3.クラスメイト
「セナ=クラビスです。春休み中にアルバから引っ越してきました。スポーツが好きで、前の学校ではバトミントン部に所属していました。よろしくお願いします。」
拍手が起こり、私はそのまま席に座る。
新学期はクラス替えもあったので、私も含め、全員が自己紹介することになった。
よく漫画やドラマであるような、1人で前で自己紹介、なんていうのでは無くて、ちょっとがっかりしたような、ホッとしたような……。
でも、やっぱりホームルームが終わって、ハナ先生が教室を出て行くと注目の的になった。
何人かの女子が私の周りに集まってくる。
「クラビスさん、都会から来たんでしょ?アルバってどんなところ?」
「人間の転入生なんて久しぶり。」
「セナって呼んでいい?仲良くしようね!」
お互いの自己紹介やら、質問やらで賑やかになる。
「バトミントン部は無いんだけど、同好会ならあるよ。それでもよければ、今日は休みだから、明日にでも見に来なよ。」
そういってくれたのは、同好会の部員だというクルミ。
「ありがとう。春休みはバタバタしてて、バトミントンなんか出来なかったからやりたくてしょうがないの。道具も持ってくるから、参加しちゃっていいかな?」
「大歓迎!」
良かった。この学校でも何とかやっていけそうだ。
この時、私は賑やかな輪に交じらす、輪の外からじっと見つめている1人の女の子に気がついていなかった。
放課後、クルミや他にも部活が無い子たちと一緒に帰ろうとすると、1人の女子が私たちの行く手を遮るように現れた。
「チカ、何か用?」
クルミがその子に声をかける。その声はなぜか、先ほどまでの楽しげな明るい声と打って変わって冷たい、きつい声だった。
私は、チカと呼ばれたその子が同じクラスの子だとすぐに気がついた。
艶のある茶色のウェーブがかったミディアムヘアに、翠色の宝石のような瞳。ホームルームの自己紹介で綺麗な子だなーって思って、印象に残っていた。黒髪のショートヘアで生まれつきストレート、瞳は暗い藍色の私からしたら、そんなお人形さんみたいな子がちょっと羨ましい。
でも、彼女は、今思い返してみると私が質問攻めにされていたあの輪の中にいなかった気がする。
「あなたに用はないわ。セナ=クラビスさん、少しお時間いいかしら?」
チカは、クルミには感情の無い冷たい声で返し、私には見た目通りの可愛らしい声と優しい笑顔で話しかけたきた。
私が答えようとするのを遮って、クルミが答える。
「セナは、私たちと一緒に帰るのよ。明日にしてくれない?」
「私は、セナに聞いているの。セナ、私はチカ=ベルモン。あなたとお友達になりたいの。」
チカは相変わらず私に笑顔を向けているけれど、他のクラスメイト達の彼女を見る目が冷たい。私は、恐る恐る切り出した。
「そ、それなら、チカも一緒に帰ればいいんじゃないかな?……どう?」
私は、クルミに問いかける。
でも、クルミは、
「ごめん、それは無理。」
と、即答した。そして、大きなため息をついた。
「何も知らないセナに私たちが悪く思われるのも嫌だし……今日はあんたに譲るわ。」
「そう。じゃあ、セナ一緒に行きましょう。」
どうやら、私はクルミたちとではなく、チカだけと一緒に帰ることになったようだ。
戸惑っている私に、クルミが耳打ちしてきた。
「……気をつけてね。あの子、束縛激しいから。」
「え?」
更に混乱する私に、クルミは、
「じゃあ、セナまた明日ね。同好会も来てね。」
そう言って、みんなと一緒に私とチカを置いて帰って行った。