し炭になるのと、どっちがいい?」


 僕の顔から一切の表情が抜け落ちているのを見て、これが本気だと即座に気付いた3人。

 しかし、僕が何を言っているのかが分からない。


「待て、レオ!?何のことだ!?」

「落ち着け、レオ!?説明をしてくれんか!?」

「え、どうしたの!?シャルと何があったの!?」


 3人はかつて、僕が伝説の魔獣ベヘモスを火炎球1発で退散させたのを見ている。

 そして、僕がその頃よりも遥かに強くなっていることも知っている。

 さっきまでは悪ふざけで済んでいたけど、ここで返答を間違えると命が無いことを一瞬で理解した。

 けど、何のことだか分からない。

 ついさっきまで、酸欠で倒れていたのだからしょうがない。

 事情を求めるのは当然だろう。


「そうですか、分かりました」


 レオナルドが説明してくれると思い、ホッとする3人。

 だが、


「消し炭になりたいんですね。それでは、さよう・・・」

「分かった!今すぐシャルの誤解を解いてくる!だから早まるな!」

「何をしているのだグレン!口を動かす前に足を動かさんか!」

「アン、一緒に来てくれ!僕達の、いや、スティード領の一大事だ!」

「え、きゃあっ!?」


 事情は未だに分からないけど、とにかく動き出した3人。

 脳筋の2人とは違い、メルトは何とか情報を得るために妹を抱きかかえ、2人を追って家の中へ。

 そして、レオが見えなくなったところでアンから事情を聴き出した。

 シャルとレオの間に何があったのか、を。

 それを聞いた脳筋2人は、


「まさか、そんなことでスティードが滅びかけるとは・・・やはりレオもまだまだ子供だな」

「全くだ。レオのヤツ、そんなくだらないことで・・・」

『そうですか。やっぱり燃え尽きますか?』


 悪態を吐こうとしたら、どこからともなくレオの声が聞こえて来て、外が更に明るくなっていることに気付いた。


「分かった!今すぐやるから、もう少し待て!?」

「レオ、私が悪かった!だからもう少しでいいから猶予をくれぬか!?」

「お父様、お祖父様!口を動かしていないで、行動してください!この件は、明らかに僕達が悪いのですよ!?分かっているんですか!?」

「早く何とかしてください!レオお兄様は本気ですよ!?」



 その後、言葉通り命を賭した説得により、シャルロットの誤解は解け、アステリア王国の地図からスティード領が消えるという最悪の事態は避けられた。

 ちなみに、外に残されていたジェシーとクラリス、それと衛兵達は、恐怖でその場から動くことが出来ず、ただレオナルドを見ていることしかできなかった。

 そしてもう一人、レオナルドの母親であるクリスティーナは、何とこんな状況であるにも関わらず、あらあら♪と、笑顔で我が子を見ていた。

 ある意味、スティード家最強の女性ですね。

誤字、脱字など、お気付きの点が御座いましたらご指摘をお願いいたします。

もし、この作品を読んで面白い、と思って頂けたら幸いです。

気が向いたらで構いませんので、評価もお願いいたします。

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